デート・ア・リリカルなのは   作:コロ助なり~

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魔法少女、育成します!

魔法少女、育成します!

 

Side空

 

「すごい寝癖だね」

 

「うるさい。ほら、ちゃっちゃといつもの髪にして」

 

鏡の前に立ってフランの髪を櫛で梳き、慣れない手つきでサイドテールの髪型にしていく。

フランから聞いた話ではフランはお嬢様なのだそうだ。髪の手入れもメイドの人に任せっきりで自分ではできないと何故か威張って言っていた。

 

「よし、出来た。こんなんでいいでしょ?」

 

「まあまあね」

 

「それはどうも。さ、朝ご飯食べよう」

 

及第点をお嬢様からもらい、食堂に向かった。

 

 

 

 

 

「そう言えば、いつから空はフランドールのことをフランって呼ぶようになったのだ?」

 

フランに加えて一夏さん達と共にご飯を食べていると、箒さんから尋ねられた。

 

「あ、確かにな。昨日のラジオ放送でもフランって呼んでたもんな」

 

皆も思い出したかのように気になりだしていた。

 

「別に大したことじゃないです」

 

簡単に説明すると、フランが学園に来た翌日にはフランとの約束通り遊び相手になった。―――弾幕ごっこという命がけの遊びにだ。

破壊する程度の能力は使わないルールだから大丈夫だろうと思っていたが、そんなことは全くなかった。

全力を出さなければ多分死んでいたからもしれないというほどフランは強い相手だったのだ。

ちなみに誰も弾幕ごっこに気が付かなかったのは結界を張ってあったからだ。かといって英霊達が気が付かないわけもないので、観戦しているのも何人かいた。

そして、アイリ先生の指示によってフランと一緒に部屋を借りることになったことも相まって、「フランドールじゃ一々長いから“フラン”と呼びなさい」と言われた。

 

うーん、友達になってくれた……でいいのかな?

 

本人に直接言われたわけじゃないから何とも言えないが、そうだと思いたい。

その後もラジオ放送の感想を聞きながら食事を進めていった。

 

「ねえ、あなた達が異世界から来た子……でいいんだよね?」

 

食事が食べ終わる直前に一人の女子に話しかけられた。

どうやら、俺達が異世界から来たことは初対面の人ですら知っている程にこの学園中に知れ渡っているみたいだ。

 

「はい、そうですよ」

 

金色の瞳にピンク色のショートカットの少女だ。

 

何か用だろ? それよりもIS学園とは別の制服を着ているのはどうしてかな?

 

「私はスノーホワイトって言うんだ」

 

「龍神空です」

 

「フランドール・スカーレットよ」

 

スノーホワイトって偽名……かな?

 

人に付けるような名前じゃないと思う。まるでゲームやアニメのキャラでありそうな名前だ。

というか童話のヒロインの名前じゃなかっただろうか?

これで本名だったら彼女に謝らないといけなくなるけど聞いてみることにした。

 

「スノーホワイトってお名前は本名なんですか?」

 

「ううん、ホントの名前は姫河小雪(ひめかわこゆき)だよ」

 

「……どうして最初からその名前を教えなかったのよ」

 

フランが軽く睨みつけると彼女はきまり悪そうに小さく謝って来た。

 

「ごめんね、魔法少女の姿でいるときは本名を名乗らないのが私達の世界じゃ暗黙のルール……みたいなものなの」

 

スーパー戦隊や仮面ライダーでたまにあるような、普段は正体を隠して日常に支障をきたすことを防ぐためなのだろう。

フランはそこのところがわからなかったから不満を口にしたのだ。

 

「それで何か用ですか?」

 

「実はね、私もあなた達と同じく異世界から来たの」

 

俺達以外にも異世界から来た人がこんなにも身近なところにいたとは驚きだ。

話を詳しく聞くと、俺達よりも前にこの世界に来ていたらしいので、フランのように俺の時間移動に巻き込まれたわけではないそうだ。

 

「えっと、スノーホワイトさんは元居た世界に帰りたいってことですか?」

 

「その気持ちはあるけど、要件は別なんだ。私を……私達を鍛えて欲しいの!」

 

