―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN

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シーズン2第2話『決着』

 

「はあー。私、疲れちゃったなー」

 クレマンティーヌは軽口を叩きつつ、青い液体の入った小瓶を取り出し体へと振りかける。

「たしかに、なかなかやるねー。でもさあ、もうわかったでしょー? 私に矢は通じないってー」

 アローに変身中のアインズの常人離れした速射攻撃を、クレマンティーヌはギリギリではあるが全て直撃を避けている。多少かすり傷は負ったが、それも先程のポーションで回復させた。

 

「そうかな? 結構ギリギリじゃなかったか?」

 アインズは笑みを浮かべて見せる。

「――そんなことないよー。まだ私、本気じゃないもーん。確かに今まで見た中でアンタ1番の弓の使い手かもしれないよねー。自信持っているのはわかるよー」

 クレマンティーヌの笑みが、獰猛なものに変わる。”人とは違う何か、人ではないなにか”そう野生の動物を思わせるようなものだ。

 

「アホか、お前。“当たらなければどうということはない”んだよー」

「……そうか。まあ確かにそうだろうな。じゃあ、どうする? そのまま避け続けるだけなのか? こっちの矢が尽きる前にそちらの体力が持たないんじゃないのか?」

 

(……確かにね。普通なら全部避ければこっちのものだけど、コイツの矢筒……さっきから矢が減ってない。もしかして……いや、まず間違いなくマジックアイテムだよね)

 クレマンティーヌは冷静に観察する。

 

「その矢筒、マジックアイテムでしょー? どうやら矢が切れるっていうのは、なさそーだしね」

「……気づいていたか」

 アインズは、クレマンティーヌの観察眼を評価する。

 

「まあねー。だって22本も打ったのに最初と本数変わってないとか不自然だしー。便利なマジックアイテムだねー」

 クレマンティーヌはニイッと笑う。余裕があるようなそぶりだ。

(……だから、やっかいなんだけどね。)

 

「ほお、数まで数えているとはずいぶん冷静だな」

 アインズ自身も数をカウントしていなかったし、矢筒の残数まで見るという意識はなかった。

(ふむ、勉強になるな。普通の矢筒なら重要な要素だ。覚えておこう)

 

「なら、どうする? ただ逃げ回るだけなのか? それとも、かかってくるか?」

「しょうがないなー。じゃあ、仕掛けさせてもうおうかなー。きっと後悔することになるよー」

 クレマンティーヌの雰囲気が明らかに変わる。

「さて、一応聞くがお前にこの距離を詰める手段があるのか?」

 アインズの矢は十分届くが、スティレットのみを装備――腰のベルトにモーニングスターは差し込んでいるが――しているクレマンティーヌの攻撃が届く距離ではない。

 

「なめるなよ、フード野郎! 弓使いなんて、魔法詠唱者(マジックキャスター)と一緒なんだよ。私に勝てるわけないじゃん。スッといってドス! これで終わりだよー。いつもねー」

 アインズはクレマンティーヌの様子から、策を持っていると予想する。

 

「では、見せてもらおうか」

「お前のその余裕、気に入らねーんだよ!」

 クレマンティーヌは姿勢を変える。一見陸上のクラウチングスタートのポーズのようだが、立ったままであり、異常な姿と言える。

 

 クレマンティーヌはドンッ! という音ともに一気に疾風のように突っ込んでくる。

 

(はやいっ!)

 アインズは予想を超えるスピードに瞠目する。驚異的な身体能力を持つアインズからしても信じがたいスピードだ。

 

 アインズはさらに倍増させた速度の矢を放って迎撃するが、超スピードで突っ込んできながら、それをクレマンティーヌは回避し、そのままスティレットを左肩へと突きたててくる。

 ガキイッッ! と金属同士がぶつかる音がする。

 

「ふんっ!」

 アインズは後方に飛び退きながらクレマンティーヌの首を両足首で挟んで横回転し、遠心力を利用して投げ捨てる。”ヘッドシザースホイップ”だ。

「なっ!」

 投げ飛ばされたクレマンティーヌはひょいっと手を片手で着地し、ぴょんとバク宙を決めて体勢を立て直す。

 

「……かったいなー。その服何で出来ているの。布製だと思ったのに、もしかしてアダマンタイト? 金属を織り込んだ服なんて、まずないよー。どこで手に入れたのさ」

 アインズが、スティレットを突き立てられた左肩を見ると服にへこみのような傷がついていた。一見たんなる緑色の服だが、これは課金の結果手に入れた高レベルの装備品だ。これに傷をつけるクレマンティーヌの一撃はそれだけの破壊力を秘めていた。

 

