―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN

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シーズン2第7話『降臨』

 

 

 

 ナザリックへブレインを送り込むと、アインズは指示をいくつか出してから、再びシャルティアの様子を見に戻ってきていた。

 念のため洞窟から少し離れた場所へ転移したアインズは、アローには変身せず、本来の死の支配者(オーバーロード)の姿のまま、不可視化する。その上で飛行(フライ)を使って上空から洞窟へと接近し、洞窟入り口付近を見降ろす形をとった。

(一体、これはどういう状況だ? プレートがあるところを見ると冒険者か。運の悪いことだ。……血の狂乱か。これは厄介な設定だな。現実化すると使い勝手が悪すぎる。これでは外に出すのは難しいな)

 

 眼下には、冒険者と思われる惨殺死体が、血の海に三体転がっており、そのうちの二つは首と胴体が離れ離れになっている。凄惨な光景が広がっていた。

 さらに何かの肉の塊が二つ。近くに装備品らしきものが転がっている所を見ると、それも冒険者のなれの果てと思われる。

 

(……冒険者 夢もないのに 殺される)

 なんとなく川柳を思い浮かべてしまいアインズは苦笑する。

 

(やはりアンデッドになってしまったのだな。こんな悲惨な光景を見てもその程度にしか感じないとは)

 アインズはまだ立っている者へ目を移す。洞窟の入り口近くに吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)が控えており、入口からやや離れたところには、血の狂乱を起こした状態のシャルティアと、生き残りらしい男の冒険者二人が対峙していた。

 二人の冒険者に敵意はないらしく、武器は持っているが構えていない。覚悟を決めた表情であり、どうやら必死にシャルティアに語りかけているようだった。

 

(うん? あの二人、どこかで見た覚えがあるな……)

 アインズは脳味噌をフル回転させて記憶を辿る。まあ脳味噌はないのだが……。

(……ああ、あの時の!)

 アインズは、アローとしてンフィーレアの依頼を受けた後の出来事を思い出す。

 

 

 

◆◇◆ ◆◇◆

 

 

 

 

「そこの大変お美しい御嬢さん。私はルクルット・ボルブといいます。 あなたに惚れました! 一目惚れです! 付き合ってください!」

 組合を出た直後、後を追ってきた一人の軽薄そうな(シルバー)のプレートのレンジャーがいきなり“ナーベ”に告白してきた。

 突然の出来事に、アインズはもちろん、一緒にいたモモン(パンドラ)でさえ唖然として、完全に動きが止まってしまった。

 

下等生物(ウジムシ)が! 踏みつぶしますよ?」

 ナーベが刺々しい表情で、冷酷すぎる断り文句を言い放つ。

「くう~っ。手厳しい断り文句ありがとうございます。ではお友達からということで、お願いします!」

 だがその男……ルクルットはまったくめげていなかった。

(ほう。メンタルが強いのかな? オレには出来なかったな)

 アインズは妙なところに感心してしまう。そして、自分(鈴木悟)にはなかった勇気がちょっとだけ羨ましかった。

下等生物(ムシケラ)の分際で。己の身の程を知りなさい!」

 だがナーベはあくまでも冷酷だった。

 

 

「「「オイっ!」」」

 アインズとモモンの息の合った脳天へのダブルチョップを受け、涙目になるナーベ。それと同時にルクルットの首根っこは、金髪の戦士風の男に掴まれる。

 

「すいません。うちのチームの者が迷惑をおかけいたしまして」

「いや、こちらこそ」

「失礼を」

 三人の男がお互いに頭を下げあう。

「いえ、こちらが先にご迷惑をおかけしておりますので。大変申し訳ありませんでした。私は (シルバー)プレートの冒険者チーム“漆黒の(つるぎ)”のリ-ダーをしています、ペテル・モークといいます」

 ペテルはさわやかな笑顔で挨拶をする。相手が自分より格下の(カッパー)であるにも関わらず見下すところがまったくない誠実な対応であった。

 

「ご丁寧にありがとうございます。どうもナーベは過剰な物言いをしてしまうもので、注意はしているのですが……私はアローといいます。こちらがリーダーの」

「モモンだ。私がチームリーダーということになっています。まだチーム名は決めてないのですがね。とにかく……チームメイトの無礼は、私の無礼。失礼な対応で申し訳なかった」

 アインズとモモンはもう一度頭を下げる。ナーベはその対応に驚きを隠せない。

 

