無限と夢幻です!
Side遥
ヴァーリとの戦いを終えてすぐのことだった。
「お前、何者?」
黒いワンピースを着て、腰まである黒い髪の少女が先程まで戦っていた場所に現れた。
あー、この子は確か……。
頭から足の先まで見る必要もなく相手が誰だかを理解した。
『
ハイスクールD×Dの世界では『
原作だとグレートレッドを倒すために
「桜木遥。それ以下でもそれ以上でもないただの人間」
「嘘。お前、我と同じドラゴン。……だけど、どこか違う。何故?」
人間が嘘だと一瞬でバレていた。しかも同じドラゴンであることまで。
「アハハ、バレバレか。うん、俺はドラゴン。そんでもって……ちょっと訳あり」
「我より強い?」
「うーん、どうだろ? 無限と言われる存在に勝てるか? あー、でも多分負けないかな」
勝つことは出来ないが、多分負けることもないだろう。
「なら、我と共にグレートレッド倒す」
やっぱりそう来たか……。
「世界最強への挑戦も悪くない、かな。力になれるかはわからないけど行くだけ行ってみる」
「ん。我に付いてこい」
彼女が腕を軽く振るうと次元に裂け目が出来た。ここからグレートレッドのところにむかうようだ。
「今からこの子と一緒にグレートレッドに会いに行くから。じゃあね」
『コンビニ感覚か!』
皆のツッコミを受けながら、次元の裂け目に入り込んだ。
「ここが次元の狭間……」
見渡す限りどこもかしこも万華鏡の中を覗いているのような場所だ。足場はないがきちんと空気はある。
「それで、グレートレッドはどこに?」
「もうじき来る」
彼女が人差し指を向けた先から強大な力を感じた。あの向こうからグレートレッドがやってくるようだ。
「ところでさ、オーフィスはどうしてグレートレッドと戦ったの?」
「我は静寂が欲しい。その為にはグレートレッド、邪魔。だけど、負けて追い出された」
「そっか」
理由を聞いて内心呆れてしまった。
しばらくすれば、巨大な赤いドラゴンが俺達二人の前に現れた。そのドラゴンこそがグレートレッドだ。
すっげー威圧感……!
俺達二人を視界に収めたドラゴンは動きを止めた。
「グレートレッド、久しい」
『……ああ、久しいな。また戦いに来たのか?』
「今回はこいつと共に倒す」
『いいだろう。どんな力が来ようとも無駄だということを思い知らせてやる』
オーフィスとグレートレッドがドラゴンのオーラを体中から溢れ出していた。
この二体が人間界や冥界にいたらあっという間に吹き飛びそうだ。
「あー、待って待って。戦うのは良いんだけど、その前にお話しさせてくれるか?』
「何故?」
「お前らは仲良く一緒に過ごすって出来ないのか? 見た感じ、オーフィスがこの空間を独り占めにしたいようにしか思えないんだけど、グレートレッドもこの空間を独り占めしたいわけ?」
『そんなことはない。そいつの方は最初から私のことを追い出し、独り占めする気のようだがな』
こう言うのはアレなのだが言わせてもらおう。
「お前ら最強のくせに随分くだらないよな」
『!?』
二体の目が見開かれた。
「こんな何もない場所にいて何が楽しいのか、俺にはさっぱりだね。お前らはもっと世界を知るべきだろ」
『ふん、人間、悪魔、天使、堕天使、神がいる世界などつまらん』
「我も同じ。ここが一番」
「じゃあ、お前らは世界の全部を知ってるのか? 遊びつくしたのか? 青春したのか?」
ドラゴンに青春ってどうなんだろうと言ってって思った。だが、
『…………』
二人は黙っていた。
「世界は楽しい事や面白い事で溢れてるんだぜ。だったら知っとかないと損だろ?」
『楽しい事……』
「面白い事……」
もう一押しかな?
