砕けないのはダイヤモンドじゃなくて闇です!
Side空
クロノから送られた座標は地球ではなく、以前ナハトヴァールを倒した次元世界だった。
全員送ると、地球にいる闇の書の欠片を倒す人が居なくなってしまうのでメンバーを分けた。
俺達が目的地に転移すると、巨大な魔力が一か所に集まり黒い球体となっていた。
そして、そのすぐ傍には、探していた四人がいた。
アミタさんはここにはいないか……。
「来たか、空」
俺達が近づいたことに気が付いた四人の内の一人、ディアーチェが口を開いた。
「来たよ。……今更なんだけどさ、目的は何?」
「フン。貴様に答える義理はないな」
「あ、悪いけど王様のじゃないよ」
砕け得ぬ闇を手に入れることしかしならないけど、それ以上に気になっていたことがある。
「んなッ!? では誰に聞いておるのだ!?」
「俺が聞きたいのは、キリエさんの目的だよ」
この人は何のために砕け得ぬ闇を求めているのか、そもそも何者なのかすらわからない。……二亜の天使使えば一発なんだけど。
「あらー? 私? ダーメ♪ 女の子には秘密が多いのよ? 覚えておくといいわ、天使君♪」
わかってはいたが、キリエさんのような掴みどころのない性格からすると絶対に教えないだろう。
「……ま、いっか。君たちが悪いことをしてるって決めつけるのはまだ早いけど、君達を止める。……ついでにリベンジマッチでもしとく?」
「よかろう。昨日は中断せざるを得なかったからな」
「あーッ! ずるいよ王様! 僕だって空にリベンジしたいよ!」
「王よ、ここは臣下に譲るべきです」
「ええいッ! 黙らぬかッ! 誰が何と言おうと貴様らは我の次だ!」
「そんなの横暴です」
「そーだそーだ!」
誰が俺と戦うかで三人は喧嘩になってしまった。
「王様ー、こっちは準備が出来たんだけど……」
三人が言い争っている間に砕け得ぬ闇と思わしき黒い球体が完成したらしい。
「何ッ!? それは真か!?」
「え、ええ……」
「それならすぐに蘇らせろ! 桃色!」
「はぁーい♪ 強制起動システム正常、リンクユニットフル稼働」
キリエさんがディスプレイを弄ると、黒い球体に変化が訪れる。
「さあ蘇るぞ! 無限の力『砕け得ぬ闇』!! 我の記憶が確かなら、その姿は『大いなる翼』! 名前からして戦船か、あるいは体外強化装備か―――――」
「んー、こんな感じかしらー?」
ディスプレイを操作して空中にメカメカしいロボットのホログラムを映す。
「おお! なかなかカッコイイではないか」
どうやら王様には好評らしい。
「え……あれ、カッコイイ?」
「うーん、あれはちょっとないかなー」
「私にはさっぱりです」
王様と違い、俺、レヴィ、シュテルには不評だった。
一緒に来たヴァーリ達も首を傾げていたことからイマイチらしい。
「というか王様を止めないの? 僕ら一応敵なのに」
「そんなこと言いながらいつでも戦える準備してるくせに」
「バレていましたか」
「バレバレだよ」
俺がキリエさんか王様を狙えば、二人は必ず止めに来る。――――俺を殺すつもりで。
「ともあれ、この偉大な力を手にする我らに負けはない! 残念だったな空とその愉快なお供たち。フハハハハ! さあ蘇れ、そしてわが手に収まれッ! 忌まわしき無限連環機構、システムU-D――――砕け得ぬ闇よッ!」
「――――でもさ、何もしてないわけじゃないよ」
『え? ――――――――――ッ!?』
二人が気付くが、もう遅い。
『―――――――【
ここよりずっと遠くからやって来た赤い光線が黒い球体を呑み込んだ。
「……今のは……闇の書の闇を消し去った一撃……? ッ! 空! 貴様かッ!」
犯人は俺だとすぐにわかり、王様が睨んできた。正確に言えば、俺ではなく琴里が龍精霊化して撃ったものだ。今はドライグと別れ、六喰の天使の力で家に戻っているだろう。
「まあね。これで――――――――は?」
煙が晴れた先で見たものに自分の目を疑った。
黒い球体は何もなかったかのようにその場にあった。そして、二つに割れた。
その中から――――――――一人の少女が現れた。
「ユニット起動――――無限連環機構動作開始。システム「アンブレイカブル・ダーク」正常作動」
なるほどね、U-Dってアンブレイカブル・ダークの略したものだったんだ。和訳すると『砕け得ぬ闇』になるわけね。
「ぶ、無事……お? おおお?」
「はいっ?」
『え……?』
誰もが目を見開いた。琴里の一撃が防がれたのもあるが、砕け得ぬ闇の正体が少女だったからだ。
「ちょっと王様? システムU-Dが人型してるなんて、聞いてないんですけどッ!?」
「むう、おかしい。我の記憶でも、人の姿をとっているなどとは……記憶が曖昧なのも空が我々を吹き飛ばしたせいだ!」
あれッ!? なんか俺のせいにされた!?
