―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN

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シーズン1第15話『天空の剣』

 城塞都市エ・ランテル外周部。その一角にある広大な共同墓地。昼間でも人の少ないこの場所は、深夜ともなれば普段は静寂に包まれている。

 

 時には騒がしいこともあるが、それはせいぜい巡回中の衛兵たちが、自然発生したアンデッドと戦いになった時くらいだろうか。

 だが、今日は墓地の出入り口付近を中心に、人の叫び声や武器がぶつかる音、そして魔法の炸裂音などが、長いこと夜の街に響き続けている。

 

 突如現れたアンデッドの大軍に対し、人間達は当初劣勢に追い込まれていた。巡回および警備についていた衛兵は壊滅状態に陥ったものの、援軍に駆け付けた衛兵と冒険者の奮戦もあり、徐々に押し返し始めていた。

 

 その主力となっているのは、美人魔法詠唱者ナーベと、白き大魔獣ハムスケ。二人……いや、一人と一体の登場により、アンデッドと人間の戦闘は終結へと向かいつつある。

 

「〈雷撃(ライトニング)〉!!」

 ナーベの手から放たれたサンダーボルトが一気にアンデッド数体を屠る。

「くらうでござるよおお!! 〈賢王の尾(ハムスケテール)〉!」

 ハムスケの硬い尾が骸骨(スケルトン)を砕く。

「……やれやれ、無駄に数だけ多いわね」

「もう少しでござるよ。ナーベ殿。ところで殿たちは大丈夫でござろうか」

「安心なさい。この程度アローとモモンの相手にはならないわ」

 ナーベは自信満々に言い切った。

 

 

 

 

 そんな城門付近の喧騒を後ろに、アインズが変身している緑のフードの男アローと、パンドラズ・アクターが演じる漆黒の戦士モモンは、アンデッドの大軍を難なく蹴散らし墓地の奥へと辿りついていた。

 

 パンドラズ・アクターは、道中でスキル〈下位アンデッド作成〉をつかって作成した、死霊(レイス)骨のハゲワシ(ボーン・ヴァルチャー)という飛行型アンデッドを中間地点に配置。〈飛行(フライ)〉で飛んでくる冒険者がいた場合、足止めをするように命じている。

 もっともナーベとハムスケを前線に配しており、彼女らを出し抜いてここまで来られる者はまずいないはずだが。

 

 

 アインズとモモンは迷うことなく目的地へと進む。アインズ命名“G計画(ネットワーク)”の成果により、首謀者が所在地はすでに掴んでいるのだ。

 

 

「……あそこか」

 墓地の最奥……霊廟の前に数人の黒いローブを纏ったいかにも怪しげな集団が見える。彼らは円陣を組んでぶつぶつと呟きながら何かを行っているようだが、この距離ではその詳細まではわからない。場所や時間帯などから推測すると、何かしらの闇の儀式を行っているのだろう。 

 集団は全身を頭までローブで覆っており顔が見えないが、ただ一人……円陣の中央にいる、髪の毛も眉毛もない不気味な様相の男だけが素顔を晒していた。彼を一言で表せば、アンデッドのような男という感じだろうか。

 その男が身に着けているものは、周りの人間に比べて質がよい。1ランク……いや2ランクほどは上か。どうやら彼がこの集団の頭と見える。

 

(そういや、昔日本にいたっていう妖怪”ぬらりひょん”が、ああいう感じだったような。確か……誰かにイラストを見せてもらったことがあったが……あれは誰だったかな?)

 アインズはギルドメンバーのアバターを順番に思い浮かべるが、誰だったかは思い出せなかった。

(そういえば、この世界には妖怪っているのかな? 和製モンスターみたいなものだろう??)

