―黒と緑の物語― ~OVER LORD&ARROW~   作:NEW WINDのN

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シーズン1第11話『運命の分かれ道』

 薬草採集を終え、森の賢王改めハムスケを配下としたアインズ達は、カルネ村に戻ると、ンフィーレアの友人であり想い人――残念ながら当の本人はその想いにはまったく気づいていないようだが――エンリ・エモットの質素ながらも心を込めた料理を堪能する。

 

「うまいっ! 今までこんなに美味い料理食べたことないですよ。エンリさん、素晴らしいです」

 

 アイテムの力でアローに変身しているアインズは、食事をとることもできる。出されたものは開拓村のありきたりな家庭料理ではあったが、アインズ……いや鈴木悟が過ごしていたリアルでは、食事はただ栄養分をとるだけのものであり、食事を楽しむという行為ができるのは、ごく一部の富裕層にすぎなかった。

 よって、アインズは皆で食卓を囲むという経験がほとんどなく、家庭料理という気持ちのこもった暖かいものを食べた記憶がほとんどないのだ。

 

「よかったー。気に入っていただけて。どんどん食べてくださいね♪」

「どんどん食べてくださいね♪」

 妹のネム・エモットも姉の口調を真似てみせる。

「もう、ネムったら。真似するんじゃないの!」

「真似してないもん。ネムはアローさんに「どんどん食べてくださいね♪」って言っただけだもん!」

 どっと笑いが起こり、場が和やかな雰囲気になる。

「……ありがとう。じゃあ、おかわりいただいてもいいですかね?」

「もっちろん! どんどん食べてくださいね」

「食べてくださいね~」

 その言葉に甘え、なんとアインズは煮込み料理を3度おかわりしてみせた。

(本当に美味いな。いや~アンデッドのままだと食事できないからなあ。このアイテム取っておいてよかったよ。まあ飲食不要にもメリットはあるんだけどな)

 アインズはアイテム”緑の矢(グリーン・アロー)”に感謝する。

 

(アローさん、美味しそうに食べてくれるなあ。なんだか、すっごく嬉しいな♪)

 エンリは自分の作った料理、それもありふれた田舎料理を褒め、――いや、単に褒めるだけではなく、絶賛したうえで――本当に美味しそうに食べてくれるフードの冒険者に好感を覚えた。アローと名乗った冒険者は常に緑のフードをかぶり、その目元をアイマスクで覆っている為、顔をすべてみることはできない。

 

(どんなお顔なんだろう。見える部分からすると、かなりの男前な方だと思うけどな。たしか目元に傷があるから隠しているって言っていたけど……最近はお顔を隠されている方とご縁があるなあ)

 エンリは自分を助けてくれた偉大な魔法詠唱者アインズ・ウール・ゴウンの姿を思い浮かべた。アインズとアローが同一人物であるとは知る由もない。

 

 

 

 

◆◆◆ ◆◆◆

 

 

 

 

 一行は夜明けとともにエ・ランテルへ向かって村を出る。

「エンリ~また来るからねー」

「またね~。ンフィ! アローさんたちも気をつけて! ンフィーをよろしくお願いします!」

 見送る金髪の少女エンリの傍らには彼女が召喚した精強な小鬼(ゴブリン)が数匹ガードについている。アローことアインズと、モモンは手をあげることでその言葉に応えた。

 

 

『ルプスレギナよ、聞こえるか?』

『はい。アインズ様』

 アインズは〈伝言(メッセージ)〉を起動し、この村の守りを任せている戦闘メイド(プレアデス)の一人ルプスレギナ・ベータを呼び出す。

 

『エンリ・エモットはナザリックにとって重要人物だ。しっかりと監視し、命の危険から守れ』

『かしこまりました。アインズ様。このルプスレギナに任せるっすよ。エンちゃんのおはようからおやすみまでしっかり見守るっす。もちろん入浴とかもバッチシ。キシシシ』

 アインズはありえないはずの頭痛を感じる。

(たしかに人当たりは悪くないが、人間をなんだと思っているのだ? コイツは)

 

『ルプスレギナよ。お前は人間をどう思っている?』

『面白いオモチャっす! 親切にしておいて、最後に裏切るとか最高っすね!』

 ルプスレギナは屈託のない笑顔をしていそうな声である。

(誰だこういう設定にしたのっ!! うーん、思い出せない。メイド服はホワイトブリムさんのデザインなんだけどな。思い出せないから文句がいえないっ!!) 