「あー……とりあえず、『砕け得ぬ闇』やから……ヤミちゃん?」
何故かはやては早速名前を付け始めた。
「いや、もっとクレイジーな名前の方がいいんじゃないかな?」
「例えばどんなのや?」
「クレイジーダイヤモンド」
「まんまスタンドだよね!?」
「東方仗助は?」
「それはスタンド本体の名前! しかも性別違うから!」
はやて、なのは、フェイト、愛衣、あかりが名前であれこれ言っている間にもシステムU-Dは作動していた。
「視界内に夜天の書を確認―――――防衛プログラム破損、保有者確認、困難……」
「〈夜天の書ってことははやての出番じゃない? 声でもかけてみれば?〉」
「〈せやな。ちょっと挨拶してみる〉あ……あの、こんにちは、現在の夜天の主、八神はやてです!」
「待てェーいッ! うぬら、何たる横入りッ! 起動させたのは我ぞ!」
「起動方法伝授したのは私です~!」
「でも、夜天の書の主は私やし……」
「黙れ黙れッ! これは我のものだ! 誰にも渡さんぞッ!」
「あーん、王様、話が違います~!」
またしても(今度は違うメンバーでだが)言い争いが始まった。
その光景に誰もが気を緩めかけた時――――――少女が動き出した。
膨大な魔力が少女の下に集まり、赤黒い魔力の翼が出来上がる。
「状況不安定……駆体の安全確保のため、周辺の危険因子を……」
あ、これはヤバい。頭ではなく本能で理解した。
「ヴァーリ!」
「わかってる!
《Vanishing Dragon Balance Breaker‼》
俺もヴァーリの続いて白龍皇の
《Half Dimension‼》
二人で半減する空間を広げ、皆と少女の間に割り込む。
「排除します」
少女が赤黒い魔力の巨大な手を振り下ろす。
半減の力が効いて少女の攻撃は遅くなった。しかしそれもすぐのことで、魔力が加わると元の速さに戻り、俺とヴァーリを叩き潰した。
ギリギリで防御魔法を展開できたのでダメージは最小限に抑えられた。
「ヴァーリ、これはちょっとまずいかもね」
体の上にある瓦礫を吹き飛ばしながら、ヴァーリと這い上がる。
「ここは引くべきだな」
「でも、俺達じゃできないな」
「なら、答えは一つだ。俺達じゃない奴がやればいい」
「ってことは……あれか」
「あれしかない」
バリアジャケットについた汚れを払い、二人で横に並び立った。
Sideout
Sideなのは
空君とヴァーリ君の二人がたったの一撃でやられた。それも私達が知る中で強いともいえる二人があっさりとだ。
私は……私達はその事実が受け入れられないのか、動けないでいた。
「空中打撃戦システムロード。出力上限、5%」
―――――勝てない。
その一言が頭をよぎる。
魔力が私達とは次元が違う。
あまりにも強大過ぎる力の前では逃げることすらできないと思い知らされているようだ。
「墜滅、開始」
「させるか! 九喇嘛!」
『応ッ!』
地面から出てきた橙色の狐が、少女をその大きな口で喰らおうとする。それを少女は魔力で作った刃で切り裂き、狐を消し去った。
「フハハ、よくやったぞU-D! 空と白龍皇の退治、大義であった!」
私達とは違い、動揺がなかったはやてちゃんに似た女の子――――ディアーチェちゃんが少女を褒め称えていた。
「闇の書の構築体、ユニットD―――――駆体起動を認証」
「うむ。貴様も含めて、闇の書が闇の書たる万象すべてを統べる王。それが我よ」
「―――――ディアーチェ……ディアーチェですか?」
途端に少女の様子が変わった。機械的な言葉じゃなくて、人間的な言葉をようやく発したのだ。
「そうとも我が名は
「シュテルや、レヴィも……?」
「ここに」
「僕もいるよー!」
三人が少女の近くに寄っていく。
「会えて嬉しい―――――本当は、そう言いたいです」
「……なんと……」
「だけど、駄目なんです……私を起動させてては。皆私を制御しようとしました。でも、誰もできませんでした。だから必死で沈めました。私に繋がるシステムを破断して、別のシステムで上書きして、闇の書に関わる全ての情報から私のデータを抹消して……夜天の主も管制融合騎も知り得ない、闇の書が抱える本当の闇―――――それが―――――」
『テメェか』
「!」
少女が三人を赤黒い魔力で貫こうとしていた。でも、その攻撃は
三人が貫かれなかったのは、どこからともなく現れた少年が三人を抱きかかえていたからだ。
「あなたは……」
皆の視線が少年へと集まる。
「おい、貴様! 我に気安く触れる出ない!」
「ですが、レヴィとディアーチェの温もりが感じられるので悪くないです」
「僕もー!」
「ぬ……うぬらがそういうのであれば我も…………ってそんなことを言っている場合ではない! さっさと放さんか!」
