デート・ア・リリカルなのは   作:コロ助なり~

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砂糖吐きそうなぐらい甘い雰囲気ってどうやったら書けるんですかね?


夏祭りで万由里とデートです!

夏祭りで万由里とデートです!

 

Side空

 

神社へと続く道の途中、これから始まるイベントを楽しむであろう人達で賑わっていた。

赤い鳥居を潜れば色とりどりの浴衣着た人々。夜に輝く提灯。屋台で売られている焼きそばやたこ焼きなどの香ばしい匂い。金魚掬い、射的、輪投げ、他にも多くの娯楽が立ち並んでいた。

 

「待ち合わせはここでいいんだよね? 時間は…………まだ余裕はあるか」

 

かくいう俺も今日のイベント――――夏祭りを楽しみにしていた。集合時間の三十分前に来るぐらいには。

 

早く来すぎちゃったか……。

 

万由里とのデートをするので、高校生ぐらいの姿になって黒い布地に青い縦模様が入った浴衣を着ている。

浴衣を着ているのは万由里が着てほしいと頼んできたからだのだが、たまにはこういうのを切るのも悪くないと感じた。

 

万由里はどんな浴衣姿なのかな?

 

今日のデート相手の浴衣姿を想像しながら時間でも潰そうかと考え始めた時―――――

 

「あ、あの……今、お一人ですか?」

 

「え、はい。そうですけど」

 

浴衣姿の茶髪の女子高生二人組が俺に声をかけてきた。

俺の記憶の中にはない人達、つまり、知らない人だ。

まさか、初対面の人に話しかけられるとは思ってもみなかった。

 

「も、もしよかったら……私達と一緒にお祭りを回りませんか?」

 

「一人でいるよりは楽しいと思いますよ!」

 

……? あ、そういうことか。

 

「ごめんなさい。俺、待ち合わせしてるんだ。―――――()()()をね」

 

『女の子』の部分を強調して断ると相手は気まずそうな顔になった。

 

『ご、ごめんなさい! 失礼しました!』

 

二人は謝るなり、そそくさとその場から離れていった。

 

「こういうこともあるんだね」

 

去年と一昨年は小学生の姿だったので今のようなことはなかった。さっきの応対が出来たのも琴里に耳にタコができるほど教えられたからだ。

それから万由里が来るまで待つことにした。

 

 

 

 

 

「お待たせ。……なんかやけに疲れてない?」

 

「アハハ……万由里が来るまでに結構な人数に声かけられちゃって……」

 

《万由里さんが来るまでの三十分間で合計十五人に話しかけられてましたね。単純計算で二分毎に話しかけられています》

 

うへー、そんなにいたんだね……。そりゃ疲れるのも頷ける。

 

「……相手は全員女の子?」

 

《はい》

 

「高校生の姿でいさせるのは間違いだったかしら? いや、それだと姉弟にしか見えないし……どうせだったら最初から一緒に行けば……でも、待ち合わせした方がデートっぽいし…………」

 

万由里はブレイブに問い詰めるや否や、ぶつぶつとつぶやきだした。

 

「でも、万由里の浴衣姿見れたんだから、疲れたのもある意味良かったかもね」

 

「………………ッ……相変わらずズルいわ」

 

若干頬を赤く染めたと思ったら、そっぽを向いてしまった。

 

「ズルい? 何が? 本当のこと言っただけだけど?」

 

万由里の浴衣は白い布地に赤、桃、黄の三色の花が彩っていた。頭にはいつもの白いリボンではなく、花飾りのついた髪留めで一つにまとめられているサイドポニーだ。

ただでさえ十人中十人が振り向くような美少女が浴衣を着たのなら、見惚れない人なんていないだろう。

 

「……………まあ、いいわ。さあ、行きましょう」

 

万由里が俺の腕に抱き着いてきて歩き出す。

互いの体が密着して、万由里の体の感触や匂いが十分に伝わる。

そして、自分の顔が次第に熱くなってきたのがわかった。

 

「さっきのお返し♪」

 

対する万由里は、いたずらが成功した子供のように笑っていた。

 

……万由里の方がズルくないか?

