―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN

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 シーズンフィナーレになります。

 


シーズン2最終話『二つの店』

 

 城塞都市エ・ランテル。そのもっとも賑わう中心地からは、やや離れた場所……ちょうど商業区画とスラム街との境目といえる場所に、その建物はあった。

 元々はどこかの商会が使っていたという3階建ての建物は、その周囲では目立つ大型の建物だった。もっとも、しばらく人が使っていなかったこともあって、床板は剥がれ、壁には大穴が開き、扉は行方不明といった具合に数日前までだいぶ荒れ果てていた。

 だが、今その建物は綺麗なパールホワイトで塗装しなおされており、まるで別の建物のように美しく仕上げられている。

 また店の右隣の一角は、黒……それも漆黒に塗られており、その一角は別に看板と扉が付けられていた。この漆黒に塗られているスペースは、チーム“漆黒”の公認ショップであり、彼らが自分達で認可したグッズや、武具などきちんと整頓され並べられている。

 

 

 

「問題は店の名前なのだが……」

 アインズ達が一番悩んだのはこの店の名前であった。いくつかの候補が出たが決定にはいたらず、開店日が近づいていた。

「そのまま“漆黒”では駄目なのでしょうか?」

「うーん。漆黒公認ショップ“漆黒”か。あまりにも安直すぎるな」

 アインズは自身のネーミングセンスを思いっきり棚にあげてナーベラルの意見を却下する。

「ではどのようなネーミングをお考えなんでしょうか?」

「黒と緑で、ブラック&グリーンとか……」

 モモンの黒、アローの緑とそのまんまのネーミングであった。やはりアインズである。

「……緑はナイトクラブで使いますので、“漆黒”公認ショップには必要ないのではないでしょうか?」

 パンドラズ・アクターはそういってから、「ふむー」と考え込みだした。

「それもそうだな。では、jet-black(ジェット ブラック)とか……」

 ここでアインズの頭の上で、電球がピカっと光った。これなら響きがいいだろうと思った店名を告げる。

「「Schwarz(シュヴァルツ)!!」」

 アインズとパンドラズ・アクターの自信満々の声が揃う。

「「あっ……」」

 二人はお互いの顔を見合わせ、赤面する。もっとも一人は骸骨であり、もう一人はピンクの卵型の埴輪なので、見た目にはまったくわからないのだが……。

「おおっ! アインズ様とパンドラズ・アクター様、叡智溢れるお二方の意見が揃うとは! もうこれで決まりですね!」

 二人の事情も知らず、一人盛り上がるナーベラル。心なしか、いつもよりもポニーテールがピーンと張っている。

(うーわー。もろにかぶったあーーー。しかもナーベラルにベタ褒めされるとは……)

 アインズは精神が鎮静化されるのを感じていた。

 

「……失礼いたしました。アインズ様。禁止されておりましたのに申し訳ございません」

 Schwarz(シュヴァルツ)とはドイツ語で黒のことだ。

 パンドラズ・アクターは頭を下げるが、アインズはそれを叱る気にはならなかったし、できなかった。

「よいのだ、パンドラズ・アクターよ。この店の名前はSCHWARZ(シュヴァルツ)とする。もちろん看板の文字はこちらの世界の文字で書くことになるがな」

「おお。ありがとうございます」

「それとSCHWARZ(シュヴァルツ)だけは使用を許可する。店の名前を口にできないと困るだろう?」

「ありがとうございます。我が創造主アインズ様」

 こうして漆黒公認ショップの名前は『SCHWARZ(シュヴァルツ)』と決定、急ピッチで準備が進んでいくことになる。

 

 

 

◆◇◆  ◆◇◆

 

 

 

 冒険者を一時休業する“漆黒の剣”のペテル・モークは、“漆黒”公認ショップSCHWARZ(シュヴァルツ)の店長を務めることになった。

「ペテルさんの人あたりのよさと、統率力は素晴らしいですから。ぜひ店長をお願いいたします」 

 最初は固辞しようとしたペテルだったが、漆黒の英雄に頭を下げられては断ることはできなかった。

 また、赤毛のブリタもこちら側で接客業務につく予定だ。冒険者の間では、彼女の赤毛をお守りに欲しがる者もいるということなので、近々“ブリタの赤毛入りお守り袋”が販売される予定になっている。