頭を下げたのはスノーホワイトさん一人じゃなかった。彼女の後ろや横には同世代ぐらいの女の子達が並んでいた。

 

「いいですよ」

 

「お願い! どうしても―――へ? い、いいの!? そんなあっさり認めちゃって!」

 

「この世界では基本的に暇なので。フランも協力してね」

 

「……まあ、いいわよ。私も暇なわけだし」

 

「二人共ありがと! これからよろしくね!」

 

そうと決まれば話は早い。早速アリーナで練習をすることになった。

 

「まずは皆さんの魔法を教えてください。もちろん強制じゃないですし、教えてくれなくても戦闘の相手はきっちりします」

 

だが、俺の予想に反して全員が教えてくれるとは思いにもよらなかった。

彼女達の魔法をノートに書き留め、一人ひとりにアドバイスしてからの戦闘訓練となった。

 

「最初はスノーホワイトさんからです」

 

「う、うん! 私頑張るね!」

 

どこか緊張気味に返事を返してきた。

彼女の魔法は「困っている人の心の声が聞こえるよ」だ。

一見戦闘には不向きかもしれない能力だが、使い方を変えればかなり有利に戦闘できる。

 

「スノーホワイトさんは困っている声が聞こえるから、相手がされて困ることを聞き出せばいいんじゃないでしょうか」

 

「そっか! それで相手の弱みを握って脅せばいいんだね!」

 

『腹黒い戦い方!』

 

スノーホワイトさん以外の人が一斉にツッコむ。

 

「え、違うの?」

 

可愛らしく首を傾げる彼女を見て、あまりにも純粋なんだなと思わされた。

 

「そういう戦い方もあると思いますが、聞き出した弱点を仲間に伝えればいいんです。……はっきり言うと、あなたの能力は戦闘向きじゃなくサポート向きですから」

 

能力だけなじゃなくて性格的にも向いていないかもしれない。

 

「そっかぁ……。うん、私頑張る!」

 

一応自衛のための軽い体術ぐらいは憶えてもらおう。

 

「次はラ・ピュセルさんです」

 

「僕か」

 

女騎士の格好をしていて、ドラゴンの角や尻尾らしきものが付いていた。

一人称が「僕」なのは彼女の変身する前の姿が男だからだ。

 

「剣の大きさ自在にを変えらえる……これはもうアレしかないですね」

 

「お、秘策でもあるのかい?」

 

期待を込めた眼差しを向けてきたラ・ピュセルさんにしっかりと応える。

 

「ええ、それはもちろん―――――13km(キロ)や」

 

『おおー…………はい?』

 

「実際にやった方がいいかもしれませんね」

 

魔剣創造(ソード・バース)で一本の魔剣を作り出し、大きさを自在に変えることができる能力を付与した。

形状は剣というよりも刀で長さは脇差だ。

刀を天に向ける。

 

「“死せ(ころせ)神殺鎗(かみしにのやり)”」

 

別にいう必要はないが、気分的に言ってみた。

刀がそこそこの速さでぐんぐんと天へと向かって伸びていく。

 

うわっ、おっそ……。

 

本物はどれくらい速いかわからないけど、今俺がやったのは全然遅い。フェイトや美雷に当てることなんて到底無理そうだ。

それに威力もない。相手の隙を突くだけなら使えるかもしれないが通常の攻撃としては使い物にならないと思う。

 

くっ、流石は旧護廷十三隊三番隊元隊長や……!

 

「とまあ、これを出来るだけ速く、長く出来るようにしてみてください」

 

「あ、ああ、頑張ってみるよ……。(いやいやいやいや、あんな長くとか無理でしょ!?)」

 

「じゃあ、次ですね」

 

次々と彼女達にアドバイスを繰り返し、フランや暇そうにしていた英霊を誘って訓練を続けた。

 

「今日はここまでにしまーす。お疲れさまでした」

 

『お疲れさまでした!』

 

訓練で砂埃にまみれた俺達はすぐさまお風呂場へ直行。皆から一緒に入ろうと誘われたが、全力全開でお断りさせていただいた。

 

 

 

 

 

