デート・ア・リリカルなのは   作:コロ助なり~

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俺の恋愛への価値観はズレているらしいです!

俺の恋愛への価値観はズレているらしいです!

 

 

Side琴里

 

「私は―――――夜刀神十香は龍神空のことが好きだ!」

 

『…………………』

 

部屋に静寂が広まった。十香の今言った台詞はそれだけ強烈だった。

 

…………………………え? 今……十香は好きって、言ったの? 空に対して? …………え―――――

 

『ええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええッッッ!!??』

 

ようやく我に返った私達によって、今度は一気に喧噪へと変わった。

 

「〈ちょっと、十香!? あなた何考えてるのよ!?〉」

 

慌てて念話で問いただす。

 

「〈空が言ってみないと伝わらないこともあると言ったのだ。だからそうしたまでだ〉」

 

確かに空は言った、想いを言葉にしてみないと伝わらないこともあると。そうは言ったが、別に今すぐに伝えろとは一言も言ってない。

 

……かといって、十香が間違ったことをしているというわけでもないのよね……。それに加えて、あの鈍感な男が告白に対してどういう反応するかも気になる。ここまで正面切って言われて変な勘違いをしない……とも限らないのがあの男―――龍神空なんだけど……。

 

「そ、それでどうなのだ? 空の返答は?」

 

今更自分がしたことに恥ずかしさを感じ始めたのか、若干上擦った声で返事を求める。

誰もが固唾を吞んで見守る中、十香の正面に立つ空は口を開いた。

 

「――――――……え? 返答って何?」

 

…………………………はい?

 

『………………………はぁあッ!?』

 

空は鈍感だと分かってはいたけどまさかここまでだとは思わ――――いえ、違うわね。空は恋愛を知らないだけなのね。デート・ア・ライブやハイスクールD×Dの原作の内容を知っていれば別なんでしょうけど、最近になって能力の使い方や登場人物ぐらいしか憶えてないって言っていた。

 

そもそも空は小学三年生だ。他の転生者と違って前世の記憶は無いし、転生してから十年も生きていない。不思議な力を持っていてもそこらにいる小学生とは何ら変わらないのだ。なら、何故返答せねばならないのか疑問に思うのも無理はないという考えに至る。

 

周りの娘達(なのは達)が精神的に異常に成熟してるだけね。……これはこれで空の成長になるのかしら? 人の恋路を邪魔するわけにはいかないし、ここは黙っているしかないわね。

 

Sideout

 

 

 

 

 

 

 

――――――あなたが好き、愛してる。

 

 

 

 

 

 

 

Side空

 

十香に好きだって言われた時、不思議な感覚が頭をよぎった。ただあまりにも一瞬の事だったから何だったのかは分からない。気にはなったが、それよりも今は返事をどうすべきかが問題だ。

 

えーっと、十香は好きって言ったんだよね? それで……十香は返事を求めてる。うーん、俺は何て返事したらいいんだ? 

 

しばらく考えて、正確な答えは分からないけど大よそこんな感じなのでは? と思い、返事をすることにした。

 

「十香」

 

「な、なんだ?」

 

十香の名前を呼ぶと何故か身構えられた。

 

……返事を待ってたんだよね?

 

「十香の好きだって言葉への返事言うよ」

 

『ッ!?』

 

あれー? 今度は皆も身構えだした? もしかして俺の返答次第で戦いにでもなんの!? じゃあ間違えられないじゃん!

 

学校で習っていないことを間違えずに当てろだなんて中々厳しい問題だ。今度タマちゃん先生に聞いてみようかなと思った。

 

「――――――俺も十香のこと好きだよ」

 

「そ、それは本当か!? 異性として好きなのか!?」

 

「当たり前じゃん」

 

俺は男で十香は女だから異性でしょ? 

 

「likeではなくloveの方なのだな!?」

 

「どちらかと言えばそうかな」

 

大袈裟かもしれないけどlikeよりはloveの方が合ってる気がする。

 

「で、では私と付き合ってくれるのだな!?」

 

「付き合うって、買い物に?」

 

『(うわー……それ言っちゃうのかぁ……)』

 

突如皆の視線が冷たくなった気がする。

 

「ち、違う! そんなベタなボケは求めてなどいない! 男女交際の方だ!」

 

別にボケているわけではないんだけど……男女交際……? ってことは恋人? ………………………恋人っ!?

