デート・ア・リリカルなのは   作:コロ助なり~

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空ハッピーデイリー編
裁判の判決は大抵覆りません!


裁判の判決は大抵覆りません!

 

 

 

黄金の龍と黒い“何か”が戦っている。

戦いの影響で周りは酷い有り様だ。大地は抉れ、海は荒れ、天は陽の光を通さぬ黒い雲で覆われていた。

 

『―――――――』

 

『―――――――。――――――――』

 

龍と“何か”は話しているようだが声は聞こえない。

ただこれだけは分かる。黒い“何か”は憎しみや悲しみ、負の感情で溢れかえっていた。

龍と黒い“何か”がぶつかり、激しい閃光が生まれる。

 

――――そこで(映像)は途切れた。

 

 

 

 

 

Side空

 

「……何だろう、今の夢……」

 

いつもの変わらぬ朝ではなく、やけに鮮明な夢を見た。知らないはずなのに知っている気がする、そんな感じの夢だった。

 

《マスター、おはようご――――どうされたんですか!?》

 

枕元に置いてあるブレイブを腕につけたらブレイブが心配する声を上げた。

 

「? どうされたってどうもしないけど?」

 

《ですが、マスターの目から涙が……!》

 

え、涙? あ、ホントだ。

 

ブレイブに言われた通り、俺の目からは涙が流れていた。

 

自分でも気が付かないうちに涙を流すことなんてあるのか……。

 

自然に止まった涙を拭ってベッドから出ると、体が重く感じた。いや、正確に言うと、いつも通りに戻っただけだ。

昨日が偶々軽かっただけなのだ。

 

……魔力が使える。元に戻った……?

 

体が元に戻っているなら力も戻っているのでは? と試してみたら案の定、理屈は分からないが昨日使えなくなっていたはずの力が使えるようになっていた。

 

『力が戻ったみたいですね』

 

「そうなんだけど……昨日は何だったんだろう?」

 

『現段階では何とも言えんな……』

 

アルビオンの言う通りだ。判断材料が少なすぎる。二亜の天使で調べてもいいけど、出来るだけ使わないって二亜と約束してるから使わない。

 

「ま、これで料理が掃除が出来るから問題ないけどね!」

 

『ハッ、すっかり主婦みたいになってやがるな』

 

九喇嘛の言葉は一応誉め言葉として受け取っておいて、朝ご飯の仕度を始めた。

 

 

 

 

 

「これより、裁判を始めます」

 

裁判長の開始の合図で裁判が開廷された。

 

「被告人前へ」

 

呼ばれた被告人が前へと出る。

 

 

 

この裁判での被告人は――――――俺だ。

 

 

 

 

 

遡ること数時間前のことだ。

お昼まで特訓をした後、小学生組が翠屋に集合した。今日は平日。しかし、夏休み中なのでお店に来るお客さんはカップルや学生が多い。

 

「こんにちは、桃子さん、士郎さん、恭也さん、美由希さん」

 

「いらっしゃい。今日は皆来るんでしょう? あとでおやつ持っていくわね」

 

「ありがとうございます」

 

桃子さんは俺達が来るといつもお菓子をくれる。正直言って商品になるものをただで貰っているから気が引ける。

 

「空君にはお店のお手伝いしてもらってるんだからこれくらい当然よ」

 

「そうですか? じゃあお言葉に甘えます。けどさも当然のように心の中読むのやめて下さい」

 

「あら、ごめんなさいね。空君は分かりやすくて、つい」

 

そんなに分かりやすいのかな? いや、周りがおかしいんだきっと。

 

勝手に結論付けて皆がいる席に座る。

 

「これで全員揃ったな。で、今日はどうしたんだ?」

 

雄人が全員揃ったのを確認すると俺達を集めた本人、アリサに尋ねる。

 

「フフフ、よくぞ聞いてくれたわ!」

 

待ってましたと言わんばかりにアリサが口を開いた。

 

「皆で海に行くわよ!」

 

『お、おー……』

 

「ちょ!? テンション低過ぎじゃない!? 海よ! 海なのよ!?」

 

『いや、だって、ねぇ……毎年のことですし』

 

「グッ……! そ、それもそうね……」

 

コホンと咳払いをしてアリサが続ける。

 

「まあ、それはともかく。今年も海に行くわ! 異論は認めない! いいわね!」

 

『ほいきた、合点承知の助!』

 

「……古いけど、まあいいわ。さっさと予定を合わせましょう」

 

