LBX、発進します!
Side空
6時に起床し、バリアジャケットに着替えてから朝の特訓を始める。
以前は1週間に2、3回のペースで行ってきたことを、最近では毎日のようにしている。
いつもなら
ここが知らない土地であるので、軽くジョギングをしながら今いる場所―――IS学園の敷地内を見学する。そして、ここが異世界―――しかも異能がほとんど無い世界―――だから、なるべく力の使用は控えることにしているから練習をしない、というのも理由としてある。
昨日起こった事件(?)でハサンという暗殺者に使った異能は、六喰の能力で英霊以外は封じさせてもらった。
九喇嘛の力を使ったものの、すぐに誰かが叫んだりしなかったのは転生者の能力を見て慣れているからかもしれないが。
「ここが校舎で……あっちがアリーナ。それからあれは……柔剣道場、かな?」
気になったので近づいていくと、中から気合の入った声や足が床に踏み込む音が聞こえてくる。
格子状の木製の窓の隙間から中を覗いてみたら、中では女子数人が剣道をしていた。朝練の時間のようだ。
「剣術は士郎さんや恭也さんで見たことあるけど、剣道は初めてだよ」
「ならばやってみるか?」
「へ?」
覗いていた窓に、いきなり一人の少女が現れた。窓の下に座っていて俺の呟きが聞こえたのだろう。
「それで? 剣道をするか?」
「……お邪魔でなければ」
「そうか。そこで少し待っていてくれ。私が今からそこに行く」
少女は道がわからない俺を気遣って、わざわざ俺のいるところにまでやってきて、中に入れてくれた。
部員の人にも話を通してくれているのか、俺が入って来たことに何かを言う人はいなかった。ただし、好奇の視線は多かった。
竹刀を受け取り、案内してくれた少女が対面に構える。構え方は剣道の知識がないので相手のを見様見真似だ。
流石に小学生サイズの防具はここには置いてないからバリアジャケットのままで剣道をすることになった。
「さあ、どこからでも打ち込んで来い」
先手を譲ってくれたので、頷き返して遠慮なく打ち込みに行く。
タンッ、と床を軽やかに踏みつけ距離を縮める。そして、下からの逆袈裟斬り。狙うのは胴。頭は身長差で届かない。
「ッ!」
少女は竹刀を逆さにして俺の攻撃を防いだ。
「お姉さん、上手いですね」
「これでも全国大会優勝の実績があるからな。そう簡単に一本取られたりしない」
全国大会優勝!? そりゃ、取れないよ……。
「ここからは私のターンだな。出来るだけ痛くしないようにしてやる。めーーーんッ!」
あ、剣道って声も出さないと一本とれないんだっけ? それに判定の範囲は面、胴、籠手だから脚は狙えないか。
頭の中で剣道のルールを考えながら少女の竹刀を自分の竹刀をぶつけて逸らす。気合の入った掛け声とは裏腹に、初心者の俺に手を抜いてくれてるので、体重が乗っていない竹刀は簡単に防ぐことが出来た。
「そいやっ」
少女の竹刀をいなし、そのまま胴目掛けて竹刀を振り抜いた。
知らぬ間に他の女子が審判をしていたらしく、判定は一本だった。俺の勝ちだ。
「なかなか筋がいいな……!」
少女は嬉しそうに駆け寄って来た。
「手加減されてたらあれぐらいは出来ます」
「そう謙遜をするな。確かに私は手加減をしていた。しかし、お前が将来有望であることは間違いない。ぜひ剣道を始めてみるといいぞ」
「…………考えておきますね」
人間じゃない俺が普通の人とやったところで勝負にならないだろう。実際、今の試合だって相手だけではなく、俺の方も手加減をした。
あー、なんか卑屈な考えが最近多くなってきたかも……。うん、こういうのは考えないようにしとこ。
適当に返事を返し、剣道部の人にお礼を言ってから道場を出ていった。
借りている部屋に戻ってシャワーを浴びて休憩していると、部屋の扉からノックの音が聞こえた。
「はーい」
扉を開けるとこの学園の制服を着た男子生徒が立っていた。
「朝飯食いにいこうぜ。あ、それから俺は織斑一夏だ。気軽に一夏でいいからな」
内容は朝ご飯のお誘いだった。多分この学園のことをわかっていない俺のことを気遣ってくれたのだろう。
織斑? 織斑先生と関係のある人かな?