 

先ほども言ったが、万由里は美少女だ。そんな相手に抱き着かれれば男なら誰だって赤面するに決まっている。それで赤面しない奴はホモかB専だけだ。

 

「最初は何にする?」

 

「空に任せるわ」

 

色んな露店があるから悩むなぁ。

 

「すっごーい! これが人間界の魔法少女ミルキーなのね!」

 

「お、嬢ちゃんこれの良さがわかるのかい? (人間界?)」

 

「ええ! だって私、魔法少女だもの! 先輩として尊敬しちゃうわ!」

 

「そ、そうかい……。(まあ、こういう娘もいるよな……)」

 

うん、魔王少女がこんなこところで魔法少女グッズを買っているはずがない。ないったらない。

 

聞き覚えのある声だったが、気のせいだと自分に言い聞かせてその近くから離れた。

 

「む、この“射的”というゲーム……面白い!」

 

「お兄様! 私、あの熊のぬいぐるみが欲しいです!」

 

「任せたまえ、リーアたん!」

 

「サーゼクス、はしゃぎ過ぎで悪目立ちしているわ」

 

うん、紅髪の兄妹に銀髪メイドがいるはずがないんだよ。たまたま似たような人がいるだけなんだ、きっと。

 

再び聞き覚えのある声だったが、こちらも気のせいだと思い、静かに離れた。

 

「あ、空だ!」

 

「え、空君? どこどこ? あ、いた!」

 

名前を呼ばれた方を向くと、浴衣姿のなのは達小学生組がいた。それぞれに合った浴衣が彼女達の可憐さをより引き立てていた。

 

「よっ。皆浴衣似合ってて可愛いぞ…………ッ」

 

可愛いと褒めたら足を誰かに踏まれた。足から辿ると万由里が踏んでいたのがわかった。

 

「(いきなりなにすんだよ……!?)」

 

「(あんたが他の女に鼻の下伸ばしてるからよ)」

 

「(伸ばしてない!)」

 

アイコンタクトでそんな会話をしていると、リインフォースさんやシグナムさん、シャマルさんなどの大人組も浴衣姿でやってきた。

 

「ど、どうだろうか? 私の浴衣は変じゃないか?」

 

やや緊張気味にリインフォースさんが感想を聞いてきた。

リインフォースさんの浴衣は淡い水色の布地に薄紫のアサガオが描かれていた。長い銀髪は後頭部で一纏めにしていて、普段は隠れているうなじ部分が露わになっていた。

 

「おう、最高だ! …………ッ」

 

素直に感想を述べたら、またしても足を踏まれた。犯人は同じく万由里だ。しかもさっきより地味に痛かった。

 

「(また鼻の下伸ばしてる……)」

 

「(グヌヌ……ッ)」

 

こればっかりは否定できない。リインフォースさんの浴衣姿は万由里やなのは達にない大人の色香が感じられる。

もちろん、万由里やなのは達もそれぞれ違った良さがある。

 

「ところで……空の腕に抱き着いてる女、貴様誰だ?」

 

リインフォースさんが万由里に鋭い視線を向けながら問いかける。

 

「空のデート相手だけど何か文句でも?」

 

万由里は見せつけるかのようにさらに密着してくる。それを見せつけられたリインフォースさんの眉尻が吊り上がったのが分かった。

 

そう言えば、龍神家に住む人達以外には万由里の紹介をまだしてなかったな。

 

「そうか、ならば今すぐ私が空のデート相手になろう」

 

「……は?」

 

リインフォースさんの提案に万由里のこめかみに血管が浮き上がる。

 

あのー、お二人さーん? 雰囲気怖すぎやしませんかねぇ? 周りの視線が痛いんですけど! 主に俺へのが!

 

傍から見ると、俺が美女美少女を二股してるようにしか見えないのだろう。

 

「空は私を幸せにすると言った。だから空がデートの相手をするのは当然だろう?」

 

「本人はそんな気持ちこれっぽちもなかったみたいだけどね」

 

「それは()だけだ。何れ変わる」

 

「変わるのに何年かかるかしらね? だいたい――――」

 

二人の口論は白熱――――それに連れて俺への周囲の視線はさらに痛くなったが――――していき、いつの間にやら俺のダメ出しになっていた。俺が優柔不断だの、女誑しだのなんだのボロクソに言われた。

 

あれれぇッ!? どうしてこうなった!? 俺なんか悪いことした!?

