デート・ア・リリカルなのは   作:コロ助なり~

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シャマルさんのお料理(地獄)です!

シャマルさんのお料理(地獄)です!

 

Side空

 

「ねえ、空ー。この問題ってどうやって解くの?」

 

アリシアが俺に問題の書いてあるページを見せながら尋ねてくる。内容は国語でよくある登場人物の心情を答えなさいという問題だ。

 

「んーとね、これは傍線部の近くにあるはずだから探してみて」

 

「わかった! ありがとね!」

 

アリシアは自分の机に戻り、再び問題と格闘する。

その近くでは、すらすら解いていくアリサ、すずか、あかり、愛衣、明日奈、ヴァーリ。悪戦苦闘するフェイトやはやて、なのはがいた。

アリサ、すずか、明日奈はかなり成績優秀。お嬢様だからその辺は抜かりが無いというか何と言うか。

あかり、愛衣、雄人は転生者。二度目の人生で聖祥のレベルが高くても小学生程度の問題なら三人なら簡単に解ける。

ヴァーリは正直に言うとアリサ達以上の天才。

フェイトとアリシアはこの世界の言語――――特に国語に慣れてないため苦戦。仕方がないといえば仕方がない。

なのはは、理系はアリサ以上だが文系科目が壊滅的。アリサに教わっているようだがよく怒られてる。

はやては休学中も勉強をしていたみたいで、今は何とか付いて行けるといった感じだ。

 

そんなわけでただいま絶賛、龍神家の俺の部屋ではいつもの小学生組が学生の敵こと夏休みの宿題をやってます!

 

はやてに関しては夏休み明けから復学するので、今まで遅れていた分を取り戻すために折紙が作った課題をこなしてる。

 

え、俺? 俺は影分身でちょちょいのちょいでした。

 

『能力の無駄遣いとはこのことだな』

 

九喇嘛からそんなこと言われるけど、時間を有効活用するためだから是非もないよネ!

 

皆が宿題をする中で暇な俺は、ユーノからミッドチルダで使われる言語を教わっていた。時々俺が質問をするとユーノの話が脱線して歴史の話になるのだが、地球には存在しない文化や文明の話はかなりの興味が湧く。特にベルカ時代の話が個人的に一番面白かった。

聖王―――オリヴィエ・ゼーゲブレヒト。覇王―――クラウス・G・S・イングヴァルト。エレミアの一族―――ヴィルフリッド・エレミア。冥府の炎王―――イクスヴェリア。

その人達の強さが是非とも知りたいが、今の時代にいないのが非常に残念で仕方がない。ユーノ曰く、子孫は聖王以外はいるらしい。でも、先祖と子孫では長い歴史の中で戦い方が変わってくる可能性がある。だからこそ余計に残念だ。

 

「―――――で、その文明は…………ってどうかしたの、空?」

 

「ううん、何でもない」

 

……あ、そうだ。良いこと思いついた。

 

「ねぇ、ユーノ。今度さ、遺跡発掘に連れてってよ」

 

「突然どうしたの? それは別に構わないんだけど……」

 

「ユーノが随分楽しそうに歴史の話をするから、大分興味が出たんだよ」

 

「え、僕そんなに楽しそうに話してた?」

 

自覚が無いのか、俺に言われてキョトンとしていた。

 

「うん、あんなに生き生きとしてたユーノは初めて見た」

 

「そ、そうかな? アハハ……」

 

「それで、行くとなると準備とか必要だと思うんだけどどれくらいで出来そう?」

 

「うーん、そうだね…………大体、三日ぐらいで済むと思うよ。メンバーはここにいる全員?」

 

「あ、それなんだけどね、俺、ユーノ、ヴァーリ、雄人、ザフィーラさん。それにクロノを加えた六人でどうかな?」

 

「なのは達は誘わないの?」

 

『そうだそうだー! 誘えー!』

 

ちゃっかり聞いていた勉強中のなのは達が文句を言ってくるのを無視して会話を続ける。

 

「偶には男子だけっていうのもいいんじゃないかなって思ったんだ」

 

「なるほど、そういうのも良いかもしれないね。いいよ。出来るだけ早めに準備するよ」

 

「ありがと」

 

スクライア一族は遺跡の発掘とか調査が得意な部族だからこれくらいのことならお手の物と言っていいだろう。

ユーノに教わるのを一時中断して、時計を見る。

 

もうお昼近くか。

 

そう思うと、急にお腹が減ってきた気がする。

 

「そろそろお昼にしようと思うんだけど、要望があればどうぞ」

 