 なお、G計画(ネットワーク)から今のところはそういう報告はなかった。

 

 

 

「……不意を打つか?」

 モモンが目をそらさずに低い声で尋ねる。

「お前ならわかるだろう? 召喚者と被召喚者には精神的なつながりがある。こちらが近づいているのは、奴らにもわかっているはずだ」

「では……」

「ああ。お前は正面から行け。不意打ちをするつもりはないが、私は別のところから行こう」

「……了解した」

 モモンは抜刀し、右手のみ剣を構え無造作に歩んで行く。それを見届けてアインズは迂回するために姿を消した。

 

 

 霊廟へと向かう道をモモンはまっすぐに進む。

 

「……カジット様、来ました」

 円陣を組んでいた若い男が、中央にいる男に声をかける。

 

(はい。おバカさん確定ですね。もっとも、言われなくても知ってはいましたけどね……カジット・デイル・バダンテール殿!)

 兜の内側でパンドラズ・アクターは笑みを浮かべる。

(それにしても我が創造主の叡智には驚かされます。あの一手がここまでの影響を及ぼすとは思いませんでした。おっと……私の仕事をしなければいけませんね)

 

「いやー満月の美しい、とてもいい夜だな。……つまらない儀式をするには勿体なくはないかな?」

 モモンは気軽な口調で話しかける。

 

「ふん! ……儀式に適した夜か否か決めるのはこのワシよ。まあ、月が美しいというのは否定しないがな……それよりもお前は何者だ?……どうやってあのアンデッドの大軍を突破してきた」

 円陣中央に立っていたカジットと呼ばれた男が返答してくる。

 

「私は依頼を受けた冒険者でね。とある少年を探しているんだが……まあ、名前はいう必要もないだろうな……お前たちに心当たりがあるだろうよ! なあ、カジット?」

 男たちがピクリと反応する。カジットは自分の名前を口にした弟子を睨みつけた。

 

「まず間違いないと思っていたが……やはりお前たちが犯人のようだな」

 モモンが音もなく剣を構える。

 

「そうだと言ったらどうするつもりだ?」

「大人しく返せばよし。その場合は命までは取らん。だが、敵対するというのであれば……」

 モモンはビシッ! と剣を突きつける。

 

「この剣によって討ち滅ぼす! 好きな方を選べ!」

(ふふ。決まりましたね)

 パンドラズ・アクターは満足感を覚える。

 

(やれやれ、パンドラズ・アクターの奴……大げさすぎるんだよなあ。カッコつけすぎ……)

 様子を見ていたアインズは精神が安定化する気配を覚えた。

 

 

「くっ……やれっ! 殺せっ!!」

「ハッ!」

 カジットの命に男たちが応える。

 

 それと同時に、ビシュッ! ビシュッ! シュン! と音がして、カジットを除くローブの男たち全員に矢が突き刺さった。

 

「うがっ…」

「そぎゃっ!」

「だぎゃ!」

 ばたばたと倒れ絶命するローブの男たちにカジットは唖然とするしかない。

 

「な、なんだ……いったい!?」

 カジットはきょろきょろと辺りを見まわし、自分の後方……霊廟の上で弓を構える緑のフードの男に気が付いた。

 

「カジット・デイル・バダンテール!! お前は街を(けが)した!!」

 アインズはアローの決め台詞を決め、矢を放つ。

 

「な、なんで私の名前をそこまで……」

 カジットは喘ぎながらも身をよじり、意外に俊敏な動きで矢を躱す。

「……ほう。まさか避けるとはな」

 全力で放った一撃ではなかったが、それでも魔法詠唱者と思われる人物に避けられたのは意外だった。

 

(実は……妖怪”ぬらりひょん”…… なわけないな)

 アインズは心の中で首を振りつつ、弓を引き絞る。

 

「フンッ!」

 追撃で矢を2連射。

 

「ぬっ!」

 一射目は後ろに飛び退いて躱したカジットであったが、2射目は躱せない。

「くっ! いでよ!!」

 ぎりぎりのところで白い物体が矢を防ぐ。

 

