魔法少年始めました!
Side空
フェイト達が家に来てからしばらくした頃。今日も今日とて修行で扱かれたあと、突然琴里に言われた。
「空、学校に通いなさい」
学校、ねぇ……。
「嫌です! メンドイです!」
一秒ほど考えて即刻断った。
「もう手続きはしてあるから無理よ」
なん……だと……ッ!? いつの間にそんなことを!
「はい、これ制服。着てみなさい。私は外にいるから着替えたら呼んで」
琴里から渡された紙袋の中には制服が入っていた。
学校の名前は―――私立聖祥大附属小学校。このへんじゃ結構頭良い学校だったはず。
着替えが終わった俺は一旦部屋の外で待っていた琴里を呼んだ。
「着たよー」
「へぇ~、中々似合ってるじゃない。サイズも大丈夫みたいね」
「そうだね。でもピッタリ過ぎない?」
「あなたを転生させた神様が送って来たのよ」
あー、それなら納得。天照様が全部やってくれたんだね。
「他には何か入ってなかった?」
そう言われて、袋の中を見てみると手紙と銀色の細い腕輪が入っていた。
「手紙と、腕輪? 何だろこれ」
「それは後にして先に手紙を読んでみたら?」
腕輪は気になるけど、仕方がないから後回しにして手紙に目を通した。
『空さん、お久しぶりです。転生してからいかがお過ごしでしょうか』
毎日皆と楽しく過ごしていますよ。
前回と同じく会話が出来る手紙のようだ。
『そうですか。それは良かったです』
それで、俺に学校行けってどういうことですか?
『これはどの転生者にも送っているのですよ』
あーそういうことですか。分かりました。
『それとあなたにはデバイスをお渡しするのを忘れていたので入れておきました』
デバイス? ああ、この腕輪ですか?
『はいそうです。その世界では必要になるはずですから』
なるほどなるほど。
『使い方はプレシアさんにでも聞くといいでしょう』
どうしてプレシアさんの事知ってるんですか?
『空さんのことはいつも見守っていますから』
アハハ、なんか恥ずかしいです……。でも、ありがとうございます。
『それでは、これで失礼します』
手紙にそう書きこまれた瞬間以前と同じように燃えて消えてしまった。
「で、神様は何て言ってたの?」
手紙が消えたのを確認したのを見計らって琴里は声をかけてきた
「これ、デバイスって言うんだって。使い方はプレシアさんに聞けって」
腕輪を琴里に見せながら教えた。
「それが良いわね。私達じゃ教えられないから」
どこか申し訳なさそうに答えていた。力になれないことが嫌なのだろう。
「そんな申し訳なさそうな顔しないでよ。琴里達には修行相手になってもらってるから。それで十分だから。じゃあ、早速聞いてくるよ」
俺は腕輪を持ってプレシアさんのところに向かった。
「それがあなたを転生させたっていう神様から貰ったデバイスね?」
「はい、そうです」
答えてからプレシアさんにデバイスを渡した。
ちなみにプレシアさん達には俺が転生者であることを特に隠す必要がないから話している。信じられてない気もしたが俺自身も未だ実感がわかないからあまり気にしていない。
「これは……!」
デバイスを見ていたプレシアさんが驚いたような声を出した。
「すごいわねこのデバイスは。ミッドチルダの技術でもここまで行ってないわ」
まあ、神様が作ったからね。そりゃ、すごくなるでしょ。
「それで、使い方を教えて欲しいんですけど……」
デバイスを見ることに夢中になっていたプレシアさんに恐る恐る声を掛けた。
「ごめんなさいそうだったわね。そうね……今リニスがフェイトとアリシアとアルフの三人に魔法のことを教えていると思うからリニスの部屋に行ってみなさい。フェイトも丁度デバイスが出来て使う頃だと思うわ」
「わかりました。ありがとうございました」
今度はリニスのところに向かおうとしたところで、
「その制服、似合っているわよ」
後ろからプレシアさんに言われた。
「ありがとうございます!」
笑顔でお礼を言って部屋を出た。
「事情は分かりました。それでは教えましょう」
リニスに説明をするとすぐさま理解してくれた。
「うん、お願いします」
「空のデバイスってその腕輪?」
フェイトが俺の持つ腕輪を指差して尋ねてきた。
「うん」
「名前はなんていうの?」
「名前? 無いけど。フェイトのはあるの?」
「バルディッシュって名前があるよ」
フェイトは手に持っていたペンダントを見せてくれた。
《初めまして。バルディッシュと申します。マスター共々よろしくお願いします。―――――
その場の空気が凍った。
…………へ? 旦那様? 俺が?
