迷子になりました!
Side空
なのはと友達になってからしばらくした頃、十香達が高町家と仲良くなった。
そして、なのはのお父さん――士郎さんが目覚めた、というのをなのはから聞いたので退院祝いにケーキを作ってプレゼントした。
「お味はどうです?」
「……これはホントに君が作ったのかい?」
「え、はい。そうですけど」
「君ぐらいの歳でこれほどとはすごいとしか言いようがないよ」
「ありがとうございます!」
見たか! これぞ、家事スキルEXの力!
「あら、ホントに美味しいわね」
「お母さんと同じくらい美味しいの!」
それはいくらなんでも言い過ぎでしょ……。
何回やってもあのシュークリームは作れなかった。それは桃子さんの腕が俺では及ばない高みにあるのだ。どうしてそんなに美味しいのが作れるのか聞いたら、遠月学園とかいう卒業がものすごく厳しいらしい学校を主席で出たとかなんとか。
「ああ、確かにすごく美味いな」
「美味しい……美味しいけども! 女の子として負けた気分だよ……」
あー、そう言えば美由希さんは料理が下手っていうレベルでは言い表せないほどひどい腕なんだよね。一回食べたけど、ホントに死ぬかと思った。あれは料理じゃなくてもはや兵器だと思うんだ……。まあ、そんなことはさておき皆に満足してもらえてよかった!
「空君、今、失礼なこと考えなかった?」
美由希さんからジト目で睨まれる。
「え!? ま、まさかー美由希さんの料理が兵器だなんてこれぽっちも考えてないですよ!」
あ、つい言ってしまった。
「やっぱり考えてんじゃん!? うわーん! 恭ちゃん慰めてー!」
「断る。事実だから仕方がないだろ」
「グハッ!?」
あ、美由希さんが精神的にダメージ受けて倒れた。
「ねえ、空君。家で働いてみない?」
「え、俺まだ5歳ですよ? まともに出来るとは思わないんですが……」
美由希さんは無視ですか……。
誰も美由希さんを慰めようとしない。皆もフォローに困る内容だからだろう。
「大丈夫よ、あなたはかなりしっかりしてるから。士郎さんもそう思いますよね?」
「ああ、僕も同じだよ。もちろん君さえ良ければ、だけどね?」
ふむふむ、バイトみたいに考えればいいのか。
でも、5歳児が働くっていいのかな? 法律に触れません? ……そういうの考えても仕方がないか。
「じゃあ、家族と相談してから考えますね」
「それで構わないよ」
そして、俺はそのまま帰ろうとしたら誰かに腕を掴まれた。見なくてもわかるけど視線を掴んだ方に向けてみると――――案の定、犯人はなのはだった。
「えーと、帰りたいのでその手を放してくれると嬉しいんだけど」
「お昼一緒に食べようよ」
「桃子さん……」
桃子さんに助けを求めたが、
「ええ、わかってるわ。すぐに用意するわね」
え!? 違いますよ!? 助けて下さいよ!?
俺の意思を完全に無視してお昼を作り始めた。
はぁ……実を言うとこれは今日に始まったことではないんだよね。
なのはと仲良くなってから、よくなのはの家や翠屋に行くことが多くなって、そのままご飯を一緒に食べるという流れに何故かいつもなってしまうのである。
しかも、休みの日には泊めようとしてくるし……。断ろうとすれば、なのはは泣きそうだし、恭也さんは睨んでくるし、桃子さんに助けを求めているはずなのに、了承したと勘違いされるし……。もう何のさ!? しかもそのことを皆が知ると修行が辛くなるんだからね!?
『最終的には空が折れるがの』
ウグッ! ……事実だから言い返せない。でも、仕方ないと思う!
「(あ、あのー六喰。このこと皆には……)」
『安心するのじゃ―――――』
まさか伝えないでおいてくれるの!?
『皆にばっちし伝えたからの』
一つも安心できないんですけどッ!?
