何かが始まりそうです!
何かが始まりそうです!
Side空
「……ん……? ……あれ、動けない?」
上半身を起こそうとして体を動かそうとしたが動けなかった。
理由を探してみると、俺の右側に綺麗な銀髪が映った。
その人が俺を抱き枕代わりにしていた所為で動けなかったようだ。
「ってシエラ? おーい、シエラー、起きろー」
「……ん……うーん? 何だ……もう朝か……?」
シエラが
……眼が赤い? シエラって蒼い眼だったはずじゃなかったか?
となるとこの人物は誰……いや、容姿がまったく同じ女性が一人だけいた。
「リ、リインフォースさん、こんなところで何してるんですか?」
「ああ、おはよう。君が……その、私を幸せにしてくれるだろう?」
リインフォースさんは少しだけ頬を赤く染めて聞いてきた。
「え? あ、はい。昨日そう言いました」
昨日はリインフォースさんとデートをしてバグを直した。
実際の所、いつまでもグチグチ言うリインフォースさんに嫌気がさして勝手に直しただけだ。
俺はリインフォースをその場に置いて帰ってしまい、琴里にプロレス技掛けられた。
「そ、それでだな……その、この世界では男性が女性に贈る言葉だと聞いている。そ、そういう意味と……受け取っていいんだな?」
「もちろんです。俺は本気ですから」
この人はシエラと同じで放っておけない。不幸な人生を歩んできたんだから俺が少しぐらいは幸せになる手助けをしてあげたいって思った。
「ッ! そ、そうか。こういった時は確か……ああ、そうだ。ふ、不束者ですが末永くお願いす……お願いします」
「リインフォースさん、それは嫁入り前の人が言うセリフですよ。それじゃまるで、俺と結婚するみたいになりますよ?」
「そうじゃないのか?」
「えっ?」
「えっ?」
あれれれれー? 話が噛み合ってないぞー?
まさか、俺がリインフォースさんにプロポーズしたことになってるなんて思いにもよらなかった。
確かに世間一般ではそう受け取られてもおかしくはない。恋愛事に疎い俺でもそのくらいはわかる。
でもそんなつもりで言ったんじゃないんだけど……。
この空気をどうしようかと悩んでいたら部屋のドアがノックされた。
『主、そろそろ朝食の時間です』
「はーい、今行くー! リインフォースさんは朝食家で食べます? それとも家に帰りますか?」
「…………。……え、ああ、家で食べる」
『その声は管制人格か? 主、勝手ながら入らせていただきます』
そう言って俺の了承無しに部屋に入ってきた。
別に許可なんて要らないんだけどね。
「管制人格、何故貴様がここにいる?」
「私がここにいて何か問題でもあるのか?」
「問題大ありだ! 貴様の家はここではなく八神はやての家ではないか!」
「昨日は彼とデートをしていたんだ。つまり―――――朝チュンだ!」
へ? 朝チュンって何?
リインフォースの言った単語の意味が解らずにいたら、シエラは意味が通じたのか顔を真っ赤にして肩を震わせていた。
「貴様ァッ! 主を食べたのか!?」
「? 食べた? 俺を?」
俺って美味しいの? というかどこを食べられたんだろうか……。
「空は私に言ってくれた。“幸せにしてやる”とな。なら、そう言った行為に及んでも当然だろう? (実際はそんなことしてないが……いづれは)」
その言葉は言った。でも、そういう行為って何? 帰ってからご飯食べて、風呂入って、夏休みの宿題ちょっとやって寝たはずなんだけど。何でシエラはこの世の終わりみたいな顔してて、反対にリインフォースさんはドヤ顔してるんだ? あと、何気に名前で呼んでるし。
「はい、二人共ケンカはそこまで! 俺はご飯作るから先にした行くから。リインフォースさんははやて達によろしく言っておいてください。それから勝手に人の布団に入るのはダメですからね? いいですか?」
「言い換えると、空の了承があれば一緒に寝てもいいのか?」
「えーっと、まあ、それなら構いませんが」
「そんなもの認められるか! 貴様が主に何をするかわかったもんじゃない!」
「フッ、貴様に認められずとも本人が良いと言ったんだから貴様が私を邪魔立てする理由は無いはずだが?」
「クッ……このままでは……ハッ! 主!」
シエラは何かを閃いたのか、俺を呼んだ。
「何?」
「主の了承があれば私でも共に寝ていただけるのですか?」
「え、うん。そうだね。というかそろそろご飯作りたいんだけど……」
二人の口論がまだ続きそうなので、止めるのを諦めて部屋を出た。
Sideout
Side???