それから皆の予定を聞き日程を合わせた。毎年の事なので小学生でも決めるのにも手慣れている。

今年はユーノやクロノのなども誘ってみようと言うことになった。

 

「そうだ! 新しい水着、空が選んでよ!」

 

『(そんなことしてもらってたのッ!?)』

 

アリシアの提案に何人かがビクッと肩を揺らした。

 

「それって毎年じゃなかった?」

 

去年も一昨年もアリシアやフェイト、更には十香達の分まで選んでいる。

 

「細かいことは気にしないの! それよりも選んでくれるの?」

 

「俺のセンスでいいならいいけど……保障はしないよ?」

 

「大丈夫! 空が選んだのものなら私は何でもいいもん! むしろ喜んで着るよ!」

 

俺が選んだので喜んでもらえるなら嬉しいに越したことはない。

 

「あ、あの! 空君!」

 

「ん? どうかした、なのは?」

 

「私のも選んでくれたら……嬉しい、かな」

 

恥ずかしそうになのはが、

 

「私にも選んでくれないかしら」

 

平然と愛衣が、

 

「私も! 姉さんだけじゃなくて私のも選んでね!」

 

アリシアだけだけじゃなくて自分も、とフェイトが、

 

「私も選んで欲しい……かな」

 

少し控えめにすずかが、

 

「私にも選んでくれるよね? 空君」

 

俺が選ぶのが当然とばかりに明日奈が、

 

「わ、私は別にどうでもいいんだけど、あんたがどうしてもって言うなら選ばせてあげるわ!」

 

選んで欲しい……らしい(?)アリサが、

 

「わ、私のも折角やから選んでくれへん? べ、別に深い意味はないんやけど……」

 

視線をこちらにチラチラと寄こしながら上目遣いにはやてが、俺に水着を選んでと頼んできた。

 

「(わ、私もヴァーリ君に……いやいやいやいやでもでもでもでも!)」

 

若干一名だけ頼んでるんだか頼んでないんだかわからないがついでに選んでおけばいいのだろうか?

それとあかりは突然頭を横に振ったりして皆が軽く引いていた。

 

今年も大変だ。この数に加えて十香達もだろうし、今年は凜祢とシエラが増えてるから。

 

それからあっという間に予定を決めていき雑談をしていたら翠屋のドアが開いた。

俺が座っている位置からだと自然と出入りする人物がわかる。今回は新しいお客様が来たようだ。

二人組で片方は中高生ぐらいの赤毛の少年で、もう片方は綺麗な銀髪で俺達と丁度同い年ぐらいの少女だった。

少女の方は店内を見回していると、俺とばっちり目が合った。

 

「あ、空君!」

 

銀髪の少女―――イリヤスフィール・フォン・アインツベルンことイリヤは手を振りながら俺の近くにやって来た。

 

「やっほー、イリヤ。兄さんもこんにちは」

 

「ああ、こんにちは。元気にしてたか?」

 

「それはもちろんですよ!」

 

イリヤにつられるように、赤毛の少年―――衛宮士郎こと兄さんもやって来たので挨拶をかわす。

 

「今日はどうしたんですか……って聞くのはおかしいですね」

 

「実はイリヤが空に――――――」

 

「わーッ! お兄ちゃんは何言ってんのーッ!?」

 

兄さんが何か言いかけたところでイリヤが大声で遮った。

 

「……? よくわかりませんが、そこの席に座ったらどうですか? お水持ってきますね」

 

二人分の水を用意して二人に渡す。

 

「注文は何にしますか?」

 

「じゃあ、シュークリームと紅茶を。イリヤは?」

 

「私もシュークリーム。飲み物はオレンジジュースがいいな」

 

「はい、しばらくお待ちください」

 

桃子さんに注文を伝えた―――――ところで気が付いた。俺、今日は手伝いでも何でもないじゃん!

 

「フフフッ、空君も大分翠屋の店員としての自覚が出てきたわね♪」

 

ッ!? これは桃子さんの罠だったんですか!? 知らないうちに動きが染みついてしまった……!

