―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN

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シーズン2第12話『会議』

 

 

 この日、エ・ランテル冒険者組合の会議室で急遽行われることになった『エ・ランテル最高会議』。

 

 その参加メンバーは、冒険者組合長プルトン・アインザック、その盟友ともいえる存在の魔術師組合長テオ・ラケシル、そして都市長パナソレイ・グルーゼ・デイ・レッテンマイア……といった都市の幹部3人の他、緊急招集されたこの都市で最高ランクの冒険者『ミスリル』プレートの各チームリーダーである。

“クラルグラ”のイグヴァルジ、“天狼”のベロテ、“虹”のモックナック、そして昨日ミスリルに昇格したばかりの“漆黒”のモモンの4名である。

 なお、今回モモンは、パンドラズ・アクターではなく、アインズ本人が扮している。

 

 本来の議題に入る前に“飛び級の新入り(モモン)”のことが気に入らないイグヴァルジが徹底的に絡むという大人げない対応をしたため自らの株を大幅に下げ、対象的にモモンが大人の対応をしたことにより、モモンの株を大幅に上げる……という皮肉な結果を残すということがあったが、詳細は割愛する。

 

 今回の緊急招集の理由は、冒険者組合長アインザックより伝えられた。

 

 それを要約すると、“二日ほど前に恐るべき力を持つ吸血鬼(ヴァンパイア)が出現したので、その対策を考えたい”ということだった。

 その惨劇から生き延びた(シルバー)級冒険者チーム“漆黒の(つるぎ)”のリーダー、ペテル・モークが呼びこまれ、一同にその惨劇の詳細を語る。

 

 

(シルバー)級冒険者チーム“漆黒の(つるぎ)”のリーダー、ペテル・モークです。一昨日に起きた出来事を皆様にご報告します。我々は8人のチームで偵察に赴きましたが、そこで遭遇した白いドレスをまとった吸血鬼(ヴァンパイア)と遭遇し、8人中5人が死亡……その全員が一撃で殺されました」

 ペテルの顔は青白く、さすがに覇気がなかった。

「なにっ! 全員一撃だと?」

「ばかなっ!」

「ケッ、自分だけが生き残ったからって大げさなんじゃないのかっ?」

 モモンを除く各リーダーが、ペテルの話に大きな反応を示す。

「……はい。信じられない光景でしたし、お話ししても信じていただける自信もありません。常識をはるかに超える事態でしたから。まず最初の被害者は戦士でしたが、素手の一撃で大型の盾を砕かれ、鱗鎧(スケイル・アーマー)は紙のように貫かれ、そのまま心臓を抉られて死亡しました」

 ペテルは肩を震わせ、押し寄せる恐怖に耐える。思い出すのも辛い光景だ。

「なんてこった」

「盾と鎧を素手でか……。確かに強い相手のようだな」

「だから大げさなんじゃねえの?」

 三者三様といった反応だった。

「しかも、それだけではないのです。その吸血鬼(ヴァンパイア)は魔法〈不死者創造(アニメイト・デッド)〉を使い、死体を動死体(ゾンビ)に変えました。そして……さらにそれを、下位吸血鬼(レッサー・ヴァンパイア)に事も無げに変えてみせたのです」

 ペテルの顔色は青白いを通り越して、色を失っている。聞くだけでも悍ましいものを、彼は実体験しているのだ。

(苦しいだろうが、役だってもらう)

 アインズはその精神状態を理解できるが、それでも同情するまでには至らない。

「第3位階魔法を使うというのかっ!」

「出鱈目な奴だな。戦闘力だけでも今まで見たこともないような化け物の可能性が高いっていうのに、最低でも第三位階魔法まで使えるのか」

「なるほどな。吸血鬼(ヴァンパイア)ごときで、俺たちが呼ばれるわけだぜ」

 モモンを除く全員の顔が歪み、顔色が明らかに曇る。

 

「はい。正直なところ化け物中の化け物だと思います。首を一撃で切り落とされた者が2名。リーダーの魔法詠唱者(マジックキャスター)に至っては手刀一撃で脳天から胴体へと真っ二つに切り裂かれ、その体を掴んで残る一人に想像を超える速度で叩きつけ、ぶつけられた戦士の方は原型をほぼ留めていないくらいに潰されていました」

