俺、至ります!
Side空
二亜に膝枕をしてもらってから目が覚めると、青空が広がっていた。
「ありゃ? 二亜はどこ行ったんだ? ……ていうかそもそもここどこ?」
先程とは違う景色と二亜がいないことに俺は戸惑っていた。
『ここはお前の精神世界―――言わば心の中だ』
まるでダメなおっさんのような声が後ろから聞こえてきたので振り向くと、
「……………………え?」
見上げる程の巨体。獰猛な目付き。トカゲのような頭。頭部から生える角。鋼を容易に切り裂けそうな鋭い爪。なんでも砕きそうな牙。それらを持ち合わせた赤いドラゴンと白いドラゴンがそこにはいた。
『ようやくお前と会話が出来る様になったな
『と言ってもこいつはまだガキだ。仕方があるまい』
『それもそうだな。むしろ早い方だから褒めるべきか』
何か二体で仲良く話してるけど、こいつらって―――――
『そう言えば、自己紹介をしていなかったな。俺は赤龍帝―――ドライグだ』
『私は白龍皇―――アルビオンだ。よろしく頼むぞ』
「あ、これはどうも。俺は龍神空って言います。初めまして……ってそうじゃないよ! な、なんでここにドライグとアルビオンがいるの!?」
『何をバカなことを言っている。お前が俺達の
確かに俺は神器を持ってはいるけど……。
「で、でも今まで声何て聞こえなかったよ?」
『それはお前の心が問題だったのだ』
お、俺の心……?
「どういうこと?」
『お前は体は十分に鍛えられているくせに
「もしかして、いや、もしかしなくてもさっきの
『ああ、恐らく今お前が考えていることであっているだろう』
『フェイト・テスタロッサに対して言ったあの言葉が引き金となったのだろう』
うわー! 今思い出すだけでもスゲー恥ずかしい!!
『中々にいい言葉だったんじゃないのか?』
そういうこと言わないでいいから!
そのせいで俺はしばらく恥ずかしさで悶えていた。
落ち着いた俺は二体にここに呼んだ理由を聞いた。
『それはお前に
「ッ! ……なるほどね……俺、ワクワクしてきた!」
『そ、そうか……なら早速行くぞ!』
ドライグにちょっと引かれたけどそんなことはどうだっていい! 今は禁手じゃあぁぁぁああああああ!!!
『では、私達と戦ってもらうぞ。そして、私達に認められれば至れるだろう』
はい? 戦う? 二体と?
「いやいや死ぬから! 普通に死ぬからね!? 君たちバカなの? いやバカだよね!? 頭オカシイよ!? 人間が敵うはずないでしょ!?」
『大丈夫だ。ここは精神世界だから死ぬことはない』
『そういうことだ! さあ、行くぞ!』
「マジかよ!? ってうわ!」
開始宣言早々に巨大な赤い腕を振り下ろしてきた。
いきなり押しつぶす気かよ!? しかも滅茶苦茶デカいクレーターが出来てるんだけど!?
『どうしたどうした! そんなものか! 貴様の力は!』
言わせておけば! この赤トカゲマダオ野郎! ぜってー泣かしてやる!
『マダオ言うな! それは別のキャラだろうが!!』
さり気に心を読まれた!? 精神世界だから読まれやすいのかな!?
『メタ発言をするな、ドライグ』
アルビオンがマダ……じゃなくてドライグを宥めようとしたが、
『うるさい! バレーの上手いキャラと同じ声のお前に何がわかる!』
『な! わ、私はただお前を庇っただけではないか! それをうるさいとは何だ!』
『大体前からお前は気に食わなかったんだよ!』
『それはこちらのセリフだ! お前は一々短期過ぎる!』
何か、ドライグとアルビオンの取っ組み合いケンカが始まった。
……俺、空気じゃん……。でも、今のうちに
左手に赤い籠手を纏うと能力を発動させる。
《Boost!》
それにしてもドライグとアルビオンは仲悪いのか?