その日の夜、隣で眠るフランを起こさないように部屋を出て、一人アリーナに立つ。

 

「そろそろ戻りたいなぁ……」

 

元居た世界を離れてひと月以上過ぎて我が家が恋しくなってきた。

 

だけど肝心の戻る術がないんだよなぁ……。

 

帰る手段に悩んでいたら、突然アリーナの上空に魔力反応が出た。

 

《マスター! この反応はあの二人のものかもしれません!》

 

空間が歪んでゲートが出来ると、中からブレイブの予想通りにフローリアン姉妹が現れた。

 

「アミタさん、キリエさん!?」

 

『え、この声……天使()!?』

 

その呼び方をするのは間違いなくあの二人だ。

 

「(二亜、どう?)」

 

『間違いなく本物だね』

 

二亜が調べた限りではこの二人が偽物というわけではなさそうだ。

二人の傍に駆け寄り、二人との再会を喜ぶことにした。

 

「や、やっと天使君が見つかった~!」

 

「うぅ~、良かったです!」

 

俺を本来の世界とは間違えた世界に送ったことに罪悪感を感じているのか、申し訳なさそうに何度も謝って来た。

 

「それじゃあ、今すぐに―――」

 

「あー、それはちょっと待ってくれませんか?」

 

元居た世界からエルトリアに出発して時間がさほど経っていない時間軸に戻れるのなら、挨拶を済ませてからでも問題ないはずだ。

 

「わかりました。また明日、ここで落ち合いましょう」

 

理由を説明すると二人は快諾してくれた。

 

「バイバーイ、天使君」

 

二人はどこかに飛び去って行ってしまった。

彼女達が一晩泊まる場所を心配したが、本人たちが大丈夫だと言っていたので気にする必要はなさそうだ。

 

 

 

 

 

「フラン、元の世界に帰ろっか」

 

「と、突然何!? いきなり過ぎない!?」

 

翌朝、フランに元の世界に帰ることを伝えた。

 

「はぁ……まあ、事情はどうでもいいわ。そうね。帰ることが出来るならそれに越したことはないわけだし、さっさと帰るわ」

 

「その前にお世話になった皆にお別れの挨拶しないと」

 

「……わかったわ」

 

面倒臭そうな顔をしながらも準備を素早く済ませ、皆に別れの挨拶をして回ることにした。

最初は生徒会室に行って、更識さんに別れの挨拶をした。

 

「随分急ね……」

 

「帰り方が見つかりましたからね、これ以上の長居は出来ないですよ」

 

「あなた達は元々この世界の人じゃないのよね……。仕方がないと言えば仕方ないけど、お姉さん寂しいわ、しくしく~」

 

「わざとらしい寂しがり方ありがとうございます」

 

更識さんらしい別れの挨拶だと思ってしまい、つい口元が緩んでしまう。

 

「元の時代に帰んのか!? クッソー! 一勝もできてないのにマジ悔しいぜ!」

 

アリーナにいた一夏さんや箒さん達に別れを告げると、一夏さんが一番残念がっていた。

 

「時間的には余裕あるんで、最後に試合でもやります?」

 

「もちろんだ! 絶対勝ってやる!」

 

『男ってホント子供ね……』

 

周りにいた女性陣に呆れられていたが、試合に夢中で気にならなかった。

 

「織斑先生、アイリ先生、お世話になりました」

 

「向こうでも元気でな」

 

「たまに遊びに来てくれると……あ、世界が違うから無理かしら?」

 

「当たり前だ、バカ者!」

 

「アハハ……」

 

俺やフランのために部屋を貸してくれた二人には本当に感謝している。

 

「え~!? タッツーとフララン帰っちゃうの~!?」

 

「本音、驚きすぎ。空君達は異世界の人なんだから当たり前でしょ?」

 

「で、でもでも~!」

 

「急なことに驚いてるんだよ。でも、僕としても寂しいことに変わりはないね」

 

「それはもちろん私もだよ」

 

「オカルト研究部の活動、楽しかったですよ」

 

怖い思いもしたが、楽しかったこともそれ以上にあった。

 

「行っちゃうのね、二人共」

 

「寂しいね……」

 