 

「二人共ストップ!」

 

「……わかったわ」

 

「空が言うなら……」

 

ほっ……二人が落ち着いてくれて良かった。

 

「リインフォースには悪いけど今回は万由里がデートの相手だから……ね?」

 

「………………悔しいがここは引くとしよう」

 

「そうね、あんたは()()引いてるのがいいと思うわ」

 

「前言撤回だ。意地でも二人についていく」

 

ちょ、万由里さん!? 何で折角鎮火したところを再燃焼させるんですか!?

 

万由里の勝ち誇ったような物言いに、なんでかはわからないがリインフォースさんのついてくると言い出して俺の空いてる腕に抱き着いてきた。

 

「だ、だから二人共落ち着けって! 万由里はわざわざ相手を煽るな!」

 

「知らないわ。この女が勝手に突っかかってくるんじゃない」

 

「白々しい……! 貴様が私を挑発してきたからだろう!?」

 

「あんなので乗る方がどうかと思うけど? それと空から離れなさい。嫌がってるのが分からないわけ?」

 

「むしろ貴様が嫌がられているに決まっているだろう? それに気付けないほど貴様は愚かなのだな」

 

やめて! 俺を間に挟んでギスギスしないで! だ、誰か助けてぇ~!

 

すると、俺の願いが届いたのか救世主が現れた。

 

「ちょっとそこのお嬢さん達、お兄さんが困ってるからその辺にしときなさい」

 

「あ、ありがとうござ…………え?」

 

助けに入ってくれたお礼を言おうとしたら、そこにいたのは浴衣を着た蒼髪の女性――――使い魔のティアだった。

 

「ティ、ティア!? どうしてここに!?」

 

「魔王サーゼクスから聞いたのよ。それで、どうかしら? 私の浴衣姿は。初めて着てみたのだけれどこういう服も悪くないわね」

 

藍色一色に黄色帯を巻いた浴衣だったが、それがティアの蒼い髪をより際立たせていた。

 

「うん、とっても似合ってる。ありふれた答えしかできないけど」

 

「それでも十分よ。ありがと。……で? あなた達二人はいつまで()()()()()()争いをしてるつもりなのかしら?」

 

『は?』

 

ティア!? 今のセリフ、明らかに喧嘩売ってるよね!?

 

「そうね……なら、間を取って私が空とデートするわ。それで万事解決ね」

 

「寝言は寝てから言え」

 

「使い魔の分際で……」

 

ごめん、流石に俺もどこが万事解決なのかはわからないんだけど……。

 

「あら、二人とも私と戦う気? 仮にも龍王最強と言われてるこの私に勝てるつもりでいるの?」

 

「それはシャレにならんから! というかそれ以上は俺が許さないぞ!」

 

『…………』

 

少しだけ声を張り上げると、三人は押し黙る。

 

「いいか? 俺は今日、万由里とデートする約束をしてたんだ。だからデートの相手は変えられない。……つまらないことで楽しいことを潰さないでくれよ」

 

「……挑発したりして悪かったわ」

 

「いや、こちらこそ大人気なかった。すまない」

 

「私も浮かれすぎてたわ。ごめんなさい」

 

俺の想いが通じたのか、三人は互いに謝っていた。

 

「はぁ……無駄に時間使ったけど、これでデートが出来る……。万由里、行こう」

 

「ええ、そうね」

 

「今回は仕方がなく……あくまで仕方がなく貴様に譲るが、次は絶対に譲らないからな」

 

「私も一度でいいから空とデートしてみたいわね」

 

「そう、頑張れば?」

 

険悪な雰囲気は三人の間に皆無……とまではいかなくともそこそこ緩和された様子だ。一時はどうなるのかとハラハラしたが問題なさそうで良かった。

 

 

 

 

 