「地獄絵図だな」

 誰かの呟きに全員が頷く。

「よく生きて帰ってこられたな? お前(シルバー)だろ」 

 イグヴァルジは刺々しい物言いをする。その裏にあるのは、(シルバー)ごときがそんな惨劇から生きて帰ってこられるはずがないという非難。そして格下を見下す態度だった。

「イグヴァルジ、よすんだ」

「お前らだってそう思っているだろうが! どう考えても話が大げさか、コイツらが絡んでいるかどちらかじゃねえのか? 生き残れるなんてありえないだろうよ」

「……裏付けは取れている。彼の言った通りの惨劇があったことは別の調査チームが調べている。私も運ばれてきた遺体を見ている。まさにその通りだった」

 アインザックはイグヴァルジを冷たい目でみる。

「けっ。じゃあ、お前らはどうやって生き延びたんだ」

「それが、残念ながら断言できないんです。……交渉というか、仲間が逃げる時間を稼ごうと思って話しかけていたところまでは覚えているんですが……。最後がわからない。なぜか気を失ってしまったようで、気がついたときには姿が見えなくなっていました」

 ペテルは何度も思い出そうとしたのだが、最後の記憶は“白いドレスの吸血鬼(ヴァンパイア)と話をしている”ことだった。

 

「ペテル達3人は、倒れているところを調査チームに発見されている。その吸血鬼(ヴァンパイア)がなぜ彼らを放置したのかはまったく理由がわからない」

「ケッ、役に立たねえな」

「イグヴァルジ! いい加減にしろ。どんな形であれ彼らが生き残ってくれたからこそ、こうやって情報を聞けるんじゃないか」

「そうだぞ。我々でも多分生きては帰ってこられないような相手に思える。無事を祝いこそすれ、責めるなどありえんぞ。それに仲間のために身を盾にしてまで頑張ったんだ。そうそうできることじゃない。勇者だよ、ペテルは」

 虹のモックナックの発言に、ペテルの表情がわずかに緩む。

「チッ。わーったよ。それで、どうすんの。この規格外の奴に対してさ」

 全員が思案顔になる。

 

 

 

「正直、こちらから手を出すのは危険すぎる相手だと思います」

 実際に対峙しているからこその警告だ。

「だが、援軍に出たチームは無事帰ってきたのだろう? だったら、討伐隊を送り込むべきじゃないのか?」

「俺達ミスリル全部でかかればなんとかなるんじゃないか?」

「いや話を聞く限りはどうにもならない気がする。蒼や赤に救援を依頼すべきでは?」

 蒼とはアダマンタイト級冒険者チーム“蒼の薔薇”、そして赤とは同じく“朱の雫”を指す。

「ふざけるな! ここは俺達の街だ。オレ達が守らないでどうする!」

 イグヴァルジが叫ぶ。彼に都市愛があったのかと、周りの人間が驚きの表情を浮かべる。実際のところはただ単に手柄をよそ者に取られたくないだけだったのだが。

「それにしても一昨日は吸血鬼(ヴァンパイア)で、昨日は大量のアンデッドか。なんだか関連性がありそうだな」

 皆が首肯する。これだけ連続してアンデッドに関する事件があれば当然だろう。

「まだ非公式な話だから君たちの胸に収めておいて欲しいのだが、昨日の一件はズーラーノーンの仕業である可能性が高い」

 アインザックの言葉に場がざわつく。

「ズーラーノーン。あのアンデッドを使う秘密結社か!」

「ありえるな」

 しばらく場が盛り上がったところで、これまで発言を控えていたモモン(アインズ)が口を開く。

 

「まず、一つ間違っている。その吸血鬼(ヴァンパイア)はズーラーノーンとは関係がない」

「何故だね、モモン君。何か知っているのかね?」

「その吸血鬼(ヴァンパイア)の名前はよく知っている。何故なら私がここまで追ってきた吸血鬼(ヴァンパイア)だからだ」

「なんだと?」

 場がざわつく中、アインズは自分がその強い吸血鬼(ヴァンパイア)を追ってきたこと、情報を集める為に冒険者になったことを告げ、そして吸血鬼(ヴァンパイア)の名を告げた。

「その吸血鬼(ヴァンパイア)の名前は、ホニョペニョコだ。私とアロー……ああ私の相棒の名だが。その相棒と二人でずっと追っている奴だ」

 アインズは適当な名前をつけると、自分が持つ切り札をみせる。陽光聖典のニグンが使っていた魔封じの水晶に第8位階魔法を込めたもので、最高でも第6位階までしか使う者がいないこの世界においては秘宝中の秘宝であり、切り札として十分すぎるアイテムだった。

 アインズはそれを使うことを宣言し、魔術師組合長ラケシルがあまりの貴重性に反対意見を唱えるなど、ちょっとした混乱があったが、モモンの意見が通り、“漆黒”の単独チームで向かうことに決定する。