 

笑顔の桃子さんが今は悪魔の笑顔に見えてしまう。

と、まあ注文は受けたので運ぶところまではやっておくべきだと思い、注文したものをトレイに乗せテーブルに置く。

 

「お待たせしました。シュークリームと紅茶、オレンジジュースです」

 

トレイを戻した後、イリヤと兄さんに許可をもらい同じテーブルに座らせてもらった。

 

「あ、あのさ、空君。この後の予定とかってある?」

 

「ううん、ないよ」

 

「じゃ、じゃあさ、一緒に遊ばない?」

 

「おっ、いいよいいよ。遊ぼうか。今日は俺の家で遊ぶ?」

 

「空君のお家? うん! 行ってみたい!」

 

「よし、決定! 兄さんも来ますよね?」

 

「イリヤの面倒見ないといけないからな。お邪魔させてもらうよ」

 

「了解です! 食べ終わったらい―――――」

 

『行かせねぇよッ!?』

 

なのは達が一斉に立ち上がってツッコんできた。相変わらずツッコミが息ピッタリなことに感心してしまう。

いきなりのことでイリヤと兄さんがビクッとなっていた。

 

「……えっと、空の友達か?」

 

「うん、そうだよ――――って紹介してなかったけ?」

 

ヴァーリの質問に紹介してないことに気が付いた。

 

「ああ、全くもって知らない」

 

「こっちの可愛い子がイリヤスフィール・フォン・アインツベルン」

 

「か、可愛い!? またそんなこと言って~!」

 

イリヤがポカポカと肩を叩いてくるが全然痛くない。

 

「で、こっちの赤髪の人が兄さん」

 

「お、おいおい空、それじゃ俺が誰だかわかんないだろ?」

 

「あ、そっか。兄さん改め衛宮士郎さん。イリヤのお兄さん」

 

『(え、じゃあ、そっちの女の子の兄を兄さんって呼ぶってことは……義兄さん!?)』

 

「紹介終わったからもう行って――――」

 

『いいわけがない!』

 

えー? 何がダメなの? ヴァーリ、雄人、あかりの三人は納得してるのに……なのは達は何が不満なのかな? 心なしかなのは達の額に青筋浮いてるのは気のせいですよね?

 

「えーっと、どの辺がダメなんでしょうか?」

 

『色々! というかその他諸々全部!』

 

ぜ、全部? そんなに?

 

「これはもう裁判よ! 空は今までしてきたことを裁かれるべきなのよ!」

 

『異議なし!』

 

アリサの主張は多数決によって決定され、こうして裁判は確定となった。

 

 

 

そして、現在。龍神家の一室でアリサの宣言通りに裁判が行われている。俺の背後にはたくさんの傍聴人がいる。

 

「被告人、最期に言い残すことは?」

 

「それ最初聞くの!? まだ始まったばっかだよね!?」

 

裁判長の琴里がいきなり裁判を終わらせようとしてくるとは思わなかった。

 

「それが最期の言葉でいいのね? なら判決は――――」

 

「ちょっと待って! 俺の罪状はそもそも何なの!?」

 

「この期に及んで聞くの? いいわ。あなたの罪状は―――――――女誑しかつ鈍感でいる、という最低な罪。検察官側から意見があればどうぞ」

 

琴里が俺とは対面に座る人物に視線を向けた。その先にいたのは―――――――

 

「これまでの調査によると何人もの少女を誑かしていると断定できます。本日翠屋に来た、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンも被害者の内の一人で間違いはないかと」

 

折紙だ。淡々とした口調で正確に告げていく。

 

被害者って何!? 俺誑かすなんてことしてないはずなんだけど……。

 

「……被告人は分かっていないようなので証言人を呼びましょう。入って下さい」

 

琴里が部屋の外に呼び掛けるとリインフォースさんが入って来た。

 

「リインフォースさん、あなたは龍神空に特別な想いはありますか?」

 

「…………。あります。彼には消えるはずだった命を救ってもらいました。それに……幸せにするとも言ってくれました。……なのに、こんなのあんまりですッ」

 

証言台に立ったリインフォースさんが静かに泣き始めた。それだけで罪悪感で押しつぶされそうなのに言われた内容が内容だけにさらに肩に負担が出てくる。

 

「それだけ聞ければ十分です。被告人は何かありますか?」

 

「え、えーっと、あの時は――――――」

 

「なるほど、無自覚だったわけですね? 最低です。今すぐにでも【(メギド)】をぶち込んでやりたいくらいです」

 

「全然聞いてくれないんだね!? それから【砲】はやめて下さい死んでしまいます」

 

「まあ、いいでしょう。次の証言人入って下さい」

 

まだ続くの!?