「いえいえ。もともと、いきなり声をかけるという無礼を働いたのはこちらですから。コイツ(ルクルット)には手を焼いているもので」

「本当に申し訳なかったのである」

「ご迷惑おかけしてすみません」

 ペテルのチームメイトと思われる髭面の男と、年若い中性的な容姿の魔力系魔法詠唱者(マジックキャスター)風の少年が丁寧に頭を下げる。

「そちらのお二人はチームメイトですか?」

 モモンが尋ねる。

「はい。森祭司(ドルイド)のダインと、魔法詠唱者(マジックキャスター)にしてチームの頭脳、ニニャ・ザ“術師(スペルキャスター)”」

「ペテル……その恥ずかしい二つ名やめませんか?」

「……二つ名持ちですか?」

「ああ、コイツ貴重な生まれながらの異能(タレント)持ちでさ。魔法の習熟速度が2倍になるんだよ。この年で第二位階魔法を使えるのもその生まれながらの異能(タレント)の影響なのさ」

 ようやく解放されたルクルットがやや早口で解説する。

 

 

「それはすごいですね」

 アインズは生まれながらの異能(タレント)に関心があった。

「たまたまですよ」

「それはそうと、モモンさん達はこれから依頼でカルネ村まで行かれるとか?」

「ええ。護衛任務ですね」

 

「カルネ村付近の森は、“森の賢王”という強大な魔獣の縄張りになっているそうですよ。情報が少ないので詳細は不明ですが、白銀の体毛の魔獣ということです。魔法も使えるとか。あまり奥までは行かないように気をつけてくださいね」

 ペテルは貴重な情報を伝える。

「ご丁寧にありがとうございます。気をつけます」

「はい。もし機会があったらご一緒したいですね。お気をつけて!」

「ありがとうございます。その時はぜひ」

 アインズは「気持ちのいい奴らだ」と漆黒の(つるぎ)を評価する。

「またね~ナーベちゃん!」

 ルクルットが手をヒラヒラ振りながら愛嬌をふりまくが、当然のようにナーベは無反応であった。いや正確には眉を顰めるという伝わりにくい反応はしていたが。

 

 

 

◆◇◆ ◆◇◆

 

 

 

(漆黒の(つるぎ)と言っていたか。名前は、ペテルと……たしか、”ダンバイン”だったかな? うーん、ちょっと違うような気もするが……)

 チーム名とリーダーの名前はあっている。髭の人は……コキュートスが喜びそうな名称だ。

 

(こんなところで会うとは何かの因縁でもあるのか? 人数が2人少ないが、もうシャルティアが殺ってしまったのかな?)

 アインズは高度を下げてシャルティア達の会話を聞こうとしたが、その途中で森へ飛び込む影を察知する。

 

(むっ……何者だ!)

 アインズは一気に速度を上げて飛び、その影に近づく。やがて確認できたのは、木の根で転んだりしながらも必死に立ち上がり走り続ける年若い魔法詠唱者(マジックキャスター)の姿だった。

 

(あれは、二つ名持ちのニニャだな。……シャルティアの奴()()逃がしたのか。さすがにここでシャルティアの容姿を伝えられるのは困るな)

 アインズは魔法を発動し、あっさりとニニャを眠らせる。そのまま近づくと片手で無造作に胸倉を掴んで持ち上げようとして、柔らかい感触に気づく。

 

(こいつ女だったのか。なんで男装をしているのだろう? さて、どうしたものか。殺すにしても捕えるにしても、ここに置いておくわけにはいくまい。ひとまず()()()()()

 もしアルベドが、この心の声を聞くことが出来たなら確実にひと悶着起きそうなフレーズだが、アインズはまったく気づいていない。ニニャを軽々とファイアーマンズキャリーで持ち上げ、飛行(フライ)で一気にシャルティア達の上空へと飛んだ。

 

 

 そして……アインズが戻った場所では……。

 

 

「じゃああ。捕まえるぅぅぅぅう!」

 襲いかかる寸前のシャルティアと、震えながらも武器を構えず従おうとする二人の冒険者の姿があった。

 

「わかりました私たちは逃げません……最後に一つだけ聞きたいのですが、吸血鬼(ヴァンパイア)さん」

「なあにぃぃぃい?」

「どうして貴女はそんなに武技を求めるのでしょうか? 我々が知る限り武技を使える、もしくは興味がある吸血鬼(ヴァンパイア)など見たことも聞いたこともないのですが」

 

