完全無欠の戦いです!
Sideヴァーラ
『さーてと、早速勝負といこうぜ』
左手の人差し指を動かして砕け得ぬ闇を挑発する。
「勝算はあるのですか?」
『当然だ。……ああ、そうだ。一つ聞いてもいいか?』
「なんですか?」
『お前の持ってるエグザミアってのは、お前の魔力の源か?』
「大切な物です。それが無くなれば……私は体が保てなくなってしまいます」
アレだけ膨大な魔力を持つのなら、必ず何かあると考えた。そして、それはキリエが言っていたエグザミアで間違いないようだ。
無くなると体が消える。つまり、砕け得ぬ闇は死ぬ、ということだ。だが、最初から奪うつもりはないのでそのあたりのことは問題ない。
『お前を消すつもりなんてねぇから安心しとけ。むしろ生きてもらわないと、あとで色々言われるに決まってるっての……』
「ディアーチェ……ですか?」
『ああ、お前の考えてる通りだよ―――――っていつまでも話してる時間はねぇんだった。悪いが最初から飛ばしてくぜ』
「私はあなたを殺したくありません。だから死なないでください。……今の私にはこのシステムのほとんどが制御できませんから。―――――白兵戦システム起動……出力、35%」
白かった服が血のように赤く染まり、顔には赤い痣ができた。魔力量も先ほどよりも更に膨れ上がる。
こりゃいいな……! 益々燃えてきた!
『ドライグ、アルビオン! 行くぞ!
《Emperor Dragon Balance Breaker‼》
自分で名付けた
本来、二つの
神様はすごい。それ以上は考えないことにしている。
『オラッ!』
開始の合図など存在しない戦い。先に動いたのは俺の方だった。砕け得ぬ闇に接近し、右ストレートをお腹に一発を入れる。
『チッ……』
小さな舌打ちをする。
俺の攻撃は彼女にギリギリのところで防御魔法で防がれ、俺の背後から赤黒い巨大な手が迫って来た。
『フンッ!』
武装色の覇気を脚に纏い、その場で独楽のように一回転して弾いた。
「消えろ」
口調が若干変化した砕け得ぬ闇が、小さな体には不釣り合いな巨大な剣を両手に作り出して斬りつけてくる。
『消えねぇよ』
左右から迫ってくる剣をそれぞれの手で掴む。
魔力なしでなら単純な力は俺の方が強い。
相手が自分の力を強化するよりも先に半減の力を使って耐久力を減らし、倍加の力で自分の力を増やす。すると、簡単に剣は砕け散った。
「まだだ。貫け」
攻撃を防がれたことに眉一つ動かさず、数本の槍を投擲。数は多いとは言えないが、一本一本が大きい。即座に破壊するのは難しいと判断した。
《Half Dimension‼》
白い靴の青い宝玉からアルビオンの声が響く。
半減する空間を展開し、速度を落として上に逃げる。
俺が躱して、数秒後に槍が地面に衝突。爆音をあたり一面に鳴り響かせた。
『大した威力だな……』
ドライグが珍しく褒めていた。それでも自分の方がもっと強い攻撃が出来ると思っているのか、どこか見下している部分があるように感じられた。
実際、ドライグは強い。倍加や透過、なんでも燃やす炎。チート能力盛りだくさんだ。
「白兵戦システム……出力、80%」
いきなり上げてきたな……。あいつ自身の体は持つのか?
あんな小さな体が膨大な魔力に耐えられるとは到底思えない。これ以上戦いを長引かせるとなると、彼女の負担が大きくなるだけだ。それに、時間がないのはこちらも同じことだ。
―――――本気……出すか。
『行くぞ、お前ら』
『何時でもいいぞ』
ドライグ達の了承を得ると、すぐさま行動に移す。
『ハァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!』
地面に降り立ち、ありったけの魔力を体内で巡らせる。周囲にあった小さな石が浮き上がり、地面に亀裂が入る。
そして体に変化が起こる。
髪の色は変化していないが、より細かく逆立ち、自分の周囲に青いプラズマが発生している。側頭部からは小さな蒼い角が二本生えてきた。
『こいつが……
Sideout
Side美桜
「へぇ……そういうことなんだね」
クロノとかいう少年に頼み、ヴァーラと砕け得ぬ闇? とかいう子の戦闘を見せてもらっていた。
そして、ヴァーラという少年は空君とヴァーリ君の二人が
空君は間違いなくハル君だ。
先程会ったときは否定されてしまったが、それは記憶が無くなっているか封印でもされているせいで分からないだけだろう。
でも、困ったなぁ……。
ハル君もとい空君はこの世界の人達と仲が良い。決して断ち切れない絆がある。確かに彼には帰ってきてほしい。その想いが一番にある。だけど、彼らを無理矢理引き裂くわけにはいかないのだ。
「話だけでも聞いてもらえないかな?」
Sideout
Sideユーノ
姿の変わったヴァーラが不敵に笑った。
凄い魔力だ……!