「ななな、何言ってるのバルディッシュ!?」
フェイトが顔真っ赤にしてバルディッシュに怒鳴った。
「そうだよ! 空は私の旦那様なんだからね!」
「アリシアも何言ってるんだよ!」
俺がいつアリシアの旦那になった!?
「フェイトというものがありながらアリシアと浮気かい!? 許さないよ!」
「アルフも何勘違いしてるの!?」
「そ、そうだよ! 変なこと言わないで!」
「はぁ……そろそろ説明したいのですが……」
リニスがどこか疲れた様子で言ってきた。
「あ、ごめん……」
「いえ、悪いのはバルディッシュですから。それでは起動させましょうか」
「はーいって言いたいけど、どうやって起動させるの?」
「目を閉じて集中して下さい。そうすれば起動パスが頭に来るはずです」
俺はリニスに言われた通りにやってみた。
「……我、目覚めるは、覇の理を神より奪いし二天龍なり―――――」
『おい! それは
フェイト達にも聞こえる声でドライグが突っ込んできた。
彼らのことも説明済みなので驚かれることはない。
「おお、いっけね。では、気を取り直してもう一回」
深呼吸をしてから改めて唱えた。
「―――――我、二天龍従えし者なり」
「契約の元、その力を己が手で示せ」
「絆は無限に、願いは夢幻に」
「蒼天の希望はこの魂に」
「この手に輝きを!」
「ブレイブハート、セットアップ!」
起動パスを言い終えると同時に俺の体は蒼白い閃光に包まれた。
光はすぐに収まり、俺の服は学校の制服から紺色メインで所々に赤、青、黄の刺繍が施されているフード付きの半そでの上着に、七分丈程のズボン、手には指抜きグローブ、靴は黄色いシューズになっていた。
「え!? 服が変わった!?」
「その服はバリアジャケットと呼ばれる防護服のようなものです」
リニスが俺の服装について説明してくれた。
「な、なるほど……」
「お~! カッコイイ!」
「うん、とっても似合ってるよ!」
「ああ、いいんじゃないか!」
皆が似合っていると言ってくれて嬉しかった。
「これで魔法が使えるんだよね?」
「ええ、そうです。ですが、その前にデバイスの設定をしなければなりません」
えー、これだけじゃダメなのか……。
肩を落としながらそんなことを考えていた。
《大丈夫です。そこまで難しいことではありませんし、時間は掛かりません》
突如、知らない声が部屋に響いた。
「今の誰の声だ?」
キョロキョロ周りを見ても皆違うと言わんばかりに首を横に振った。
「恐らく、いえ間違いなくその腕輪ですね」
リニスが腕輪を指さしながら結論付けて言った。
《はい、そうです。私はマスターのデバイスのブレイブハートと言います。以後お見知りおきを》
「あ、こちらこそよろしくお願いします」
思わずデバイスに向かって一礼をした。
《では設定をしましょう。まずは愛称を決めて下さい》
愛称、か……ここはシンプルでいっか。
「愛称はブレイブにするよ」
《了解しました。次に、私に魔力を送って下さい。マスターの登録と魔力量の測定をします》
俺の魔力がどのくらいあるか気になるな。
「了解」
短く答えて、魔力? らしきものをブレイブに送ってみた。
普段、使ってるかどうかわかんないから流れてるかどうかわからないけど。
《ありがとうございました。登録完了。魔力量測定中…………測定終了。魔力量はS+といったところですね》
『S+!?』
おお、びっくりした!