俺は管理局で働くしがない人間だ。管理局は給料は安い。
その上、上司はウザいし、臭いし、人使いが荒いし、臭いし、嫌なことばかりだ。要するに俺が言いたいことは上司は臭いということだ。
臭い言い過ぎだな……。実際そうだけども。
ちょっと魔法が使えるくらいで良い気になって管理局に入ったものの、俺が憧れてた管理局の仕事なんてそこには全く存在しなかった。俺よりも才能がある奴なんて五万といた。
最近では、管理外世界の「地球」とか言われる次元世界出身の嘱託魔導師がすごい戦力になったとかなんとか聞いた。
はぁ……魔法の才能がある奴はいいねぇー。周りからちやほやされてるんだろうなー。
物語の登場人物で言えば名前すらないモブでしかない俺とは住む世界が違う。
噂のすごい奴らの話を聞く度にそう思い知らされる。
今日もデスクワークか……。
毎日毎日同じことを繰り返している内に何事にもやる気が起きなくなってしまった。
何か面白いことでもねえかなー。
そう思った矢先に、職場に行く道の途中で変な矢を見つけた。
何だこれ? まあ、どうせゴミだろ。
拾ってしばらく眺めた後すぐに捨てた。
次の瞬間には俺の背中から何かが貫通した。
それは俺が拾ってすぐに投げ捨てた矢だった。
―――ガハッ!? い、痛い! 矢が何で!?
すぐに矢を抜き、治癒魔法を使って傷を塞いだ。
何なんだよ、一体! !? な、なんだ……? 力が溢れて来る?
矢をその場でへし折ろうかと思ったが、得体の知れない力が溢れてきた。
ハハ、ハハハ……ハハハハハ! こりゃいい! 最高に「ハイ!」ってやつだアアアアア!
その日から俺の運命は変わった。
Sideout
Side空
「今日の予定は……何かあった?」
朝食を食べ終えてから部屋に戻って、今日の予定をブレイブに聞いた。
《クロノさんにアースラに来るよう言われてます》
「あー、そうだったね。早速フェイト達も誘って行くか」
部屋着から外出用の服に変え、フェイト達を誘って家を出た。
アースラに転移すると魔導書に関わった人達がほとんど集まっていた。
「おはようございます。英語で言うとGood morning」
「来たか。君達で丁度最後だ」
あ、無視ですね。まあ、いいんだけど。
「それで話って何ですか?」
「はい、これから説明します。まずは夜天の魔導書の暴走体、ナハトヴァールの討伐協力ありがとうございました。おかげで被害はゼロという素晴らしい戦果でした。それで空君、あなたに聞きたいことがあるのだけれどいいかしら?」
「? 何をですか?」
「あなたが来るちょっと前にリインフォースさんから聞いたんだけど、魔導書内のバグを直したって本当?」
「一応そうですけど、直ったかどうか知ってるのは本人だけですよ」
「……そう。それから今でも信じ難いのだけど宇宙に行ってナハトヴァールを倒したのもあなたでいいのよね?」
「あー、そんなこともありましたね」
アルカンシェルとかいうのでも滅びなかったときはどうなるかと思ったけど。
『四日前のことだから!』