 

『……危害を加えるなよ。それとハムスケ、森の賢王を連れていく。ハムスケの代わりにデス・ナイトを配置する。ルプスレギナよ、ともにモンスターから村を守れ』

『かしこまりました。おまかせを。アインズ様も道中お気をつけてっす!』

 アインズはまともな設定のシモベを探しておこうと心の中のメモ帳に書き込む。ただ、元々が異形種のみのギルドである。そう簡単に見つかるとは思えなかった。

 

 

 アインズ達一行は、道中モンスターに襲われることもなく、天候にも恵まれる順調な旅を終え、無事に城塞都市エ・ランテルに帰り着くことができた。

 途中起きたことと言えば、巨大な魔獣……森の賢王あらためハムスケにまたがる漆黒の戦士モモンの姿に驚いて腰が抜け、尻餅をつく者などが多発したことくらいだろうか……。

 

 

「うおおお、なんて立派な魔獣なんだ」

「あれで(カッパー)のプレートとか嘘だろう?」

 城門をくぐる際に、多少時間がかかったが、そこは都市の有名人であるンフィーレアの顔で通過することができた。

 アローの姿に変身しているアインズは人目のないところではハムスケに騎乗していたが、現在はパンドラズ・アクターが担当する戦士モモンにその役を任せている。

 

「アローが乗るべきでは」

「このチームのリーダーは戦士モモンとなっているのだから、モモンが騎乗すべきだ」

 モモンとナーベの主張を、アインズはもっともらしいことを言って退けた。

 どちらにせよ、アローおよびモモンの名声が高まれば十分であるし、実際はともかく、名目上のチームリーダーは戦士モモンだ。リーダーが乗ることは自然なことと言える。まあ、実際は恥ずかしかっただけなのだが。

 

 

「アローさん、モモンさん。道中ありがとうございました」

 都市に入ってすぐ、ンフィーレアがお礼を言ってくる。バレアレ薬品店とアインズ達が向かう冒険者組合は方向が違うため、ここで依頼完了となるのだ。

「こちらこそ。またよろしくお願いします」

 アローとモモンが頭を下げるのをみて、ナーベも合わせて頭を下げる。

(ナーベの奴、急に出来るようになったな。ようやく慣れてきたのか?)

 アインズは知らない。裏でパンドラズ・アクターが貢献していることを。

「たしか魔獣の登録でしたよね。冒険者組合で受け付けてくれると聞いています」

 

「モモンさん、魔獣の登録は、”絵を自分で描く”または”組合の紹介で魔法を使って登録してもらう”の二つの方法があるって話だよ。ちなみに魔法を使う場合は有料だそうだけどね」

 ”チュートリアル担当”と勝手にアインズが命名した、赤毛の先輩女冒険者ブリタが、最後のレクチャーをしてくれた。なお彼女は(カッパー)プレートであるモモン達3人の1ランク上、(アイアン)クラスのプレートの持ち主である。

 

「……ありがとうございます。ブリタさん」

「ブリタでいいよ。モモンさん達3人は確かに(カッパー)のプレートだけど、その実力はいやってほど見せてもらったもん。この都市にはミスリルのチームがいくつかあるけど、実力はモモンさんたちの方が上って気がするよ。きっとアンタ達のような人たちがアダマンタイトとかになっていくんだろうな」

「ブリタさん……」

 モモンが無駄に重々しく応える。

「だからブリタでいいってば! 本当にいい人たちだね。今回一緒に冒険させてもらって嬉しかったよ。どんどん階級上げて行ってよ。私はあの人たちと一緒に冒険したんだって、自慢してやるつもりだからさっ!」

