デート・ア・リリカルなのは   作:コロ助なり~

96 / 118
ボス戦は皆でやれば楽勝です!

ボス戦は皆でやれば楽勝です!

 

Side空

 

俺の初フルダイブ体験から一週間もすれば、茅場さんが新しいナーヴギアを持ってきた。いつまでも四人だけでは出来ない人が多くてデータ収集も効率が悪く、見ているだけでは可哀そうだと思ったから増やしたのだそうだ。

 

「今日はボスと戦うの?」

 

「うむ、その通りだ」

 

「肯定。普通の敵では飽きてきましたからね。そろそろ大型モンスターを倒したいと耶具矢と話していました」

 

「そっか、頑張れ」

 

「何を言っているのだ? 空もやるんだぞ」

 

「俺も!?」

 

聞いてないよそんなこと! 

 

俺としては修行する気だったのだが、精霊達やなのは達が一緒にやりたそうにしているのではゲームをやらざるを得ないだろう。

 

「……わかった、俺もボス戦やるよ」

 

「ありがとうございます……ッ!」

 

『おおー、流石空君ー。話が分かるー』

 

参加するメンバーを決め、正午丁度からゲームをスタートした。

最初は噴水広場に集合。そこからボスのいる“迷宮区”という場所に向かい、ボスと対峙。その時は相手の行動パターンを観察するのが目的だが、あわよくば一回で仕留める気でもいるらしい。

 

「全員揃ったようだな」

 

リーダーである耶具矢が今回参加のメンバーを確認した。

今日のメンバーは耶具矢、夕弦、十香、明日奈、愛衣、ユーリ、雄人、俺の計八人だ。

そこで気が付いたことがあった。皆の格好を見たら、現実世界で使っている霊装やバリアジャケットとデザインが似通っていた。茅場さんにデザインの提供をしたことで仮想世界の装備として出せたのだ。

その点、俺は皆からもらった装備品だ。黒いブーツ、黒いズボン、黒いシャツ、フードの付いた黒いコート。そして黒い大鎌。全身黒づくめだ。ちょっとしたオシャレとしてはシルバーアクセサリーがコートについている。

何度かプレイしている皆と違って俺は今回が二度目になるので、装備に差があるのは当然のことだ。

 

「問題なさそうだな! では、準備運動も兼ねて迷宮区に行くぞ!」

 

全員が頷くとぞろぞろと街の外に歩き出した。

 

なーんか、遠足みたいだなぁ……。

 

等と考えながらも皆と和気あいあいとしながら、戦闘はきびきびとこなしていった。

ステータスが個人によって差があって連携に不安もあったが、普段からの修行のおかげで多少の誤差は簡単に修正され、その後は問題なくとれていた。

 

「―――ところで、さっきから戦いの最中に皆の武器が光ってるけど、何それ?」

 

ふと疑問に思ったことを口にしたら皆がギョッとした。その反応に俺も思わずギョッとしてしまった。

 

「今までそれなしで戦ってきたのか?」

 

「うん」

 

即答すると、皆が頭を抱えていた。ナーヴギアに問題でも出たかのかと思ったがそうじゃないらしい。

 

「まあ、まだ一度しか空はやっていないのだから仕方ないことだな。武器が光るのはソードスキルと言われるものだぞ。必殺技……ではないが特技と言ったところだろうな」

 

武器スキルを習得したプレイヤーが所定の準備動作を行うことによって発動し、発動したあとは体が勝手に動いて攻撃動作を行う。その速度および威力は、普通に武器を振るったときのものを上回るのだそうだ。ライトエフェクトやサウンドエフェクトはソードスキル発動によるものだ。

現在はゲーム自体が未完成のため体を自分で動かさなければならないが、完成すればあとはシステムが体を操縦してくれるため、自分では何もしなくても一連の動作を終わりまで行うことができるようになる予定らしい。

 

「ソードスキルの完成も私達の動きが参考になるらしいぞ」

 

「…………」

 

「む? どうしたのだ、空?」

 

「……十香が解説……だと……?」

 