モニター越しで二人の戦闘を見守っている。僕がここにいるのは皆のようにデバイスが無いからだ。
バリアジャケットのない僕らは、下手をすれば命を落とす。それをクロノに危惧されて、アルフやリニスさんなども外に出ていない。
「頑張って、空、ヴァーリ」
安全な場所から応援することしかできない自分に悔しさを感じながらも、モニターから一時も目を離さずにいた。
Sideout
Sideヴァーラ
『宣言しといてやる―――――お前は、今から俺に指一本触れることさえ出来ずに負ける』
「愚かな―――――ッ!?」
砕け得ぬ闇が何かを言っている最中に接近して蹴り飛ばした。小さな体は地面に墜ち、巻き起こった砂埃によって姿が確認できない。
『時間がねぇんだ。さっさとやられろ。〈いつでも使える準備しとけよ〉』
『〈うん!〉』『〈ええ!〉』『〈ああ!〉』『〈はい!〉』
砕け得ぬ闇を砕くために、なのは達の誰かにカートリッジを打ち込んでもらわなければならない。
『―――――ビッグバンかめはめ波!』
ほぼノーチャージでさらなる追撃。だが、手応えがない。防がれたようだ。
砂埃が晴れると、先程とは比べ物にならない数の巨大な槍が迫って来た。
『だから、言っただろ。お前は指一本触れることさえ出来ないって』
《DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide‼‼‼‼‼》
《DivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivideDivide‼‼‼‼‼》
一度でも相手に触れればアルビオンの力は効く。半減の力が発動し、槍が小さくなり、迫ってくる速度も落ちる。
さらには砕け得ぬ闇の力を半減し、その分を吸収して自分の力にしている。
自分に当たりそうな攻撃だけを避けた。
『攻撃が随分お粗末だな』
これはカートリッジを使うチャンスが近いかもしれない。
再び、砕け得ぬ闇に接近。
向こうも二度も同じ手は効かないと言わんばかりに、巨大な手で掴みかかって来た。
だが、何も掴めなかった。
『こっちだウスノロ』
「ッ!? ……今のはなんだ?」
『ま、所謂残像拳ってやつだ』
高速で移動して、相手に残像を認識させて攻撃を躱す。
フェイトやアリシア、明日奈も似たようなことが出来る技だ。
『多重影分身の術』
印を素早く結び、忍術を発動。大量の分身を一気に作り出した。その数―――約二千。本来、ものすごい膨大な魔力を使うのだが、元々の魔力と砕け得ぬ闇から奪った魔力も相まって、これだけの人数に分身してもまだ余裕がある。
『死ぬなよ、砕け得ぬ闇』
二千人の分身が一斉に迫る。
防ごうとして周囲に魔力弾や剣、拳、槍を作り出すが、半減の力で速度は落ち、小さくなり一つも当たらない。
『て!』
最初の十人が上に蹴り上げる。
『ん!』
次の二十人が殴り、蹴り、更に上に押し上げる。
『りゅ!』
次の三十人が同じように繰り返し、より高く天に押し上げる。
『う!』
そこから四十人が地面に向かって叩き落としていく。
『二千!』
砲撃、頭、拳、脚。様々な攻撃が残りの分身から放たれ、地面に打ち付ける。
『魔龍連―――――ん?』
魔力を右手に集めてとどめの一撃を入れる―――――ことはなかった。
『……気絶してんのか。やり過ぎたな』
地面に横たわる少女を見て、これ以上は不要だと判断し、拳を止めたのだ。
『砕けないから砕け得ぬ闇なのに、砕けちまったな。ま、結果オーライだからいいか』
なのは達を呼び寄せ、カートリッジを打ち込む。制御プログラムは無事に起動し、これ以上の暴走の心配は必要ないようだ。
『俺も限界か……』
フュージョンの限界が来た。意識が徐々に途切れていき、二つに割れるような感覚と共に完全に意識をなくした。
Sideout
Side空