「くくくくくっ! 貴様らに邪魔はさせんぞ」。

 カジットは不気味な笑みを浮かべる。その表情はやはり妖怪じみていた。

 

「グオオオオオオオオッ!」

 先程矢を防いだ白い物体が咆哮する。その正体は、カジットが召喚したモンスターだった。3メートル以上はあろうかという人骨の集合体で、先程城門に現れた集合する死体の巨人(ネクロスオーム・ジャイアント)とは違い、翼の生えたドラゴンの形をしている。

 

これは骨の竜(スケリトル・ドラゴン)と呼ばれるアンデッドである。

 

 

「ふっ……これがお前の切り札か。舐められたものだな」

 アインズは嘲笑する。このモンスターは”ナーベ”なら苦戦する特性を持っているが、アローの姿であるアインズ、そしてモモンを演じているパンドラズ・アクターの敵ではない。

 

「……ふん。強がりか? まあ、よい」

 カジットはニタリと笑いながら、手に持った黒い物体を掲げる。

 

「グオオオオオオオオッ!」

 今度は上空から咆哮とともに骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が下りてくる。

 

 

「任せておけ!」

 疾風のように駆けぬけ、モモンはグレートソードを一閃。

 

ドガアアアアアッ!!

 

大きな音と共に骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が崩れ落ちる。

 

「なっ、なんだとっ!! いかん! させん、させんぞ!〈負の光線(レイ・オブ・ネガティブ・エナジー)〉」

 慌ててカジットは魔法を発動。カジットの手から放たれた黒い光が骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に注ぎ込まれダメージを回復させる。通常回復魔法ではアンデッドは回復できないのだが、闇属性魔法を注ぎ込むことでこうやって回復させることが可能となる。

 

「お主ら何者だ。その力……さてはミスリル級冒険者か? いや、オリハルコン? この都市にはいないと聞いていたが……」|

 カジットは警戒しながら素早く、〈盾強化(リーンフォース・アーマー)〉〈下級筋力増大(レッサー・ストレングス)〉〈盾壁(シールドウォール)〉といった魔法をかけ、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)2体を強化する。

 

 

「くくくくくっ……こんどは先程のようにはいかないぞ」

 

「……無駄なことだ。トオッ!」

 モモンは一気に距離を詰めてジャンプ。

「ぬんっ!!」

右のグレートソードを唐竹割りで振り下ろす。この一撃で、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)の体は頭部から左右に真っ二つに分かれる。

 

「ふんっ!!」

落下しながら、続けて左の剣で胴体を薙ぎ払って、今度は上下に真っ二つにしてみせる。あっという間にスケリトル・ドラゴンは大きく四つに分割される。

 

「せいやあああああっっ!」

着地と同時に左の剣を地面に突き立てると、モモンは両手持ちに変えて、大剣を右上段から袈裟斬りに叩き込み、下で剣を返して左斜めに切り上げ『Vの字』に切り裂いた。

 

「はああああああっ!」

剣を持たない左手を気合とともに突き出すと、骨の竜(スケリトル・ドラゴン)は崩れ落ちた。もはや回復させることはできないだろう。

ちなみに最後の攻撃は単なるポーズであり、実際はVの字に切り裂いた時に終わっている。

 

天空から振り下ろす一撃からはじまる怒涛の連続剣。骨の竜(スケリトル・ドラゴン)に抵抗の余地はなかった。

 

 

「なあ……ば、ばかなっ!! 骨の竜(スケリトル・ドラゴン)が一瞬でだとおお?」 

 カジットは口をあんぐりと開け、さっきまで骨の竜(スケリトル・ドラゴン)のいた何もない空間を見つめる。

 

「……ざっとこんなものだ」

 

 二本のグレートソードを血振り――血はついていないので、骨片がパラパラと舞う程度であったが――して、モモンは背中の鞘に剣を収めた。

 

 

 

 

 


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