 

 

「私に接客なんてできるかなー」

「大丈夫ですよ、ブリタさんなら! さ、一緒に頑張りましょう」

 さっそくリーダーシップを発揮するペテルを見てモモンは満足そうに頷いた。

 

 

 そしてメインとなる建物にオープンするのはナイトクラブ『VERDANT(ヴァーダント)』だ。シルバーをベースに、明るい緑で縁取りをしたアルファベットの”V”のようなロゴマークが看板になっている。なお“弓をイメージしている”とはパンドラズ・アクターの談だ。

 

 1階フロアはカウンターバーと、ダンスフロア。2階は個室で静かに飲めるようにしてある。また3階は特別フロアで、“漆黒”の宿泊所と指定されている。

 “漆黒”はこの店が完成するまでの間は”黄金の輝き亭“というエ・ランテル最高級の宿屋を利用していたが、そもそもアローとモモンの正体である二人……アインズとパンドラズ・アクターは宿からナザリックへと転移してそれぞれの業務を行っているのだから、宿泊料は無駄な出費でしかない。

 あくまでもアダマンタイト級としての体面を考えてのものであれば、豪華な内装を整えた上で自分達だけの拠点を持てばよいだけの話。それに“漆黒”が常駐する建物に併設して作られた公認ショップの価値もより高まるというものだろう。 

 外見上は地上3階の建物だが、それ以外に地下室もある。実は地下2階まであるのだが、公には購入前から元々あった地下1階の備蓄倉庫だけあることにしている。

 なお地下2階は新たにマーレの協力によって作成された広いフロアになっており、それぞれ”アーセナル“、”スピーディ“のコードネームを与えられたブレイン・アングラウス、クレマンティーヌが常駐する秘密基地となる。

 

 また、二人はそれぞれ用心棒という設定で、”レイ“、”クレア“という名前を名乗って働くことになっている。

「俺がレイで」

「私がクレア?」

 そうと決められれば否とは言えない。ブレインにとっては主と仰ぐ絶対者の命令であり、クレマンティーヌには「もう二度とあんな目にあうのはごめんだ」という恐れがある。

「まあ、用心棒というのは悪くないな。もともとそういう仕事だったわけだし」

「悪くないよねー。殺しちゃ駄目ってのと、スティレットは禁止ってのが残念だけどー」

「俺だって刀はナシと言われている。それくらいは我慢しろ。この“警棒”とかいう黒い棒だけが装備品だからな。ちょっと落ち着かない」

 ブレイン達が手渡された黒い棒……実はオリハルコンの本体を、アダマンタイトでコーティングした、この世界基準ではかなりの逸品だったりする。

 それにこの二人は元々この世界基準では強者である。そんな二人が用心棒をしている酒場で暴れる者がいたら、とんでもない目にあうだろう。

 もっとも“漆黒”がすぐ上の階にいるのに暴れる人間がそういるとも思えないのだが……。

 

 

 

 

「それで、オレはバーテンかよ」

 白いシャツにグリーンを基調にしたベストと、蝶ネクタイを身に着けたルクルットは、渋い顔でシェイカーを振る。

「ははっ。似合っていますよー、ルクルット」

「本当。様になるよなー」

 ニニャとペテルは大笑いする。

「本当ですね。よく似合いますよ」

「漆黒の英雄までそんなこというのかよー。まいったなーー!」

 ルクルットは満更でもなさそうであった。それにバーテンはモテるという話だ。ルクルットにとっては悪くない職場だろう。

 

「そうそう、皆さんにここの店長を紹介しますよ」

「……そういや、まだ会った事なかったな?」

「僕はオーナーが店長を兼ねるのかと思っていましたよ」

 オープン間近だというのに、まだ店長が姿を見せていなかった。

 

「ルーイ!」

 モモンに呼ばれて入ってきたのは、凡庸な顔つきの男で、髪を綺麗にそり上げている。人工物のような黒い瞳が目立つ程度だ。

「お呼びでしょうか、モモン様」

「来たか、ルーイ。君をみんなに紹介しておこうと思ってね」

 モモンはスタッフを集める。

「彼がこの『VERDANT(ヴァーダント)』の店長を務める、ルーイだ。外見はちょっと怖そうだが、オーナーが信頼している真面目な男だぞ。ではルーイ」

 モモンは挨拶をするように促す。

 