砕け得ぬ闇を倒したが、ケガが酷かった。ヴァーラ(実質、俺とヴァーリ)が相当やり過ぎたせいだ。
そして、今はアースラ内の医務室にて気絶中の少女の治療をしている。
ちなみにアミタさんは俺達の戦闘中にアースラに到着していたらしく、キリエさんと話し合ってるそうだ。
「おい、空! いくらなんでもあれはやり過ぎではないか!」
加えて王様からの説教も受けている。
「いやー、強い相手だったからつい燃えちゃって……」
王様に顔だけ向けながら、
砕け得ぬ闇―――――本来の名前はユーリ・エーベルヴァインだということをシュテルが教えてくれた。
「……よし、これでもう平気かな」
完全にとまではいかないが、目立つようなケガはほとんど治せたはずだ。あとは本人が目覚めるのを待つだけだ。
「俺、お昼の準備してくるからユーリのこと頼むね」
「言われなくともわかっておる!」
部屋を出てアースラのキッチンに入り、気合を入れて料理作りを開始した。
「良い匂いね。これはあなたが?」
「はい、そうですよ」
キッチンでカレーとヴィヴィオの要望でハンバーグを作っていると、黒髪の女性が声をかけてきた。遥とかいう人と俺を勘違いしていた人達の一人だ。
「あの、えっと……」
「……? ああ、もしかして私の名前? 私は朝馬香澄よ。香澄でいいわ(……記憶がない、か。ちょっと辛いわね)」
俺がゴマついていると名前を教えてくれた。名前を言った後で、少しだけ悲しそうな顔していたことに気が付いた。
「俺は龍神空って言います。香澄さんは―――」
「さんはいらないわ。敬語も禁止よ」
「年上の人にそれは……」
「それもそっか。じゃあ……お姉ちゃんでいいわ。それなら敬語なんて使わないでも平気でしょ?」
そういう問題ではないと思うのだが、呼び捨てにするよりかは幾分かマシだろう。
「香澄お姉ちゃん……これでいい?」
「上出来よ(……か、可愛いわね)」
「それで香澄お姉ちゃんはどうしてここに?」
「誰が料理をしてるのかが気になって来ただけ。私達の分もあるの?」
「うん、もちろんだよ!」
「ありがとね。……久々にあなたの料理が食べられるんだ……」
その答えに満足したのか、キッチンから出ていった。最後の方に何か言っていたようだが、小さすぎて聞き取れなかった。
「お腹空いたよー……」
香澄お姉ちゃんと入れ替わるように、いかにもお腹が空いてそうな様子のレヴィが入って来た。
「もうじきできるから待ってて」
「もうじきってどのくらい?」
「五分くらい……かな?」
「ええッ!? あと五分も!? 僕そんなに我慢できないよ!」
余程お腹が空いてるらしくて、たったの五分も待てないそうだ。
これはどうしたものか悩んでいたら、とりあえず冷蔵庫をあさってみることにした。
「あ、チョコがある」
食事前にお菓子を渡すのはどうかと思うが、これで多少の空腹は抑えられるだろう。
「レヴィ、これで我慢してね」
「なにこれ?」
「チョコ。甘くて美味しいよ」
「スンスン……甘い匂いだ」
警戒するようにチョコを見てから、安全と判断してから板チョコを受け取り、包装紙を乱雑に破り捨て、口に入れた。
「! 甘い!」
口に入れると眼を大きく開け、美味しいものだとわかると、すごい勢いで食べきってしまった。
「おかわりないの?」
「これ以上はダーメ」
両手でバツ印を作り却下した。
「えー!? もっと食べたいよー!」
「ご飯の後でもっと美味しいデザート出すから我慢してくれない? それにちょうどご飯も出来上がったから」
「もっと美味しいの!? わかった、我慢する!」
機嫌が直って目を輝かせていた。
「それからこれを運ぶの手伝ってくれない?」
「全然いいよ! 美味しいデザートのためだからね!」
「アハハ、ありがと、レヴィ」
他の人にも運ぶのを手伝ってもらい、食堂で皆にカレーとハンバーグを配る。
