デート・ア・リリカルなのは   作:コロ助なり~

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桜木遥は謎多き少年です!

桜木遥は謎多き少年です!

 

Side雄人

 

あ、ありのまま起こったことを話すぜ!

シャマルの料理を食べた空がぶっ倒れて起き上がったと思ったら、自分のことを“桜木遥”って名乗ったんだ!

しかも髪は金色になるし、頭からは角が生えてやがった!

な、何を言ってるのかわからねぇと思うが俺にもさっぱりだぜ!

 

「へぇ……ここがタツガミソラの住む家、か」

 

で、現在は桜木遥とかいう奴が龍神家のリビングをキョロキョロと見てる。それを俺達は若干警戒しながら見ている、と言った感じだ。

 

「〈なあ、マジでアイツ、空じゃないのか?〉」

 

「〈間違いないわ。私の噓を見抜く力が発動しなかったんだもの〉」

 

愛衣に確認を取ったが、今のアイツは桜木遥という人物で本当らしい。

 

「ねぇねぇ、聞いてもいい?」

 

「ん? えっと、アリシア・テスタロッサだったな。いいぞ。何が聞きたいんだ?」

 

「遥は空とどういう関係?」

 

「簡単に言うと、俺がタツガミソラの前世の存在。過去の記憶は全部俺が持ってる。死んで転生した時点で俺は眠って、代わりにタツガミソラという人格が出来たって感じか」

 

俺達転生者の中で空だけは前世の記憶を持ってない。最初は単なる記憶喪失かと思っていたが、前世の記憶は全部遥が持っていたというのなら空が記憶を持ってないのも頷ける。

 

「じゃあ、次は私からいいかな?」

 

「どうぞ。月村すずか」

 

「あなたは何者?」

 

「龍の神様」

 

「そうなんだ。……………………。……………………………え?」

 

『え?』

 

遥は即答したが、あまりにも斜め上過ぎる答えに固まる。

 

「……と言っても、この体は弱くて力のほとんどが使えない。困ったもんだな。で、他に質問は?」

 

神様のことについてはあまり触れて欲しくないのか、他に質問がないか聞いてくる。

 

「前いた世界ではどのくらいの強さなのだ?」

 

「夜刀神十香か。どのくらいの強さ、ねぇ……。知らないけど結構強いんじゃないか? はい、次」

 

いまいち要領を得ない回答だな……。でも、神様っていうくらいなら滅茶苦茶強いんじゃないのか?

 

「あなたが死んだ理由は?」

 

それ聞いちゃうのか!?

 

「五河琴里か。俺が死んだ理由は…………選べなかったんだよ」

 

『……?』

 

どういうこった?

 

俺達の頭に疑問符が浮かぶ。詳しく聞こうとしたが遥が再び次の質問を促した。

 

「話してて気持ちのいいものじゃないからここまでだな。次」

 

確かに自分が死んだ理由を話すなんていいもんじゃないよな。

 

「君の意識が目覚めたのはいつかな?」

 

「本条二亜か。悪いが、俺がいつ目を覚ましたのはよくわからない。次」

 

『前いた世界でモテモテだったのー?』

 

おおー! ぶっこむな!

 

「よしのん、失礼だよ……ッ!」

 

「よしのんに四糸乃か。モテ……てはないな。仲のいい女子はいたけど全員大切な友達で仲間だったしな。次」

 

…………こいつが言うと、そんな感じがしないな。ぜってぇモテてんだろ。

 

「なら、私から」

 

「何だ?」

 

「空……ではなく桜木遥と言ったな? 私と手合わせをしてくれないか?」

 

「手合わせ? ……あー、うん、まあいいか。ちょっと久しぶりだから相手になるか分からないけど」

 

シグナムが遥に試合を申し込んだ! 流石戦闘狂だぜ!

 

桜木遥という奴がどんな戦いをするのか気になった俺達はトレーニングルームで観戦することにした。

 

 

 

 

 

「さあ、お前もバリアジャケットを展開しろ」

 

「……バリアジャケット?」

 

準備を終えたシグナムが遥に促すが何のことだか分からないみたいで首を傾げていた。

 

「…………あ! うん、OK。ソラが着てた奴だな」

 

『ッ!?』

 

あいつはドライグ達のように空の中で見てたってことか!?