「焼きそば!」

「スパゲッティ!」

「ピザ!」

「ラーメン!」

「つけ麺!」

「俺イケメン!」

「ハンバーガー!」

「冷やし中華!」

 

全員が言ったわけではないが、なのは達から一気に言われた要望は見事にバラバラ。

雄人の「俺イケメン」はどう考えても食べる物じゃないので却下。

 

「じゃあ、麺類に偏ってるみたいだから冷たいそうめんにしようと思うんだけど、いい?」

 

具材やつゆが色々あれば楽しめるだろうからいくつか作ってみようかな。

 

キッチンに向かいながらそんなことを考えていたら、キッチンの方から異臭漂ってきた。

 

「な、なんの匂い?」

 

キッチンを覗いてみるとそこには――――

 

「あ、これを入れたらもっと美味しくなるわね♪」

 

鼻歌交じりに料理をするシャマルさんがいた。シャマルさんの前にある鍋からは異臭と紫の煙が出てるのだが、本人は全く気にしてないようだった。

聞くのは怖いが一応聞いてみた。

 

「えーっと、シャマルさん、何をされてるんでしょうか?」

 

「それはもちろん勉強を頑張ってる皆にお昼ご飯を振舞おうとしてるのよ♪ もうじきできるから皆も呼んでくれないかしら?」

 

「あ、はい……」

 

シャマルさんに言われた通り、家にいる十香達やなのは達、トレーニングルームにいる守護騎士達を呼んだ。

 

「シャマル、一応聞くがこれは何という料理だ?」

 

烈火の将、シグナムさんが皿に盛られた紫の何かを指差して尋ねる。その顔はどこか強張っている……というかシャマルさん以外全員が強張ってる。

 

「何って、カレーに決まってるでしょ?」

 

『(これがカレー!? どう見ても危険物にしか見えないんだけど!)』

 

「さあ、皆。遠慮せずに食べて食べて」

 

『(いやいやいやいや! こんなの食ったら絶対ただじゃ済まないって!)』

 

「ちなみにシャマルさんは料理経験ってあるんですか?」

 

「ないわ! でも、毎日はやてちゃんやあかりちゃんが料理してるの見てるし、美味しいものをたくさん入れたから美味しいに決まってるわ!」

 

その理屈はおかしいから! 

 

「〈これ……どうする?〉」

 

「〈試しに食べてみるか? 見た目はアレだが、味はいけるかもしれない〉」

 

『〈ヴァーリ(君)、早まるな!〉』

 

自ら死地に赴こうとするヴァーリを全員で止める。

 

「皆、食べないの? 早く食べないと冷めちゃうわよ?」

 

相も変わらずシャマルさんはこちらが食べるのを待っている。

 

これは逃げられそうにないな……。

 

「〈……俺、逝ってくる〉」

 

『ッ!?』

 

シャマルさんの前だということも忘れて皆が驚く。

 

「〈誰かがやらなきゃ解決しない。だったら俺が……!〉」

 

「〈なら、俺も一緒に逝くさ。親友一人に任せっきりは嫌だからな〉」

 

「〈ヴァーリ……!〉」

 

ヴァーリからの申し出に目頭が熱くなる。周りの皆は止めて来るがそうも言ってられない。

 

「この世の全てに感謝を込めて……いただきます」

 

両手を合わせて合唱。

スプーンでカレー(?)をよそい、自らの口へと運ぶ。

カレー(?)が舌に触れた瞬間―――――

 

 

 

『ゴホッ!?』

 

 

 

俺とヴァーリは吐血した。

 

マ、マズいッ!! これは美由希さん並みだわ!

 

「お、おい! 大丈夫なのかよ!?」

 

「傷は浅い! しっかりするのだ、二人共!」

 

『大丈夫だ、問題ない』

 

マズい、物凄くマズい……だけど食べる!

 

ヴィータと十香が心配そうに聞いたが、一度口にしたなら最後まで食う。だから俺は、俺達は止まらない。甘くて、辛くて、苦くて、しょっぱい味がするが、死に物狂いでカレーを口の中に突っ込む。

 

『完食……したぞ!』

 

二人そろって空になった皿を置く。すでに腹の仲がカオスだが、口には出さない。

 

『(すごい……! アレを食べ切るなんて……!)』

 

「あら、そんなに美味しかったの? 良かったわ、念のため()()()()を作っておいて」

 

――――突き付けられたのは絶望だった。

 

『ハ、ハハハ……フハハハハハ!』

 

だったら、その絶望も喰らうまでのことだ!

