デート・ア・リリカルなのは   作:コロ助なり~

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フランドール・スカーレットを色々調べて出してみました。

原作とは違うところもあると思いますがご了承ください。




謎解きは朝飯前です!

謎解きは朝飯前です!

 

Side空

 

「君は誰?」

 

「さあ?」

 

目の前に現れた、濃い黄色の髪をサイドテールにして、白いナイトキャップを被っている同い年ぐらいの少女に名前を聞いてみるが教えてくれなかった。

しかし、名前がわからなくてもこの子がこの館の謎にかかわっているのは間違いないと思う。

 

「じゃあ、勝手に名前つけて呼ぶね。…………。寿限無寿限無ウンコ投げ機一昨日の新ちゃんのパンツ新八の人生バルムンク=フェザリオンアイザック=シュナイダー三分の一の純情な感情の残った三分の二はさかむけが気になる感情裏切りは僕の名前をしっているようでしらないのを僕はしっている留守スルメめだかかずのここえだめめだか……このめだかはさっきと違う奴だから池乃めだかの方だからラー油ゆうていみやおうきむこうぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺビチグソ丸」

 

「アハハハハ、面白ーい! ―――――心だけじゃなくて体も壊されたいみたいだね」

 

口元は笑っているが目はハイライトが働いておらず、こめかみに血管がビキビキと浮かび上がっていた。

 

はい、どっからどう見ても明らかなほどに激おこ状態です。

 

「ごめんなさい、今のは無し。……というかそれが嫌なら名前教えてよ」

 

「……わかったわ。私はフランドール・スカーレット」

 

怒りは治まったようで、仕方ないわね、と肩をすくめながら名前を教えてくれた。

 

「で、君は何者なの? ……少なくとも人間じゃないみたいだけど」

 

少女の背中には一対の枝に七色の宝石がぶら下がっている翼のようなものが生えていて、右手には先端がスペードの形をした黒い棒を持っていた。

 

「吸血鬼よ」

 

今度はすんなりと答えてくれた。

すずかや忍さんと違い、純血の吸血鬼かどうかまでは俺には判断できないが嘘ではなさそうだ。

 

「そっか。じゃあ、もうじき夕飯だから俺帰るね」

 

「私がそう簡単に帰すとでも?」

 

まあ、そう言うだろうとは思ってたけどね。一応言ってみただけ。

 

「私は名前を教えた。正体もね。今度はあなたのことを教えて」

 

相手が名乗ってくれたのだからこちらも自己紹介するのが当然だろう。

 

「名前はカカロット。地球育ちのサイヤ人だよ。特技はかめはめ波」

 

『オイ』

 

ドライグ達から一斉に突っ込まれる。

誰もキチンと自己紹介するとは言ってない。流石にこの嘘はすぐにバレると思っているからあとでキチンと自己紹介をするつもりだ。

 

「カカロット……? 変わった名前ね。それにさいやじん? というのは初めて聞く種族だわ」

 

だが、下手糞な嘘に彼女は思いっきり騙されていた。

 

「……ごめん、今言ったこと嘘なんだ。ホントの名前は龍神空っていうんだよ」

 

純粋な子を騙すことに気が引けて、嘘をついたことを謝った。

 

「じゃあ、サイヤ人って言うのも?」

 

俺が肯定の意味で頷き返すと少女は不機嫌そうに頬を膨らませた。

 

「へぇ、騙すとはいい度胸ね……。今度は許さないわ。壊れなさい!」

 

少女が右手を前に突き出し、強く握りしめる。何かが起こると感じて咄嗟に身構えた。

 

「…………?」

 

しかし、一向に何も起こらないし起こる気配もない。

沈黙だけが俺達の間を支配する。

 

「えっと……」

 

「待って! それ以上は何も言わないで! 言いたいことはわかるから!」

 

沈黙が耐えきれなくなって声をかけようとしたら遮られた。

 

