イギリス行きます!
Side空
クロノ達に連れられて、久々にアースラの中に入り、リンディさんやエイミィさんと再会した。
捕まえた二人は別の部屋で監視されているらしい。
「久しぶりね、空君」
久しぶりと言っても、ジュエルシード事件から一月も経ってない。
「ご無沙汰です、リンディさん。それでご用件は何でしょう?〈何でバレたと思う?〉」
俺はこっそり念話で雄人と愛衣に聞いた。
なのは達がバラすとは思えないな……。
「〈お前らが捕まえた仮面の男だな。実はそいつらが結構今回の事件に関わってんだ〉」
「〈はやてとあかりに援助をしている人物、ギル・グレアムの使い魔二人が正体よ。その二人が管理局、というよりクロノ達に伝えたんでしょうね〉」
「〈そっか。教えてくれてありがと〉」
ギル・グレアムって人が二人の男の背後にいるのか。
二人にお礼を言ってから念話を切った。
「それは先程クロノから聞いてるとは思うけど、改めて聞きます。あなたとシグナムさんというそちらの方は闇の書に関わっているのかしら?」
「〈正直に答えるのか?〉」
「〈はい。愛衣がいるので嘘は吐けないですから。でも―――〉答えは
「〈どういうつもりだ!? 正直に話すのではなかったのか!?〉」
俺の答えにシグナムさんが驚いていた。事情を知っているなのは達も驚いた表情をしていた。
「闇の書って何ですか?〈俺らの目的は
ある意味正直に答えたと思う。
「〈それは屁理屈なのではないか……?〉」
「〈いいんですよ。だって、闇の書って名前は誰かが勝手に付けて広まっただけですから〉」
そう言うと、シグナムさんは困ったように唸っていた。
「……知らないのであればそれでいいわ。引き留めちゃってごめんなさいね」
あっさりと身を引いたことに軽く拍子抜けした。
クロノが何か言ってくると思ってたんだけどなぁ……。まあ、あの時本を持っていたのはシャマルさんで、クロノ達が来る前に帰ったから証拠があるわけでもないし、強くは言えないのかな?
「いえいえ。それよりもあの二人の男は頼みましたよ。……多分、ストーカーなんで」
「そ、そうなの? まあ、分かったわ。任せてちょうだい」
「じゃあ、失礼します。あれ、そう言えばユーノとアルフは?」
今更ながらにユーノとアルフがいないことに気が付いた。
「ああ、フェレットもどきなら無限書庫という場所で調べものをしてもらっている」
「アルフも手伝いで行ってるからしばらくは帰ってこれないんだよ」
無限書庫? なんか面白そう! って、アルフはしばらく帰ってこないのか……。
「ねぇ、クロノ。そこに行って来てもいい?」
「残念ながら管理局の者でないと立ち入ることは出来ないぞ。フェレットもどきは一応管理局の手伝いという名目で入っている。まあ、空が嘱託魔導師になるなら話は別だがな」
「むー! クロノのケチ! ハゲ! 中二病! まっくろくろすけ! 頑固者!」
思いつく限りの軽めの罵倒をして不満だということを伝えた。中二病と言ったのはクロノが14歳だからだ。
「何でそうなる!? これは規則だからどうしようもないんだぞ! あと、ハゲとらんし、中二病でも無いからな!?」
「え、じゃあ、他のは認めるんだ……」
「自分でも分かってたんだな……」
「はぁ……。まあ、言いたいことは言ったんで帰りますね。行きましょうかシグナムさん。
あ、皆は仕事頑張ってねー。バイバーイ」
部屋を出て転移しようとしたが、俺はそれを辞めて、あの二人がいる場所へと向かった。
「待て。どこに行くつもりだ? 帰るのではなかったのか?」
「その前にあの二人の目的を知りたいんです」
「……そうか。なら、私も付き合おう」
「すみません。勝手なことをして」