 

「どうした!? シャマルの料理で頭がイカれたか!?」

 

「シグナム、それはどういう意味かしら?」

 

『俺達を倒したくば、この三倍――――いや、十倍はもってこい!』

 

二人の会話を吹き飛ばすかのように俺とヴァーリが高らかに宣言する。……色々と論点がズレているが。

 

「まあ、本当に? それだったらすぐにおかわりよそってくるわね!」

 

シャマルさんがよそってきたおかわりを死ぬ気でガツガツ食べる。そしておかわりをしてまた食べる。時々吐血。それを幾度となく繰り返すことで――――

 

『これでッ! 完全にッ! 完食だぁぁぁあああッ!』

 

ついに、おかわりすらも食べ切った。

 

「……さてと、食後のデザートでも買ってきますかね」

 

「……そうだな。ついでに飲み物も買うとするか」

 

俺達は席を立ち、リビングをでて玄関に向かう。

 

「……ねぇ、ヴァーリ。俺達頑張ったよね?」

 

「……ああ、そうだな。もういいんじゃないか?」

 

「そっか……」

 

俺達は互いに微笑合うと―――――――

 

 

 

『…………限…………界…………』

 

 

 

リビングを出てすぐのところで意識を手放し、ぶっ倒れる。

 

Sideout

 

 

 

 

 

Sideなのは

 

空君とヴァーリ君がシャマルさんの作ったカレー(危険物)をたくさん食べて倒れた。

いくら空君達でもあの料理には勝てない。それが分かっていても食べ続ける二人はすごかった。おかわりどころか私達の分まで食べるとはだれも予想してなかったことだ。

 

何と言うか……空君はやっぱりかっこいい! って違う違う、そうじゃない。あ、いや実際すごくかっこいいし、優しくて、す、好き……いや、大好きなんだけど今は置いといて!

 

今は、倒れた二人が意識を失った状態で寝てるのを私達が看病してる。

ちなみにシャマルさんははやてちゃんやシグナムさんに説教されてる最中だ。

 

「………………………………ん?」

 

眠っていた空君が目を開けて上半身だけ体を起こした。

 

「空君! 気が付いた?」

 

「…………」

 

しかし、空君は私の方を見向きもせず周りを見回していた。

 

「あ、あの空……? 体は平気そう?」

 

「…………」

 

フェイトちゃんが声を掛けるもこっちを見ない。

 

「おーい! 空ー!」

 

「…………」

 

今度はアリシアちゃんが肩を叩いて声を掛けるとこっちを見た。でも、その顔は私達を観察するような視線に思えた。

 

「あ、やっと反応した。シャマルさんの料理が余程体に影響を及ぼしたのかな?」

 

「ま、それは自分の能力で治せば問題ないでしょ?」

 

「それかシャマルさんにかな」

 

「自分でおかしなところはわかるかしら?」

 

「…………」

 

愛衣ちゃんが聞くと、口元に手を当てて何かを考えていて全く耳に入ってないようだった。

 

「空君? 聞こえ――――」

 

 

 

「あのさ、もしかして()()()()()()()()?」

 

 

 

……………………え?

 

空君の口から出た言葉に固まる。

 

「な、なに馬鹿なこと言ってんのよ!? あんたの名前は龍神空でしょうが!」

 

「……タツガミソラ? …………あー、そういうことか……。ふーん、そっかそっか、それなら納得いくな」

 

私達はどういうことなのかさっぱりわからないが彼は一人で納得していたようだ。

 

「あなたは……空君だよね?」

 

私が恐る恐る尋ねるとゆっくりこちらを向いて答えた。

 

「違うぞ。あ、でも違くもないか。()()()()()()なんだからな」

 

……今は? 

 

違うけど違くない。これが意味することは何なのだろうか? 

 

「〈そう言えば、空君って前世があったんだよね?〉」

 

「〈ええ、でもほとんど記憶がないって言ってたわ〉」

 

愛衣ちゃんが否定しなかったということは嘘ではないということだ。

 

「じゃあ、あなたの名前……空以外の名前って?」

 

「ん? ああ、俺の名前か」

 

彼が息を吐き出すと髪の色が黒から淡い金色に変わる。窓から差し込む日の光に当たって虹色のようにも見える。さらに頭からは龍精霊化したときとは別だが、水晶のように透き通った蒼い角が生えてきた。

彼の姿は幻想的で綺麗だった。それと同時に私達とは住む世界が違う存在に思えた。

そして、彼は自身の名を告げた。

 

 

 

 

 

「―――――俺の名前は(はるか)桜木遥(さくらぎはるか)だ。よろしくな」

 

 

 

 

 

 

 


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