 

「ちょっと待てよ。お前なんか信用できるか。俺達もいくぜ!」

 イグヴァルジが異議を唱える。

「着いてくるのは構わないが、これだけは言っておく。着いて来たら確実に死ぬぞ? それでもいいなら着いてこい。責任はとらん」

 アインズの冷酷な宣言に驚くが、それでもイグヴァルジは同行すると言い切った。

 

 

◇◆◇ ◇◆◇

 

 

 

 そして……。

 

 

「なんだ、こいつらはお前の仲間か」

 目的の森の中で、イグヴァルジたちクラルグラは周囲を取り囲まれていることに気付く。

 

「は~い。おにーさん達、こんにちはーー」

「……愚かな。出てこなければやられなかったのにな」

 赤いフードを被り、同じ色のアイマスクで目元を隠した金髪の女戦士と、青いフードと同じ色のアイマスクで同じように目元を隠した青い髪の刀使いがふらりと姿を見せた。

 

「私は警告したぞ。ああ、言葉を間違えていたな」

「そうだな。“着いてきたら死ぬぞ”ではなく、“着いてきたら殺すぞ”の間違いだった」

 緑のフードの男アローと、漆黒の戦士モモンが不敵に笑う。

 

「くそっ……はめられた!」

 イグヴァルジ達は抜刀する。

「違うな。勝手にハマったんだ。まあいい。他の連中は巻き込まれて運がなかったな。悪いのはこの男だから、せいぜい恨んでおけよ」

 アインズ達が攻撃を仕掛ける。

「せいっ!」

「ぎゃっ!」 

 切りかかってきた男に対し、青いフードの男の刀が目に見えないスピードで一閃。一瞬の後に、その首が血しぶきとともに宙を舞った。

「遅いよ♪」

 逃げようとした男は赤いフードの女に額をスティレットで突き刺され即死。

「ふんっ!」

 一人はアインズの放った〈捕縛する矢(キャプチュード・アロー)〉により捕虜となる。

 

「くそおおおおおっ!」

 一人真っ先に逃げたイグヴァルジは、隠れていたマーレによって杖で頭半分をグシャグシャに潰されて命を奪われた。

 

「では処理を開始しようか」

 アインズは元の姿に戻ると、超位魔法〈失墜する天空(フォールンダウン)〉を放ち、辺り一帯を吹き飛ばす。これで激しい戦闘が行われたという場所を作成できた。

「やれやれ。これでは森を汚したのは私ではないか」 

 アインズはアローとしていつも自分が言っている台詞を思い出し苦笑する。

「それでも、できるだけ生態系に影響が出ない開けた場所を選んでいらっしゃいます。さすがはアインズ様ですな」

 姿はモモンのままだが、声はパンドラズ・アクターのものに戻っている。

(こ、これがアインズ様のお力か……確かにオレも以前より強くなったが……やはり桁が違う)

(なにこれ……あれだけの戦闘力を持っている上になんなのこの魔法の力……やっぱり従っておくしかないね)

 フードの二人は唖然とした表情でその光景を見つめていた。

 

「これで戻れば最低でもオリハルコンか」

「そうですな。話に聞く限りはアダマンタイトになれると思われます」

 魔術師組合長はミスリルの紹介した際も、「もっと上でもいいだろう」と不満を表明していた。

「そうだな。では戻るとしよう。“アーセナル”そして“スピーディ“もだな。なかなかよくやったぞ」

 アインズは青いフードの男と、赤いフードの女に声をかける。

「ありがとうございます。アインズ様」

「ね、お役に立てたでしょー。だからもうあれはやめてくださいねー」

 前者は丁寧なお辞儀ともに、後者は甘ったるく媚を売るような声で答える。

「お前がちゃんと役に立っていること、そして裏切ることがなければやらないさ」

「えー。もうあれやだー」

 “スピーティ”が露骨に嫌そうな顔をする。その肩は小刻みに震えていた。

(いったいどのような拷問だったのだろうな……そういう意味では俺は幸運だったのかもしれないな) 

 “アーセナル”は自らの幸運を感謝した。

(神に感謝と言いたいところだが、アインズ様こそが神ではないだろうか)

 アーセナルはそう信じている。

 

 

 こうしてこの日、ミスリル級冒険者チーム”クラルグラ“が全滅したが、そのことはすぐに忘れられる。

王国三番目のアダマンタイト級冒険者チーム”漆黒“が新たに誕生したというニュースが一気に広まったからだ。

 

 そして、その陰で、漆黒を支えるサブチーム“チームARROW(アロー)”が結成された日でもあった。 

 


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