「おかしいわ……! どうして!?」

 

彼女は自分の能力が使用できないことに驚いていた。

こちらとしては何が何だかさっぱりなのだがおかげで助かっている。

 

破壊って言っていたっけ。……ん? ()()

 

ふと違和感を覚えた。

この館は不帰(かえらず)の館と言われている。

入った人の性格が変化していることからそう言われるようになったそうだ。

もし仮に、この娘が謎の真相だとしたら何かしらを破壊する能力では辻褄が合わない気がする。とは言え、俺は彼女のことを何もかもすべて知っているわけじゃないので、もしかしたらそういう能力も持っている可能性も否めない。

 

「ねぇ、君は人の性格を変化させる力って持ってる?」

 

「はあ? そんなのあるわけないじゃない」

 

どうやら彼女は今回の謎とは無関係のようだ。

もちろん嘘という可能性はあるだろうけど、この短い時間で見てきた限りでは、フランドールはそういう娘じゃないと思う。

しかし、困ったことに振出しに戻ってしまった。

彼女が原因ではないことはわかったが、この館にはまだ解明すべき謎があることが発覚した。

 

「(二亜)」

 

『任せてー。…………あ、あれ? わからない……』

 

は?

 

二亜の口から信じられない言葉が出た。

 

「(……どういうこと?)

 

『いや、正確に言うと()使()()使()()()()んだ』

 

そんな馬鹿な、と思い、俺も魔剣の創造を―――――できなかった。バリアジャケットの展開さえできない。

フランドールだけじゃなく、精霊も俺も能力が使えなくなっている。

 

これはマズい……。

 

「フランドール、俺も能力がなんも使えないみたい」

 

「フフン、いい気味ね♪」

 

同じ境遇の相手がいるとわかった途端になぜか彼女はドヤ顔になっていた。

 

「協力してここから脱出する方法を探してくれないかな?」

 

「嫌よ」

 

すぐに断られた。

 

「……どうして?」

 

「自分がなんでこんなところにいるのかわからないけど、目の前にあなたという玩具(おもちゃ)がある。これで遊ばない手はないでしょ?」

 

「それはあとでにしてくれない? ここから出られたらいくらでも相手するから」

 

「…………わかったわ。だけど約束破ったらただじゃおかないから」

 

「ありがと」

 

これは約束破った時を想像するだけでも怖いな。

 

 

 

 

 

再びこの館の調査開始した。今度はフランドールを連れてだが。

調査の前にフランドールと情報を交換した。

フランドールの情報では彼女は俺と同じくこの世界の住人ではないとのこと、屋敷にいたのに気が付いたらこの館の部屋の一室で寝ていた、ということだ。目が覚めたのは俺達がやって来た時だ。

 

「扉や窓は開かない。これは想定内ね」

 

フランドールが開かない扉に触れながら呟いた。わかりきっていたことなので大した気落ちはなかった。

 

「うーん、この館内は粗方調べたんだけど……」

 

「そうなると残りは……」

 

『隠し部屋!』

 

二人に声が見事に重なった。

閉じ込められているという状況だというのに、それが少しだけ可笑しくて顔を見合わせては笑いあってしまった。

 

「テンプレとしてはこういう書斎の本棚に―――――ビンゴね」

 

書斎に入るとフランドールが本棚に真っすぐ向かい、一冊の本を押し込むとカチッという音がした。

続いて何かが動き出す音が館内から響いた。

 

「どうしてそこだってわかったの?」

 

「テンプレっていうのもあるけど、不自然な空気の流れがここからしたし、何よりもこの本だけ誰かが触った形跡があったからよ」

 

「なるほど……フランドールは凄いね!」

 

彼女に対して出てくるのは凄いの一言だ。近づけば俺にもわかったかもしれないが、彼女はこの部屋に入った瞬間にわかっていたようだ。

 

「そ、そう?」

 

素直に褒めると照れたのかそっぽを向いてしまった。

音が止まり、本棚がずれた場所の壁には鍵穴があった。

 

