デート・ア・リリカルなのは   作:コロ助なり~

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今回の話で「……は?」とか「意味わからん」とかなると思いますが、何も言わずに読んで頂けると幸いです。




そんなの関係ないです!

そんなの関係ないです!

 

Sideはやて

 

私は今、夢を見ている。

夕暮れの小高い丘のベンチに空君と座っている場面だ。

まるで恋人であるかのように―――いや、この夢の中では恋人っていう()()だ。

 

本来なら皆や世界のために一刻も早く目を覚まさなあかんのやけど……。

 

「はやて……キス、しよっか」

 

ただいま絶賛目茶目茶良い所なんや!

夢と分かっていても、も、もうちょっとだけならええよね……?

 

「はやて? どうかした?」

 

返事がない私を心配したように空君が聞いてきた。

 

「うぇ!? だ、大丈夫やで! そ、それよりも……そ、その……」

 

「うん、分かってる。じゃあ、するね?」

 

「は、はいぃッ!」

 

空君の顔がどんどん近づいて来るにつれて、心臓のドキドキが大きくなっていく。

 

あ、あと少しで空君と―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――のところで大きな揺れが起きた。

 

「なッ!? 今良い所やのに何で邪魔するんや! 空気読めや、ボケェッ! ―――ってここどこや?」

 

気が付けば景色は変わり、薄暗い空間にいた。

 

「目が覚めてしまいましたか、主」

 

「へ? お姉さん誰や?」

 

いつの間にか目の前には銀髪の綺麗な女性がいた。

 

中々ええ乳をお持ちのようで……。

 

「私は闇の書の管制人格です」

 

闇の書? 夜天の魔導書が正式名称やなかった? 

この人がお姉ちゃんの言ってた管制人格なんか……。

って今はそんなことよりも――――

 

「よくもいいところで邪魔してくれたわな! あとちょいでキス出来たのに!」

 

「えッ!? も、申し訳ございません!」

 

「ふぅ……まあ、ええか……。とりあえず、お姉さんの名前を教えてーな」

 

「私に……名前などありません」

 

「そっか。ほんなら、私が付けたる。管制人格って一々呼ぶのは可哀想やもん」

 

「しかし……私はもう……」

 

「なんや? 何かマズイことでもあるん?」

 

「私は―――――」

 

「―――大丈夫や! きっと空君が全部なんとかしてくれると思うで!」

 

お姉さんの台詞を遮って、彼女が何に困っているかもわからずに自信たっぷりに言い放った。

 

「……それほどまでに彼に信頼……いや、それだけではなく好意も寄せているのですね」

 

「え!? あ、いや、……その……はい」

 

うー! ストレートに聞かれるとものすっごく恥ずいんやけど!

 

「そ、それはともかく! お姉さんの名前や!」

 

「はい……お願いします」

 

話を戻して名前を考え始めた。

 

「うーん、……ハッ、トメでどうや!」

 

「いくら主でも怒る時は怒りますからね?」

 

「あわわ! 今のは無し! 無しや!」

 

全国のトメさんごめんなさい! この人メッチャ怖ッ!

 

「せやなー、……リイン……フォース……。うん、決めた! お姉さんの名前は今から、祝福の風―――リインフォースや!」

 

これなら文句無しやろ! 図書館通いがここで役に立つとは思いもしなかったけどな。

 

「それが私の名前……リインフォース……。ありがとうございます、主」

 

喜んでもらえてよかったわー。

 

「さて、ここからお次はここから出ないといかんな」

 

「それでしたら外にいる者達に頼み――――ッ!? これは!」

 

ん? 急にリインフォースの顔が険しくなったで。

 

「どないしたん? そんなに慌てて」

 

「どうやら龍神空とヴァーリ・ルシファーの二人が魔導書に取り込まれたようです」

 

Sideout

 

 

 

 

 

Sideヴァーリ

 

『――――ッ! ヴァ……ッ!』

 

……? 誰かが呼んでるのか? 