「……そ、そう。じゃあ、最後に一言。これは私事なんだけどね。私の夫でクロノの父、クライドさんを助けてくれてありがとう!」
「僕からも礼を言わせてもらう。本当にありがとう!」
「僕がもう一度この手で家族が抱きしめることが出来たのは君のおかげだ。本当にありがとう」
ハラオウン一家にお礼を言われた。
「はい、どういたしまして!」
「そ、それでね、空君。あなたが最後に撃った砲撃がちょっと、ね……」
「上層部に目を付けられて、俺を何としてでも入れろ、とか言われたんじゃないですか? あわよくば自分達の言いなりにでもするつもりでしょうかね?」
『ッ!?』
「……君はエスパーか? ほとんど正解だ」
「普通に考えたらそうなるかなって思って」
「どうするの、空は」
誰もが心配そうな顔をしていた。
「断ればちょっかい出してくるんですよね?」
「恐らくはそうなるだろうね」
「なるほどなるほど。なら、そう出来ないようにすればいいだけですね」
「出来ないようにするって何をどうするんだい?」
「そ・れ・は――――」
『それは?』
「弱みを握る!」
『それなら出来なくなりそうだけど、やり方がエグイ!』
「というわけで、ハイ。これどうぞ♪」
「これは……メモリーカードか?」
俺からメモリーカードを受け取ったクロノは何が入っているのか質問してきた。
「それの中にはね、管理局の上層部の人が、人には言えないような真っ黒なことをしてきた証拠がたくさん入ったデータだよー。これをチラつかせればビビッて何も出来なくなるね! そしたら空君大勝利♪やったね!」
「い、いつのまにそんなことを調べてたの?」
質問してきたエイミィさんだけでなく、この場にいる俺以外が頬を引き攣らせていた。
「俺が目を覚ましてから、知り合いに頼んで調べてもらったんです」
二亜の〈
「これで空君が無理に管理局に入ることも無くなるわけね」
「そういうこと。それでも突っかかってくるならまだまだ手段はあるし、最悪、管理局を潰すことも考えてるんで」
「君ならホントに出来そうだから勘弁してくれ……」
クロノが嫌な汗をかきながら頼んできた。
「それは上層部の対応次第だよ。これで話は以上ですか?」
「え? あ、そうね。話はこれで終わりよ。この後何か予定でもあるのかしら? もちろんプライベートなことだから答えたくなければ答えなくてもいいけど」
「これから明日奈とデートです」
隠す必要もないのであっさりバラした。
『そうなの!?』
「うん、動物園に行くんだ♪」
皆からの質問に明日奈は笑顔で肯定した。
「じゃあ、失礼します」
明日奈と共にアースラから出て、一旦家に戻ってから集合することにした。
最近では駅前に集まることが多くなった。
昨日デートして、今日もまたデートは正直お金が……。
ちなみに今日は動物園に行くんだけど、俺は九喇嘛やドライグが俺の中にいる所為で動物に嫌われやすい。
だが、それも昨日までのこと。
元々体のある九喇嘛には小型化してもらい、ドライグとアルビオンには体を
それによって嫌われる要素をすべて無くした。
ドライグ達も体が出来て喜んでたからWINーWINです!