「ま、いいかー。それなら次は防御の薄い所を狙えば良いだけだしねー。せっかくちょっとずつ弱らせて身動きできなくなってから、苛めてあげようと思っていたのになー。ざんねーん♪」

 肩口に突き立てられたのが、戦闘力を奪う狙いと知って、アインズはクレマンティーヌへの評価を高める。

 

(そういえば以前、パンドラもいっていたな……)

『今のアインズ様は技術ではなく、身体能力に頼ったいわゆる力任せの攻撃になっております。さらに、攻撃しようとする意識が強すぎるため、繰り出す一撃一撃が、すべてフルパワーで繰り出されております。私は恐れ多くもアインズ様のお姿にならせていただいておりますが、知識として他の至高の御方々の情報が入っております。それによりますと、相手がどう動くかということも考え、避けられたり、防がれたりした際のことも考えて仕掛ける必要があるのです。『戦いとは、常に二手三手先を読んで行うものだ』と伺っています』

(いくらアローになって戦闘技術を持っているとはいっても、私はまだまだ経験不足だ。この女は参考になる) 

 

「じゃあ、いきますよー」

 再び前傾姿勢をとると、流星のような一撃が再びアインズを襲う。

「っ!」

 顔を狙った一撃をスッと右へ顔を逸らして躱すと、アインズは右の掌底をフック気味に叩き付ける。

「甘いっ!」

 それを回避したクレマンティーヌは、いつのまにか装備した左のスティレットを顔に突き立てる。

 

「ふっ……」

 アインズはその腕をとって回転を加えながら一本背負いで地面へと叩き付ける。名付けるなら竜巻一本背負いといったところか。

「ぐはっ……」

 タイミングを外された為、受け身をとれずクレマンティーヌは後頭部をしたたかに打ち付ける。

 

「ふんっ!!」

 さらに腕を離さず、腕ひしぎ十字固め! 腕を折りにいく。

「させるかよ!」

 右のスティレットを振り回し、技が決まる前に外しにかかる。

 

(そう来るだろうな)

 アインズは予想しており、素早く技を外して距離を取る。

「いったああ。格闘術まで持っているとは思わなかったなー」

 完全に意表を突かれたクレマンティーヌは、ダメージを隠せない。

 

「今度こそ全力でいくからね!!」

 〈疾風走破〉〈超回避〉〈能力向上〉〈能力超向上〉4つの武技を同時に発動し、クレマンティーヌは三度突撃を敢行する。

 

「うっ、早いっ!」

 先ほどまでよりも一段上の突撃。威力もスピードも違う。右の刺突がアインズの顔面を狙う。

 アインズはカウンターで右のストレート掌底を繰り出す。

 

「きた!〈流水加速〉」

 武技を発動したクレマンティーヌは加速し、掌底を素早く躱してアインズの顔面へとスティレットを突き刺した。

 

「ぐうっ……」

 アインズはぎりぎり顔を動かし、アイマスクで受ける。またも金属音がしてスティレットが弾かれた。

「なっ? それまで金属糸使っているのー?」 

 ダメージは吸収したものの、アイマスクはその勢いで弾き飛ばされ、フードはめくれ上がってしまう。

「やるな……クレマンティーヌ」

 アインズは素直に賞賛する。いくら本気ではなかったとはいえ、顔面直撃弾だ。そうそうできるものではない。

 

 

「へー、どんなくそったれな顔かと思ったら、意外とイケてんじゃん。結構好みだよ、その顔」

 アローの正体である金髪碧眼の青年、オリバー・クイーンの顔を見られるという、ヒーローとしては大失敗なシーンだが、そもそもアインズが変身しているので問題ない。

 

「そうか、それは嬉しいよ。……お前もなかなか可愛いぞ、クレマンティーヌ」

 オリバーとしての常時発動型特殊技能(パッシブスキル)〈プレイボーイ〉が発動する。

「……可愛いってすっごく久しぶりに言われたんだけどー。でもーそういうこというシチュエーションじゃないよね?」

 予想外の言葉にちょっと頬を赤らめるクレマンティーヌ。

 

「まあそうだな。お互いに武器を振り回している最中だからな」

「そういうことー。別のシチュエーションならよかったのに。でも、今は殺し合いの真っ最中だよー」

 

「では、殺し合うとするか?」

「そーだね。まあ、可愛いって言ってくれたことは、そっちが死んでも忘れないよー」

「一応聞くが、もし悩んでいた結果こういう事件を引き起こしたのなら、話は聞くし力になるぞ?」

 

「ま、なくはないけど」

 クレマンティーヌは再び〈疾風走破〉〈超回避〉〈能力向上〉〈能力超向上〉4つの武器を同時に発動し、全力の突撃を敢行する。

 

「また、それか」

 アインズはあたらないと知りつつ弓で牽制し、さらに接近するクレマンティーヌへ軽く右掌底をアッパー気味に打ち出す。

 〈――流水加速〉

 先程と同じように武技を発動して回避し、スティレットを突き立てる。

 

「だがっ!」

 アインズはその攻撃を避けつつ、クレマンティーヌの2撃目……左手首を掴むと素早く懐へ飛びこみ、自らの左肩に叩き付ける。

 

 バキイイイッ! 