 

少しずつ目を開けてみると、どこかで見覚えのあるバカでかい顔が目の前にあった。

 

「アルビオン……お前が俺を起こしたのか?」

 

『そうだ。先程までのことは覚えているか?』

 

先程……? あ、魔導書に吸収されたんだったな。

 

「ああ、覚えてる。ところでここはどこなんだ? 取り込まれたのならこれは夢の中なのか?」

 

俺がいた場所は広くて、ただ白い空間だった。

これがもし、夢の中であれば自分は随分とつまらないな、と思うだろう。

 

『ここは神器(セイクリッド・ギア)の中だ。お前が取り込まれる瞬間に精神をここに引き込んだのだ』

 

「そうか。……ところで、あいつらは何だ?」

 

俺の指で示した方には、虚ろな表情をした亡霊のような存在が何人もいた。

 

『あいつらはかつての白龍皇であった者達だ。つまり、お前にとっての先輩だ』

 

あれが歴代の白龍皇達か……。

 

「それは分かったが、何故歴代の奴らがここにいるんだ?」

 

『ここにいる者達全員は碌な死に方をしなかった。大切な誰かを失ったり、他の神滅具(ロンギヌス)所有者に殺されたりとな。……私の神器を持ったばかりにそんな末路を歩んでしまった。そして死後に怨念となって私の神器の中に残ったというわけだ』

 

「俺も死んだらここに来るのか?」

 

『さあな。それはお前の生き方次第じゃないのか?』

 

「そうか……」

 

俺も恐らくはここに来るのだろうな……。

 

空達といて時々忘れそうになるが、アイツへの憎悪が今も俺の心の奥深くで蠢いてる。

 

「アルビオン、俺はいつになったら外に出られる?」

 

『すまないが、それは私にも分からない。それまでここで居心地は悪いだろうがゆっくり待っているしかない。暇なら先輩達にでも声を掛けてみてはどうだ? 反応が返ってくるかはわからないがな』

 

いつ出れるかもわからないなら暇潰しには丁度いいだろうと思い、話し掛けてみることにした。

 

「なあ、お前達はどんな奴だったんだ? 大切な人とかいたのか? 強かったのか?」

 

『…………』

 

返って来たのは沈黙だけだった。

 

『やはり何も答えないか』

 

特に気落ちすることもなくアルビオンは淡々と告げた。自分でも何度か話し掛けたのだろう。

 

今は諦めるとするか。どうせならここで修行でもするか。

 

「アルビオン、修行に付き合ってくれ」

 

『構わない。どこからでも掛かってくるがいい』

 

「来い、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)

 

さっきは聖書の神が色々やってくれたみたいだが、普通は白龍皇の力と赤龍帝の力は一緒には使うことが出来ない。無理にやろうとすれば出来ないこともないだろうが。確実に体に悪影響を及ぼすだろう。

 

それにしても、聖書の神の力は悪魔の血が半分流れている俺からすれば毒でしかないのに何故影響がなかったんだ? ……ダメだ、さっぱり分からない。帰ったらアザゼルにでも相談してみるか。

 

『どうした? 掛かってこないのか?』

 

考え事をしていたらアルビオンが訪ねてきた。

軽く謝ってから、修行を始めた。

 

「……アルビオンから見て、俺はお前の力を使いこなせているか?」

 

『唐突にどうした?』

 

適当なところで動きを止めて、アルビオンに聞いてみた。

 

「ふと、気になってな」

 

『そうだな……今の段階ではまだまだの所もある。しかし、お前は半分悪魔、それも魔王の血筋だ。間違いなく歴代最強の白龍皇になると断言してもいいくらいだ』

 

歴代最強か……。

 

「…………」

 

『最強になれると言われて実感が湧かないか?』

 

「まあ、それもあるんだが……どうせならもっと上を目指したいと思ったんだ」

 

俺が強くなればなるほど、空もきっと強くなるだろうしな。

 

『もっと上か……。フッ……だったら共に行こうではないか! 更なる高みへと! 今のお前には私の力だけでなく紛い物とはいえドライグの力があるんだ。必ず最強へと至ってみせようではないか! それにお前の友人、空にも負けてはいられないのだろう?』

 

「ああ、そうだ。だから、アルビオンだけじゃなくてお前も力を貸してくれ!」

 

左手にある赤龍帝の籠手にも頼んでみれば、宝玉から「もちろんだ」と言っているかのように輝いた気がした。

 

Sideout     

 

 

 

 

 

Side空

 

「……ん…………あれ? ここは……家なのかな? それも俺の部屋みたい」

 

目が覚めると、見慣れた自室の天井だった。

 

……琴里達の力を感じないのはなんで? 