「構わん。お前は主の為に頑張ってくれてるのだからな。感謝している」
「それほどでもないですよ。まだまだ頑張らないと」
「そうだな。あと少しだけ頑張ろう」
そんな会話をしているうちに二人がいる部屋の前に着いた。俺は影を伸ばし、狂三に中を確認してもらって二人はまだ気絶中だと聞かされた。
「さてと……うん、問題ないね。二人はまだ寝てる。入りましょうか」
部屋に入ると二人はベッドに拘束された状態で寝かされていた。
「狂三」
俺の中にいる狂三に頼むと、狂三がすでに霊装を着た状態で出て来た。
「!? お前は空の姉ではないか! どういうことだ、空!」
突然目の前に現れた狂三にシグナムさんは警戒心を抱く。
「説明は後でします。狂三、お願いね」
「はい、お任せください。〈
狂三の背後に現れた天使―――〈刻々帝〉のⅩの文字が刻まれた場所から出た黒いモノが短銃へと吸い込まれた。その銃で男の一人と頭を横に並べた俺を撃ち抜いた。そして、俺の頭の中にこの人――――リーゼアリアの記憶が流れ込んできた。
……なるほどね。こりゃ闇の書が欲しい訳だ。
「貴様! 何をしている! 何故空ごと撃った!?」
説明を受けてないシグナムさんが狂三にレヴァンティンを向けていた。
「やれやれ。ちゃんと見て下さいまし。空さんは無傷ですわよ」
「そんなわけ―――――なに……? これは一体……」
「今のは撃ち抜いた対象の過去を伝えるという技です。驚かせてすいません。狂三、ありがと。もう戻っていいよ」
「それでは失礼いたしますわ」
貴族のようにスカートを軽くつまんで一礼してから俺の中へと戻っていった。
「これで、ここにはもう用はありません。今度こそ帰りましょうか」
俺は転移魔方陣を展開して、龍神家へと帰った。
転移が完了すると、先に帰ったシャマルさん達四人が迎えてくれた。
「もう、あまりに遅いから心配したわ!」
ただいまより先にシャマルさんから怒られた。かなり心配をかけたみたいだ。
「……すまない。情報を集めるためにちょっとな……」
「俺達がやってることはあの仮面の男が管理局に伝えたみたいでバレました」
「それって不味いんじゃ……」
不安そうに尋ねてきた明日奈だったがそうでもなかったことを伝えた。
「いや、関わりがないって言ったらよく分かんないけど見逃してくれた」
でも、どうしてあっさり見逃してくれたんだろう……。記憶を見た限りじゃ、クロノもリンディさんも闇の書を憎んでるはずなのに……。いくら俺達が犯罪をしてないとはいえ、知り合いからの情報を信じないのかな?
記憶を見てから何度考えても答えにありつけない。いっそのこと二亜の力で調べるかとも考えたが、それはやはりダメだと思い、使うのは止めておくことにした。
「で、これからどうすんの?」
「うーん、とりあえずイギリスに行ってギル・グレアムさんと話し合うこと……かな?」
リンディさん達と同じように被害者のはずのあの人が、どうしてはやて達の援助をするのかが気になるし、これからどう動くのかも知っておきたい。
「え、イギリス!? あの外国の!?」
「それ以外何があるのさ……」
「どうやって行くつもりなの?」
「クロノの知り合いみたいだから、頼めば行けんじゃない?」
「うわー、超行き当たりばったりな考え……」
明日奈だけでなく他の四人からも変な目で見られた。
「そんなに褒めないでよ。照れるじゃん」
『全くもって褒めてない!』
うん、知ってた。
「まあ、それはさておき。またアースラに戻んのかぁ……」
関わりはないと言っておいたそばから戻るのってのは、正直進まないなぁ……。でも、ここで止まっててもはやては救えない。だったら動くしかないし、頼れるものはなんでも使う!