これにはビックリ仰天。世間知らずだと思っていた十香が茅場さんの説明を受けて理解したということだ。四年間もあれば常識くらい覚えるのは驚くべきことでもないかもしれないが、やはり十香が理解していることに驚きを隠せない。

すぐあとで、あまりに俺に驚かれ過ぎて心外だと言わんばかりに右ストレートが飛んできた。

 

 

 

 

 

「こんな感じかな? ―――せいっ」

 

説明を聞き終えたら早速試しにそこらへんで出てきた敵にソードスキルを使ってみることにした。

特定の構えを取って蒼いライトエフェクトが黒鎌に発生すると、それをそのまま敵目掛けて振り抜く。敵の三割以上あったHPゲージを一気に減らし、敵はポリゴンとなって消えた。

通常の攻撃よりも早く、威力が高いというのも説明通りだ。

しかし、便利な分デメリットも存在していた。ソードスキルを使った直後は体が硬直するようだ。俺達も現実世界では技を使ったあとは大なり小なり隙が生じる。茅場さんはそれを考えて現実同様に忠実に再現しているのかもしれない。

 

「硬直で狙われるのを防ぐために“スイッチ”というのがあるのよ」

 

俺の様子に気が付いた愛衣がスイッチを教えてくれた。

ソードスキル後の硬直で回避も回復も出来ない。しかも敵からのヘイトも集まり、攻撃され放題だ。そこでスイッチが登場する。

他の人が敵からのヘイトを集めることで硬直した人が動けるようになるまでの時間を稼ぐということだ。

ただ、このシステムはパーティーを組むことで出来る行動であり、ソロプレイの場合はソードスキルの使用には気を付けなければならないだろう。

 

「空のソードスキルは問題なさそうだし、アイテムも大量。このままボスまで行っちゃう?」

 

「賛成。このまま行っちゃいましょう」

 

耶具矢の意見に反対するものはおらず、ボスのいる部屋まで一気に進むことになった。

 

「あそこに誰かいるね」

 

ボス部屋へと続くかなり大きめの頑丈そうな扉の前に一人の男性が立っていた。

銀髪の長髪を一つにまとめ、赤いコートに身を包んだ男性は俺達に気が付くと、少しだけ口角を上げながら手を振っていた。

 

「待っていたよ」

 

プレイヤーの名前は“ヒースクリフ”。誰も心当たりがないので男性にどう対応したらいいのか困っていた。

 

「……ああ、すまない。私だ。茅場晶彦だ」

 

「どうしてここに? データの収集は良いんですか?」

 

「データ収集は鞠亜君に任せている。君達がこれからボスに挑むのを見に来たんだ。目の前で見た方がリアルで面白いからね」

 

茅場さんは戦闘には参加せず、ただの観戦者としてボス部屋に入るということだ。茅場さんには一切ヘイトは集まらないし、また茅場さんから攻撃も不可能。俺達としては特に気にするようなことでもないので、ボス部屋に一緒に入った。

ボス部屋に入ると、敵がポップした。

赤い巨体で鎧とバックラー、斧を装備したイルファング・ザ・コボルド・ロード。

そいつが咆哮を上げると周囲にルイン・コボルド・センチネルという取り巻きが三体ポップした。

さしずめ、親玉と舎弟と言ったところだ。

 

「作戦は?」

 

「取り巻き一体につき一人! 残りはボス!」

 

「詳細。雄人、愛衣、明日奈で取り巻きをお願いします」

 

『了解!』

 

耶具矢と夕弦の作戦に返事を返してボスに突っ込んでいく。

当然、ボスに行くまでの間に三体の取り巻きが俺達を狙ってくる。だが、速度は緩めない。

 

「やらせない!」

 

明日奈が俺に襲い掛かって来たコボルドの一体を細剣のソードスキル―――リニアーで突き飛ばした。

 

「ありがと、明日奈」

 

「現実じゃ守られてばかりだけど、ゲームの中では背中は任せてっ」

 

頼もしい限りだ。

明日奈の方には振り返らず、軽く手を振って武器を構える。

十香、耶具矢、夕弦、ユーリもほぼ同時にボスに辿り着き、十香から先制攻撃を仕掛けた。

鏖殺公(サンダルフォン)〉に似た両手剣を豪快に振り回し、太もも辺りを切り裂いてダメージを与えた。通常の敵を違ってHPゲージが多いボスにとっては微々たるダメージでしかない。それを示すかのようにボスは嗤っていた。

 

「俺達も!」

 

俺の掛け声に呼応して、他の三人も攻撃を開始する。

最初に攻撃した十香にヘイトが集まっている状態だが、俺が攻撃したことで俺の方にボスは振り向いた。

振り下ろされた片手斧を黒鎌を使っていなす。

 

見た目に反して攻撃が速い……!