 

「あ、やっと起きたみたいだね」

 

「ん?」 

 

自分の中の違和感の理由を考えていたら、後ろから声が掛かった。

声のする方に顔を向ければ知らない女の子がいた。

いや、正確には名前は知ってるが知り合いというわけではないといった感じだ。

俺が一方的に知っているだけの存在。

 

「……どうしてここにいるんですか? 園神凜祢(そのがみりんね)さん」

 

「む、他人行儀過ぎない? 互いのことは知ってるんだから敬語は止めようよ」

 

可愛らしく頬を膨らませて呟いた。

 

じゃあ、お言葉に甘えて敬語は止めよう。

 

「互いに知ってるってことはどっかからずっと見ていたってこと?」

 

俺が知ってるのは知識としてだから、互いに知ってるとは言い難い気がするけど。

 

「うん、そういうこと♪ちなみに私を通して神様も君のことを知っているらしいよ」

 

それってストーカーじゃないの? と思ったが言ってはいけない気がしたので言わなかった。

 

「それで、最初の俺の質問の答えは何?」

 

「えーっとね、簡単に言うと、私にはとある役目があるんだ」

 

「それがここで俺と会うこと?」

 

「まあ、正確にはその後の方が重要かな。それよりもまずは空が自分のことを知ることが先なんだけど」

 

俺のことで心当たりがあるのは一つか二つぐらいだ。

 

「もしかして――――」

 

「うん、空が今言おうとしてることで合ってるよ。私が君に話すことは――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ―――――――――()()()()のことだよ」

 

Sideout

 

 

 

 

 

Sideはやて

 

空君とヴァーリ君が本に吸収されたと聞いて、助け出すためになのはちゃん達に協力してもらって、管理者権限をなんやかんやで奪い返すことに成功した。

 

なんやかんやって便利な言葉や~。

 

あと、いつの間にか消えていたシグナム達を復活させることも出来た。

そして、外に出て中にいる二人を出そうとしたんやけど、

 

「なんで空君は出せないや!? リインフォース、どういうことなん!?」

 

出て来れたのはヴァーリ君のみだった。

 

「……すいません、主。私も先程から調べてはいますが原因は分からないんです」

 

「……ッ……」

 

折角、権限を手に入れたのに何もできない自分が悔しくて腹立たしい。

 

「はやて、アイツならゼッテー大丈夫だ!」

 

私を励ますかのようにヴィータが力強く言う。

 

「……何でそう言えるん?」

 

帰ってくる根拠などどこにもないのだ。

 

「だって、あの空だぜ? それによぉ、あたし達がアイツを信じなくて誰が信じるんだよ」

 

ッ! ……そうや……空君は信じて待っててって言ってた。

だから、私は信じて待っとるだけや!

 

空君が必ず戻ってくることを信じて待つことにして、私達は管理者権限を奪い返した際に切り離した暴走中の防衛プログラム―――ナハトヴァールとの戦いに備えた。

 

Sideout

 

 

 

 

 

Side空

 

凜祢の口から出た台詞は俺の前世についてだった。

 

そっちだったか。俺はてっきり精霊の力のことかなって思ってたんだけど……。

 

「空は気になる? 自分の過去が」

 

「気になるか気にならないかで聞かれたら、当然気になるけど……」

 

「けど?」

 

「――――俺は龍神空だから」

 

続きを言うと凜祢がポカーンとしていた。

 

あれ? 変なこと言った?