「今度は鍵か……」

 

「みたいね」

 

「でも、書斎の机の引き出しにでもあるんじゃない?」

 

机の引き出しを確認してみたら、錆び付いている鍵らしきものが見つかった。

それを鍵穴に差し込み、回す。また何かが動き出す音が響いた。

壁の一部が沈み込み、下へと降りる階段が出現した。

 

「さあ、降り……―――――ッ!」

 

形容し難い酷い匂いが階段の先からした。フランドールも同じように顔をしかめていた。

 

「……この先ヤバいかもよ?」

 

「言われなくても……」

 

覚悟を決めて先の見えない真っ暗な階段を降り始めた。

一歩足を進めるごとに匂いはさらに酷くなっていく。

そして一番下に辿り着いた。

 

「ここが一番下?」

 

館にあった懐中電灯を点けていたことに後悔した。

懐中電灯が照らしたのは―――――それが何だったかはもうわからないほど腐った肉塊と骨だった。

 

「…………ッ……お゛え゛ッ……」

 

《マスター!》

 

急激に吐き気が込み上げ、耐えられずにその場で吐いた。

精霊達の中でもあまりのグロテスクな光景に泣いてる者までいた。

 

「フランドールは……大丈夫?」

 

「なわけないでしょ……!?」

 

「だよね……」

 

その声は今にも泣きだしそうなくらい震えていた。

吸血鬼である彼女でもここまで酷いものは見慣れていないようだ。

 

「ここから……出ないと……」

 

「そうね……」

 

震える体を無理矢理動かし、元の書斎にまで戻る。

僅かに差し込む朝日を見た途端にお互いに体を抱き締めていた。

 

『こ、怖かった……ッ』

 

フランドールの温もりが、心臓の音が伝わる。それが少しだけ和らげてくれる。

 

……大丈夫、大丈夫だ。俺は生きてる。

 

深呼吸を繰り返し、吐き気が込み上げてくるのを何とか抑える。

そして、抱き締め合った状態で幾何か過ぎた頃、ようやく体の震えが止まった。

 

ここは一体何なんだ……?

 

隠し階段を元々の隠れていた状態に戻して書斎を出る。たったそれだけのことなのにものすごく気力を使った気がした。

 

「ちょっと休憩しよう」

 

俺が提案すると、フランドールは素直に頷いてくれた。

玄関からすぐのところにあるリビングらしき部屋のソファに腰を掛けた。

俺とフランドールの互いの肩が触れ合うほど近い。それどころか書斎からソファに座るところまで手を繋いだままだ。

だが、全く気にならない。それどころか今は誰かが隣にいることに安心感を覚える。

フランドールにとっても同じようで、俺の手を握る力が一向に弱まる気配がない。

 

「……これからどうする?」

 

「……わからないわ。どうしたらいいのかしら?」

 

完全にお手上げ状態だ。

だからと言って、いつまでもこんな不気味な館に居続けるなどごめん被る。

次にどうするかを考えていたら音が聞こえてきた。

 

『…………?』

 

コツコツ、と廊下を歩くような音だ。

 

「俺達以外にも誰かいるってこと……?」

 

「わからない。けど、私がここに来てからあなた以外の人には一度も会っていないわ」

 

音が聞こえるように小声で会話する。

 

「こっちに来てるわ」

 

フランの言う通り、俺達の会話の最中にも徐々に音は近づいてくる。

 

足音は二つか。もしも戦闘になったら能力の使えない子供二人で勝てるとは思えないな……。

 

相手が一般人程度の大人なら倒せるかもしれないが、今のこの状況で一般人が出てくる可能性はかなり低い。

 

『…………』

 

息を潜めて戦闘がいつでもできる構えを取りながら、扉が開かれるのを待つ。

やがて、扉は静かに開いた。入って来たのは―――――黒い靄に覆われた“ナニカ”だった。

 