 

 ショルダーアームブリーカーで、文字通り左腕をへし折った。

 

「ぐがぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 左手に持っていたスティレットが地面に力なく落ちる。

 

「すまないな、クレマンティーヌ。 痛かったか?」

「痛いに決まってるだろ! 武技を使ったっていうのになんで当たらない……なぜ……」

 

「これがレベルの差だよ。クレマンティーヌ。お、その困惑した表情も可愛いぞ」

「てんめえええっ……コロス!!」

 武技の発動もなく、力任せに右のスティレットを突き出す。スピードはまったくない。

 

「やれやれ……まだ懲りないのか」

 アインズはその手を掴み、クレマンティーヌを引き込んで前かがみにさせると、その頭をまたぐように前転! そのまま肘関節を伸ばしてへし折る。

 

「ぐぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 絶叫が草原に響き渡り、満月へと吸い込まれる。

 

「どうだ気分は? たしか「ちょっとずつ弱らせて身動きできなくなってから、苛めてあげようと思っていたのになー」とか言っていたが?」

 アインズは笑う。

 

「てんめえええええええええええっ!!」

 クレマンティーヌは苦痛に顔を歪めつつも、アインズを睨みつける。

 

「ほう。まだ戦意を失わないか。たいしたものだ。興味深い女だ」    

「くそっ……まだ終わってねえんだよ!」

 〈能力超向上〉

 クレマンティーヌは武技を乗せ右足の蹴りを繰り出し、アインズの腹部を狙う。

 

 

 パシッ!

 

 絶望的な音がして、あっさりと蹴り足がアインズの左手に掴まれる。

 

「は、はなせっ!」

 アインズは左腕で足を抱えこむと右手を横に振り上げる。

「では、いくぞっ!!」

 勢いをつけてその手を振りおろし足に絡みつくと、クルンと一回転。

 

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっつ!」

 技の対処方法を知らないクレマンティーヌはまともに足を捻られてしまい、靭帯がねじ切られてしまった。本来自ら飛んでおかないとダメージを逃がせない。

 

(確か、この技はドラゴン・スクリューと名付けた……とパンドラが〈伝言(メッセージ)〉で言っていたな。そのまんまじゃないか)

 

「くそやろうがあああああああっ……」

 唯一元気な左足で立ち上がろうと膝をついた瞬間、アインズが疾風のように走る。

 

「クレマンティーヌ! お前は街を汚した!」

 腿を踏みつけて飛び上がり、大きく振りあげた右足の踵を、サソリの尾のように後頭部へと叩き込んだ。

例によってアインズは知らないが、閃光式踵落し(スコーピオ・ライジング)と呼ばれる技である。

「がはっ……」

 血を吐きながら倒れこみ、クレマンティーヌは意識を失った。

 

「本当になかなか可愛い顔をしているな。アルベド達にはかなわないが。こいつは何かに利用すべきか。別に殺してもいいんだが、特に恨みがあるわけではないからな。どちらかと言えばコイツには感謝すべきか」

 若干オリバーが混ざった考え方になっているが、アインズは気づいていない。

 

 

『コキュートス、聞こえるか?』 

『ハイ。アインズ様』

 アインズは〈伝言(メッセージ)〉を起動しナザリックの第五階層守護者を呼び出す。

現在守護者達はナザリックを離れているため警備を担当しているコキュートスにマジックアイテムを持たせて連絡を取れるようにしてある。

『今から〈転移門(ゲート)〉で捕虜を一人送り込む。最低限の回復をしたうえでニューロニストに引き渡せ。そして伝えよ。この女は使い道がありそうだ。手段を問わずに敵対心を奪え。命は奪うなよ』

『カシコマリマシタ。至高の御方ノ、ゴ命令シカト承リマシタ』 

 

 アインズは会話を終えると即座に〈転移門(ゲート)〉を開き、クレマンティーヌを中に蹴りこんだ。

影の悪魔(シャドウ・デーモン)よ、ご苦労だった」

 ゲートの前の影から悪魔が現れ、アインズに一礼して姿を消す。

 

「では戻るとするか。やることは多いからな」

 

 アインズは地面に転がっているスティレットとアイマスクを回収してから姿を消した。

 

 

 


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