「たまにでいいから俺の家に来なよ。美味しい飯作ってやる。温かい風呂に入れてやる。その他にも知らないことをたくさん教えてやる」
『…………』
「てか、そもそもこんな広い場所なんだから独り占めはダメだろ。誰のものでもないんだから子供みたいに意地張ってないで仲良く使えばいいだけじゃないか」
何がい時間を生きてきたこいつらは楽しむことを知らないだけだ。
戦う気分じゃないな。
「……なんか説教してるみたいでごめんな。とりあえず戦いはいいや。俺は帰る。気が向いたらいつでもいいからな」
先程のオーフィスの真似をして元の場所に戻った。
「ただいま」
「戻ったか。で、お前さんはグレートレッドと戦ったのか?」
アザゼルさんの質問に首を横に振った。
「会いましたけど、戦ってません」
「だろうな。無傷で勝てるような相手じゃねぇからな」
俺の様子を見てアザゼルさんは判断していたようだ。
あのサイズと実際に戦うとなると、俺も姿変えないといけなくなるだろう。
「さーてと、今日はもう帰るか。美桜達が…………ってここ異世界だったか。どうしよ?」
グレートレッドやオーフィスに家に来いって言ったが、自分の家に帰ることが出来そうにない。
「それなら龍神空が住む家に来ない?」
帰る場所のない俺に凛祢が手を差し伸べてくれた。
「あー、そっかそっか。未来の俺が住んでる家かぁ……。じゃあ、しばらく厄介になる」
周りの人達からすれば龍神空の家に泊まることに決まった。
いつ元に戻れるかはわからないが、これで寝るところには困らなくなった。
龍神空の使い魔であるティアマットことティアの転移魔法で冥界から人間界に戻った。
「―――――というわけで、しばらくここにいさせてもらうから。よろしく」
龍神家に着いてから、この家に住む人達に挨拶をした。
事情を説明したら予想するまでもなく全員が驚きの声を上げた。俺は俺でこの家に住む顔ぶれに驚いていたが。
精霊達がほぼ全員いるのか……。それに「魔法少女リリカルなのは」だったけ……?
俺は原作を詳しくは知らないが、その中の何人かはこの場にいないはずだったと思う。
この世界は俺の知ってる者と違って色々混ざって変になってるみたいだし、そういう結末になったか元からそうだった、ということなのだろう。
「あの……空さんには戻れないんでしょうか……?」
「時間が経てば自然と戻るってさ」
「あんた曲がりなりにも神様なんでしょ? どうにかならないわけ?」
うわー、結構痛いこと言われたなぁ……。
言ってきた琴里だけでなく、周りにいた少女達も同じような視線を向けていた。
「姿を変えるくらいなら出来るけど結局中身は俺だし、この姿はある意味正常だから能力で打ち消すことも出来ない。……うん、完全にお手上げ状態だ。アハハ、悪いな」
ゼウスとか他の神なら出来るかもしれないけど、残念なことに俺はそういうのは得意じゃない。
「ま、気楽に気長に頼むよ」
「はぁ……わかったわ。…………今度アザゼルに会ったら【
諦め交じりの長い溜息を吐いた琴里はリビングを出てどこかへ行ってしまった。
「そろそろ晩御飯にしましょう」
「でも、母さん。空が……」
「そうなのよねぇ……」
プレシアさんとその娘のフェイトが困った様子だ。聞いたところ、この家の料理は基本的には空が作っているとのことだ。
「だったら俺が作らないわけにはいかないでしょ」
「遥は料理できるの!?」
「もちろん。これでも長生きしてるからな。料理くらいできるぞ」
「長生き……? それってどれくらい長いの?」
「一億と二千年くらいは越えてるな」
『絶対に嘘だ!』
全員から突っ込まれた。
「いやいやホントだって。むしろ数えるのが面倒でそれ以上生きてると思う」