 

「だ、ダメッ! いくら十香でも恋人にはなれないよ!」

 

「……ッ! そうか……」

 

俺が恋人になることを断ると、十香はきな粉パンをお預けされた時以上に物凄く悲しそうな顔になった。

 

「……私とは付き合えない理由を聞いてもいいか?」

 

「そんなの決まってるよ!」 

 

理由はたった一つしかない!

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()!?」

 

 

 

フェイトの時は恋人じゃなかったからセーフ! 

 

『……………………』

 

断った理由を言ったら場の空気が凍った―――いや、死んだ。誰もが固まっている。これぞ正しく『世界(ザ・ワールド)』だ。

 

「あ、あのー……皆さん? どうされたんでせうか?」

 

『…………あ…………』

 

あ?

 

『アホかぁぁぁぁぁぁぁああああああああッ!!!!』

 

鼓膜が破けるんじゃないかってくらいの爆音が部屋に響き渡った。

 

「うひゃあ! 突然叫ばないでよ!」

 

『これが叫ばずにいられるかッ!』

 

「え? え? え?」

 

何が何だかさっぱりわからず頭の中が混乱している。

 

「ま、知らないのも無理ないわね……」

 

「琴里は知ってるの? 赤ちゃんが出来る方法」

 

「ブフォッ!?」

 

赤ちゃんが出来る方法を聞いたら琴里が噴いた。

 

「あ、あんたなんてこと聞いてくんのよ!?」

 

「だって、さっきの皆の反応からするに俺が知ってる赤ちゃんが出来る方法違うみたいなんだよね?」

 

アホだ、だなんて言われれば自ずと気が付く。

 

「え……そ、そうね」

 

「だから正しい方法教えてよ」

 

「(言えるわけないでしょ!?)そ、それは……」

 

「それは?」

 

「それは……結婚して子供がいる人に聞いてみればいいんじゃないかしら? そこにいる士郎さんとかどう?」

 

お、その手があったか!

 

「士郎さん! なのはってどうやって生まれてきたんですか?」

 

「え、僕かい!? (琴里ちゃん、僕を売ったな!?)」

 

「子供がいるんだから知ってますよね?」

 

「ウグッ……ま、まぁ知ってはいるよ。一応ね」

 

「じゃあ、教えてください!」

 

「……残念ながら教えることは出来ないんだ」

 

「ど、どうしてですか?」 

 

「それは―――――君が結婚してないからだよ!」

 

!? そ、そうだったのかー!?

 

「……俺が結婚したら教えてくれるんですか?」

 

「え? あ、ああ、そういうことになるね。(その頃には空君は知ってるだろう。フッ、我ながら完璧な答えだ)」

 

そっかー、結婚したらか……。今9歳だから、少なくともあと9年だ。

 

「今知れないのは残念ですが仕方ないので諦めます……」

 

「それよりも十香ちゃんへの返事はどうするんだい?」

 

「……返事?」

 

『あ』

 

士郎さんに言われてさっきのことを思い出す。俺は十香に告白された。でも、恋人になってキスすると子供が出来ると思ってたから断った。でも、それは俺の勘違いだった。

 

「そうだぞ! 変な理由があったから先程はフラれたが、それがないなら私と付き合ってくれるのか?」

 

「有り得ない」

  

え? 今の誰?

 

「な、なぜだ!? 誤解は解けたのであろう!?」

 

「いや、待って! 今の俺が言ったんじゃないから!」

 

「む? ……ッ、折紙、貴様だな!」

 

俺の声を真似ていたの犯人は折紙だった。それがわかると十香は折紙の胸ぐらを掴んで問いただした

 

「何故私の邪魔をする!」

 

「あなたは一度フラれた負け犬。負け犬は引っ込んでいるべき」

 

負け犬ってのは言い過ぎじゃない? そもそも俺の勘違いだったわけだし。

 

「あれは空の勘違いでフラれたのだ!」

 

「勘違いでもフラれたことに変わりはない。他の人の番」

 

「ぐぬぬッ……! ふん、いいだろう! 他の人の番が終わるまで待ってやる! ……その者に告白する勇気があればだがな」

 

「えっとさ……その告白云々の事なんだけど、ちょっといいかな?」

 