 

「なあ、ドライグ達、あいつは空の中にいたのか?」

 

遥が自己紹介してすぐに体から出されたドライグ達に尋ねるが首を横に振られる。

 

『わからん。……もしかすると、心の中にあった扉の奥にいたのかもしれない』

 

心の中に扉? よくわからないがそっから遥は見てたってことになるのか?

 

「空が意識を失うまでのことは覚えてるか?」

 

『……すまん。空があの料理の一口目を食べた時点で俺達の記憶は無い。目覚めた時にはすでに空の体から出ていた状態だった』

 

それは仕方がないな! ってか、あの料理中にいるドライグ達にまで効くのかよ! 逆にスゲーよ!

 

「―――――で、えーっと、確か……セットアップ……だっけ?」

 

《set up》

 

「うわっ! 出来た!」

 

俺達が話している内に遥は初めてバリアジャケットを展開して驚いていた。

 

「……これで準備OKってことでいいのか?」

 

「そうだ、それでいい。リインフォース、頼む」

 

「ああ。―――――試合開始!」

 

リインフォースが試合開始の合図を出すと、先に動いたシグナムが遥に向かって一閃。

それに対し、構えてなかった遥は躱す――――のではなく、真正面から受けた。

だが驚くことに、レヴァンティンの刃が遥の肩で止まっていた。

 

……………………………………は?

 

『……………………………………は?』

 

俺だけでなく他の皆も間の抜けた声を出していた。

 

《遥と言ったな。アイツは魔力を一切使わずに防いでいたぞ》

 

俺のデバイス、レオンが驚愕の事実を教えてくる。

 

いや、おかしいだろ! シグナムの攻撃力は俺の知ってるなかでも相当なもんだぞ!? それを防御魔法も使わずに防ぐなんて出来るのか!?

 

「……おい、どういうつもりだ。何故私の攻撃を躱さなった?」

 

一旦距離を取ったシグナムが鋭い視線で問い掛ける。

 

「とりあえず、自分の状態確認。それからシグナム……だっけ? 君の攻撃力を知るため」

 

「……随分と舐めた真似をしてくれるな。私がお前よりも強い場合は取り返しのつかないことになっていたぞ」

 

「場合だろ? ……それにこれは殺し合いじゃないから」

 

殺し合い。その部分がアイツにとってとても悲しくて、辛いように思えた。

 

「……少し気に食わん。だが今はいい。まだまだ行くぞ!」

 

シグナムが本気で攻める。

 

「……ふーん、こんなもんか」

 

遥は攻撃を躱しながら小さく呟くとレヴァンティンを左手で掴んだ。

 

「何ッ!? ――――ガハッ!」

 

そして、シグナムからレヴァンティンを奪い、そのままレヴァンティンの柄部分で突いて吹き飛ばした。倒れているシグナムの首元にレヴァンティンを突き付ける。

 

「降参するか?」

 

「……ああ、降参だ」

 

「何だ、この剣が無ければ戦えないのか。それだったら剣以外の戦う手段もあった方がいいぞ」

 

「……そのようだな。参考にさせてもらう」

 

遥の言う通りで俺達はデバイスが無くなると戦うのがキツイ。それならそれが無い時の戦い方も習得しておくべきだな。

 

覇気があるから六式でも覚えてみるか?

 

「……うん、あれだな、物足りないな。他に誰か相手してくれないか? 複数人でもいい」

 

「それなら私が相手になろう」

 

俺達の中から進み出たのは十香だった。

 

「へぇ……今度は精霊か。いいね。燃えてきた」

 

不敵に笑って十香の正面に立つ。

十香は霊装を纏い、〈鏖殺公(サンダルフォン)〉を構えるが、遥はシグナムの時と同じで武器を出さず、構えも取らない。

 

「いつでも来いよ」

 

先攻を譲ったのはシグナムの時のように攻撃力を知るためか、単なる余裕の表れなのか。それともその両方ということも考えられる。

 

「では遠慮なく行かせてもらう」

 

十香が腕を薙ぐと紫色の斬撃が遥を襲う。遥はそれをデコピンで何かを弾いて相殺した。

 

「……あいつ、今何した?」

 

《魔力の反応はない。恐らく、空気を弾いて弾丸並の威力を出して相殺したと考えられる》

 

空気を弾丸にするって、今まで以上に無茶苦茶じゃねぇか!