「また一緒に冒険できるさ、ブリタ」

 アインズはそう答えておく。「まあ、もうないとは思うがな」と内心思ってはいるが。

「ああ。また機会があったよろしくね!」 

「アローさん達にも追加報酬をお支払いたしますので、後で取りにきてくださいね」

 森の賢王改めハムスケを配下にしたことで、今までよりもずっと奥まで入ることができ、より貴重な薬草を採取できた為、ンフィーレアは追加報酬を約束していた。

「……私は先にバレアレ薬品店に行って、荷卸しでも手伝うよ。今回はほとんどアンタ達にまかせちゃったからさ。また後で会おうね」   

「……ああ、後でな」

「では、後程。お待ちしています」

 

 

 ンフィーレア達の姿が見えなくなるまで、アインズ達は見送り、姿が見えなくなると同時に音が漏れないように防護を張る。

 

 

「さて、パンドラズ・アクターよ。ハムスケの魔獣登録の方は、お前に任せるぞ。ナーベラルもパンドラとともに行け」

「かしこまりました。アインズ様!」

「かしこまりました」

 二人は軽く頭を下げる。

「登録は魔法でなさいますか?」

 パンドラズ・アクターの質問にアインズはちょっとだけ考えてから答える。

「いや、”絵画に興味がある”とでも言って絵を描く方にしておこう。まだ我々は(カッパー)プレート冒険者だからな」

「かしこまりました。無駄な経費を削減することは大事ですからな」

「……アインズ様はどうなさるのでしょうか?」

 ナーベラルは疑問に思ったことを聞く。 

「……別件で動く。まあ、父兄参観のようなものだな」

「フケイサンカン? 何かの魔法でしょうか?」

「まあ、ある意味魔法だな。あの時だけは空気が魔法にかかったようになるからな。いつもは手をあげない癖にそういう時だけは、手をあげたりとか……」

 アインズは昔の記憶を思い出し、懐かしい気持ちになる。

「は、はあ?」

 当然ナーベラルにはわかってもらえなかった。

「はは。まあ、気にするな。ではまた後で会おう。何かあったら〈伝言(メッセージ)〉を使え」

「かしこまりました」

 そのままアインズは人のいない路地へと姿を消した。

 

 

「パンドラズ・アクター様は、今のお言葉の意味がおわかりに?」

「……多分ですが、これは他のメンバーの任務の様子を見に行くということでしょうね」

「……なるほど! そういうことですか」

「ええ。アインズ様がその場に居られれば、空気は変わります。まるで魔法にかかったようにね」

 実際パンドラズ・アクターとナーベラルは先程と同じ場所にいるのに、アインズの姿が消えただけで、まるで別の場所にいるかのように感じていた。

 

「早くいくでござるよー」

 ハムスケが早く身分を得たいが為に催促する。

「……行きましょうか」

「早く乗るでござるよ。殿」

 パンドラズ・アクターは、片手をハムスケの背中に置くとヒラリと赤いマントを靡かせて、無駄に大きな動きで飛び乗った。

「おお~~格好いい~~!」

「すげー魔獣だ!」 

 ハムスケに騎乗したモモンを見た住人達が、口々に感嘆の声を上げる。ハムスケを褒める声がするたびにハムスケがピクンと反応する。

 

(まあ、ずっと一人でいたのでしょうから、大勢の人からの反応はうれしいのでしょう。気持ちはわかりますよ)

 パンドラズ・アクターもずっと宝物殿に一人でいた。たまにアインズが来ることがある程度でしかない。だからこそハムスケの気持ちがわかる部分がある。

 

(私も役者ですから、どうせなら大勢の前で活躍したいものです)

 今回の冒険の観客はブリタとンフィーレアの二人だけだった。

 

 

 パンドラズ・アクターは願う、多数の観客の前で演じることを。

 

 

 


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