俺の儚い願いは六喰の
その後、ご飯を食べて帰った俺は十香達によって完膚なきまでに叩きのめされたのだった。
士郎さんが退院してから数日後のことだ。目が覚めると知らない場所にいた。
「……ここどこ? さっきまで修行してたはずなんだけど……」
トレーニングルームで修行していたのは確かだ。
『少年の力と十香ちゃんの力がぶつかり合った衝撃で空間に裂け目が出来たんだ。それに少年は巻き込まれてここにいるんだよ』
二亜に言われて何があったのかを思い出す。
「そっか。でさ、二亜。俺の中から出てここのこと調べてくれない?」
『りょーかーい』
二亜が返事をすると俺の胸あたりから光の粒子が溢れて人の形になり、一人の女性が現れた。
「二亜ちゃんただいま参上!」
すでに霊装を纏った状態の二亜がすぐに本型の天使―――
囁告篇帙の能力は“超々高性能検索エンジン”。要するに、この本にはなんでも書かれているのだ。ここがどこだかわからないはずがない。
「終わったよー、少年」
「相変わらず早くて便利だよね。その力」
調べる過ぎると色々嫌な部分も見えてくるが。
「お、何々? もっと褒めくれちゃっていいよー」
「はい、とてもすごいですね。で、ここはどこなの?」
適当に流しつつ再び質問した。
「少年ヒドー。もうちょっとは構ってよー。……まあいいや。ここは“時の庭園”って言われる場所だね。(また原作キャラがいるところじゃん……)」
「人は住んでるの?」
「……え? あ、ああ、うん。ここには人は住んでるよ」
? どうしたんだ? 二亜らしくない反応……。何かマズイ場所なのかな?
「とりあえず、人がいるところ案内―――」
「あなた達は誰ですか?」
「……いらないみたい」
「そうみたいだね……(早速遭遇かー)」
目の前に猫耳生やした女性と犬耳生やした女の子と金髪の女の子が現れた。
金髪の女の子だけは黄色の刃の鎌を所持していた。
「俺の名前は空です。で、こっちは俺の
「よろしくー」
「ここには何しに来たんですか?」
「修行してたらいつの間にかここにいたんです」
「そうですか……。(ウソをついているようには見えませんね)」
「ところで出来ればそちらの名前を教えてもらいたいんですけど……」
「申し遅れました。私はリニスと言います。それと敬語は要りません」
猫耳お姉さんはリニス。礼儀正しい人だね。
「フェ、フェイト・テスタロッサ……です」
金髪の女の子はフェイト。歳は俺と同じくらいで……人見知りかな?
「……あたしはフェイトの使い魔のアルフだよ」
犬耳の女の子はアルフ。少し怪しまれてるかな。
三人の中で一番警戒しているのが鋭い視線から窺えた。
「〈ねえ、この後どうしたらいいかな?〉」
俺は二亜に最近覚えた念話を使って聞いてみた。これは霊力を使って行われる念話らしい。
「〈うーん、取りあえず…………ご飯でももらおうか〉」
「〈よしわかった。……っておい! 何でご飯!?〉」
「〈いやー修行で疲れちゃってさぁー〉」
そう言われると、俺も何だかお腹が空いて来た気がする……。でも二亜って俺の中にいただけだよね? 疲れるのかな?
俺が二亜の力を使えば、二亜も体力や霊力が減るかどうかはわからないけど、俺も休みたいと思い始めてきた。
「悪いんだけど、休めるところないかな? 修行で疲れちゃって、アハハ」
「そうですか……わかりました。付いて来て下さい」
意外と簡単に許可が出ちゃった……。
少し驚きながらもリニス達に付いて行った。
「ここで少し待っていて下さい。すぐにご飯を用意しますね」
リニスの案内で大きな城のような場所に入って食堂?らしき場所で待機させられた。
ご飯まで暇だなー。フェイトとアルフと話してみよっかな。
「ねぇねぇ、フェイトは何歳なの?」
「え、ご、5歳だよ……」
「そっか。じゃあ俺と同い年だね」
『…………………………』
俺とフェイトの間に長い沈黙が続く。
…………………………………………………………………ハイ、会話が続きません!