後日。
「そんなワケで俺、龍神空と!」
「私、八神あかりと!」
「私、八神はやては!」
『イギリスにやってきましたー! イエーイ!』
『よしのん達もいるよー』
イギリスの空港に着くやいなや、三人で仲良くセリフを言いきってハイタッチを決めた。
本人達の強い要望もあり、念のために十香達も俺の中に入れて連れて来た。
「どんなワケだ!」
「まったく……これだからクロノは……」
ノリが悪いクロノに俺達はやれやれと言った仕草をしていた。
「そうやで。あんまりカリカリしてると将来禿げるで」
「友達少ないでしょ? 可哀想に……」
俺の後に続いてはやてとあかりもクロノを弄った。
「余計なお世話だ! 僕にだって友達ぐらいいるからな! というか君達二人は初対面なのに失礼な奴だな!」
クロノの顔が今にも噴火しそうなぐらいに真っ赤だった。だけど、俺達は煽るのを止めない。
「嫌やわー。失礼じゃなくてフレンドリーって言って欲しいで」
「そうだそうだ。だから真っ黒チビ助って言われるんだよ。……
「誰が真っ黒チビ助だ! それ以上言ったら置いてくぞ!」
『酷いッ! あんまりです! こんな少年と一緒にされるなんて! ただでさえ出番が少ないというのに!』
それは聖書の神が言っていい言葉なのだろうか……? まあいいや。
「えぇー、こんな知らない土地に年下の子供を置いてくの?」
「それは引率者としてどうなのかねー?」
「責任感や年長者としての自覚が足らんとちゃう?」
「お前達……ッ! いい加減に――――」
「おお、無事到着したようだね」
クロノがそろそろ本格的に怒りそうなので謝ろうとしたら、おじさんが声を掛けてきた。
この人があの使い魔二人の主―――ギル・グレアムさんか……。
「ッ! お、お久しぶりです! グレアム提督!」
クロノはグレアムさんの方に振り返り、慌てて挨拶をしていた。
「ハハハ、そう畏まらなくてもいい。それよりも、八神家の二人は分かるが、その少年がクロノ君の言っていった少年かね?」
「そうです。こちらは僕の友人の龍神空と言います」
「こんにちは、ギル・グレアムさん。クロノから色々聞かせていただきましたよ。なんでも、クロノのお父さんの元上官だったとか」
「……ああ」
グレアムさんは悲しそうに呟いた。
やっぱり、辛い思い出みたいだね……。ちょっと悪いことしちゃったなぁ……。
「それよりも、ここにいても何もない。私の家に向かおうじゃないか」
俺達はグレアムさんが運転する車に乗り、グレアムさんが住む家へと向かった。
グレアムさんは町の中心から少し離れた所に住居を構えていた。そして、俺は着くやいなや気まずくなった。理由は二人の少女が睨んでいたからである。
うわー……リーゼロッテとリーゼアリアだっけ? 殺気がすごいんだけど……。というかどうやってアースラから逃げたんだ? その後俺が二人の正体を教えたらクロノが落ち込んでたなぁ。
俺達はグレアムさんに案内されて、客間に五人は座った。使い魔二人はお茶を出すためにキッチンに入った。
「さて、聞きたいことはたくさんあるだろうが、まずは八神はやて君、あかり君。手紙では言葉は交わしているが、こうして直接会うのは初めてだな。住んでいるところが遠くて中々会えなかったがようやく会えて嬉しいよ」
「私もです。手紙の内容で想像してた通りに優しそうなおじさんでしたから」
「ハハハ、そうかそうか。それはよかったよ」
どこか安心したように、嬉しそうにグレアムさんは笑っていた。
「いつも支援をして下さってありがとうございます」
「気にしないでくれ。子供が二人だけでいることが見過ごせなかっただけだよ。さあ、挨拶はこれぐらいでいいだろう。龍神君、君の聞きたいことは何かね?」
「では、単刀直入に伺います。あなたの目的は何ですか?」
遠回しに聞いていても時間の無駄だから、一気に聞くことにした。
「はて、目的とは何のことだね? 私には心当たりが―――」
「闇の書」
その単語が出た瞬間に、グレアムさんの表情は苦々しいものへと変わった。キッチンから現れた二人はものすごい形相で睨んできた。
「ッ!? ……どうして君がそれを?」
「あなたも知ってるはずです。ここにいる八神はやてが今代の闇の書の主だということを」
はやてが闇の書の主であることは俺がここに連れてきてもらうためにクロノにもすでに知ってもらっているので、俺達の方は誰も驚きはしなかった。教えた際に、黙秘していた理由やウソを吐いた理由など色々聞かれたが、今は割愛。ただ、その後にクロノには闇の書に対する個人の憎しみよりも、誰かを、はやてを救うために協力すると言ってくれた。
「それで、答えはどうなんでしょうか?」
「……ああ、私は復讐の為に闇の書を探していたよ。そして見つけた。それで、アリアとロッテに頼んで完成させて、はやて君ごと闇の書と共に封印するつもりだったよ。……今のを聞いてどうだね? 私は君達が思っているような優しい人間ではなかっただろ?」