 

続いて横から水平に薙いできた。しゃがみこんで頭擦れ擦れだったがなんとか回避成功。

そこからすぐに起き上がりながら武器を下から打ち上げる。

怯んだボスの懐ががら空きになったところをすかさず十香達がソードスキルを叩き込んでゆく。

 

今のでようやく一本目のゲージの一割に行くか行かないか、か……。クリアするには時間が掛かりそうだ。

 

怯みから立ち直ったボスのヘイトがソードスキルを使った影響で硬直状態のユーリへと集まる。

その隙に俺に背中を向けたボスの鎧のない部分を容赦なく切り裂く。

たった一度の攻撃では先程の武器を打ち上げた時のように動きが止まることはない。そして、ユーリから俺へとヘイトが集まり、片手斧が俺を吹き飛ばした。

 

「ぐッ……!」

 

『空ッ!』

 

咄嗟に大鎌でガードしたものの、与えられたダメージは俺のHPゲージの三割を超えていた。

 

そういや、武器とか防具って耐久値があるんだっけ? 今ので結構削れてそう……。

 

ボス戦の途中で武器が無くなるのは避けたい。代わりの武器はあるにはあるのだが、大鎌は七罪に貰ったこの一本のみ。

 

「空はポーション使って回復! 夕弦、時間を稼ぐんだし!」

 

「守護。耶具矢に言われなくても空は守ります。てやー」

 

タンク役の大盾を持った夕弦が俺とボスの間に入り、防御の構えを取った。ボスの攻撃を悉く防いでいた。

夕弦が守ってくれている間、懐から赤い液体の入った小瓶を取り出し、蓋を開けて一気に飲み干す。

このポーションで面倒なことはHPが一気にではなく、徐々に回復するのだ。それまでは大人しく下がっているしかない。

聞いた情報では高価な結晶アイテムは一気に回復できるんだとか。とっても欲しい。

 

……ないもの強請りしても仕方ないけどね。

 

「空ばかり見ていては足元をすくわれますよ、猪さん!」

 

短剣を持つユーリが脚、腕、腹とボスの体のあちこちに傷をつけていく。

短剣は攻撃力が低いが速さが売りだ。つまり、ヒット&ウェイを繰り返すことで地道にダメージを蓄積させていく。ボスに攻撃されそうになってもユーリは距離を十分な取って攻撃範囲からはすでに逃れているのだ。

 

『グオオオオオオオオオオッ!』

 

当てられないことにイライラが募っているかのように喧しい咆哮を上げる。

 

「攻撃が当たらなくてイライラしますよね。ええ、ええ。私にもすごくわかります。どっかの(スーパー)天龍さんに一度も攻撃当てられませんでしたからね。ホントにウザったいったらないです。ですので、あなたには私のイライラを味わってもらいます!」

 

ど、どっかの超天龍さん? だ、誰のことかなー? 知らないなー。

 

八つ当たりが出来る相手が見つかって嬉しいあまりにノリに乗ったユーリから目線を逸らし、内心ですっとぼける。

かと言っていつまでも戦闘に戻らないわけにはいかないので、回復がある程度住んだら夕弦と一緒にボスへと駆け出す。それと同時にボスの足元に何かが転がって来た。取り巻きのコボルド達三体だ。

HPゲージがゼロになった三体はポリゴンとなって消えていった。

 

「こっち終わったから加勢するな!」

 

取り巻き担当三人がボスの戦闘に加わってくれた。

これにより戦闘がより一層順調に進み、時間が掛かったがボスのHPが最後のゲージの残り三割を切った。

そこで敵に変化が訪れた。

突然武器を捨てたかと思えば、どこからかタルワールを取り出した。さらに今回で三度目の咆哮を上げると、再びコボルドが三体現れた。

 