俺は人間じゃなくてドラゴンだからそれくらい長生きしても可笑しくはないんじゃないか? まあ、そのドラゴンの中でもかなり異常な存在ではあるけど……。
「俺の年齢云々はともかく、料理は任せて。一時間もすれば完成するから」
「ほい、出来上がりっと」
大人数が使うための大きなテーブルの上にはたくさんの料理が並べられていた。
「全員揃ったわね。……あら? 椅子が多くないかしら?」
琴里がこの家の人数よりも多く椅子があることに気が付いた。
これは俺が用意した。
「食べるのはもうちょっと待ってて。もうじき来るから」
十香と美雷というフェイトにそっくりな子が我慢できないという顔をしながら訴えてきたが何とか抑えた。
「―――来た! 迎えに行ってくる」
思ったよりも早く来た人物を迎えに席を立ち、玄関に向かう。
「来てくれて嬉しいよ。流石に別れてすぐに来るとは思わなかったけど」
俺が待っていたのはグレートレッドとオーフィスだ。
料理を作っている最中に彼女達が来るのを感じた。
グレートレッドは先程のドラゴンの状態ではなく、真紅の長髪に金色の瞳、男性の誰もが見とれる体型をした女性の姿だ。
「ご飯食べに来た」
「私もだ。ついでに風呂とやらもな」
「うん、わかってる。準備は出来てるから上がって上がって」
二人を食堂に案内し、席に座らせる。
いきなりの来客に皆は「誰?」となっていたので、軽く紹介した。
「黒髪の女の子がオーフィス。紅い髪の女性がグレートレッド。今日は俺が誘ったんだ」
「ナンパしたの?」
「してないから!」
話を逸らすためにゴホンとわざとらしく咳ばらいをして食前の挨拶を促した。
するとこれも未来の俺がやっていたらしく、俺がやることになった。
「いただきます」
『いただきます』
グレートレッドとオーフィスも見様見真似で合掌していた。
それから使い慣れていない箸を使って料理を口に運ぶ。
『―――――!』
二人の目が大きく見開かれた。
「美味しいか?」
二人は咀嚼しながら頷き返した。どうやら伝説のドラゴンにも俺の料理は好評のようだ。
「お前の言う通り、私達は何も知らなかったのだな……」
「我、初めてこんなに美味しいもの食べた」
「だろ? さ、まだまだ美味しいものはたくさんあるから食べてみて」
二人の食べるペースは段々早くなっていき、あっという間に完食してしまった。
顔を見れば二人が満足していることは明らかだった。
「デザートにアイスもあるけど食べる?」
『食べる!』
伝説のドラゴンがたかがアイスに即座に反応する光景は誰が信じられるだろうか。アザゼルさんや魔王、他勢力の神々が見れば頬引き攣らせるか、顎を外すほどビックリすんじゃないかと想像してしまった。
「続いてお風呂だな。俺は一緒に入ることが出来ないから他の人と入ってくれ」
「なぜだ?」
「いや、そりゃ男女が一緒はダメだろ?」
「我、性別関係ない」
「私もだ」
「そういう問題じゃないんだよ!」
箱入り娘でも男女一緒はおかしいと気が付くレベルのことすらドラゴンたちは知らない。というよりも気にならないのかもしれない。
周りに目を向けるが、お前が連れてきたんだからお前が責任取れと言わんばかりの目をしていた。
そこは助けてくれてもいいんじゃないかな!?
「さあ、早く風呂とやらに連れていけ」
腕を摑まれて逃げられない。肩にはオーフィスが乗っかっていて意地でも離れない気だ。
観念した俺はお風呂場に連れていった。
彼女達が服を脱ぐのを見ないようにしながら俺も服を脱ぐ。
「服脱いだ。これからどうすればいい?」
二人の着替えが早いのは、服を魔力で作ったからだろう。
「せめてタオルくらいは巻いてくれよ?」
「お風呂でタオルを湯船に付けるのはマナー違反」
「む、そうなのか?」
グレートレッドとオーフィスは巻こうとしていたバスタオルを着替えを入れるかごに放ってしまった。
折紙ェ……!
