―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~ 作:NEW WINDのN
シーズン3フィナーレとなります。
今回は、主人公のバトルシーン満載でお届けします。
ただし、いつもよりも表現がエグいかもしれません。
ご注意を。
クレマンティーヌが強さを見せつける一方で、
「おっと!」
「くそっ、ちょこまかと」
横なぎの剣! 上体だけ動かして回避。
「なんて素早い奴だ」
斜め斬り! これは、体を開いて躱す。
「たかだが、店のオーナーの癖に。……生意気なっ!」
6人の男たちの剣を
(まあ、別に当っても効かないんだけど……ね)
オリバーの状態でも、アインズの時と同じく〈上位物理無効化Ⅲ〉と〈上位魔法無効化Ⅲ〉の恩恵があり、レベル60以下の存在による攻撃は通じない。
なお、以前クレマンティーヌとの戦いにおいて、アインズのアイマスクが弾き飛ばされたのは、
(この
アインズは今後の活動のことを考えて、オリバーとしての近接戦闘をこなすつもりだった。もっともオリバーとアローの差は、戦闘力という面では差はなかった。使えるスキルも同じで、弓矢も格闘能力もそのまま使うことができる。
防御力という面ではアローの方が、装備品が強い。そのため総合力ではアローが若干上といえた。もっともこの世界のほとんどの者はレベル60に満たないので、ほとんど関係がないのだが。
先程まで繰り広げられていたクレマンティーヌ主演の殺戮劇が凄すぎて、この攻撃がまったく当たっていないということが、異常なことだということに誰も気づいていない。
武器すら持たない男が、6人もの相手に囲まれて剣で斬られているのに、一度もかすりもしていないのだ。普通はありえない光景である。
「オリー、こっちは終わったよー。タスケヨウカー?」
まるっきり助ける気のない声が飛ぶ。その根底にあるのは“信頼”だ。自分よりも圧倒的に強いことを知っているのだから、これは当然のことである。
「大丈夫だ、クレア。そろそろ“本気を出す”から」
「はっ、何をほざいてい、グベッ!」
(加減が難しいな……顔面にブラックホールのように穴が開いてしまった……)
アインズからすれば、その程度の興味でしかない。ちなみにこの〈ナックルアロー〉での一撃は動きが速すぎて、ほとんどの者は何が起こったかわかっていなかった。
「すっご! マジ?」
かろうじてこの動きを視認したクレマンティーヌは驚嘆の声を上げ、馬車から見守っているハンゾウとフウマの二人は、「さすが、お館様」と心の中で拍手をしていた。
「うっ……あ」
他の者は驚愕し、完全に動きが止まってしまう。
「では、こちらから行くぞ。……蹂躙だ!!」
先程までとは、別次元のスピードで
「オゴオッ……」
「せやあああああっ!」
さらに着地すると同時に左足を軸に時計回りに円を描き、右足の〈ローリングソバット〉で、別の男の胸部を打ち抜く。そのパワーあふれる蹴り足は、ろっ骨を数本粉砕し、そのまま心臓を蹴り飛ばして背中から貫通させてしまう。
「うあっ……」
飛ばされた心臓は20メートルほど先にベチャッという音とともに地面へと落ち、同時に男の体が仰向けに地面へと倒れ込んだ。
「ふんっ……」
さらに
レンジャー、アサシンの心得を持つレベル100の戦闘職が“本気”になれば、この程度のレベルの者などは、一撃でこのような悲惨な最期を迎えることになる。もっとも、生き伸びてひどい拷問を受けるよりは幸せだったかもしれないが……。
(加減が難しいな……少々やりすぎたか)
アインズは、まだこの姿での本気になれていない。
(うわー。オリー、マジで凄すぎる……もしかして私の時は手加減してくれていたのかなあ?)
