―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~ 作:NEW WINDのN
馬車が止まり、
「ハンゾウ、フウマ。手出しは無用だ」
「「かしこまりました。お館様」」
ハンゾウとフウマは、跪いて意を受けると御者席へと戻る。
そんなアインズ達に、20人ほどの集団が迫ってくる。その中で目立つのは2人。1人は薄絹を纏った身軽そうな格好の女。そしてもう1人は
(……二人だけか。甘くみたな)
アインズは、そんなことを思いながらも、心が高揚するのを感じていた。
(どうやら、私は戦闘が好きらしいな。まあ、ユグドラシルの時は毎日戦っていたわけだしな)
「やー、何か私達に用事かな?」
「
「違うね」
「なにっ?」
確信のあった男たちは、予想外の答えにわずかに動揺を見せた。
「
「貴様……おちょくっているのか?」
「いや、ただ間違いを指摘しただけさ。八本指警護部門“六腕”の“空間斬”ペシュリアンさん」
「なっ……なんだとっ……貴様……どうして」
ズバリと素性を言い当てられたペシュリアンは動揺を隠せない。
「私はこれでもそれなりの“
恐怖公の眷族を使った情報収集通称……“
「……それと、そちらの女性のことも存じ上げていますよ。“踊る
「へえ……やるじゃないの」
言葉とは裏腹に、両手両足首につけた金の輪がわずかに動揺を示し、小さく金属音を鳴らす。彼女の腰には六本の
彼女の装備品は、全体的に“アラビアンナイトの世界”から抜け出してきたような感じがする。薄絹からは肌が透けて見えており。妖艶な雰囲気を漂わせていた。
(魔法のランプとか持っていそうだよね……もし持っていたら欲しいけどな)
アインズは、そんなことを考えてしまう。
「だけどね……この状況だよ、オーナーさん。……どこからどう見たって”多勢に無勢”じゃないか。そこのお嬢さん1人だけの護衛で、我々“六腕”に勝てると思っているのかしらね?」
エドストレームは余裕を取り戻していた。
「……十分勝てると思っているさ。数の暴力という言葉もあるが、本当の力というものは、数を上回るものだ。……それに、お前たちは“六腕”だよな? まあ今は“二腕”だけど。言っておくが……戦力を小出しにするのは愚策だぞ? こちらとしてはありがたいかぎりだがね」
(こいつ……どこまで本気だ?)
エドストレームは、相手の本気度を掴めないでいた。明らかに現状はこちらに有利としか思えない。
「ところで……エドストレーム。せっかく綺麗ないい体をしているんだし、“普通に踊り子をしていた方がよかった”とか後悔する前に退いた方がいいんじゃないか?」
「ちょっとオリー。まさか、ああいうのがタイプなの?」
クレマンティーヌが、“信じられない”という顔をして、やや軽蔑したような目つきで
「……いや。タイプではないかな……」
「ならいいけどー」
クレマンティーヌはニンマリとした顔に変わる。
気楽を通り越して能天気な二人のやりとりに、エドストレームは苛立ちを覚える。
「ふざけるなっ! ぶっころすよ!」
思わず声を荒げてしまう。
「おやおや。……最初から、そのつもりできたのではないのかな? 中途半端な覚悟だとそちらが死ぬことになるぞ?」
(なんなんだ……コイツらの余裕は……本気で我々に勝てると思っているのか? まさかおびき出された? ならば伏兵がいる?)