『……オ前達ヲヨコセ』

 

目の前にいる“ナニカ”はかなり低い声でそう呟くと姿を変えていった。俺とフランドールと全くの同じ姿にだ。

 

俺達の偽者…………まさか…………。

 

『ヨコセェェェエエエエエエエエエエッ!』

 

俺達の偽者は獣のような目つきで俺達に襲い掛かって来た。

 

「来るわよっ」

 

「わかってる!」

 

フランドールと未だに手を繋いだまま、―――

 

『せいっ!』

 

―――俺は俺の、フランドールはフランドールの偽物をそれぞれ蹴り飛ばした。

扉の方向に吹き飛ばされ、廊下の壁に激突した偽者達は次第に動かなり、黒い靄に戻って消えていった。

俺の素の状態の力で一撃なら、そこまでの強さはないようだ。

 

「フンッ、雑魚じゃない」

 

「これで終わりじゃないけどね」

 

「え? ―――――ッ!」

 

フランドールが俺が指差した方、廊下の先を見ると驚きで目を見開いた。そこには大量の“ナニカ”がいたからだ。

 

「さあ、俺達の戦争(デート)を始めようか」

 

「あら、一緒に遊んで(デートして)くれるのかしら?」

 

「(このデートに)いくら出す?」

 

「コインいっこ」

 

「一個じゃ、何も買えないよ。ましてや俺達の命もね」

 

「問題ないわ。私達は死なないし、―――あいつらが、コンティニュー出来ないのさ!」

 

次々と俺達の姿に変わっていくナニカの群れに向けて走り出し、空いている拳を振るい、バランスを崩さないようにフランドールと息を合わせて蹴りを入れる。さながらダンスでもしているような感覚だ。

 

「空!」

 

「任せて!」

 

名前を呼ばれただけだが彼女が次にやろうとしている行動が伝わった。

両手で彼女の両手を掴み、その場で独楽のように一回転。彼女の足が周囲にいた偽物を一掃する。

 

まるでヴァーリと一緒に戦ってるみたい!

 

彼女と出会って間もないはずなのに、ここまで息の合った連携をこなしていくうちにそう思えてきた。

 

「あいつらが出てくるところに行くよ!」

 

“ナニカ”は一定の方向からしか現れないことが戦闘の内にわかった。

そこへ辿っていけば何かがあるはずだ。

無限に湧き出る黒い靄を二人で吹き飛ばしながら前進し、館内で一番大きいであろう部屋の扉の前に着いた。ここから黒い靄が湧き出ているようだ。

 

こんな部屋……あった?

 

最初に来た時には全部の部屋を見回ったはずだが、こんなに大きな部屋は見覚えがない。

 

魔術か何かで隠されていた? でも……いや、だからか。

 

俺達の能力が封じられたのはこの屋敷内に閉じ込められてからだ。星花さんがスタープラチナを使えた時、それと調査時はまだ能力が封じられていない状態で、大部屋の扉も何かしらによって隠されていた状態だったと考えられる。使えなくなったのはフランドールが俺の前に現れてからだと思う。

 

能力封じは強力な分、自分も使えなくなるデメリットは…………ん? だとしたらあの黒いのはどうして……それだけは使えるようにしてるとか、かな?

 

「空、よそ見しない!」

 

辻褄が合わない点が出てきたが、フランドールの声によって今が戦闘中だということを思い出し、黒い靄を撃退する。

部屋の中に入ると、奥の方にいる巨大な骸骨が黒い靄を次々と作り出していた。

 

『行ケ! アヤツラノ姿ヲ奪エ!』

 

指示もその骸骨が行っていた。

今度という今度はアイツがこの館の謎の原因で間違いないだろう。

骸骨に向けて一直線に走りだし、黒い靄を踏み台にしながら接近していく。

 

『せいッ!』

 

フランドールと同時に骸骨を殴る。

 

『トロイ!』

 