「一体、俺がやる!」

 

たまたま俺から近いコボルドが一体いたので引き受けた。

ステータスが通常のよりも高そうだが、いつも通りにやれば勝てるはずだ。

一歩踏み込んで距離を詰め、横から大鎌を薙ぎ払う。跳んで躱されるが、掌で刃の向きを返して左下からの逆袈裟で斬り上げる。

墜ちて地面に倒れているところをさらに攻撃。

武器を蹴り飛ばしたので攻撃手段は素手のみとなったコボルドは、俺に殴りかかって来た。

 

「その意気や良し! ……なーんてね」

 

いつの時代の人間だっての。

 

止めに首を刈り取って取り巻き一体との戦闘が終わった。

周りを見渡せば他の取り巻き達もほぼ同時に倒されていた。これで心置きなくボスの方に集中できる。

夕弦がボスのソードスキルを防ぎきった瞬間に駆け出し、その勢いに乗ったまま一振り。その場で横に一回転しながらさらにもう一振り。

硬直がなくなったボスが振り上げてきたところを大鎌をフックのように足に引っ掛けた。引っ張ると体重差でボスの方に引き寄せられるのを利用して持ち手を短くして距離を縮め、ボスの股下を前転して攻撃から逃れた。

俺に振り向いて追撃に入るボスの左右から四つのソードスキルが襲った。さらに背後から二つのソードスキルがリズムよくボスにダメージを与える。

 

「空君! 最後は一緒に!」

 

「ああ! 行くよ、明日奈!」

 

それぞれ違った特定の構えを取り、蒼と翡翠色のライトエフェクトが発生。

明日奈から繰り出される流星のような五連突き。俺から繰り出される死神の如く命を刈りとるかのような五連撃。今使える最大級のソードスキルをボスに叩き込んだ。

そして、決着が付いた。

 

《congratulation!》

 

ボスが倒されると、何もない空間にそう表示された。

勝ったことを知った俺達は一斉に脱力。

疲れて誰もが黙り込む中、拍手が部屋全体に響いた。

 

「クリアおめでとう。素晴らしい戦闘だった。伊達に現実で戦い慣れていないな」

 

茅場さんが満足顔で俺達を褒め称えてきた。

 

「君達ともっと話していたいがデータも十分収集できたことだ、整理をしないといけないから今日はここでお別れだ。では、また」

 

メニューを表示させた茅場さんがログアウトボタンを押して、ボス部屋から現実世界へと戻っていった。

 

「勝ったね」

 

「うん、勝ったね」

 

隣にいる明日奈とハイタッチを交わす―――

 

「カッコ良かったわ、空君」

 

ことはなかった。愛衣が俺に抱き着いてきたことで阻まれたのだ。

 

「うわっ、愛衣! う、うん、ありがと。愛衣もかなり良い動きしていた。って男に触って大丈夫なの?」

 

「不思議とこのゲームの世界でなら大丈夫みたい。本当の体じゃないからかしらね」

 

もしかするとこの世界をきっかけに愛衣の男性恐怖症は変えられるかもしれない。

茅場さんに心の中で感謝していると、システム上有り得ないのだが、黒いオーラを噴き出す明日奈が俯いていたのが視界に入った。

 

「あ、明日奈? どうかしたの?」

 

恐る恐る尋ねるとキッと擬音が付きそうな勢いで睨みつけてきた。

 

「え、ちょ、なんでソードスキルの構え?」

 

さらにはソードスキルを使おうとしているのか武器を構えていた。

これは嫌な予感しかしない。

 

「空君のバカーッ!」

 

明日奈が怒っている理由は一切わからないまま、ボスが一撃で倒せるんじゃないかと思うようなリニアーを喰らったのだった。

 

 

 

 

 

 

 








明日奈が怒った理由。
折角二人でボスに止めを刺したのに、愛衣に邪魔されてハイタッチが出来なかったのと、二人で会話していてガン無視されたから。
要するに嫉妬。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。