エドストレームは、二人の余裕の理由に思い当たった。
「伏兵がいるね!? 二人だけじゃないんだろう? “漆黒”がいるのかい?」
辺りを見回すが、そのような気配は感じ取れなかった。もちろん相手は新進気鋭のアダマンタイト級冒険者だ。気づかれずに潜伏している可能性も十分にある。
「そうかもしれないし、そうではないかもしれないぞ? もし、そうではないとしたら、どういうことかわかるかな?」
「……まさか、腕に自信があるってわけかい?」
「ま、そういうことだな。先にハッキリ言っておくぞ。……俺は強い。そしてコイツもそれなりに強い」
「えー。……私コイツラより強いよー。それなりってのは、ないんじゃないかなー」
クレマンティーヌは両腕を頭の後ろで組んだままという無防備な状態でいる。
「エドストレーム、まともに相手にするな。ハッタリだ」
「はんっ! そうだよね、ペシュリアン。お前たち、殺るよ!」
エドストレームも、これを相手のつまらないハッタリと見て嘲笑う。
「おう!」
エドストレームの号令で、18人の暗殺者たちが一斉に襲い掛かる。12人はクレマンティーヌへ、6人は
「ねえ、オリー。コイツら殺ってもいいの?」
「構わんぞ。ただし、
「はーい♪」
クレマンティーヌは許可が出たことで両手にスティレットをスチャッ! という音を鳴らして構え、意気揚々と迎撃に出る。
「イーッ!」
奇声を発しながら、頭巾の男が右上段斬りで剣を振り下ろす。
「チッ、うるさいやつだねー」
1人目の剣を、右肩を下げることで半身になって、スッと躱し、体を戻しながら素早く右のスティレットでズドン! と額を貫いた。
「ギャッ……」
「まず、一人っと!」
さらにスティレットを引き抜きながら、同時に左手のスティレットで、別の男の首を刺す。
「ウッ……」
「はーい。二人目っと! キャハハッ、楽しいねー」
クレマンティーヌは、笑い方とはまるで違う獰猛な笑みを浮かべながら、さらに男二人を先ほどをまったく同じ動き――まるで録画を見ているかのような――で屠ってゆく。
「3人目、4人目っと!」
「くそっ! 一人ずつ行くなっ! 複数で一斉にかかれっ!」
男たちは同時に斬りかかろうとするが、クレマンティーヌは素早い動きで、逆に男たちの距離を詰め、左右のスティレットで二人の男の目を同時に抉り、脳をかき乱す。
「ドギャッ……」
「ムギャアアッ!」
男たちは断末魔の叫びを上げた。
「これで一気に6人だねー」
「今だ、やれっ!」
両方のスティレットが突き刺さったままなのを見てとり、男たちがチャンスと見て、クレマンティーヌの背後から斬りかかる。
「……甘いんだよねっ!」
クレマンティーヌはスティレットをサッと手離し、刺した男達の体を蹴って空中へと飛び上がる! そして後方に伸脚縦回転をしながら、腰から予備のスティレットを二本抜き放った。
「うっ!」
「そんなっ!」
“確実に殺った”と思っていた男たちに動揺が走る。
「残念でしたー」
そして、男たちの背後へ着地すると同時に、男達の首の後ろへとスティレットをズブリと刺し込む。……まさに“必殺”の一撃。
「はーい、7人目と8人目ねー! いい仕事しているなー、私って」
クレマンティーヌはご機嫌である。
「このおおおおっ!」
「てあああああ!」
指示通りに男二人が同時に斬りかかる。
「逆にそれだと避けやすいんだよねー!」
クレマンティーヌは、またもスティレットを手離すと、今度は膝を抱えながら前方回転で飛び、先ほど倒した男二人の目から、さっきまで使っていたスティレットを素早く抜きとると、男達へ左右の手で同時に投げつけた。
「うぎゃああつ……」
「ぎゃっ!」
的確に二人の男の額を突き刺し、絶命させる。左右同じように使える者だけができる芸当だ。
「はーい。これで二桁の10人だよー!!」
クレマンティーヌのテンションはどんどん上がっている。
「くそっ……化け物かっ!」
「今は何も持ってない、怯むなっ!!」
「おう!」
残り二人の襲撃者は、チャンスと見て今度は時間差で、ほぼ同時に斬りかかった。
「さっきよりはマシだねー。でも、遅すぎ!」
クレマンティーヌは腰の後ろに差し込んでいた警棒をスッと取り出すと、
「ぎゃあああああっ」
バキイイイッ! という嫌な音を残し、男の首がありえない方向に曲がっていた。
「うああああああ!」
残る一人も剣をあっさり躱されたとたん、武器を放棄して背を見せて逃げ出した。
「逃げるんだ? でもねー」
クレマンティーヌは先程投げつけたスティレットの一本を抜き取ると右手に構えて、例のクラウチングスタートに似たポーズをとった。
「いっくよー!!」
ドンッという音を残し、クレマンティーヌは一気に加速。逃げる男との距離を一気に縮めていく。ただし、以前
「新しい刺突剣技見せちゃおうかなー。〈スクリュードライバー〉!」
クレマンティーヌは力強く地面を蹴ると、右手のスティレットを突き出したまま錐揉み回転し、そのまま背後から逃げる男のこめかみを突き刺した。
「うぎゃあああああっつ!」
こめかみから脳みそへとスティレットを刺し込まれ、さらに回転が加わっている為に脳みそを引っ掻き回された男はそのまま意識を失い、死を迎えた。
「……はい。これで12人だね、おしまーい」
クレマンティーヌは、余裕綽々で残る3本のスティレットを回収し終える。
「武技を使う必要もなかったねー。余裕すぎて欠伸でちゃうよー。ふあ~あ」
強烈な輝きを放ったクレマンティーヌは、わざとらしい欠伸をし、その余裕ぶりを見せつける。
「なっ……12人の戦闘員が、30秒も持たずに全滅だとおお??」
「落ち着きなよ。ペシュリアン。上から、用心棒に強い奴がいるのは聞いていただろう?」
「……ああ。そういえば、そうだったな」
エドストレームの言葉に、ペシュリアンは落ち着きを取り戻す。
「それに、あちらはどうやら殺れそうだし」
「そのようだな。強いといっていたのはハッタリか?」
二人は、