―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN

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シーズン3第9話『展示』

 

 夕闇迫る城塞都市エ・ランテル。帰宅を急ぐ人々の足は自然と早くなり、全体的に街には忙しさが漂っている。

 

「あら、やだ。こんな時間だわねえ」

「いっけない。今日はダンナが早く帰ってくるんだったわ」

「じゃあ、またね」

 井戸端会議をしていた主婦たちも、本来の仕事を思い出し家へと戻っていく。

 

 エ・ランテルは今日も平和である。

 

 

「聞いたか? “漆黒”の最新英雄譚!」

「ああ、聞いた、聞いた! なんでもあの“ギガントバジリスク”を倒したって話だぜ」

「たしか、難度90近い超難敵だろ。……さすが、アダマンタイト級だよなー」

「だなー。俺達なら、出会ったら逃げるしかないよなー」

「バカだなー、あいつは相手を石化させる能力を持っているんだぞ。俺らじゃ石になってそこで人生終わりだよ」   

 数人の冒険者が大きな声で会話をしながら、エ・ランテル市街地をスラム街の方へと向かって歩いている。 

 

「あのー、ギガントバジリスクっていったら、“体液に触れたらすぐに死ぬ”といわれている、強い猛毒の持ち主ですよね? 普通は、回復と解毒を担当する神官の支援がないと倒せないのではないでしょうか?」

 それまで黙っていた冒険者の一人が首を傾げ、不思議そうな顔をしている。その首には(アイアン)のプレートがぶら下がっていた。

 

「お前……“漆黒”に神官がいないからって「嘘だ」とか、思っているんじゃないだろうな! もしそうなら、許さんぞ!」

 (アイアン)プレートの男を睨みつける。ガッチリとした鎧のような筋肉に守られている男の首元には、(ゴールド)のプレートがキラリと光り、その体格と相まって強者の雰囲気を漂わせている。

「そうだ、そうだ!」

 背の低い(シルバー)冒険者が(ゴールド)の男に同調する。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! ただ、先輩からそういう風に教わったので、“そういえば、神官いないな”と疑問に思っただけで」

 彼は、漆黒の片手剣を腰に佩いており、身に着けている小手も“漆黒”公認のものだった。

 

「2人ともやめないか。……コイツが“漆黒”の大ファンだってことは知っているだろう? ……俺だって最初は同じように思った。だけど、相手はあのアダマンタイト級冒険者チーム“漆黒”だ。俺らとは格が違うんだよ」

 顔や腕に無数の傷がある白金(プラチナ)プレートの男……この場にいる冒険者たちの中で、最年長と思われる男が、それに相応しい態度で、熱くなる(ゴールド)(シルバー)の二人をたしなめる。

 

「失礼しました」

「申し訳ありませんでした。コタッツさん」

 金と銀の冒険者は素直に頭を下げた。

 

 

「よし、いくぞ!」

 コタッツを先頭に“漆黒”に塗られている建物に入っていく。“漆黒の”公認ショップSCHWARZ(シュヴァルツ)である。

 

「いらっしゃいませ。SCHWARZ(シュヴァルツ)へ、ようこそ。……あ、コタッツさんじゃないですか、いつもお世話になっています」

 金髪碧眼の青年店長ペテルは、にこやかに来客を出迎える。

「久しぶりだな、ペテル」

「先週お会いした気がしますが……」 

 コタッツは握手を求め、ペテルもそれに応じる。ちなみに二人は冒険者時代からの知り合いである。

「……ところで今日は?」

「ああ。コイツラに“あれ”を見せてやろうと思っていてな……」

「わかりました。……では、こちらをお持ちいただいて、隣へどうぞ」

「ありがとう。また武具のメンテ頼むよ」

「はい。お待ちしています!」

 コタッツ達は、一旦外へ出てから、隣のパールホワイトの建物VERDANT《ヴァーダント》へと向かう。

 

「いらっしゃいませー。あ、コタッツさん。……展示をご覧になるのですね。こちらへどうぞ」

 スタッフのニニャが、5人を先導し、螺旋階段を上って二階へと案内。その一番奥にある一番大きな個室へと通した。

 個室内は10人ほどの人間が入れる広いスペースになっており、その一番奥には、白い布を張ったテーブルが置かれ、その上に巨大なトカゲのような首が飾られていた。

 部屋の隅には用心棒のレイが佇んでおり、客の様子をじっと見ていた。もし無断で触れるようなものがいたら、即座に掴みかかるつもりでいる。

 

「うおー、これがそうか!」

「すげええ……首だけだってのに……食い殺されそうだぜ」

「す、すごい……こんな凄いモンスターを倒すなんて……さすがは漆黒だ」

 自分が憧れる存在が、いかに凄いかということを実感する。今の自分とは差がありすぎた。

 

「……これがギガントバジリスク……か。なんという威圧感……」

 コタッツのいう通り、首だけになってもその威圧感はまったく失われていない。今にも飛びかかってきそうな迫力をにじませていた。

 なお、この首には、安全確保のために石化防止の魔法がかけられている。

 

“首だけになったギガントバジリスクに石化させる能力がある”という話は聞いたことがないが、神話によっては、首だけになっても相手を石化させる効果を持つモンスターが登場するというものもあるので、念のため予防措置がとられている。

 また、それ以外にも簡単に触れることができないように、守りの魔法もかけられている。倒したあとに毒の無効化はしてあるのだが、低ランクの冒険者が間違って触れてしまって命を落とすことがないように工夫されている。

 

 そもそもギガントバジリスクは、オリハルコン以上の冒険者チームでないと対応できない難敵であり、遭遇することは稀な存在だ。

 だが、話に聞くのと実物を見て知るのでは大きな違いがある。そこで、異例ではあるが、冒険者のために特別に展示をしている。

 アダマンタイト級冒険者として、自分たちだけではなくそれ以外の冒険者の為の情報の共有だ。

 冒険者たちの話にも出てきたが、石化の視線、即死に近い猛毒、凶悪な牙というように普通は戦士にとっては相性の悪い敵であり、この世界においてはかなりの強いモンスターである。だが、それはあくまでこの世界基準の話であって、アインズ達ナザリック勢にとっては、雑魚モンスターにすぎない。

 毒や石化を無効化できるアイテムを持っているアインズ達にとってはまったく問題にならない相手であった。

 

 

「凄いモンスターだったな……」

「ああ。首しかないっていうのに、まだ寒気がするぜ」

「僕たちもいつかは……」

「ああ。倒せるようになりたい。いや、ならないとな!」

「そうだ。その意気だぞ!」

 冒険者たちは、決意新たに部屋を出ていく。

 

(今の俺なら、倒せるのだろうな……) 

 用心棒のレイことブレイン・アングラウスはギガントバジリスクの首を眺める。

 

 今の彼は難度でいえば150を超えており、毒は種族として無効化することが可能だ。一騎打ちでも十分に余裕をもって倒すことはできるだろう。

 

「たまには、手ごたえのある奴とやってみたいものだぜ。ま、今はクレアとの手合せで我慢しておくか」

 ブレインはそう呟くと、部屋を出て地下2階へと向かった。

 

 

 

 

 

 




 

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