 

「…………ッ…………」

 

だが、弾丸を撃った後の遥の顔が少しだけ歪んでいた。前に未来さんと戦った時にも似たようなことがあったのを覚えてる。あの時も、未来さんを吹き飛ばしたら脚を痛めていたようだった。

 

「はぁ……体が弱くなってんな。いや、体が小さくて力に耐えきれないってことか?」

 

「はぁぁぁああああああッ!」

 

遥が独り言を呟く間に距離を詰めて、少女が持つには似つかわしくない大剣―――〈鏖殺公〉を振りかぶる。

 

「そう簡単には当たんないぞ」

 

『なッ!?』

 

当たると思っていた攻撃は外れ、遥はいつの間にか十香の後で腕を組んで佇んでいた。攻撃を避けられた十香は無理やり体をねじって後ろを切り裂く。

しかし、当たらない。またもや十香の前に遥はいなかったのだ。

 

「どこに消えた!」

 

十香が周りを見るが、遥の姿はない。

 

「ここだ」

 

「ッ!?」

 

声がした方を向けば、遥は〈鏖殺公〉の腹の部分に乗っていた。あまりに鮮やかな動きは牛若丸を思わせるほどだった。

〈鏖殺公〉から飛び降りると、遥が初めて攻撃の構えをとった。

 

「今はこの体が弱いから威力はそんなにないだろうけど、それでも結構痛いから覚悟しろよ」

 

右の掌に集まりだした光が、徐々に長い棒状の何かを形成していく。

時間にして数秒ほどして集まった光が弾けて完成したものがついに姿を現す。

それは精緻な装飾が施された一本の黄金の槍だった。

黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)かと一瞬思ったが、それはないとすぐに否定した。

そもそも俺の見たものと違うし、今聖槍を持っているのはヤハウェだからだ。

 

ならアレは一体……。

 

「行く―――――ッ! ……あーあ、時間切れか。悪い、勝負はここまでにさせてもらうわ。また会えたらそん時はよろしく」

 

『え?』

 

遥がいきなり構えを解いて槍を消すと、別れの挨拶をしてくる。

 

時間切れって……何だそりゃ?

 

遥がその場で倒れたかと思うと髪の色が元に戻り、角も消える。

 

「…………ん? あれ……どうしてトレーニングルームにいるんだ? って皆もいる?」

 

倒れていた少年はすぐに起き上がり、周りを見回すとキョトンとしていた。自分が何故ここにいるのかを疑問に思うのも無理はないだろう。さっきまで別人だったのだから。

 

「あなた、空君……でいいのよね?」

 

「何言ってんの、愛衣? 俺は龍神空だよ。それ以外誰がいるの?」

 

『ほっ……』

 

空が戻ってきたことに皆が一斉に安堵の息を吐く。

 

「え? 何? なんかあったの?」

 

『な、何でもない!』

 

皆揃って誤魔化した。

何となくではあるが、今日あったことは空に言い辛い。

 

「……? 変な皆……。それよりも何だかお腹空いちゃった。ご飯にしよっか」

 

そう言えば俺達ってまともに昼めし食ってなかったな。

 

「それだったら私が――――」

 

『シャマル(さん)は何もするな(しないで)!』

 

「ひ、酷いわ!」

 

皆に揃って拒否されて落ち込むシャマルだが、ことがことだけに誰も慰めようとしない。

 

あんな料理をまた作られたらこっちの身が持たないんだよ!

 

「ご飯作ってくるから、その間好きに寛いでていいよ」

 

俺達は空がちょっと早めの夕飯を作るまで特訓をすることにしたのだった。

 

Sideout

 

 

 

 

 

Side空

 

「さてと、今晩は何にしよう? ……あ、今日は洋食にしてみよっかな」

 

「あのー、空君、私に手伝えることってないかな?」

 

必要な材料を準備して、影分身を出そうとしたところでキッチンに明日奈が入って来た。

 

「うーんと、じゃあ……ニンジンとジャガイモの皮を剥いて、一口サイズに切ってくれる?」

 

普段なら影分身でやるところだが、折角の申し出を無碍にするわけにもいかないので簡単なことを頼んでみた。

 

「わかった! 頑張るね!」

 

エプロンを着た明日奈が両手に小さな握り拳を作ってから意気込む。包丁を手にする様はどこか不慣れに思える。

 

「明日奈って包丁握ったことない?」

 

「……う、うん」

 

明日奈は生粋のお嬢様だ。毎日食べてるご飯はお手伝いさんがやってることは知っているし、この歳で台所に立つという子供はそうはいないだろう。だから、明日奈が包丁を持ったことが無い、というのは別段おかしなことでもないのだ。

 

「なら俺が教えるよ。ちょっと失礼するね」

 

 

 

 

 

――――――料理は初めてか? だったら俺が教えてやるよ。

 

 

 

 

 

……ッ!