デザートは影分身を出して作り始めた。
『いただきます!』
皆揃ったのを確認して、一斉に食前の挨拶をする。
食べていると所々で美味しいという感想が聞こえる。
「ユーリ、美味しい?」
「はい……とっても美味しいです」
俺の隣に座るユーリに味の感想を聞いてみたら彼女から好評を得られた。ケガは治療が効いているのか、大丈夫そうだ。
「そっかそっか。そう言ってもらえると作った甲斐があるよ」
「これ、あなたが作ったんですか?」
「うん、そうだよ。……意外だった?」
「いえ。むしろ、あなたらしい味だと思います」
俺らしい味? そんなこと初めていわれたなぁ……。ま、悪いこと言われてるわけじゃないからいいか。
「王様は?」
続いてユーリの向かい側に座る王様に聞いてみた。
「フン、まあまあだな」
「嘘は良くありませんよ、ディアーチェ。先程まで美味しそうに食べていたではありませんか。私はとても美味しいと思いますよ」
王様の隣(俺からすれば対面)に座るシュテルが王様の感想を否定してきた。
「う、うるさい! 余計なことは言わなくていい!」
シュテルの言い方から考えると、王様の口には合っているらしい。
「レヴィは……聞くまでもなかったね」
王様のもう片方の隣の席に座るレヴィは誰よりも早くにカレーとハンバーグを平らげていた。
「おかわりいる?」
「いる!」
レヴィの皿を預かり、おかわり分のカレーを盛る。皿が目の前に置かれると、ものすごい勢いで食べ始めた。その光景を微笑ましく見ていると。ユーリの手が止まっていることに気が付いた。
「もうお腹いっぱい?」
「いえ、そうじゃないんです。……私が……私みたいな兵器がこんな美味しいものを食べていていいんでしょうか?」
兵器、ねぇ……。
「ユーリが兵器だとしたら、その兵器を倒したヴァーラ……というか俺とヴァーリは一体何なんだろうね?」
俺は人間じゃない“ナニカ”、ヴァーリは半分魔王の血を引く悪魔。世間一般からすれば化け物と言ったところだろう。
「それは……」
「あ、別に意地悪してるわけじゃないんだよ。ただ、今のユーリが深く考えなくてもいいことじゃないかな? って思ったんだ」
制御プログラムが打ち込まれた状態の彼女は王様が近くにいることで暴れる心配はない。これ以上何かを壊すことはないのだ。念のために六喰の力も使うつもりだ。
「……では、私はこれからどうすれば?」
そっちの方が重要な問題だろう。
「当面は家に来なよ。それから先のことはこれからゆっくり考えればいいさ」
「……そんなに楽観的でいいのでしょうか?」
ユーリが心配するのも無理はない。
「んー……大丈夫じゃない? 王様がいれば君が暴走することはないんだし、もしも誰かが君を狙ってるなら、俺が……ううん、俺だけじゃなくて皆が絶対に護るから」
「…………はいっ」
儚い微笑みを浮かべて返事を返してくれた。
「というわけで、今日からユーリは龍神家の一員になりました。王様達も来るよね?」
「我を差し置いて勝手に決めるでない!」
「僕は空の家に住むのに賛成ー。毎日美味しいご飯が食べられるからね」
「私も賛成です。一文無しの今の私達からすれば、衣食住を約束されているというこれほど素晴らしい提案を断る理由がありません」
レヴィとシュテルは賛成の意を示した。
「って二人は言ってるけど?」
「ディアーチェ……」
ユーリが涙目で王様に訴えかけていた。
「ぐぬぬ……ッ! ええいッ! 貴様がそこまで言うのなら住んでやろうではないか!」
「ありがと。四人を歓迎するね」
「フン!」
周りの空気に流されたのが気に食わない王様は不機嫌そうにそっぽを向いてしまった。
デザートでも出せば機嫌が直るだろうという安直な考えで、皆にデザートを配りだした。
「あ、そうそう。今日からユーリは―――――俺の
次回は空君が星一つ壊……じゃなくて、救います。