 

「うーん……うん。普通に意味わかんないや。ごめんね」

 

申し訳なさそうに両手を合わせて謝ってきた。

 

あ、意味が通じてなかったのか。

 

「要するに、前世は前世、今は今ってことだよ」

 

それでようやく通じたのか、凜祢は「なるほどー」と手をポンッと叩いた。

 

「そっか。意外と割り切ってるんだね、そこらへん」

 

「どっちかっていうとそもそもの記憶が無いから未練もクソもないんだけどね」

 

知ったところで何になるんだって話だし。

 

「あ、そういうことかー……ってそういうことじゃないよ! 空には知ってもらわなきゃいけないんだよ!」

 

突然、我に返った凜祢が叫んでいた。

 

「それって強制なの?」

 

「うん、そうしなくちゃいけない役目だってさっき言ったでしょ?」

 

「でも、知ってもどうしようもないんだけど……」

 

「それでもだよ。君はいずれ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()から」

 

……………………………………………………………………………………………………………は? 

 

その言葉は俺を動揺させるには十分なものだった。

 

「ど、どういうこと……? 俺が元の世界に戻るって……」

 

「そのままの意味だよ。空、君は特別な存在なんだよ。この世界で誰よりもね」

 

「特別?」

 

俺の何が特別? この世界にはそんな奴は五万といるでしょ?

 

「色々あるんだけどね。例えば……君が出会った転生者は全員赤ん坊からやり直しているのに対して、君は5歳からこの世界にやって来たんだよ」

 

俺は5歳からこの世界でスタートしたことは確かなことだし、正田の家族に関しては知らないけど、愛衣や雄人、あかりには血の繋がった家族がいることは知ってる。

 

「でもそれだけじゃ―――」

 

「もちろん他にもあるよ。本来なら劇的な変化が無いと至れない禁手(バランス・ブレイカー)にどうしてあんな簡単になれた? 特に黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)にそれが言えると思うんだけど。フュージョンだってそれにはいるだろうね」

 

「ッ!」

 

確かに俺は黄昏の聖槍に出来るかもと思ってやったらホントになれた。

理由はヤハウェ達にも分からなかったし、俺自身も気にすることはなかった。

 

「それは……」

 

でも、それは“偶々”の一言で片付けられるほど甘くはない話だ。

 

「わからないよね?」

 

悔しいが凜祢の言う通りだ。自分のことなのにさっぱりわからない。

それどころか、自分のことを気にすることなんてほとんどなかったと今更ながらに気付いた。

 

「……わかった、俺が特別だってことは認めるよ。それで話は……まだ終わりなわけないか。俺が元の世界に戻るってことを聞いてないもんね……」

 

「うん、こっちの方が重要だからね。次は……君がどうして特別である理由かな。これは私が空を転生させた―――というよりはこの世界に送った神様から 聞かされただけなんだけどね、空は前にいた世界を救った英雄なんだってさ」

 

……うん、ごめん。普通に頭の整理が追い付かない。俺が世界を救った英雄?

作り話か中二病を拗らせたアホとしか思えないんだけど……。

 

「アハハ……やっぱりそうなるよね。私達も聞かされたときはヘ? って感じだったし」

 

「いや、誰だってなるで―――待って。今、私()って言った?」

 

他にも俺の事を知ってる人がいるってことだよね?

 

「え……あッ! いや! 今のは、その……」

 

「……他に誰が知ってるの? 教えて――――というか教えろ」

 

威圧感を込めて凜祢に詰め寄った。最早、質問ではなく脅しに近い。

 

「うぅッ……ハイ……答えます」

 

俺の迫力に負けて涙目になっていたが、今はそれどころじゃない。

 

「それで、誰が知ってるの?」

 

 

 

「――――十香ちゃん達、精霊の皆だよ」

 

 

 

その答えは俺が元の世界に戻るということよりも大きな衝撃を与えた。

 

「……それってどいうこと? ……十香達は俺が選んだ特典だからいるんじゃないのかよ!?」

 

声が自然と震える。

 

「ううん、違う。だって空が選んだのは力であって彼女達じゃないからね」

 

「でも琴里は神様の気まぐれでとか言ってた―――」

 

「……それは神様が空に寂しい思いをさせない為の配慮だよ。他の転生者に家族がいるのに君だけいないのは可哀想だって思ったらしくてね、せめて君が記憶を取り戻して、元の世界に帰るまでの間だけでもいいからって、神様が十香ちゃん達を創って君の下へ送ったんだ」

 

たったのそれだけの為にあいつらはいたのか?