骨の腕に横薙ぎにされ吹き飛ばされた。

 

『カハッ…………!』

 

壁に激突し、肺から空気が抜け、呼吸の仕方を一瞬だけ忘れる。

骸骨の容赦ない追撃に何とか反応し、無様に床を転がりながら躱した。

 

『空、今のお前さんじゃあの骨野郎との戦闘は厳しいだろう。だからワシを出せ』

 

「……ありがと……出てきて、九喇嘛!」

 

「き、狐!? デカッ!」

 

俺の体から九喇嘛を元のサイズで出し、骸骨との戦闘を任せた。

どうやら出すだけなら問題はないようだ。

 

『砕け散れ、骨野郎!』

 

『グアアアアアアアアアアアッ!』

 

九喇嘛の巨体が動くだけで黒い靄を押しつぶし、振るった拳が骸骨の腕を粉々にした。

俺達同様、九喇嘛も能力が使えないことに変わりはないが、素の力でも十分に強い。

九喇嘛に押しつぶされないように出来るだけ離れ、九喇嘛の戦闘を見守る。

骸骨は黒い靄を出しては九喇嘛に即座に潰され、防御の構えをとってもそれを上回る攻撃によって為す術が無かった。

 

『オラァッ!』

 

止めに頭蓋骨目掛けてアームハンマーを振り下ろし、骸骨は完全に砕け散った。

骸骨の消滅に伴い、“ナニカ”も自然消滅していった。

 

「(二亜、能力は使えるようになった?)」

 

『えーっと……うん、いつも通り使える』

 

俺も自分で能力が使えるか確認してみる。

 

……うん、もう大丈夫!

 

骸骨の消滅によって俺達の封じられていた能力も元通り使えるようになった。

この流れからして、館から脱出することも可能だろう。

 

「フランドール、外に行こう」

 

「ええ、そうね。こんな場所から一刻も早く出たいもの」

 

最初は俺をこの館に閉じ込めたままにしようとしていた彼女もあの光景を見て、考えが変わったようだ。

九喇嘛を体の中に戻し、館の玄関に向かった。

 

空君(タッツー)!』

 

玄関には星花さん達がいた。俺達が閉じ込められている間は館内に入ることが出来なかったのだろう。

 

「良かった、無事だったのね……。……あら? そちらの子はどなたかしら?」

 

フランドールに気が付いたアイリさんが尋ねてきた。

 

「この館内で出会った女の子―――フランドール・スカーレットです。彼女は気が付いたらここにいただけで今回の謎とは関係ありません」

 

多分、彼女がここにいるのは俺が異世界から時間移動してきた影響を受けたからだ。霧に覆われたように思い出せないが、キリエさんとアミタさんがやって来たことで誰かが別の時間から来たことをなんとなく覚えている。

 

「館の中で何かあった?」

 

「……まあ、色々と」

 

適当に言葉を濁して、帰宅することになった。フランドールも連れてだ。

アイリ先生がIS学園に電話一本で話を付けてくれたらしい。

館についてはスピードワゴン財団が土地を買収して、調査するとのこと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――昔のこと。

 

とある大きな館に住む夫婦の間に息子が産まれた。

 

両親は初めての子供に大喜び。夫はそこそこ有名な会社の経営をしていたので、その後継ぎが産まれたとなるとその喜びは余計に大きかった。

 

子供は周囲と比べて醜い容姿をしていたが、それでも初めての子供ということで両親の愛情を受けながら健やかに育っていった。

 

だが、成長するにつれて色々なものが変わり始めた。

 

彼が産まれてから一年後、彼には一つ下の次男が産まれ、次男が次第に親の愛情を独占していった。

 

妬んだ。だが、多少だ。ちょっとだけ羨ましいと思うくらいだ。

 

数年後、彼が苦手とする運動も得意とする勉強もあっさりと追い抜いていく程に弟は天才だった。

 