皆がいきなり叫ぶから耳が地味に痛い。
「S+ってそんなにすごいの?」
皆があまりに驚いていたので理由を尋ねた。
「すごいだけで済まされませんよ! S+なんて滅多にいないんですよ!?」
「フェイトでもAA+なのにそれ以上って……」
「しかも、それ以外にロストロギア並みの力があるし……」
「チートやチート! チーターや!」
四人共興奮したように言ってきた。S+というのはそこまですごいモノらしい。
「……そこまで言う? あと、何故に関西弁……。それにチートって言うなら十香達でしょ。俺、未だに勝てないからね」
十香達は流石精霊って感じかね……。
それからこの魔力量は特典の『成長限界無し』のおかげだと思う。十香達との修行で無意識に魔力で身体能力を強化していたとドライグ達が言っていた。
「それでもです! というかあなた達がおかし過ぎるんです!」
「それは、ほら、俺って転生者だし仕方ないと思うんだ」
「まあ、確かに……」
その他の皆も渋々納得してくれた。
「と言うことで俺のチートについてはここまで。待たせてごめんねブレイブ。続きお願いね」
俺はそこで話を切り上げて、ブレイブの設定の続きを頼んだ。
《いえ、問題ありません。最後に私の武器形態を設定して下さい》
「武器か……」
基本的には
「うーん、じゃあ銃にしてもらえる?」
悩んだ末に狂三の力でしか使わない銃にした。
《どんな銃がいいか頭にイメージして下さい》
こんな感じかな……。
イメージが伝わったのか、左手にあった腕輪が形を変え、俺の手にすっぽり納まる銃になった。
《イメージと同じですか?》
「うん、バッチシ! すごいね! ピッタリの大きさだし!」
《それは良かったです。以上で設定終了となります。お疲れ様でした》
ブレイブが労いの言葉を掛けてきたので俺もブレイブを労った。
「ブレイブもありがと。お疲れさま」
《これくらいは当然ですよ。マスターは早速魔法の練習に入られますか?》
「基礎程度の魔法なら練習しようかな。あとは君の使い方も知りたい」
《わかりました。場所はどちらで?》
「トレーニングルームが地下にあるからそこにするよ」
《どのようなメニューにしますか?》
俺は魔法に関してはまだ素人だからメニューは決められないな。
「リニス、どうしたらいいかな?」
リニスに助けを求めるとすぐに答えを出してくれた。
「それならフェイトと戦闘訓練をしてみませんか?」
普段十香達としか戦ってないから偶には違う人もいいね!
「うん、俺は賛成! フェイトはどう?」
「私も構わないよ」
フェイトも快く賛成してくれたので皆でトレーニングルームに向かった。
俺とフェイトがバリアジャケットを着て、互いに向かい合った状態で立っていた。
「二人とも準備はいいですか?」
審判役を務めるリニスが聞いてきた。
『うん!』
「それでは、始め!」
始めの合図とほぼ同時にフェイトは突っ込んできた。
Sideout
Sideリニス
私―――リニスは空とフェイトの試合の審判をしています。
私の試合開始の合図とほぼ同時にフェイトが空に突っ込んで行きました。
「はぁあああッ!」
良い動き出しですね……。彼女に魔法を教える師としては嬉しい成長です。
空の実力はあまり分かりませんが、あの速さなら防ぐのは難しいでしょう。
一撃で試合が終わってしまう可能性もあると考えていたが、私の予想は大きく外れた。
「ほいっとな」
フェイトが切りかかって来たのを空は少し体をずらして意図も容易く躱した。
『え!?』
ここにいる、戦っているフェイトも含めて皆が驚きの声を上げていた。
あの速さの動きが視えているというのですか!? ……いや、そうか。空は十香さん達と修行していると言っていたから彼女達の速さに慣れてる。フェイトの攻撃くらい見切れるのか。
「くッ! てやッぁぁぁああああああ!」
「ほい、ほい、ほい」
その後も空はフェイトの攻撃を簡単に躱し続けていた。
これが空が言っていた
一旦、空について考えることを止めて二人の試合を見ることにした。
フェイトは近接攻撃が当たらないので距離を取り、遠距離攻撃をしようとした。
空は追いかける気が無いのかその場に立ったままだった。
……恐らく、フェイトがすることが気になるんでしょうね。
フェイトが魔法を放った。
「フォトンランサー!」
《Photon Lancer》
これはフェイトが最初に覚えた魔法ですね。
体の周囲に生成したフォトンスフィアから、槍のような魔力弾を発射する直射型射撃魔法です。
今のフェイトではまだそんなに数は出せないですが速さは十分です。
フェイト自身のスピードよりも速いし、連射も可能なので今度こそは躱すのは無理なはず!
放たれた8本の黄色い槍は空に真っ直ぐに向かった。
Sideout
Side空
「(一応見聞色でさっきみたいに躱せるけど、そろそろブレイブも使うか。)〈ブレイブ、銃の弾丸みたいなのって撃てる?〉」
ブレイブに念話で聞くと「可能です」と返って来た。
「(なら、漫画の技やってみよ!)」
俺は向かってきた黄色い槍に向かってブレイブを構えて素早く引き金を引いた。ブレイブから放たれた小さな弾丸は、槍の先端部分に当たるとガラスが割れるような音と共に二つの攻撃が消えた。
おお、出来た!