(どうやら彼らは“交渉”を試みていたようだな。なかなかやるじゃないか。戦っても無駄、逃げることも難しいと判断したと見える。あるいはコレ(ニニャ)を逃がすための時間稼ぎかな。察するに……シャルティアは血の狂乱を発動していた中でも“武技”という言葉に反応したのだろうな。これ以上長引かせると余計なことを話しかねないか。ここで止めておくべきだろう)

 アインズは無詠唱化した魔法を発動し、ペテルとダインの意識を奪った。

 

「ああん?」

 シャルティアは目の前で“はなしあい”をしていた冒険者二人が突然倒れたことに怪訝そうな顔をする。

 

「シャルティアよ、そこまでだ」

 アインズは不可視化を解除し、その死の支配者(オーバーロード)の姿を現す。

「げげげ~っ! コ、コホン! ア、アインズ様っ!! ど、どうしてこんなところにっ! い、いらっしゃるのですか?」

 想定外の事態に驚き、一瞬でシャルティアは正気に戻る。ただし、狼狽しているせいで、創造主ペロロンチーノに設定された偽廓言葉を使うのを忘れる。

 

「父兄参観だよ。シャルティア」

「フケイサンカン? なんでありんしょう? 新しい魔法でありんすか?」

 ここでようやく、少し落ち着いたのか、ちゃんと偽廓言葉を使う。

「……お前達の働きを見に来たのだ」

「わらわが信用できないということでしょうか?」

「いや違うな。信頼しているからこそ、直接その働きを見たかったのだよ」

 これは当然嘘であるが、わざわざ本当のことを言う必要もないだろう。

「そうでありんしたか。 あっ! その者は!」

 シャルティアはようやくアインズの肩でぐったりとしているモノがさっき逃がしたものだと気づく。

 

「目の前のことに集中しすぎるのはよくないぞ、シャルティア。視野は広く持たないと」

「申し訳ありんせん。……あのアインズ様、その大変申し上げにくいんでありんすが……」

 シャルティアは自分のミスを思い出し、スカートをぎゅっと抓みながらモジモジする。

「わかっている。ブレイン・アングラウスのことだな?」

「はい。たしかそのような名前でありんした」

 シャルティアはうろ覚えだったが、ひとまず同意しておく。

「奴は我が支配下にはいった」

「まことでありんすか!」

 シャルティアは目を真ん丸くしてアインズを凝視する。

 

「ああ。強さをみせつけるのはよいが、油断しすぎるのはよくないぞ。逃げ道があるかもしれんのだからな」

「申し訳ありんせん。ところで、アインズ様。この者達はどうするのでありんすか?」

 シャルティアは目線だけ動かし足もとに転がっている冒険者を一瞥する。

「ああ。それだが……多少彼らとは接点があるのでな。記憶を弄ろうかと思っている」

「そうでありんしたか。魅了して情報を聞き出した方がよいでありんすかね?」

「魅了しても記憶は残るからな。ひとまず記憶を探ってみるか」

 アインズはニニャの額に手を当てる。

 

「ふむ……どうやら吸血鬼(ヴァンパイア)がいるという情報は持ち帰った奴がいるな。さすがにそれを追うのは難しいだろう」

「そ、そうでありんすか。私の失態でありんす」

「いや、持って帰られたのは吸血鬼(ヴァンパイア)が出たという情報だけだ。まあ、この三人が戻ればお前の容姿も知られてしまうがな」

 

「では、やはり殺してしまった方がよいのではありんせんか?」

「いや、これを上手く利用して、我々の役に立てることにしよう。”吸血鬼(ヴァンパイア)討伐”なんて、名声を上げるには持ってこいだと思わないか?」

 アインズはニヤリと笑う。もっとも骸骨の顔なので細かい表情は変化しないのだが。

 

「は、はあ?」

(わかっていないようだな。まあいいか。ひとまず容姿は吸血鬼の花嫁(ヴァンパイア・ブライド)に変更しておこう。別に惜しくもないしな。ちょっと勿体ないが。

ふー。3人分か……めちゃくちゃ疲れそうだけど、明日はエ・ランテルに戻るだけだし、アローの時は魔法使わないからなー。ま、大丈夫だろう)

 

 

「〈記憶操作(コントロール・アムネジア)〉」

 アインズは膨大な魔法力を消費し、彼らの記憶を弄る。

 

 漆黒の剣の3人は、“恐ろしい魔力と攻撃力を持った白いドレスの吸血鬼(ヴァンパイア)”との遭遇戦になったが、話し合いをしている最中に意識を奪われ、気がついたら吸血鬼(ヴァンパイア)は消えていたという話に記憶を書き換えられた。

 

 

 


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