あとは俺自身の問題だ。これでもし嫌われるようならどうしようもない。
それと、ドライグ達がいないので当然の如く能力は使えない。
「空君、お待たせ!」
「大丈夫、俺も今来たところだから」
明日奈の服装はフリルがたくさんついた白いワンピースに、ミュール、腕輪型のデバイスを付けていた。
「なんだか、今の台詞って恋人みたいだね」
「そう? なんか毎回言ってる気がするんだよね」
「……毎回。ふーん、そんなにデートしてきたんだ……。空君って節操無しなの?」
『いきなり相手を不機嫌にしてんじゃないわよ!』
言われなくても明日奈が不機嫌そうなことは分かる。
「え、えっと、お姉ちゃんにそう教え込まれてるから……アハハ」
苦笑いで誤魔化せるとも思えないが、どうすればいいかわからない。
「まあ、いいけど……。さ、行こ?」
「うん、俺達のデートを始めようか」
どちらからともなく手を差し出し、繋いだ。
Sideout
Side未来
僕―――
僕を転生させた神様から特典として異世界に行ける扉を貰い、それを使ってこの世界やって来たんだ。
やって来たんだけど――――――
「ここがどんな世界なのかさっぱりわからない! よし、とりあえず寝ると――痛い! 何すんだよ、イフ!」
『寝ルナ、未来。寝テモ何モ変ワリハシナイゾ』
僕を殴った奴の正体は僕のスタンド―――イフだ。ウルトラマンマックスに出てくる完全生命体が小さくなってる。
「なら、どうしろっていうんだよ……」
『
「そっか! それでそいつに近づいて聞けばいいんだ! もし、そいつが悪人であってもヘブンズ・ドアーで一発だしね! さすがイフ! 僕に出来ない事を平然とやってのけるッ! そこにヘブッ!?」
またしても自分のスタンドに殴られた。
自我があると話し相手には退屈しないが、攻撃は痛いからやめて欲しい。
『フザケテイナイデサッサト調ベロ』
「ノリが悪いな……。まあ、いいや。それよりもカメラだね。あ、あそこのカップルにお店の場所を聞いてみようかな」
僕の視界に偶々いた、小学生ぐらいの少年少女に声を掛けることにした。
Sideout
Side空
「ねえねえ、そこの小学生カップルさん、ちょっといいかな?」
明日奈と歩き出して数秒で、いきなり知らない人に話し掛けられた。
「はい、なんでしょうか?」
「カメラを売ってるところを探しているんだけど、どこにお店があるか知らない?」
赤い革ジャンとその中に青い和服を着ているお姉さんは、カメラを売ってるお店を探してるようだった。
「えーっと、……確かあそこの大きいデパートの中にカメラの専門店があったはずです」
「あのデパートだね。わかったよ。ありがと! お礼は出来ないけど、二人のデートが良いものになることを願ってるよ!」
それだけ言って、すぐにデパートに向かった。
「そんなに急いでたのかな? それにしても変わった服装だったね……って明日奈?」
「えへへ~、カップルかぁ。私達そんな風に見えるんだぁ。フフフ♪」
話を振っても明日奈の反応が無いので心配して覗き込んでみれば、だらしない顔をして惚けていた。
「おーい、明日奈ー? 大丈夫ー?」
「プロポーズは夕日の綺麗な浜辺がいいです!」
「いきなり何言ってんの?」
どこかに頭でもぶつけたのかな?
「へ? あ、いや、今の無し! あ、やっぱり無しじゃない!」
「? ……よく分かんないけど行こうよ」
「そ、そうだね! うん、行こう! 張り切って行こう!」
ホントにどうしたんだろう……。
未だ惚けてる明日奈の手を引いて、動物園に向かった。
さっきあった人、なんだか近いうちにまた会いそうな気がするな……。
ただの直感でしかないけど。
Sideout
Side未来
この街は海鳴市というらしい。
カメラを購入した後、人気の無いカフェでドリンクを飲みながら
写真は全部で五枚出て来た。
「ふーん、これがこの世界の転生者か。ん? この写真は……」
一人目は武器を持って練習に励む、金髪オッドアイの少年。
二人目は亜麻色の髪の少女。何人かの少女と誰かを付けているような感じだった。
三人目は茶髪の短いポニーテールの少女。側には瓜二つの顔をした車椅子の少女がいた。
四人目は赤髪の少年。病室のベッドで眠っていた。
そして、五人目は僕がさっき話し掛けた黒髪の少年だった。
なんだ? 最後の少年だけ違和感がある?
具体的なことは分からないが、五人目の少年――――龍神空は他の転生者と違う気がする。
「この少年にもう一度会いに行くとしますか」
席を立ち、この少年の目的地―――動物園に向けて歩み出した。