俺が話し掛けると全員がこちらを向く。

 

 

 

 

 

「――――俺、誰とも恋人になる気は無いよ」

 

 

 

 

 

「な、何故だ!?」

 

一番大きな反応をしたのは告白してきた十香だ。

 

「だって俺小学生だよ? まだ付き合うってのは早いと思うんだ。それに告白するひとなんてそうそういるわけでもないのにね」

 

恋人を作るとしたら高校かな? ……出来るかどうかは置いといてだけど。

 

「だから、十香への返事は“今”はごめんなさい。その時が来たらちゃんと考えるね」

 

十香にこの先俺以外の人を好きならないとも限らないわけだしね。

 

「…………わかった。考えてくれるのであればそれで構わない。今は待つとしよう」

 

「ごめんね」

 

今ので終わりかと思いきや夕弦が傍にやって来た。

 

「質問。空は昔に私達と結婚したいと言っていました。あれは嘘だったのですか?」

 

あー、そういえばそんなこと言ってたね。

 

「ううん、嘘じゃないよ。結婚できるならしたい……と思うよ」

 

「疑問。それは告白と受け取ってもいいですか? 空は私達のことが好きなのでしょうか?」

 

 

 

「―――――うん、好きだよ!」

 

 

 

Sideout

 

 

 

 

 

Sideフェイト

 

胸が痛い。今にも心臓が張り裂けそうなくらいに痛い。

似たようなのなら何回か味わったことがある。空が私以外の女の子と仲良くしているのを見た時に胸がチクチク痛んだ。

でも、今回は今までの比じゃない。私の好きな人が好きだと言ったのだ。私ではない別の人を。

 

……空は十香達が好きなんだね。だとしたら私には一生振り向いてくれないのかな?

 

Sideout

 

 

 

 

 

Side美九

 

「でもさぁ、どうなんだろうね?」

 

どうなんだろうと言われてもどうなんでしょうとしか返せないんですが……。

 

『…………は?』

 

「なんていうのかなぁ? あ、……うん、皆のことは大好きなんだよ」

 

「それはさっき聞きましたよ?」

 

「好きなんだけど、えっとえっと、だから……側にいたい? 独占欲? みたいな感じなんだと思う。あ、ようするにシスコンか!」

 

だーりん、シスコンという結論に至りますか……。

 

だーりんは精神的に大人びている部分もありますがまだまだ子供です。そんな子に恋愛をしろ! と求めるのはまだ早いでのでしょう。

 

「あれ……じゃあ、なのは達に対する想いって何だろう? 好き……なのは確定なんだけど……」

 

あ……そういうことだったんですね。

 

だーりんの今の反応を見てようやくわかった。彼は“好き”という感情を特定の誰かに向けることを分かっていない。好きな食べ物や好きなこと、それらに向けるものと同じものだ。“好き”という大きな括りの中に私達が入っているにすぎないのだ。

 

だーりんはこれからというわけですね。

 

「だーりん、今はそれでいいです。でもいつかはちゃんと気付いてくださいね?」

 

「?」

 

分からないという表情が可愛くて今すぐ抱きしめたいが何とか抑え、周りを見回す。この場のほとんどの人が私と同じ考えに至ったようだ。そして、琴里さんの方に向く。

 

「裁判長、被告人はまだまだ子供です。今回は無罪という判決でいかがでしょうか?」

 

「ええ、そうね。被告人、龍神空を無罪とする。これで裁判を閉廷します」

 

こうして(途中からよくわからなくなった)裁判は終了したのだった。

 

Sideout

 

 

 

 

 

Side空

 

裁判が終わって一時間ほどが経った。今はイリヤだけでなくなのは達も一緒に俺の家で遊んでる。

やっていることは皆バラバラで、ゲームをしたり、漫画を読んだり、ガールズトークに励んだりと色々だ。

海に行くことをイリヤに話したら行きたいと言ってきたので兄さんやセラさん、リズさんも一緒に来てくれるらしい。

 

今年は人数凄いな。シア達も誘ってみようかな?