まだ試合中なので声には出さなかったが、心の中でガッツポーズをしていた。
「よし、このまま行くよ!」
フェイトは防がれたことに驚いていて反応が遅れて、俺が接近して再び撃った弾丸を躱せず、そのまま直撃してその場で倒れた。
「試合終了です」
フェイトが立たないことを確認して試合の終わりを告げた。
「フェイトは大丈夫?」
「ええ、少しすれば目が覚めます」
フェイトのことが心配になり、かなり不安になったが、大丈夫だと言われて安心した。
そしてしばらくしてからフェイトも起きてさっきのことを聞かれた。
「それにしてもどうやってフェイトの攻撃を躱し続けることが出来たんですか?」
「あ、私もそれ気になってたんだ~!」
「最後のフェイトのフォトンランサーもあんな小さな弾丸でどうやったんだい?」
「そんなに難しいことでもないよ。十香達の方がまだ速いし、力もあるから、フェイトはちょっと速いくらいで視えるよ。それに見聞色の覇気で簡単に避けれるよ。で、あの槍はただ魔力を小さく圧縮して密度を濃くした奴をぶつけて相殺しただけ。ね? 簡単でしょ?」
『へぇ~確かに簡単そう……じゃない!』
四人共納得していない様子だった。
「え、そう?」
そこまで難しいこと言ったかな?
「十香達との修行で空がフェイトの動きが視えるのはわかりました。ですが! 見聞色の覇気って何ですか!? しかもいきなり魔力のコントロールなんてまだ知らないはずなのに!」
「魔力のコントロールはブレイブが全部やってくれたんだけど……覇気についてこの間説明しなかったっけ?」
「してないよ!」
アリシアにまったくもって言われてないと否定された。他の三人も頷いていた。
「それなら説明するよ。簡単に言えば、覇気っていうのは人間に潜在する力のこと。武装色、見聞色、覇王色の三色に分けられるんだよ。武装色は体や武器に纏わせると威力を上げたり、実体のないものとでもいいのかな? まあ、炎とかゴムの体で出来てたらダメージが通るって感じ。見聞色は気配を感じ取ったり、相手の動きを読めたりするんだ。それから三つ目の覇王色は、使える人がそんなにいないけど、威圧の力で弱い相手なら気絶させるぐらいは出来るよ」
「……なるほど、大体はわかりました」
「それは私も覚えられるの?」
「そのはずだよ。もしフェイトが覚えたいなら教えるよ」
「私も教えてね!」
「あたしも!」
「りょーかーい」
そんな約束をして部屋に戻ろうとした時、
「む、空ではないか! どうした? 修行でもしていたのか?」
上の階から十香がやって来た。
「そうだよ。デバイス貰ったからフェイト達と戦闘訓練してたんだ」
「ふむふむ、ならば次は私の番だな!」
うんうんと頷くと戦闘準備を始めた。
「え゛っ」
これはやばいな……冷汗が頬を伝っていくのがわかる。
「あ、あのそろそろ部屋に戻ろうかなって思ってたんだ。だから、また今度に……」
何とか避けねば! 俺が死んでしまう!
「……ならば、仕方がないな……。私も戻るとしよう……」
かなり落ち込んだ十香は悲しそうな表情をしていた。
うッ……罪悪感がハンパない……。はぁ……腹括るしかないか……。
「ち、ちょっと待って! 十香!」
「ぬ? どうしたのだ?」
「魔法の特訓に手伝って欲しいんだ」
「だが、先程は戻ると言っていたではないか」
「十香にどのくらい通じるか試したいんだよ。……ダメ、かな」
「そんなことはない! もちろんいいぞ!」
十香は目を輝かせ、首を縦に振っていた。
「ありがと!」
魔法だけでどれくらい持つかな?
《マスター頑張ってください》
「うん……死なないように頑張る」
「空! 早くやろうではないか!」
すでに霊装を着て準備万端の十香は俺を待っていた。
「よし、龍神空! 逝きます!」
《マスター字が違います》
それは気のせいだ!
ブレイブの突っ込みに心の中で返し、十香と戦った。
結果は―――――
――――手も足も出ず、ボコボコにされました。
俺と十香の戦闘を見ていたフェイト達はポカーンと口を開けていた。
「空ってかなりすごいと思ってたけど……」
「この戦闘見てると……」
「十香って……」
「いえ、十香だけでなく、恐らく他の精霊の皆も……」
『チート過ぎるでしょ!!』
こうして俺、龍神空は”魔法少年”となったのである。