少年にまとめて抱きかかえられていたディアーチェちゃんが騒ぎ出す。
『わかってるっての。そんな大声で騒ぐんじゃねぇよ、ガキじゃあるまいし……』
少年はやや気だるげに三人を放した。あれだけ耳元で騒がれれば五月蝿いのは間違いなしだ。
「貴様……! 今、我を侮辱したな!? いいだろう! 今すぐ消し炭にしてくれる!」
『無理。お前なら足でも十分だぜ。それよりも―――――』
「貴様――――――ッ!」
『ここは逃げた方がいいぞ』
少女が放つ魔力弾を拳と脚で三人に当たらないように防ぎながら撤退を提案する。
「そんなこと出来るわけがなかろうッ!」
『……メンドくせぇな。砕け得ぬ闇なら俺が捕まえてやる。だから、他の奴と一緒にアースラに逃げてろ。―――――いいな?』
『ッ!?』
最後の言葉にはかなりの威圧が含まれていた。
自分に向けられていないと分かっていても怖いと感じてしまった。
「……いいだろう。貴様の実力がどれ程か見せてもらうぞ!」
『ああ、好きなだけ見とけ。おい、お前ら、こいつら頼んだ』
少年―――――ヴァーラ君はそれを言い終えると、少女と戦い始めたのだった。
Sideout
Sideヴァーラ
「あなたは何者ですか?」
なのは達が退避した後、砕け得ぬ闇が話しかけてきた。
『俺か? 俺はお前を救う者だ』
「無理です。私は……沈む事なき黒い太陽―――――影落とす月―――――ゆえに、決して砕かれぬ闇。私が目覚めたら―――――あとには破壊の爪痕しか残らない。だから、あなたが何者であろうと無理なんです。まして……救うなど」
『まあ、そうだな。確かに救えねぇな。何をどうやったらお前が救われるかなんてさっぱりな状態だ』
彼女の言い分は正しい。だが、そんなことはわかりきっていたことだ。
『それに――――――本気じゃないお前と戦っても面白くないからな。だから、今は戦わねぇ』
彼女と戦うのはまだだ。まだその時ではない。
「そうですか……それでは」
別れを告げた彼女は、虚空に消えるようにどこかへと行ってしまった。
「待ちなさいッ! 私はあなたに用が――――」
キリエが砕け得ぬ闇を追いかけようとするが、俺が通せんぼした。
『お前は行かせねぇよ』
「ッ! 誰だか知らないけど邪魔をしないでッ!」
頭を狙って銃を撃ってきたが腕を薙いで弾いた。
『お前が何するつもりかは知らねぇけどよ、このまま追いかけたらお前は確実に死ぬぞ』
「私が死のうがあなたには関係ないでしょ!」
今度は銃を大剣に変えて斬りかかる。それらすべてを見聞色の覇気を使った体捌きで躱す。
『ああ、俺には関係ない』
「なら――――」
『お前が傷つけば、死ぬようなことがあれば、お前の姉はどうなる?』
「ッ!?」
大剣指で挟んで押さえつける。キリエは引き抜こうとするが、ビクともしない。
説教臭いことは嫌いだけど、これは見過ごせねぇな。
『失ってからじゃ遅いんだよッ! 気づけよッ、この……バカ野郎がッ!』
武器を奪い、剣を持っていない方の腕でキリエの鳩尾を目掛けて殴る。
キリエは「かはッ……」と肺から空気の抜ける声を出すと、前のめりに倒れた。彼女を受け止め、アースラへと転移した。
Sideout
美桜、朔夜、香澄、リサが天照の作ったゲートの出口に辿り着くと、着いた先は街が一望できる小高い丘の上だった。
「異世界って聞いて結構身構えてたけど……普通ね」
「私達の世界と代り映えしない世界だ」
「異世界に来た感じはしませんね」
「―――――そんなことはどうでもいいわ」
三人が感想を漏らすのを一蹴し、歩き出す美桜。それに三人はついていく。
目的は一つ―――――桜木遥と再会することだけだ。
「お前達は何者だ?」
濃いピンク色の髪をポニーテールにした女性が四人の前に現れた。持っていたものは剣だが、機械と混ざった形をしていた。
「…………」
「答えないか。まあ、いい。お前達がどこの誰かは知らんが魔力をいただくぞ」
「―――――邪魔」
美桜がそう呟いたあとにはポニーテールの女性は上下が二つに分かれていた。
「……今のはなんだったのだ?」
「生物……ではないみたいね」
他の三人は今の光景を見ても特に驚くこともなく、消えていく女性の方に目を向けていた。
「さあ?」
美桜からすれば興味が湧かない存在だったようだ。
「敵意があった。それだけで十分敵よ」
「美桜様がそう感じたのであれば、きっとそうなのでしょう」
四人は手始めに街で情報収集をすることにしたのだった。
女の子に対してバカ野郎発言に加え、手を挙げたヴァーラさん。空とヴァーリが混ざってるから仕方のないこと。
ちなみに最後のやられた女性はシグナムの闇の書の欠片。