「はい、クリスマスも一緒に出来たらと思ってましたが、残念です……」

 

最後は英霊達だ。その中でも俺とフランと仲が良かったナーサリー・ライム、ジャック、ジャンヌの三人が泣きそうだった。

 

「俺も寂しいよ」

 

「私も寂しいわ。引きこもっていたのがもったいないって思うくらいにあなた達と過ごした時間は楽しかったもの」

 

俺、フラン、フローリアン姉妹、数人の英霊がいるアリーナで俺達五人は抱き締め合っていた。

やがて、名残惜しそうに三人から離れると、今度はスカサハ先生がやって来た。

 

「……ケルト戦士としては半人前もいいところだが、お前には戦闘の才能がある」

 

誰もケルトの戦士になるつもりなんてないんですけどね!

 

「これは餞別だ。弟子としての期間は短かったが、お前が弟子であったことに変わりはない。受け取るがいい」

 

スカサハ先生から渡されたのは一本の朱槍だった。

そして、それは見間違えるはずもない彼女の宝具だった。

 

「いいんですか……?」

 

「私はその槍を大量に持っているのでな、一本くらい構わんさ」

 

恐る恐る受け取り、刃先から石突きまでを眺める。スカサハ先生の使っていたものと何ら変わりはない槍だ。

 

「ありがとうございます!」

 

お礼を言って朱槍をブレイブの圧縮空間にしまう。

 

「最後は私ですか」

 

「お姉ちゃん……」

 

スカサハ先生と入れ替わるようにして、俺の目の前に立ったのはヒロインXさんだった。

なんだかんだ言って、この学園で一番お世話になったのが彼女だ。

鍛錬の相手になってもらって、一緒にご飯を食べて、一緒に色々楽しんだ。

まるで本物の姉のようだった。

 

「私もあなたに何か……ああ、これがいいですね。少し下を向いててください」

 

「うん」

 

言われた通りに下を見る。すると、頭に何かを被せられた。

黒い唾が視界の半分以上を覆っていたので、多分帽子だろう。

 

「?」

 

「まだ頭を上げないでくださいね。とある事情により、私の素顔を見られるわけにはいきませんから」

 

上げるも何も、かなり目部下に何かを被せられたので、普段以上に頭を上げないと目の前を見ることが出来ない。

 

そういや、お姉ちゃんの素顔見たことなかったな……。

 

「この先、あなたに辛いことや悲しいことがあって挫けそうになった時にこの帽子を見て、私達のことを思い出してください。些細な……ホントに些細なものですが、君に勇気を分け与えてくれるはずです」

 

「……うん」

 

「体調管理には気を付けてくださいね。何事も体が資本ですから」

 

「……うん」

 

「あなたの作ってくれた料理、美味しかったです」

 

「……うん」

 

「それから……いや、これ以上は止めておきましょう。別れが余計に辛くなりますから」

 

そんなのこっちのセリフだ。

 

「さよなら、空。またどこかでお会いしましょう」

 

お姉ちゃんが背を向けたのを見て、俺も下を向いたままお姉ちゃんから背を向ける。

 

「あなたともここでお別れね、空」

 

あ、そっか。フランもここでお別れか。

 

隣に立っていたからこのまま一緒に行くのかと勘違いしかけていた。

 

「いつか……いつの日かでいいの」

 

「?」

 

「幻想郷の紅魔館って言う場所に来てくれない?」

 

それは再会の約束だった。

 

「うん、絶対に行く」

 

その時はなのは達のことも紹介してあげたい。

 

「別れの挨拶は済みましたか?」

 

「はい」

 

「オッケー。じゃあ、今からあなた達を元の世界に戻してあげるわ」

 

目の前に前回と同じくゲートが開かれる。そこを潜ると―――龍神家の前だった。

 

「…………あ」

 

隣にフランはいない。フローリアン姉妹もエルトリアに戻ったようだ。

 

「これ、お姉ちゃんの……」

 

頭にあった帽子を外して見てみると、お姉ちゃんが被っていた帽子だった。

 

 

 

「セイバー、目指してみようかな……なーんてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ラ・ピュセルの魔法知ったら、つい彼の卍解を思い浮かべてしまった……。

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