「龍神空です。空って呼んでください。どこでご飯を食べたらいいのかわからなかったので助かりました」
「そいつは良かった。じゃあ、俺についてきてくれ」
一夏さんについていき、食堂に向かった。
「え、箒に勝ったのか!?」
朝ご飯を食べながら今朝の剣道部での出来事を一夏さんに話したら相当驚かれた。
「手加減してもらってましたけど。ね? 箒さん」
最初は二人だけだったが、食べているとドンドン人が集まって来た。その全員に名前呼びで構わないと言われたので、剣道の試合をしてもらった相手―――篠ノ之箒さんも箒さんと呼んでいる。
「まあな。だが、初めてとは思えない動きだ。運動神経も反射神経も動体視力もどれも凄い奴だぞ」
精霊や御神の剣士と戦ってたら嫌でも鍛えられるので……。
なんてことは言えないので、その場は愛想笑いで誤魔化しておいた。
「―――違う。そこは強くだ」
指摘されて、一度演奏を止める。
「あ、ホントだ。ごめんごめん。もっかいやり―――なんで俺バイオリン弾いてんの?」
バイオリンを構えなおそうとして気が付いた。
「知るか」
目の前にいる俺よりも少し背の高い青髪の少年に問いかけたら一蹴された。
えーっと、確か……。
どうしてこうなったかの経緯を思い出す。
朝食が終わると学生達は授業がある。それ故、この学園の生徒ではない俺は暇を持て余していた。
「おい、お前。暇そうだな。少し付き合え」
「え? ちょっ!」
退屈しのぎにまだ見終わっていない校舎内を回っていたら声の渋い青髪の少年と出会ったのだ。この少年からもあのハサンと呼ばれた人と同じように魔力があった。
「ここは……?」
俺の返事も聞かずにスタスタと前を歩き出した少年を追いかけて着いたのは音楽室だった。
中に入ると他にも男性が数人いた。
「これを持て」
少年から手渡されたのはバイオリンだ。反射的にそれを受け取ったものの、ただただ困惑するだけだ。
「楽譜は読めるか?」
「そこそこは出来るはずだよ」
アリサや明日奈の家に遊びに行ったときにちょいちょいピアノの弾き方を教わっていたので、楽譜をある程度分かるようになっていた。
「よろしい。バイオリンは弾いたことはあるか?」
「ないけど……」
俺が弾ける楽器はピアノぐらいだ。
「ならば教えてやる。説明するから聞いておけ」
「う、うん、わかった」
うへー、これから憶えて弾けってこと? 退屈しのぎにはなりそうだからいいけど。
そうして一時間程教え込まれて今に至るわけだ。
知るか、って言ってたけどこの少年の所為じゃん!
文句を言いたくなったが、暇を潰す手助けをしてくれた彼に感謝をしているので言わないでおくことにした。
ちなみに彼の教え方はかなり上手いがとてもスパルタで、鮫島さんに執事のイロハを叩き込まれたときを思い出した。
短い回想をしているとチャイムが鳴った。先程にも同じのを聞いたので授業の終わりを告げるもので合っているはずだ。
「ちょうどいい。ここで一旦休憩にする。次のチャイムが鳴ったら再開するから、それまで自由にしていろ」
少年は傍にあった椅子に腰を掛け読書を始めた。
「あのさ、君は誰?」
「む? ……ああ、そう言えば、自己紹介せずに連れてきてしまったな」
少年は本を閉じてからこちらを向いた。
「俺は―――――ハンス・クリスチャン・アンデルセンだ。アンデルセンで構わん」
ハンス・クリスチャン・アンデルセン…………え!?
「それってあの有名な童話作家の!?」
少年の名は、誰もが知っている童話の親指姫やマッチ売りの少女の作家であった。
故人のはずじゃ……? と疑問に思ったが、この少年は英霊と呼ばれる存在。転生者の一人―――衛宮藍の特典によって存在しているので、俺の目の前にいるのはおかしくないことだということに気が付いた。
「アンデルセンの他にもいろんな英霊がいるんだよね? あそこにいる人達は?」
(おそらく英霊)男性三人のことをアンデルセンに尋ねる。
「あいつらも俺と同じ英霊だ。緑色のコートを着ているのがシェイクスピア。黒いコートに紫色の布を腰に巻いているのはモーツァルト。もう一人の黒いコートを着ているのはファントム―――――わかりやすく言うとオペラ座の怪人に登場した怪人のモデルになった男だ」
アンデルセンの口から出たのはどれも有名な人達の名前だ。
「英霊ってヘラクレスとかアーサー王みたいな人かと思ってたけど、案外、音楽家みたいな人でもなるんだね。ひょっとすると、科学者とか芸術家の人とかももなってるの? エジソンとかレオナルド・ダ・ヴィンチとか」
「普通はお前の考えで間違いないだろうな。俺自身、どうして英霊になったのか不思議でならん。それからお前の質問に対する答えは―――自分の目で確かめるんだな。さあ、休憩はここまでだ。続きを始めるぞ」