「空、私アレが食べたいわ」

 

「アレ……ってたこ焼き? わかった」

 

万由里が指をさした方向にあったのはたこ焼きの屋台だった。

二人で屋台に向かうとおじさんがたこ焼きを作っていた。

 

「おじさん、たこ焼き六個入り一つちょうだい」

 

「三百円だ!」

 

丁度の金額をおじさんの手に渡して、出来上がりを待つ。

 

「出来上がったぜ! ほら、持ってきな!」

 

「ありがと、おじさん」

 

「おう! あんちゃん! こんなに可愛い彼女手放すんじゃねぇぞ!」

 

「言われなくても」

 

「ッ!?」

 

たこ焼きを受け取り、座れる場所に腰を下ろす。

 

「いただきま……しまった。箸が一膳しかないや」

 

「問題ないわ。私があんたに食べさせて、あんたが私に食べさせればいいだけよ」

 

「食べさせ合う――――熱っ!」

 

俺が何か言うより先に割り箸を万由里に奪われて、熱々のたこ焼きを口に突っ込まれた。

火傷に注意しながら何度か口の中で転がしてから咀嚼した。そのあとで万由里をジト目で睨む。

 

「まーゆーりー?」

 

「ほら、次はあんたがする番」

 

しかし、俺の訴えかける視線を流し、割り箸を押し付けてくる。万由里が俺にしたことを今度は俺がしろ、という意味だろう。

 

「はいはい……ほら、口開けて」

 

「……あ、あーん」

 

万由里は少しだけ恥ずかしそうに口を開けた。その口の中にまだまだ熱を持ったたこ焼きを放り込む。

 

「~~~~~っ!?」

 

いきなり熱い物が口に入ったのでハフハフと頬張りながら食べた。

 

「あ、あんたねぇ、少しは冷ますとかしなさいよ! おかげで火傷しそうになったじゃない!」

 

「俺もついさっき万由里に同じことされたんだけどなー?」

 

「うっ…………」

 

「アハハ、悪い悪い。次はちゃんとフーフーしてから食べさせるよ」

 

宣言した通りにたこ焼きを少し冷ましてから、万由里の口に入れた。

 

「んっ……美味しいわ」

 

たこ焼きを全部飲み込んだあとで万由里が感想を口から漏らす。

 

「じゃあ、俺も―――――」

 

「私が食べさせるから」

 

「あ、はい……」

 

自分で食べようとしたらまたもや割り箸を奪われ、万由里に食べさせてもらう羽目になった。

 

「空、口にソースがついてるわよ」

 

「え、どこ?」

 

たこ焼きのソースが顔についてしまったらしい。顔を触ってみるがソースがどこにあるかわからない。

 

「あー、もうっ、じっとしてなさい!」

 

痺れを切らした万由里が両手で俺の顔を抑えて、頬に柔らかい唇を押し付けてきた。

 

「ッ! ま、ままま万由里!? ソース取るのになんで口でするんだよ!?」

 

「ホントはソースなんてついてないわ。フフ、あんたって戦闘においてはすごいけど、日常だと隙だらけよね。悪い女に騙されそうで少し不安にもなるけど……」

 

ソースのこと嘘だったの!?

 

またしてもいたずらが成功したような顔つきで万由里は笑っていた。

一方、俺の顔は火を噴きそうなくらいにものすごく熱い。抱き着かれた時の比じゃない。……口にキスされた時よりは熱くないけど。

 

「あ、ああいうことは好きな人にしなさい!」

 

「私、“あんたのことが好き”って言ったけど?」

 

そうだったー! 

 

「た、例えそうだとしても軽々しくはダメだと思います!」

 

「軽々しくとは失礼ね。これでも結構勇気がいるのよ?」

 

万由里の顔を見れば、ほんのりと朱に染まっていたので嘘ではないようだ。

 

「………………………………」

 

「どうかしたの?」

 

「万由里に……いや、十香達にも一生敵いそうにないなーって思っただけ」

 

「そうね、あんたが結婚したら絶対に尻に敷かれるでしょうしね」

 

「えー、嫌だなー」

 

取り留めのない会話をしばらく続けてほとぼりが冷めるのを待つ。

 

「さてと、お次は……勝負でもするか?」

 

ほとぼりがある程度冷めたあとで、不意に思いついたことを提案してみる。

 

「勝負?」

 

「そ。射的、金魚掬い、型抜きの三本勝負でどう?」

 

「面白そうね。いいわよ。でも、勝負だから勝った方には景品が必要ね」

 

それは一理ある。景品があった方がやる気も上がるしね!