 

「……何だよそれ……。何なんだよ一体! 俺に寂しい思いをさせない為だけにいて、俺が記憶を取り戻したらあいつらは消える!? たったそれだけのことで神様に創られたのか!? だったら、あいつらが俺に向けてた笑顔は全部偽物だっていうのかよ!? いつもあいつらに無理に気を遣わせていたのか!? 俺が勝手に一人であいつらのことを家族だって思い込んで―――」

 

「それは絶対に違うッ!!」

 

「ッ!?」

 

凜祢の予想だにしなかった大きな声と頬を叩かれたことに竦み、ベッドに押し倒された。

反論しようとしたが、泣いてる凜祢の顔を見てそれ以上何も言えなかった。

 

「確かに最初は与えられた使命だったかもしれない! 本心じゃなかったかもしれない!だけど、今の彼女達を見ればすぐわかるはずでしょ!? 心の底から空のことを大切に想ってることは、ずっと空達を観てきた私にだってわかる! わからないんだったら彼女達の気持ちを! 想いを聞いてみればいい! なんなら、〈囁告帙篇(ラジエル)〉で調べたって構わない! その後で煮るなり焼くなり空の好きにすればいいッ!!」

 

言い切った凜祢は目元を赤く腫らし、息切れしたように呼吸を荒くしていた。

 

……ハハ、俺ってホント馬鹿じゃん……。

こんなんだから鈍感とか言われるんだろうね。

 

凜祢から説教を受けて最初に思ったことはそれだった。

 

「あー……涙が止まんないや。そういえば、こんな風に誰かに怒られたの初めてだよ……」

 

でも、不思議と悪い気はしなかった。

 

 

 

 

 

5分ほどして、俺は泣き止み、凜祢も呼吸が落ち着いていた。

今はベッドに並んで座っている。

 

「でさ、話を戻すけど、どうして俺は戻らなきゃいけないの?」

 

「ごめん、それは分からない。あの神様には空が記憶を取り戻すまでの間、側にいろとしか言われてないんだ」

 

詳しく知ってるのは天照さんだけか……。〈囁告篇帙〉で調べられるのかな?

 

「凜祢が俺の側にいなかったのはどうして? 役目だっていうのさっき聞いたけど」

 

「私が純粋な精霊じゃないってことは知ってるでしょ? 空は精霊の力を選んだけど、その中に私や鞠亜ちゃんは含まれてない。だから、私は十香ちゃん達とは別の場所から―――夜天の魔導書から覗いてたってわけ。近くにいると分からないこともあるからね」

 

「となると……万由里って子もどこかで俺をストー……監視してるの?」

 

「察しがいいね……。うん、空の推測通り彼女も君を観てるよ。場所は言えないけどね」

 

「それから俺が特典貰った意味ってある? 世界を救った英雄なんでしょ? すごい力とかあるんじゃないの?」

 

「それは君が一番分かってるんじゃないの? 記憶が無いのに力が使えるはずないでしょ?」

 

あー、それもそっか。当たり前の事過ぎるね。

 

「記憶を取り戻したら、十香達は消えて今ある力も無くなるの?」

 

「うん、そういう仕組みになってる。もちろん転生者の中では君だけだよ」

 

「そう……。じゃあ、最後の質問」

 

「何かな?」

 

「俺が記憶を取り戻して元の世界に帰ることや十香達が消える運命を変えられる?」

 

「……それは無理だと思う。空は元の世界に帰りたくはないの?」

 

あんまし良い答えは期待はしてなかったけど、ふーん、そうなのか程度。

 