自嘲気味にグレアムさんははやてに尋ねた。だが、はやてはその首を横に振った。
「そんなことはありませんよ。例えそれが事実でも、私はグレアムおじさんが手紙をくれるのが嬉しかったし、毎回お姉ちゃんと楽しみにしてました」
「あんなに優しい文を書く人が本当に悪い人だとは思えませんよ」
二人の優しさに自分の頬が緩むのがわかる。
「出来れば、その……理由を聞いてもいいですか? どうして憎んでいるのかを」
「? それを聞く必要は君には無いはずだが……」
「こんなんでも一応今代の主なんで、聞いときたいんですよ」
「……わかった。君が聞きたいのならば、過去に起こったことを話そう」
しばらく迷ったのちにゆっくりと語ってくれた。グレアムさんが闇の書を憎むようになった理由を。
「――――以上が私の過去だ」
語り終えたグレアムさんは一息ついてソファーの背もたれに体を預けてゆったりとしていた。
話を纏めると、グレアムさんの部下だったクロノの父―――クライド・ハラオウンさんと共に確保した闇の書の運搬をしていた。その途中でクライドさんの乗る艦で闇の書は発動してしまい、艦の制御を乗っ取られた。クライドさんはギリギリまで暴走を食い止めるために艦に残っていたが、暴走していた艦はグレアムさんの艦に攻撃しようとしたために、クライドさんの要求でグレアムさんの艦はクライドさんの乗る艦を沈めて、彼を死に追いやってしまった。
そして、多少の犠牲を出そうが闇の書を封印するために使い魔二人に指示を出して、今に至るというわけだ。
でも、おかしな点が一つあるな……。
「一つ聞いてもいいですか?」
「それは構わないがどうかしたのかね?」
「どうして、管理局の運搬中に発動したんですか?」
「? それはどこもおかしくはないんじゃないのか?」
クロノ以外もどこもおかしくはない、といった表情をしていた。
「いや、あの本は魔力を集めることで完成するんだ。だから、発動したってことはその時その場にいた誰かが魔力を集めて完成させてってことになるんだよ」
「それってつまり……」
「意図的に暴走を引き起こしたって事なん!?」
「もし、それが事実なら……」
「管理局の誰かが行った……。空はそう言いたいんだな?」
俺の考えは皆に伝わったようだ。
「うん、そう考えるのが妥当じゃないかな」
「でも、どうして暴走なんて引き起こしたんだろう?」
「さあ? グレアムさんに心当たりはありませんか?」
「特には……いや、もしかすると上層部が関わっているのかもしれんな……」
はぁ……それが本当なら管理局って腐ってるなぁ……。
「まあ、それは後で調べるとして。グレアムさん、これからあなたはどうしますか?」
「バレてしまった以上は無意味だろうから、自分の罪を償うことにしようと思っている」
「罪? 何か悪いことしたんですか?」
俺の言ったことに誰もが言葉を失った。
「おい、それはふざけているのか?」
クロノが怒気を含んだ声で尋ねてきた。ついでに使い魔に関してはずっと睨まれてる。
「ふざけてなんかないさ。もしグレアムさんが闇の書のことを言っているなら罪なんて何もないじゃんか。二人に襲われはしたけど返り討ちにしたから問題ないし、むしろ悪いのこっちじゃない? やり過ぎたかなーって思ったぐらいだからね。それ以外には何かある?」
「……言われてみると目的は未遂に終わったわけだ。それなら問題ない……のか?」
俺の意見にクロノは納得した(?)ようだった。
「しかし、私は彼女達を騙して接していたんだ。それは許されないことだろう」
「はやてとあかりはどう思う?」
「私には優しいおじさんやなーってことぐらいしか思わないで」
「私も同じかな。特に何かされたわけでもないし。お金も貰ってるからね」
「だそうですが、それでもまだ罪がどうとか言いますか?」
「…………ハハハ、完全に論破されてしまったな。何も言い返せない」
グレアムさんは最初と同じように優しそうな笑い方をしていた。
「さてと、話し合いは終わったね!」
「そうやな~。話してる時なんて心臓バクバクだったで~」
「でも、きちんと話合えてよかったよ」
「君たちには内心冷や冷やしていたぞ。特に空にな」
話し合いが終わったので、一気に気が抜けてソファーにもたれ掛かった。
「あ、グレアムさん、俺達に協力してくれませんか?」
暴走する管制プログラムの実力がわからないため、出来るだけ多くの魔導師がいた方が楽になるはずだと俺は思ってグレアムさんにお願いした。
「それは構わないのだが……何か手はあるのかね?」
「うーん、多分何とかなるはずです」
「多分って……大丈夫なのか?」
呆れたようにクロノにツッコまれた。
「いいだろう。アリア、ロッテ」
『はい、お父様』
「話は聞いていたな? これから彼らの手伝いをしてくれ」
『分かりました!』
「それからクロノ、君にはこれを託そう」
そう言ってクロノに手渡されたのは一枚のカードが渡された。
あれはデバイスかな?