以前よりもさらに妬んだ。弟は天才で自分は凡人だと気が付き始めた。どうして自分は天才の兄なのにこんなにも劣っているのかと。

 

―――――あなたは弟と比べてホントに出来損ないね。

 

学校の成績を弟と比べられ、その度に母親に怒鳴られた。

 

―――――もう話しかけてこないで。

 

幼馴染で許婚の少女は自分から離れていった。

 

―――――兄さんがあまりに醜くい上に才能がなさ過ぎて、俺の評価まで下がるんだけど。

 

天才の弟に見下され、同じ血を分けた兄弟とは思わないような視線と口調を向けられるようになった。

 

彼が二十歳になるころには、

 

―――――お前なんか私達の子供じゃない!

 

父親から拒絶された。

 

その一言が、彼を狂わせるきっかけになった。

 

自分を蔑む奴らが憎くて憎くてたまらない。

 

―――――……ああ、そうだ。無いなら、持っていないのなら奪ってしまえばいいんだ。

 

そう考えた時、彼に不思議な力が発現した。

 

自分にないものを持っている奴から何もかも奪うことにした。

 

だが、彼の能力は()()()()()()()()で自分のものにできるものではなかった。

 

その時も自分の才能の無さに絶望したが、それはそれでいいと開き直った。

 

手始めに弟に化けた偽者が本物の弟を殺し、入れ替わった。

 

その偽者は本物とは多少の差異があるが、周りは誰も気が付いていない。

 

弟の死体は父親くらいしか知らないであろう地下室に置いといた。

 

もちろん、そこから彼はどんどん殺した。弟から始まり、使用人、母、父、幼馴染の少女、学校のムカつく奴ら。

 

自分の命令に背くことのない偽者が彼の周囲を埋め尽くしていった。

 

彼は満足した。誰も自分を見下さない、蔑まない、自分が支配者である世界を創り出したのだから。

 

しかし、それは長くは続かなかった。

 

周囲の性格の変化に怪しんだ一人の人間に自分のしたことがバレた。

 

最初、彼は周りを恨む人間だったが、いつの間にか恨まれる側の人間になっていたのだ。

 

やがて警察が動き出し、館の一番大きな部屋に追い込まれた。

 

偽者達を戦わせるが、所詮元が一般の人間のでは武器を持った警察の相手にならなかった。

 

結果、彼はその場で射殺された。

 

 

 

 

 

「―――――で、殺されたけど、自分にないものを持っている人を妬んだまま死んだせいで、あの部屋に怨念として残った、というわけです」

 

囁告篇帙(ラジエル)〉で調べたことを星花さん達に伝えた。

 

「じ、じゃあ! 館から出て来た人達全員は……!?」

 

「……残念ながら、もう……」

 

多分、入った人全員が死んでいる。

恐らくだが、偽者一体一体にも本物との性格の差があるのだろう。わかりやすい変化とわかりにくい変化が。

 

「そこまではわかったけど、能力が使えくなった理由は?」

 

「彼の恨みが創り出した結界、と言ったところです」

 

つまるところ英霊で言う、固有結界に近いものらしい。

 

『…………』

 

 

 

「ところで~、どうしてタッツーとフラランはずっと手を繋いだままなの~?」

 

 

 

誰もが黙り込む中、のほほんさんからそんなことを聞かれた。

目を何度かパチリとさせてからフランドールと繋いでいる手を見た。

ちなみにフラランとはフランドールの渾名だ。

 

「おいおい、それを聞くのは野暮ってもんだろ?」

 

「本音、空気読もうよ……」

 

「あらあら、若いっていいわね~」

 

「先生も十分若いですよ。でも、青春してるね!」

 

星花さんと簪さんはのほほんさんに非難の視線を向け、アイリさんと藍さんは微笑ましそうに俺達を見ていた。

 

『……?』

 

俺達はどうしてそんな視線を向けられるのかわからず、互いに顔を見合わせては首を傾げることしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 







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