「お見合いかッ!」
沈黙が嫌だったのか、二亜が思いっきり机を叩いて叫んだ。言い分は最もだけど俺も好きで沈黙してるんじゃない。話のネタがない。
「ど、どうしたの? 二亜」
「どうしたのじゃないよ!! イベント発生してんだよ!? フラグ建てないでどうすんの!?」
は? イベントってギャルゲーかよ……。しかも何でフラグ建てなきゃいけないの。
「何言ってんの? ほら、二亜のせいで二人が固まってるよ」
「少年は何もわかっちゃいない!」
「何をさ……」
「今君の前にいるのは誰だい!?」
「フェイトとアルフだけど、それがどうかしたの?」
ホントにどうしたんだろ? いつもとテンションが違うぞって思ったけど大抵こんな感じだったね。
二亜は俺の回答が気に食わなかったのか余計にヒートアップした。
「美少女がいるんだぞッ!? なら、キザっぽいセリフの一つや二つ言えやッ!! それでもフラグメーカーの称号を持つ男かッ!! この軟弱者がッ!!」
「俺がいつそんな称号貰った!? 全然嬉しくないよ!?」
「ええい! やかましい! とっとと口説いてしまえ! そして後で皆にボコられろ!」
「やかましいのそっちだよね!? というか最後のがぜってー本音だよね!?」
勝手に不名誉を貰った挙句、ボコられろって……。
しばらく小学生もしないようなケンカを繰り広げていたら、
「プッ、フフフ……」
「アハハハハハハハッ!」
フェイトとアルフの二人が笑いだした。
「お、やっと笑ってくれた」
「そうだねー。体を張ったかいがあったよ」
ちょっとだけ場の空気が緩くなった。
「え、二人はそのためにあんなことやってたの?」
「まあね。沈黙なんてつまらないだけだし」
シリアスな空気はあまり好きじゃないんだよね。
「そ、それにしちゃ出来すぎだろ」
「家じゃいつものことだけどねー」
基本的に二亜や、折紙、美九が勝手に暴走してるだけだと思うんだけど……俺は何故か巻き込まれてるんだよね。
「そ、そうなんだ。空の家は明るくて楽しそうだね……」
あれー? 地雷踏んだ? フェイトが急に暗くなったぞ。
「あー、フェイトはもしかして家族と仲悪い……とかあったりする?」
「ううん、そんなことないよ……」
うわー、これは何かあるね……。
「そっか……。ねぇ、フェイト」
「?」
「笑顔っていうのはね、たったそれだけでも周りを明るくするんだよ。特に君みたいな可愛い女の子はね。だから君には笑ってて欲しいな」
よし、これで「もう何言ってるの? 空ってば変なの」と言って笑うはず! そして、アルフもそれにつられて笑うに違いない!
「か、可愛い……」
あ、あれ? フェイトの様子がオカシイなー? 思ってた反応と違う。
「(ホントに口説きやがった!? 空……恐ろしい子ッ! ……でもこれで後で死刑確定だね。ご愁傷様ー♪)
「だ、ダイジョブかいフェイト!? 顔が真っ赤だよ!?」
「だ、大丈夫だよ、アルフ。ちょっと休めば問題ないから……」
「……フェイトがそういうんだったらいいけど」
ホントに大丈夫かな?
「フェイト、ちょっとおでこ貸してね」
俺はフェイトのそばまで行くと自分のおでことフェイトのおでこをくっ付けた。
「ひゃあっ!?」
フェイトが変な声を上げて更に顔が赤くなった。そして、限界だったのか倒れてしまった。
「フェイト!?」
「やっぱ、無理してたんじゃん。どっかで休ませないと」
「いやいや少年のせいだからね!?」
「え? 何で? 俺なんかしたっけ?」
んー? 思い当たることがこれぽっちもないんだけど……。
「(この男は~! これはもはや病気と言っても過言じゃないほどの鈍感さだね! さすがの私でもこれは後でお灸を据えねば!)」
二亜が霊力放ってる!?