「これは?」
「エターナルコフィンという氷結魔法が登録されてるデバイス――――デュランダルだ。今回のことにきっと役に立つだろう」
予想通りクロノに渡されたのはデバイスだった。
「ありがとうございます。必ず役立ててみせます」
お礼を言ってクロノが立ち上がり、帰ろうと言ってきたので頷いて付いて行った。
「それでは失礼します」
俺達も頭を下げてから部屋を出て行った。
「それでこれからどうする? 一応泊まる予定でここに来たわけだが……」
「やっぱり観光でしょ!」
「賛成や! 折角、こんなとこに来れたんやから色々観なきゃ損やで!」
「私も観光してみたい!」
「わかった。では、先にホテルに荷物を置いて行こう」
『はーい』
クロノの提案に賛成してホテルに荷物を置いてから四人で色々観光した。それから、ホテルに戻ってから、観光ではしゃぎ過ぎたのかすぐに眠りについた。
ホテルに泊まった翌日。
目が覚めると、左腕が動かせなかった。横を見ればはやてがスヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てていた。
「……何してんだか。それより時間は――――まだ5時前って……」
うーん、二度寝するのもなぁ……。あ、散歩にでも出かけるかな。折角のイギリスの朝なんだから。
俺ははやてを起こさないように引き離し、着替えて外に出た。時間的に日はほんのわずかしか昇っておらず霧もかかっていて薄暗かった。
「よし、公園で軽く体を動かそうっと」
昨日の観光で近くに公園があったのでそこに行くことにした。
「十香達はまだ眠ってるから力は使わないでおくとして。ここはブレイブ使って遊ぶか。起きてるよね、ブレイブ」
問いかけるとすぐに返事が返ってきた。
《もちろんです。私は何をすればいいですか?》
「そうだなぁ……あ、魔力で球体作って、それでリフティングでもしようか。ブレイブは球体の維持をお願いしてもいい? あと結界よろしくね」
《了解です。いつでも始めていいですよ》
「それじゃあ早速、レッツトラーイ!」
俺は魔力の球体を作って落とさないように足で何度も蹴り上げた。時折、頭や膝、肩、背中など、体全体を使ってリフティングを楽しんでいた。
《マスター。誰かが結界内に侵入しました》
十分ぐらいリフティングをしているとブレイブが知らせてくれた。
「知り合い……じゃないみたいだね」
《はい。方向はマスターから見て後ろです》
後ろに振り返ると、シルエットは見えたがそれ以外は霧が邪魔で何も見えなかった。だが、徐々にその人は近づいてきて姿がようやく見えた。
あれは―――――
「老人だね」
現れたのはグレアムさんみたいな顎鬚をしたおじいさんだった。
《ええ。ですが警戒はしておきましょう。ここに入れるということは普通の人間ではありませんから》
言われるまでもなく、俺はいつでも動けるように構えていた。
「なんだ、結界が張られてたから誰がいるのかと思えば、ただの子供か」
「……あなたは何者ですか?」
「人に名前を聞くときは自分から。そう親から教わらなかったのか?」
「俺に親は居ません。すでに他界してます」
正確にはこの世界には最初からいないし、前世に関しては全く憶えてない。
「む、それは悪いことを言ったな。すまなかった」
「あ、いえ、こちらこそ失礼でした。すみません」
いきなり謝られたことに驚いてこちらも謝った。
「あ、俺は龍神空っていいます。空でいいです」
「キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。それが私の名だ。長いから好きに呼ぶといい」
「じゃあ、ゼルレッチおじさんと呼ばせていただきます。それであなたは何者ですか? 結界内に入れるということは普通の人ではないですよね?」
「ああ、そうだな」
俺の質問であっさりと正体をバラした。
「私は―――――――――“魔法使い”だ」
この人が、かの有名な“魔道元帥”や“宝石翁”の二つ名や、第二魔法「並行世界の運営」の使い手だと俺が知ることになるのは、今からそう遠くない未来のことだった。