 

「えッ!? (後ろから抱きしめられるってこと!?)」

 

明日奈の背後に立って、明日奈の両手を握る。教えてる間に影分身に作り始めてもらう。

 

「まずは、左手を猫の手みたいにしてね。包丁で切らないようにするために」

 

「う、うん……。(そ、空君の温もりが私の体を包み込んでくる……悪くない! それどころか最高だよ!)」

 

「次は包丁の持ち方。親指、人さし指、中指で包丁の柄の付け根部分をしっかりと持つ。他の二本はそんなに力入れなくていいから」

 

「こ、こうかな? (空君が耳元で話すから吐息が耳に当たってくすぐったい……!)」

 

明日奈は物覚えがいいので俺が教えてことがすぐに出来ていた。ただ、この恰好が恥ずかしいのか耳が真っ赤になっていたので、出来るだけ早めに終わらせることにした。

 

「そうそう。じゃあ、そのままニンジンの端二つを切るよ」

 

そのまま後ろから明日奈の手を動かしてニンジンの端二つを切り落とす。

 

「で、出来た……!」

 

「はい、上手に出来ました。次は皮むきだね。ピーラーを使って剥くと楽でいいよ。あ、それからジャガイモの凹んでるところにある芽はピーラーの横にある突起で抉ってね」

 

「確か、毒があるんだよね?」

 

「その通り。流石明日奈だね」

 

明日奈にピーラーを渡して一緒にやる。

 

「うんうん、上手い上手い。剝き終わったら、もう一度包丁を持って」

 

「うん!」

 

今度は明日奈一人でやらせる。慣れてきたようで切るスピードが徐々に上がっていき、あっという間に野菜を切り終えた。

 

「大変よく出来ました。なんだか、明日奈と二人での料理でちょっぴりだけ新婚生活気分を味わえたかも」

 

『(俺達からすればただのいちゃつきだったがな)』

 

はやてやあかりが手伝う場合は二人きりじゃないからそういうのがないんだよね。料理を教えたのだって明日奈が初めてだったから、余計にそう思わせたのかな?

 

「ええッ!? 新婚……そっかぁ、新婚かぁ……。えへへ……」

 

「おーい、明日奈ー? 明日奈さーん?」

 

話しかけるも反応が無い。明日奈は新婚という単語をニヤついた顔つきでやたらと繰り返し、自分だけの世界に入ってしまったようだ。

 

……まあ、明日奈も女の子だもんね? 将来、素敵な誰かと結婚する日が来るといいね。

 

未だに自分の世界に入り込んでいる明日奈を放っておいて、料理を続ける。

 

 

 

 

 

「出来上がりっと」

 

それから一時間ほどして、本日の晩御飯であるシチューとカルパッチョ、焼きあがったばかりのパンが完成した。

家にいる全員を呼んで、テーブルを囲う。

 

「うむ! 空の料理は相変わらず美味しそうだな!」

 

「ありがと。でも、今日は明日奈にも手伝ってもらったんだ」

 

「ぬ? そうであった―――――……それは二人で作ったのか?」

 

「そうだよ。ちょっぴり新婚さんみたいな感じで楽しかったね、明日奈」

 

「うん、えへへ♪」

 

『新婚ッ!?』

 

何人かが凄い勢いで立ち上がる。

 

『(なんて羨ま……羨ましいことを!)』

 

「今日は簡単なことだけだったけど、次は料理を教えてくれる?」

 

「もちろん喜んで教えるよ」

 

晩御飯が終わると、泊まる気満々の皆と遊んでから就寝した。

 

Sideout

 

 

 

 

 

Side遥

 

料理を教える、か。懐かしいな。俺もアイツに教えたっけ。

 

ソラを見ていると懐かしい思い出が蘇る。

 

「あー、何だかあいつ等に会いたくなってきたなー」

 

だが、それは叶わぬ願いだろう。

俺は死んだ身。過去の存在だ。ならば何もせずに黙っているのがいいに決まっている。

 

今日は偶々だからノーカン……でいいよな?

 

 

 

 

 

 

「―――――頑張れよ、ソラ。いつか決断しなければならない時が来る。お前がどういう答えを出すのか楽しみにしてるぞ」

 

俺の呟きは俺以外いない静かな部屋に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




龍の神様⇒龍神  

安直な苗字

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