余計なことをよくも言ってくれた折紙を睨むがすぐにどこかへ逃げた。
「ったく……まあ、いいや。そこで体を洗うんだ」
『?』
シャワーを指差すが、二人は首を傾げるだけだった。
こいつらは体を洗うことも知らんのか! ……もしかして、そこも俺がやらないといけないのか?
この場に頼れる人は誰も居ない。というか皆俺を見捨てたのだから助けなどあるはずがないのだ。
美桜達がいたならばこういう場面は必ず代わってくれるのだが、今いない人を求めても仕方がない。腹を決めて体を洗う見本を見せることにした。
そこから二人の洗うところを見るわけにはいかないので、湯船に先に浸かった。
しかし、オーフィスが髪を洗うことに手間取っていたことをグレートレッドから聞かされて、助けに行かざるを得なかった。
「泡が入らないように目瞑ってろよ」
「ん」
長い黒髪を丁寧に洗った。体を洗ったことが無いはずなのに触り心地が良かったのは、魔力で保っていたのだろう。今更ながらに魔力が便利過ぎると感じだ。
魔力の使い方は向こうと似たようなもんか……。
「ほい、終わり。湯船に浸かれ」
二人を湯船に浸からせ、彼女達を見ないように再び俺も湯船に浸かる。
「温かい」
「風呂というのは気持ちのいいものだな」
無表情のオーフィスの頬が緩んでいた。
「日本には温泉っていうのがあってな、お風呂よりももっと気持ちいいぞ」
温泉という単語に二人の目が輝いた気がした。
本当に何にも知らない二人に苦笑いするも、これは教え甲斐がありそうだ。
温泉以外にも二人が興味を示しそうなことを教え、風呂上りにはゲームをすることになった。
「―――こっちだ!」
「ざんねーん! そいつはジョーカーだよ!」
グレートレッドがアルフからカードを取るが、ハズレだ。
「これでアタシの勝ちだね!」
アルフが絵札を揃えてババ抜きが終わった。
「あっれ~? 世界最強とか不動って言われてるのにカードゲームじゃ、たかが9歳の子供やその使い魔に負けちゃうんだ~。しかも最初に絶対負けないとか宣言してたけど全敗してるよね~? ねぇねぇ、今どんな気持ち? どんな気持ち?」
『…………』
風呂上がりにトランプを教えたのだが、最強二人は見事に全敗。
自分でもうざったいと思う煽りに悔しそうにしているが、事実だけに何も言い返せないでいた。特にグレートレッドは開始前に「最強の私が負けるはずもない」と言っていたので余計に恥ずかしいはずだ。
「……悔しいか?」
煽りは止めてちょっとだけ真面目になる。
「これが“負ける”ってことだ。世界にはお前らが得意な力比べ以外にも勝敗を付ける方法はいくらでもある」
「私が知っているよりも世界は広いな。いや、私達が知らなさ過ぎただけか……」
「そういうこった。さあ、時間はまだまだある。お前ら“最強”を今日は“最弱”だってことをとことん教えてやる!」
トランプでババ抜き、ジジ抜き、七並べ、神経衰弱、ポーカー。他にはUNO、ボードゲームなどをやった。全員では出来ないので、皆で代わる代わる二人と遊んだのだった。
「ふぅ~、楽しかったぁ~」
皆から離れ、龍神家の屋上で風に当たっていた。
「俺の未来は
冷たい夜風が現実を思い出させる。
恐らく、俺が死ぬことはどうにもならない確定した未来だろう。仮にそうでなくとも、こんなにも幸せな未来が変わる選択はしたくない。ならば、このままがいい。
「俺が死ぬことは悪くないのか」
そして、美桜達と交わした約束を龍神空が叶えてくれるならそれがいい。
だが、問題は向こうの世界だ。無駄死にだけは笑えない。
「―――……でも、やっぱり死ぬのは嫌だなぁ……」
それは俺の口から漏れた、誰にも聞かれたくない弱音だった。