 

「いいよ。じゃあ、景品は――――」

 

「“勝った方は負けた方に何でも一つ命令できる”でどう?」

 

「……互いに可能な範囲でならね」

 

釘を刺しておかないとどんな理不尽な命令をさせられるかたまったもんじゃない。

 

「交渉成立ね。早速一本目の勝負と行きましょう」

 

 

 

 

 

射的での勝敗の決め方は、五発のうちに相手よりも大きなものを手に入れた方が勝ち、となった。

先攻は俺からだ。

 

「――――狙い撃つぜ!」

 

倒しやすそうな写真立てを狙って撃ってみた。

一発目、二発目、三発目で下の方を狙って撃ち続け、徐々に後ろに下げていき、四発目で落とすことができた。

 

「おめでとさん。景品の写真立てだ」

 

射的屋のおじさんから景品を貰い、最後の一発を使い切る。流石に一発で倒れるものは少ないようで、景品は手に入らなかった。

 

「次は私ね」

 

俺と交代し、万由里が銃を持つ。

 

「――――私は一発の銃弾。銃弾は心を持たない。故に、何も考えない。ただ、目的に向かって飛ぶだけ」

 

万由里が引き金を引くと、コルク弾が招き猫を()()()()()()

 

………………は?

 

「……って、おい! 今の霊力使ってただろ!」

 

「ルールで禁止にしてないから使ったまでよ」

 

ハッ、となって万由里に文句を言うが、当の本人は素知らぬ顔。

 

「常識的に考えろよ!」

 

「常、識……?」

 

「なんで今初めて聞きました、みたいな顔してんの!?」

 

「それよりも屋台の前で騒ぐ方が常識的にどうなのかしらね?」

 

「ぐっ……」

 

正論かよ……!

 

「ともかく私の勝利ね。次の戦いをしましょ」

 

 

 

 

 

続いて、金魚掬いだ。今度は霊力や魔力などの力は一切禁止を付け加えた。

といっても勝負は一瞬で着いてしまった。

 

「あんたの体質のこと忘れてたわ……」

 

万由里が頭を押さえながら呟く。

俺の体質、それは動物に好かれやすいことだ。それは魚にも効く。その結果、ポイを使わずとも魚がプラスチック製のカップに飛び跳ねて入って来たのだ。

 

「これで一勝一敗だ。次の勝負で嫌でも決着が着くな」

 

「最後は型抜きね」

 

型抜きをやってる屋台に向かった。

勝敗の決め方は、二人共同じ型を抜いていき、相手より早く、そして綺麗に抜けた方が勝ち。

 

「型は……これでいいか?」

 

「いいわ」

 

俺が選んだのは、難易度が最上級であろう『祭』と書かれた型だった。

屋台の人にスタートの合図を出してもらい、二人揃って神経を限界まで研ぎ澄ませる。

 

ムッズいッ!

 

開始から僅か十秒で難しいと感じた。少しでも力んでしまえば、壊してしまう。返って力を抜きすぎてしまっても壊せない。

隣を盗み見たら、万由里も苦戦しているのか、その表情は硬い。

 

………………よし!