 

「各員傾聴!」

 ルーイは両手を後ろに組み、声を張り上げる。

「私がこのVERDANT(ヴァーダント)の店長を務めることなったルーイだ。我々の目的は、この店を盛り上げること。その一点だけだ。心を一つに合わせともに頑張ろう! よろしくお願いします」

「バーテンダーのルクルット・ボルブです」

「フロア担当のニニャです」

SCHWARZ(シュヴァルツ)店長のペテル・モークです」

「同じく接客担当のブリタです」

 次々にスタッフたちが挨拶を交わす。

「……用心棒のレイだ」

 右手を差し出し握手を求める。

「よろしくお願いします。レイ」

 ルーイは手を握り返す。

「はあいー。初めまして、ニ……ルーイ♪。クレアでーす」

 ニタニタとした笑顔を浮かべて手を振るクレアことクレマンティーヌ。それを見たルーイは顔色こそ変えなかったが、内心かなり驚いていた。

(……クレマンティーヌだと? なんで、お前がこんなところにいる!)

 そう思ったルーイであったが、ここは努めて冷静に振る舞う。

「はじめまして、クレアだったかな? ふむ、実にお美しいお嬢さんだ。用心棒よりもフロアの方が似合うんじゃないかな。ははっ……」

「あら。店長さん、おせじがおじょーずー。でもー、用心棒の方がいいかなー」

 顔はニコニコいやニタニタしているが、内心は違った。

(まさか、こんなところで、こんな形で会うとは思わなかったな。それにしてもこんな風に褒められてもサブイボなんだけどー。そういえば頬の傷がないなー)

 お互いに知っているだけになんだか気持ち悪い思いでいた。

 

(うーん、クレアさんの声ってどこかで聞いたような気がするんだけどなー)

 ブリタはそう思ったが、どこで聞いたのかは思い出せなかった。もっとも思い出せない方が幸せであるのだが……。

 

(どうやら、二人とも大丈夫なようですね。ルーイ……いえ、ニグン・グリッド・ルーイン。わざとお互いの存在は知らせないでテストしてみたのですが……)

 モモンのヘルムの下でパンドラズ・アクターは、ほっと一息をついた。彼を復活させるようにアインズに願ったのはパンドラズ・アクター自身なのだから。

 

 

 

「おっ、みんな揃っているなー!」

「あっ! オリバーさん!」

 陽気に現れたのは、この2店舗のオーナーという設定であるオリバー・クイーン。金髪碧眼の好青年だった。

 この姿はアローの正体であり――アイテムの設定としては“非戦闘形態”だが――彼がアローであると知っているのは、実際に戦ったことのあるクレマンティーヌしかいない。

 当然その本当の正体は、アイテム緑の矢(グリーン・アロ-)で変身しているアインズ・ウール・ゴウンその人である。

 

「さあ、ついに明後日が開店だ。どっちの店もすでに問い合わせが多いからな! きっと開店と同時に忙しくなるぞ! 頑張ってこの街を盛り上げよう!」

 アインズとは思えないほどの明るい語り口で盛り上げてみせる。

「はいっ!」

 

 このSCHWARZ(シュヴァルツ)VERDANT(ヴァーダント)という、黒と緑の2つの店舗が、エ・ランテルでの活動の拠点となっていくことになる。

 アインズとパンドラズ・アクターがそれぞれ演じるアローとモモン。二人の主役からなる英雄譚。黒と緑の物語は、アダマンタイトという最高ランク冒険者となったことと、拠点を手に入れたことで、新たなるステージへと進んでいくことになる。

 

 

 

 

 

 

 




シーズン2終了となります。

ここまでお読みいただきありがとうございました。



☆まとめ☆

ブレイン・アングラウス=コードネーム”アーセナル”。店での名前は”レイ”

クレマンティーヌ=コードネーム”スピーディ”。店での名前は”クレア”

ニグン・グリッド・ルーイン=店での名前は”ルーイ”


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