 

俺とヴァーリと雄人と兄さんの四人でゲームをしていたら誰かに後ろから抱き着かれた。

 

「うわっ、アリシアか。ビックリしたなぁ」

 

「ねえねえ、空。私頑張るね!」

 

「お、おう……?」

 

目的語が抜けているから何を頑張るのかがさっぱりだ。けど、アリシアの目は本気で真剣なものだった。なら、それを応援するのは当然のことだ。

 

「うん、頑張れ。応援してる」

 

会話が終わってアリシアが離れるかと思いきやそうではなかった。俺がゲームを続けていても抱き着いたままでいた。

 

「……二人はいつまで抱き合ってるつもりなの?」

 

しばらくして冷たい愛衣の声が聞こえた。愛衣の方に振り向くとその近くにいたなのはやフェイト達の鋭い視線までもが突き刺さる。それだけで何となく悪いことをしている気分になる。

 

「いいじゃん! 空は嫌がってないんだからさ!」

 

「それに俺はアリシアのこと抱きしめてないけど、何か問題でもある?」

 

「ええ、大アリよ。それ以上のスキンシップは独占禁止法に触れるわ。アリシアは即刻私と代わりなさい」

 

「ぶぅ~、ケチ~! ……ま、自分たちで決めた“ルール”だから守るけどね」

 

アリシアはケチと言いながらもすぐに退いた。俺の知らない間に愛衣達だけのルールが出来ていたらしい。

 

「背中借りるわ」

 

俺に一言断ってから愛衣は俺の背中にもたれ掛かった。

 

ページをめくる音。愛衣は漫画か雑誌でも読んでるのかな。

 

「ありがとね空君。こういうのも中々悪くはないわね」

 

本を読み終えたのか愛衣は立ち上がり、俺の背中から離れていった。

愛衣がいなくなった後も、代わる代わるなのはやフェイト、はやて、アリサ、すずか、明日奈が俺の背中にもたれ掛かったり抱き着いてきたりした。

一番最後だったらしい明日奈が離れたときにゲームが終わり、時計を確認すると6時過ぎだった。

 

もうこんな時間か。夕飯にはいい時間帯だな。

 

「俺、夕飯の買い物に行くけど皆はどうする?」

 

『泊まる!』

 

「はやてが泊まるなら私も」

 

いつものメンバーの女子が元気よく答えた。

 

……求めていた答えと大分違う気がするんだけどツッコんだら負けだな。うん、そうに違いない。

 

「りょーかい。ヴァーリや雄人も泊まりでいい?」

 

「ああ、今日はアザゼルがいないからな」

 

「俺は一応親に聞いてみる」

 

「うん。あ……イリヤと兄さんはどうします? このまま夕飯だけでも食べていきますか?」

 

「あー、そうだな……俺達は―――」

 

「泊ってもいいの!?」

 

義兄さんの言葉を途中で遮ったイリヤは目を大きく開いて尋ねてきた。

 

「この家広いから泊まりたいなら泊ってもいいけど……」

 

兄さんの方をチラッと見たら首を縦に振っていた。

 

「セラには後で連絡しておくよ」

 

「わかりました。今日はいつもより大人数だから……カレーにしよっか」

 

『さんせーい!』

 

多数の賛成を貰ってメニューを決定し、買い物に出かけた。

出かける際に、兄さんも何かしたいと言ってきたので買い物や料理の手伝いをしてもらった。はやてやあかりもいたから苦労は少なかった。

 

「兄さんは普段から料理するんですか?」

 

「まあな。セラがほとんどやってるから俺は時々なんだけどな」

 

いつも賑やかな夕食がより賑やかな喧騒に包まれた。

 

 

 

 

 

夕飯を終えると風呂に入り、再びゲームをしたあと就寝時間が来た。

俺の部屋ではいつものメンバ――――――ではなく、パジャマ姿の十香がいた。

 

「今日は私と共に寝てもらうからな!」

 

「う、うん」

 

やけに気合の入った十香に気圧されながらも二人並んで向き合う形でベッドに横になる。

 

『…………』

 

二人の間に会話は無かった。それもそうだ。数時間前まではあんなことがあったのだから。

 

「……私は……」

 

沈黙を破ったのは十香だった。

 

「私はお前のことを振り向かせる。絶対にだ。だから、その……だな」

 

一拍置いてから続きを言う。

 

「簡単に他の女のものになどなってはダメだからな?」

 

「はーい」

 

多分俺に告白する娘なんて滅多にいないと思うんだけどなぁ。

 

優しく十香に抱きしめられたまま眠りに落ちた。

 

 

 

 

 


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