 

一度、深呼吸をしてから型を抜いていく。

最初は周りを抜いていき、最後に文字の中の方を抜いていこうと決めた。

 

 

 

 

 

始めてからどのくらい経ったのかはわからないが、決着が着いた。

 

『あ』

 

俺と万由里が揃って気の抜けた声を発した。

型が壊れてしまった。隣を見れば、万由里の型が壊れていた。

 

「あちゃ~、残念だったな。あとちょっとで終わるところだったのに」

 

見ていた屋台のおじさんも気まずそうに俺達を見ていた。

 

「まあ、今のは仕方がねぇよ。なんせ―――――“花火”が始まっちまったんだからな」

 

そう、俺達が型を壊してしまった原因は花火が打ち上がり始めたからだ。

周囲の音は集中してる間は気にならなかったが、花火の轟音には驚いてしまい、力加減を誤り、粉々に壊すという結果になった。

 

「この場合は引き分けでいいんじゃねぇか?」

 

おじさんの意見が的を射ているものだったので、この勝負は引き分けとなった。

 

「花火、見に行くか」

 

「そうね。型抜きに集中しすぎて代わりの勝負なんて到底できないだろうから」

 

人気の少ないところにあったベンチに座り、夜空に浮かぶ“火の花”を観る。

海で俺が打ち上げた花火よりも多色で綺麗だ。

 

 

 

 

 

「……ねぇ」

 

「ん?」

 

花火が終わり、万由里が口を開けた。

 

「勝負はつかなかったけど、私のお願い聞いてくれない?」

 

「内容次第では断るからな」

 

「そこまでのお願いじゃないわよ」

 

人を何だと思ってるの? と心外だと言わんばかりに口を尖らせていた。

 

「で、万由里のお願いは何?」

 

「キスよ。私からじゃなくてあんたから」

 

「……わかった」

 

一泊置いてから応じる。

 

「目、閉じてて」

 

「うん」

 

目を閉じたのを確認すると、万由里の口―――――ではなくおでこに口づけをした。

 

「はい、キスしたよ」

 

「……卑怯ね。確かに私はどこにしろって指定はしなかったけど、今のは卑怯だわ」

 

誰が見ても不満だとわかるぐらいの表情で訴えてきた。

 

「口にするのは恋人になった人にだけだよ」

 

「はぁ……そんな気がしないでもなかったけどね……」

 

万由里もなんとなくわかっていたのか表情を元に戻した。

 

「…………いつか絶対に振り向かせてやるんだから」

 

「ん? 今何か言った?」

 

万由里が何か呟いたようだったが上手く聞き取れなかった。人気のない静かな場所なのに聞こえなかったということは、かなり小さい声だったということだ。

 

「何でもないわ」

 

「そう? まあ、万由里がそう言うならいいさ。帰ろっか」

 

自然な流れで万由里と手を繋ぎながら龍神家へと向けて歩き出した。

 

 

 

 

 

 




空と万由里がデートしてる間のオリヴィエさん。

「つまらないです!」

少女は龍神家で叫んだ。
幽霊である彼女のことが見えるのは、空、ドライグ、アルビオン、ヤハウェ、九喇嘛、万由里だけだ。
最初は空と万由里のデートにこっそりとついていこうとしたのだが、万由里に睨まれて断念。ドライグ達の方に行こうとしたらいつの間にやらどこかに行ってしまった。
要するに、彼女は自分と話すことが出来る相手がいなくてとても退屈だったのだ。
物体に触れることが出来れば、テレビを見るなり、本を読むなり暇を潰せたかもしれないが、幽霊である彼女にはそれが出来ない。

「つまんないですね……」

何度目かの同じセリフを言ったところで、家の玄関が開く音がした。

「誰か帰って来たんでしょうか?」

「ただいまー」

「あ、この声は空さん!」

声の主が誰かわかるとオリヴィエは玄関に向かった。

「お帰りなさい、空さん!」

「あ、オリヴィエさん。うん、ただいま」

本来の姿に戻った空が返事を返してくれた。

「私、すっごく寂しかったんですからね!」

ほんの数時間会えなかっただけなのに、彼女からすれば何年、いや下手をすると何十年も会えなかった想い人にようやく再会できたような顔つきを少女はしていた。

「ごめんごめん。寝るまでなら話し相手になるから許してよ」

「ホ、ホントですか!?」

「うん」

「じゃあ、先に部屋で待ってますね!」

“話し相手になる”。たったそれだけのことで彼女が機嫌を直してしまった。
……なんともチョロイ性格なのだろうか。
本人が喜んでいるのならそれ以上は何も言うつもりはないが。



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