 

リインフォースさんと変わるようにして入って来たのはイリヤだった。

 

「イリヤスフィールさん、あなたはどこで龍神空と出会いましたか?」

 

「は、初めて会ったのは遊園地です。……実はそこで迷子になってたところを助けてもらって……」

 

イリヤと初めて出会ったのは遊園地だったね。フェイトとの時間潰しちゃったけど……。

 

「なるほど。あなたは龍神空に特別な想いはありますか?」

 

「えッ!? えええぇぇぇえええええええッ!? いや、その……何と言いますか……。空君は……か、カッコいいなぁって……あ! でもでも()()そういう関係になりたいってことではなくて……!」

 

「あ、今の反応で大分わかりました。もう結構です」

 

「えッ!? ……あ、はい」

 

琴里に適当にあしらわれ、どこか落ち込んだ様子で部屋を退出して行った。

 

そういう関係ってどんな関係?

 

「裁判長」

 

イリヤが言っていたことについて考えていたら折紙が挙手していた。

 

「何でしょうか、鳶一検察官」

 

「被告人には有罪を下すべきだと検察側は判断いたします」

 

「そうですね。判決は―――死刑でいいでしょう」

 

「死刑出すの軽いな! こっちの意見は!? というか弁護人! 弁護人を要求します!」

 

「……無駄な足掻き」

 

ちょっとー? 聞こえてますからね、鳶一検察官?

 

「良いでしょう。弁護人、意見があればどうぞ」

 

弁護人と呼ばれて立ち上がったのは―――――

 

「これはもう言い逃れは出来ません。いつかはこうなるんじゃないかと思っていましたが……もういっそのこと死刑でいいのではないのでしょうか?」

 

友人のクロノ・ハラオウンだ。彼は判決に対して異議を唱えることなくあっさり受け入れていた。

 

「弁護にぃぃぃぃぃいいいいいいんッ!?」

 

まさかの弁護人ですら味方でなかった件。それなんて無理ゲーですか?

 

「なるほど。弁護人に異議はないようですね。では、判決は――――」

 

「異議あり! ありまくりです!」

 

五河裁判長が判決を下す前に何としてでも意見を言わねば!

 

「……何でしょうか? 今更判決は覆るものではありませんよ?」

 

敵はこれまでで一番強敵だ……ッ! だが、ここで負けるわけにはいかないんだ!

 

「お、俺は女の子を誑かした覚えは一切ないです!」

 

「あなたになくとも被害者が誑かされたと言っているんです。それは如何様にも変わりません」

 

た、確かに……。

 

「ですが! 誑かされたの意味は騙すことや欺くことを言います。今までで俺は誰かを欺きましたか?」

 

『ッ!?』

 

俺の発言に誰もがハッとなった。

 

「……それでは言い方を変えましょう。被告人は女の子と仲良くし過ぎではありませんか?」

 

今度は鳶一検察官からだ。

 

「それのどこがいけないのでしょうか? 俺はただ仲のいい友達といるだけです。それ以上の関係になった覚えはありません。それなのに裁かれる? 死刑? どう考えても行き過ぎじゃありませんか?」

 

「ッ!」

 

鳶一検察官の顔が小さくだが歪む。 しばらく考えていたが突然ハッとなったように顔を上げた。

 

「確かに被告人が言う通り、ただ友達と仲が良いだけでしょう。しかし、鈍感であることについてはどうでしょうか?」

 

これ以上責められないと分かったのか別の方に攻撃を仕掛けてきた。だが、甘い。

 

「鈍感? それは何に対してでしょうか? まさか……人の心だなんて言いませんよね?」

 

「…………」

 

押し黙ったということはそれを言おうとしたのだろう。

 

「心とは見えないモノです。その心を持つ者以外には決して。確かにこの世の中には以心伝心や何となく考えることがわかるといった方もいるでしょう」

 

「だったら――――」

 

「だがしかし! それが全員に通ずるわけではありません。以心伝心だって相手の趣味や傾向、好みを知った上で頭が判断しているに過ぎない。だからこそ相手が今どんな想いでいるか、考えているかなんてわかるはずもありません。口に出してみなくては伝わらない想いもあるのです!」

 

だから、俺は想いを口に出して伝えないんだろう。皆に伝わって欲しくないから。伝わったら悲しむことがわかっているから。

 

「裁判長、判決を」

 

「……判決は――――――」

 

「異議あり!」

 

「なにッ!?」

 

琴里が判決を下そうとしたところで誰かが阻んできた。

その声の主は鳶一検察官でもハラオウン弁護人でもなかった。傍聴人席にいた夜刀神十香だった。

 

「空は口に出してみないと伝わらない想いもある、そう言ったな?」

 

「え、うん……」

 

「だから、私も口に出して伝えてみることにする」

 

十香は証言台まで出てくると声を大にして告げた。

 

 

 

 

 

「私は―――夜刀神十香は龍神空のことが好きだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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