クレマンティーヌは
「うあああああっ……」
男の一人が恐怖に震えながらも、剣を思いっきり振り下ろす。その行為と勇気は賞賛に値するものだが、これは無駄な努力であった。手首を片手で掴まれ、凄い握力で骨を粉々に砕かれる。
「ぎゃああああああああっ!」
さらに右のハイキックで顔面を打ち抜き、男を絶命させる。これは多少は加減していたようだ。
「ひ、ひいっ……か、勝てるわけがねえええ」
残る最後の男が逃げ出そうとしたが、いつの間にか回り込んでいたクレマンティーヌが、スティレットで男の心臓を刺し貫いていた。
「だから、遅いって。……オリー、油断したら駄目ー。逃げられちゃうよ?」
「……逃がすつもりはなかったんだがね」
「なあっ……」
「なんだって……」
予想外の展開に、ペシュリアンとエドストレームの二人は、あんぐりと大口をあけるしかなかった。
「ハ……」
「ハッタリじゃなかったのかい……」
「だから、最初に言っただろう? “……俺は強い。そしてコイツもそれなりに強い”とね」
「だから、私コイツラより強いよー。それなりってのは、ないんじゃないかなー」
二人は先程のやりとりを繰り返す。エドストレームは、先ほどは嘲笑していたが、今度は背中を冷たいものが流れていた。
「くそっ、舐めやがって! 俺の“空間斬”を喰らえっ!」
ペシュリアンが緊張に耐えきれず距離を詰めて剣を抜き放つ。
「やめなっ、ペシュリアン! かなう相手じゃ……」
エドストレームが慌てて止めるが、すでに遅かった。
ペシュリアンは1メートルほどの鞘から抜き放った剣で、3メートルほど離れた相手を斬ることができる。そこからつけられた二つ名が“空間斬”である。
といっても本当に空間を斬るわけではなく、特殊な剣を使うことでそう見せているだけだ。金属でできた細い鞭を高速で振るうことで相手を斬り捨てることができるというもので、どちらかといえばトリックに近い。
「ハハハッ! なんだそれは」
だがそれを、
「なっ……初見で……止められた? それも足で??」
ありえない状況にペシュリアンは困惑する。
「……チンケな技だな。それがお前の必殺技なのかな?」
「…………」
ペシュリアンはわずかに首肯し、それを認める。認めたくはない状況であったが。
「そうか。では本当の必殺技を見せてやろう」
ヘルムの中で脳を思いっきり揺らされたペシュリアン。彼が倒れそうになったところで、
「ペシュリアン! お前は、王国を
(あっ……思わず! ロールミスったわー。……それにしても久しぶりに言ったなあ、コレ)
それはそうだろう。本人は気づいていないが、実は今シーズンこれが最初で最後である。
「らあああああっ!」
そのままジャンプしながら、
「ぐべっ……」
「ふむ。ハヤブサのようなスピードで突き刺さる矢。〈ファルコンアロー〉といったところかな」
立ち上がりながら
「これが〈ファルコンアロー〉……凄すぎ……る」
「まあまあだったかな」
初公開の大技だが、こういった大技を繰り出すのは、クレマンティーヌとの一戦以来で〈
「ぺ、ペシュリアン……」
アダマンタイトにも匹敵すると言われている六腕。その仲間が、あっさりとやられる衝撃に、エドストレームは、戦意を失いガックリと両膝をついてしまった。
「残るは、お前だけのようだな」
わかりきっていることを
「どうするオリー。私がやっちゃおうか?」
クレマンティーヌは、スティレットを構えながらニヤニヤしていた。
「ま、まってくれ……いえ、待ってください。降伏いたします」
エドストレームは両手を上げて降参の意を示した。
「ほう。六腕ともあろうものが……」
「えー、つまんないじゃん」
クレマンティーヌは頬を膨らませ、降伏を申し出たエストレームを睨みつける。
「楽しみにしていてくれたのなら、悪かったね。……私は別に、八本指に忠誠心はないよ。六腕として働いていたのは金がいいからにすぎない。それに、より強い者に従うってもんさ」
エドストレームは六本の
「だってさ、どうするの、オリー?」
「ふん。降伏するというのなら、命はとらんさ。……お前と同じ所へ送る」
「ゲッ……マジ? あそこに送るんだ……かわいそー」
クレマンティーヌは、両腕で自らの肩を抱き、ぶるっと体を震わせる。
「では、縛らせてもらうとするか」
「うっ……」
射られると思ったエドストレームは、思わず目をつぶったが、あたる直前に〈
「ああ、そうそう。エドストレームよ。……私は知っているんだが、お前の
「そ、そんなつもりはありません。オリバー・クイーン様。私は尽くす女ですから」
そう強がるのが精いっぱいであった。実際オリバーの
その後周辺に散らばった死体と、辛うじて生きているペシュリアン。そして降伏したエドストレームは、ナザリックへと回収される。
「女に甘いね、オリーは」
「そうかな? かえって死んでいた方が、楽かもしれんが」
「……確かにそうかも……私は早く全面降伏したけどね。あんなのずっとされたらおかしくなっちゃうよ」
「あとはアイツ次第だな。あいつが生きたい、役に立ちたいというのであれば、ダンサーにでもさせるさ」
こうして八本指の警護部門に君臨する六腕のうち二本はすでに落ちた。
この後、王都までの旅の間に、
なお襲ってきたのは“八本指”ではなく、“風花聖典”というスレイン法国の特殊部隊。以前、クレマンティーヌが盗みだした“叡者の額冠”の奪還と、彼女の身柄を確保することが目的であった。もっとも彼らが捜している“叡者の額冠”は、ンフィーレア・バレアレが救出された際にアインズが破壊しており、もう存在していない。
すでに失われたものを奪還しに来たあげく、全滅する。これは完全なる無駄死だ。
ここのところ悲劇が続くスレイン法国。その災難はまだまだ続いているようである。
そして
今シーズン、最後までのご愛読ありがとうございました。
新シーズンは、王都編になる予定です。