「〈突然霊力出すなんてどうしたの!?〉」
「〈……別に何でもない。ただ……明日からの修行覚悟しておいてね〉」
そう言われて、一方的に念話を切られてしまった。
フェイトはアルフにソファーに寝かされていた。
しばらく二亜が不機嫌そうにしていたのでアルフと話していたら、知らない人が出てきた。
「さっきから五月蝿いわね。研究に集中出来ないじゃない」
「ぷ、プレシア! フェイトが! フェイトが倒れちゃったんだ!」
「任せなさい! 私の可愛いフェイトには怪我一つだってさせないんだから!」
プレシアと呼ばれた人はフェイトの名前を聞いた瞬間、目にも止まらぬ速さでフェイトに近づいて診察していた。
速ッ! 今のスピード人間やめてない!?
「(……? プレシアってこんな性格じゃないはずなんだけど……)」
プレシアさんを見て二亜が何か言いたそうにしていたがプレシアさんの動きに驚いていてそれどころではなかった。
「大丈夫ね。ただ気絶してるだけよ。でもどうしてこうなったのかしら?」
「空がフェイトに近づいておでこどうしをくっ付けたら急に倒れたんだよ!」
「空? ああ、そこの男の子のことね。わかったわ。ねえ、そこのあなた」
「あ、はい」
「今のはホントのことかしら?」
「え? 俺の―――」
「アルフの言ったことはホントだよー。間違いなく彼がやりましたー」
「……おーい、二亜さーん? 何を言ってるの?」
だから、俺が何をしたって言うんだよ。
「そう……。なら、死になさい」
へ?
俺は茫然としていたらプレシアさんは杖みたいなのを出すと、雷を放ってきた。
「ちょッ!? いきなりなんですか!?」
急なことだったが何とか躱せた。
「私の大切な可愛いフェイトを気絶させた罰に決まってるでしょ!」
「俺はそんなことしてないですよ!?」
「いえ彼はウソを言っています! それどころか口説いていました!」
はぁ!? 何言ってんの二亜!? 俺がいつフェイトを口説いたっていうのさ!
「……何ですって?」
「いやいや口説いてなんかいませんけど!?」
「なら、私の世界で一番大切な可愛いフェイトに魅力が無いと言いたいのかしら!」
「そんなこと言ってませんよね!?」
この人めんどくさい! っていうかこのやり取り前回もあったよね!? 恭也さんがシスコンならこの人は親バカかよッ!
しばらくプレシアさんが放ってくる雷を躱していると、料理を作り終えたリニスが戻って来た。
「ご飯が出来ましたってプレシア! あなたは病人なんですから安静にしていなさい!」
いやいや病人であの動きはありえないでしょ……。
「娘に手を出―――」
「プレシア」
「……で、でも――――」
「プレシア!」
「……ハイ……」
リニスのおかげでプレシアさんが止まった!
「ありがと、リニス!」
「いえ、私の主が迷惑をおかけしました。それとプレシアはここを片付けて下さいね」
「……はい」
病人に片付けさせていいのか? ありえない動きしてたけど心配になる。
「それではご飯にしましょうか」
「……あれ、ここは……」
「フェイト! 目が覚めたのね! どこか痛いところはない? 辛くない?」
プレシアさんが一番早くに気付いてそばに駆け寄り、抱きしめた。
「か、母さん……苦しい……」
アハハ、ホントに苦しそう。
「ご、ごめんなさい! 倒れたって聞いて、つい心配で……」
「フェイト~! 無事かい!?」
「……母さんもアルフも心配し過ぎだよ」
「家族ならそんなもんじゃない? よっぽどひどい家庭でなければね」
「……うん、そうだね」
「それから、さっきはごめんね。俺のせいで倒れたみたいだし」
「え、あ、いや大丈夫だから! 気にしてないよ!」
ほっ、それは良かった。
「もう平気そうならご飯一緒に食べよ」
「うん。ってうわッ!」
フェイトはプレシアさんから解放されて立ち上がろうとしたらフラついた。
俺はフェイトを支えようとしたが、よろけたフェイトの足にぶつかり俺も一緒に倒れてしまった。
何とか俺がフェイトの下に入ったのでフェイトにケガはないはず。
……? 少し口が痛いけど何か柔らかいかな……って!?
『んんッ!?』
「あああああああああああああああああああッ!?」
目を開くと目の前にフェイトの顔があった。
距離がゼロと言ってもいいくらいに。
要するに―――――俺とフェイトは