再びスパルタ指導が始まり、最後には他の英霊達の前でアンデルセン達と俺、(俺の体から出てきた)美九の六人で演奏した。
演奏会が無事に終わり、学生からすれば放課後の時間帯に一夏さんがアリーナで練習すると聞いたので、向かってみることにした。
「お、空じゃんか。こっち来いよ」
ISを操縦中に、俺に気が付いた一夏さんが機械の腕で手招きをしていた。
「一人で練習ですか?」
「ああ。箒達は部活があるから後から来るはずだぜ。俺も生徒会に入ってるけど今日は特に仕事がないから一人で先に始めてたんだ」
「……ふーん。それなら皆が来るまで相手でもしましょうか?」
「え? 空はIS持ってないだろ?」
「ISは持ってないですけど似たようなのならあるんで、それで戦えると思います」
『ほう、アレを使うのか』
ドライグ達は俺が何をしようとしているのかすぐにわかったようだ。
「だけど……いや、折角の申し出だ。危険だと判断したらすぐに止める。それでいいか?」
「はい。お願いします」
一夏さんから離れ、軽く準備運動をする。
「〈ブレイブ、いつでも行ける?〉」
《〈もちろんです〉》
ブレイブが付いている左腕を前にかざし、起動させる。
「―――――ブレイブハート、モード・LBX!」
《Mode・LBX起動》
俺の掛け声に合わせてブレイブから白い光の粒子が溢れ出し、俺の体を包み込んでいく。
《〈機体形成完了。確認開始。機体状態―――オールクリア。操縦者との同調率―――オールクリア。最終調整箇所―――オールクリア。全項目―――オールクリア〉》
粒子が機体を形成し終えると、ブレイブが状態を確認する。
目に映ったのは自分の腕を覆う蒼い金属の腕。腕だけでなく、体全体が金属で覆われている。
この機体はエルトリアで博士に作ってもらったものだ。
エルトリアにいた魔獣相手にも実践済みなので問題はないはずだ。
「それがISに似たようなのってわけか……。へへっ、なんだか強そうな機体だな! さあ、やろうぜ!」
一夏さんは、童心に返るような笑い方をしてから左腕に付いた砲身で攻撃してきた。
牽制……ってところかな。
距離が大分開いているので躱すのは簡単だ。
地面を滑るように移動しながら、ブレイブに登録してある量子化された銃を左手に出し、連射する。
「おっとアブねっ」
一夏さんが左手を前に翳すと、シールドのようなものが展開され、銃弾はすべて防がれてしまった。
俺の攻撃を防ぎきったら即座に攻めてきた。
「
昨日調べた限りでは、瞬時加速とはISの加速技術の一つであると知った。
背中のスラスターから勢いよくエネルギーを噴出し、取り込み、また噴出。簡単に言えば「溜めダッシュ」。
でも、この技には欠点がある。それは―――直線でしか加速移動できないということだ。
無理をすれば曲がれないこともないらしいが、操縦者に相当な負担が掛かるので実行する人は滅多にいないだろう。
「はああああああッ!」
加速しながら刀で斬りかかって来た。
「〈ブレイブ、タイミングは頼んだよ〉」
《〈はい。……カウントダウン開始3秒前………2………1………今です〉》
ギリギリまでひきつけ、上に高く飛び跳ねる。
「なッ!?」
上から銃を連射する。
命中したが、不可視のシールド(?)に守られて一夏さんの体に傷が出来ることはなかった。
これはISに備わる操縦者を守るためのシールドバリアーというものだ。
「これでおしまい……!」
銃を量子化してブレイブの中に戻し、今度は量子化されている蒼い戦斧を両手で握りしめ、振り下ろす。
シールドエネルギーが無くなったのか、一夏さんのISが動かなくなった。
「くっそー! スッゲー悔しい!」
「はっはっは。あの戦い方だと俺に勝つのは何十年先の話になるんでしょうね?」
「見てろ、明日また試合しようぜ! 次は勝つ!」
「俺はあと変身を3つ残してるんでそう簡単には勝てませんよ」
「どこのフリーザ様だよ!?」
そこから一夏さんの戦い方にアドバイスをしている内に、他のメンバーもやって来たので一人一回ずつ試合することになった。
Sideout
Side???
アリーナの屋根の上で織斑一夏と異世界から来たという少年―――龍神空の試合を見ていた。
「ふむ。彼はハサンの言う通り、ただ者ではないようですね」
ISとはまた違ったメカに乗っていたが、アレは本来の力を隠すためでしょう。
もしも……もしも彼が
大変心苦しいですが、セイバーがこれ以上増えるのは見過ごせません。
ですから、龍神空、君には何の恨みもありませんが、私は君を倒します。
―――――このセイバーの決定版である私が。そう! セイバーの決定版で最強で最良でセイバーの中のセイバーである私が!