《Boost!》
最初見た感じはそんなことはないって思ったんだけど……。
《Boost!》
あ、そう言えば、
《Boost!》
原作みたいに歴代の所有者達の怨念とかはいないみたいだから暴走はしないはず……だと思うんだけど。
《Boost!》
十香達に手伝ってもらうか、ここでやってみるか!
《Boost!》
あ、どうやって二体倒せばいいかな? と忘れかけていたことを思い出すと、光が集まり、一本の黄金の槍が俺の眼の前に出現した。
《Boost!》
これって……
《Boost!》
まだ倍加する気!?
そんなことを考えていたら、どこからか優しい声が聞こえてきた。
『それは私が勝手に出てきただけですよ』
「え? 今の声どこから?」
《Boost!》
『あなたの前からですよ』
「前? って聖槍から!?」
『ええ、そうです。初めまして、空さん。神です』
《Boost!》
いきなり神発言された……。
「……ああ、はい。神(笑)ですね」
『ち、違います! 神です! 聖書の神です!』
「アハハ、ダイジョブデスヨ。キニシテナイデスカラ」
《Boost!》
『信じてませんよね!? というかさっきから五月蝿いですよ! その籠手!』
「そう言われても、あなたがドライグを封印して創ったんでしょ? 自業自得だと思いますけど」
『ウグッ……そこを突かれると何も言い返せないです……』
「だから神(笑)とかドジッ娘とかって原作キャラの皆に言われるんですよ。特に天使達に」
《Boost!》
『そんなの嘘に決まってます! 私は天使たちを創った言わば母なんですよ!? 子供が親に対してそんなこと言うはずがないですよ! ……え、う、嘘ですよね? その可哀想なものを見る顔は何ですか? ちょっと答えて下さいよ!? ねぇ!? どうなんですか!?』
「真実は時に残酷なんですよ。だから知らない方が良いこともありますよ」
ホントは誰もそんなこと言ってないけどね~。
《Explosion!》
お、倍加が終わった。これなら倒せるのか!
『そ、そんな……じゃあ私がしてきたことは一体……』
あ~あ、落ち込んじゃった……どうすんだこの人(?)……。めんどいから後にしよ……。
「この槍であいつら止めますか!」
《Transfer!》
『こ、この力は! まさか―――――』
神(笑)が何か言ってるけど、気にしないで逝きます!
「
聖槍から眩い光が発せられると、すぐに収まった。
体中を見たり触れたりして確認してみると、六対十二枚の黄金の翼、髪が異常に伸びていて金髪のポニーテールになって髪飾りが着いていた。面積はそんなにないけど足や腕に黄金の防具に橙色の模様が入ったのを纏っていた。聖槍は特に変化はなかった。
『どうして禁手になれるんですか!? 私はまだ認めてないのに! それに……これは私の知らない禁手の形!? あなたは一体……』
「知らなーい。それに出来ちゃったもんは仕方がないし、今更どうこう言われたって無理」
『わ、わかりました……ただし! あまりその力を使い過ぎないで下さい!』
「わかってます。強すぎるから、ですよね?」
最強の
『わかっているならそれでいいです。後、そ、それからですね……』
何かを言うのをためらう感じがする……。
「どうかしました?」
『わ、私の名前はヤハウェと呼んでください』
「あー、はい、わかりました。ヤハウェさん」
『さんはいいです。それと敬語もです』
「うん、わかった。よろしくねヤハウェ!」
『はい!(何だか少しだけ彼女たちが羨ましく思えますね……)』
「そうそう、ヤハウェ! さっきのアレ嘘だから!」
『……後で覚えておいてくださいね』
やば!? かなり怒っていらっしゃる!?