「うん、正直言ってそんな気持ちは皆無だよ」

 

「それもそうだよね。記憶は無いし、ここには大切な人がたくさんいる。それで、帰りたいって言う方がおかしいって私でも分かるよ……」

 

「そもそも俺は向こうでは死人でしょ? だったらもういいじゃん。世界を救ったらしいけどそこにいる必要なんて無いし、俺は第二の人生――――と言っても記憶は無いから初めてみたいなもんだけど、ここが大切だから。それにさ―――」

 

「俺は龍神空だから、だよね?」

 

お見通しだよと言わんばかりの凜祢のドヤ顔に多少イラっと来たものの、合ってるから何も言えない。

 

「まあ、そいうこと。前世が何? 記憶が戻ったら消える? 元の世界に帰る?―――――――――そんなの関係ない! たとえ神様に決められた運命だとしても俺は抗う! この世界で皆と一緒に生きる為に!」

 

俺が宣言しきったと同時に部屋が音を立てて崩れた。

完全に部屋が崩壊して暗い空間になると、自分の中に琴里達の力を再び感じられるようになった。

 

『話は終わった?』

 

「うん、結構キツイ話だったけど、皆に色々聞きたいことも出来た……。あ、そうそう。俺、決めたから」

 

『……?』

 

「あー、今言うのは止めとく。何か死亡フラグになりそうだから」

 

『……そう、わかったわ』

 

『二人の会話はよく分からんが、それよりもここからどうやって出るかが問題だぞ』

 

『だったら、空! 君の本気を出しちゃえ!』

 

『誰だ(ですか)!? いつの間にいたんだ(いたんですか)!?』

 

ホント、何時俺の中に入ったんだろう……。

 

しかし、そんなことを考えるよりも、先にドライグが言った通りここから出ないといけない。

 

「――――――さてさてさーて、……って誰かいる?」

 

空間が暗いので見えにくいが誰かがいるのがぼんやりとわかる。

それも、二人ほど。

 

「あの~、こんなところで何してるんですか~?」

 

「……人、なのか?」

 

近づくと、黒髪の男性と蹲っている銀髪の女性がいた。

 

「え、あ、はい」

 

「なんだって!? また、私と同じような人が……。しかも今度はこんな子供まで……」

 

あれ? この人ってクロノに似てる……よね?

 

男性の顔を見てみれば、それが真っ先に思い浮かんだ。

お姉さんも顔は見えないけど管制人格に似た雰囲気がある。

 

「えーっと、とりあえず、ここから出ませんか?」

 

「それは残念ながら無理だ。ここでは魔法は使えない」

 

()()は使えない、か。

 

「俺の……レアスキル的なノリのアレでここから出ます」

 

『レアスキル的なノリのアレって何(何だ/何ですか)?』

 

君達の能力を隠すためですよ!

 

「ち、ちょっと待ってくれ! たとえ外に出られたとしても彼女から聞いたんだが、これから防衛プログラムが暴走する! 危険だぞ!」

 

「大丈夫です、問題ありません」

 

「今ので一気に不安になったんだが……。それでもどうしてかな……不思議と心のどこかで期待している自分がいるよ」

 

「なら、期待しててください。お姉さんもそれでいいですか? というか、お姉さんって管制人格なんですか?」

 

俺と男性が話し終わってから聞いても未だに蹲り続けていた。

 

「……いえ、私は防衛プログラムです」

 

「えッ!? これから暴走するんじゃないですか!?」

 

「正確にはこの子は暴走する部分と分離された存在……とでも言えばいいのかな? まあ、何にせよここから出ても問題は無いはずだ」

 

ほっ……よかったぁ。

 

「それじゃあ、行きますね(ドライグ、琴里、力貸してね)」

 

『ええ(ああ)!』

 

今なら何でもできそうな気がする。禁手(バランス・ブレイカー)と精霊の力を合わせることだっていけそうだ。

 

一度深呼吸をしてから、言葉を紡ぐ。

 

 

 

 

 

 

 

「―――――我、目覚めるは――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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