「と、取りあえず! あいつら止めるから!」
『……まあ、いいです。やっちゃって下さい』
翼を広げて二体よりも高く空中に上がると、槍を構えた。
「うん、一撃で終わらせる。輝け! 聖槍よ!―――――」
『ん? 何だこの力はって空か!?』
『お、おいあれはマズイのではないか!?』
ようやく気が付いた
「―――
聖槍から放たれた金色の砲撃は二体の巨体を容易く飲み込んだ。
俺の攻撃による爆発の煙で二体がどうなったかは分からない。
『どうやら、無事倒せましたね』
先に気付いたヤハウェが倒したと教えてくれた。
しばらくして、煙が晴れると二体は目を回して気絶していた。
「これにて一件落着――――」
『なわけあるか!』
「……あれ?もう復活したの?」
予想外にもドライグとアルビオンはすぐに起き上がった。
『俺達を殺す気か! 精神体とはいえ、死の恐怖を感じたぞ!』
『かつてないほど恐ろしかった……』
そこまで恐かったのか……少し悪いことしたな……。
「ごめんごめん、加減が難しくてさ。つい全力でやっちゃった」
初めて使用した神器―――それも神滅具の禁手化であるが故に力の制御が上手くできなかった。元々倒すつもりだったから加減をするつもりは毛頭もなかったけど。
『ついで済まされるか!』
ドライグがかなりご立腹のようだった。
『五月蝿いですよ、ドライグ。そもそもケンカしていたあなた達が悪いのです』
『な!? その声は、聖書の神か!?』
突然のヤハウェの声にドライグだけでなくアルビオンもかなり驚いていた。
『お前が何故ここにいる!』
『自分の意思で出てきました』
二体はそんなことは有り得ないといった顔をしていたが、
『私、神ですから』
その一言で片づけた。
無茶苦茶だな……ヤハウェ……。
『まあそのことはもういい。……それよりも空、その姿は何だ?』
ようやく禁手について触れてきた。
「黄昏の聖槍の禁手だよ」
『何!? もう至ったのか!? ていうかお前は神に認められたのか!?』
「ううん、何かやってみたら出来た」
これまた二体は有り得ないという顔をしていたけど、できちゃったもんは仕方がないでしょ。ヤハウェもあり得ないって言ってたからイレギュラー的な感じだと思う。
『しかも普通の禁手とは違うようだな』
「うん、ヤハウェもそう言ってた」
『ええ、これは今までにない禁手です。名前は―――
「他には思いつかなさそうだからそれにしよっか」
こうして俺の初の禁手は黄昏の聖槍の天空舞う金色龍の聖槍となった。
「で、いい加減ここから帰りたいんだけど……」
『おお、すまんな。禁手に夢中で忘れていたな。ここにはお前次第でいつでも行き来できる』
え? そうなの? まあ俺の精神世界だから当たり前か。
「わかった。じゃあねー皆ー!」
俺は禁手化を解いてここから出たいと念じると目の前が暗くなった。
Sideout
Sideドライグ
空がいなくなった後、俺達は空の禁手について話していた。
『何故、あんなにも簡単に禁手に至ったのだ』
『何か知っているのか? 聖書の神よ』
ヤハウェは不意に上空を見上げた。
俺達も倣って広がっているのはどこまでも澄み渡る青空を見つめた。
『彼の心……ですかね?』
『どういうことだ?』
『この世界を見ればわかるのでは?』
この世界……この青空が何かを意味するのだろうか……。
『いや、もしくは……あいつの前世が関係しているのか?』
『もしそうなら、誰にも知るすべはないでしょうね。彼自身を除いて』
『これ以上考えていても仕方があるまい。この話はまたいずれにしよう』
『ああ、そうだな』
話し合いが終わり立ち去ろうとした時、聖書の神に呼び止められた。
『あなた達は空さんを認めたのですか?』
『愚問だな―――』
『あいつのことは―――』
隣のアルビオンと確認しあうまでもなく、答えは決まっていた。
『『とっくに認めている!』』