正直、やっちまった感がハンパないです。
反省も後悔もしてないですけどね!(ドヤッ)
フェイトとデートです!
Side空
アリシアとのデートが終えて、本日はフェイトとのデートの日の前日の夜。
夕飯も食べて、風呂にも入った。
あとは明日に備えて寝るだけ―――と言いたいところだが、フェイトから明日のデートの要望があった。
「フェイトは明日どこに行きたいの?」
「えっとね、ここに行ってみたいんだけど……」
そう言って、フェイトはおずおずとパンフレットを差し出してきた。
「ふむふむ、遊園地ねぇ……」
パンフレットを見ると、最近出来た遊園地だった。
テレビのCMでもよく見かけるようにもなっている程に人気だ。
クラスの子も楽しかったと言っていた。
「どうかな?」
「俺は構わないんだけど、ここに行くなら保護者が必要かな」
「それだったらアルフとリニスに頼んであるから大丈夫だよ」
「そっか。それなら明日はここでデートだね!」
「ホント!? 明日が楽しみだよ!」
「デートの場所も決まったことだし、明日は早いだろうからもう寝よっか」
「そうだね。お休み、空」
フェイトは俺にお休みを言ってベッドに入った。うん、だけどね、一つ言わせて欲しい。
そこは俺のベッドだから! 当たり前のように俺のベッドに入るっておかしいよ!
「あの、フェイト? そこ、俺のベッドなんだけど……」
「知ってるよ。それがどうかしたの?」
いや、何馬鹿なこと言ってるのみたいな顔しないでくれませんか?
「だから、自分の部屋に戻って寝なよって言いたいんだけど……」
「大丈夫、私はここでも寝れるから。むしろ、ここの方がぐっすりだよ。ほら、明日は早いんだから空も早く寝ようよ」
それは一緒に寝ろって言ってるの? あと、なんでここの方がグッスリなんだよ……。
「はぁ……分かったよ。俺も寝るよ」
色々ツッコミたいところだが、明日に響くといけないので諦めて大人しく寝ることにした。
「うん♪」
俺は大人しくフェイトと寝ることにして、ベッドに入ろうとしたら、突然、扉が思いっきり開けられた。
「だーりん! 私も一緒に寝ます!」
可愛らしいパジャマを着て、腕には枕を持った美九がやって来た。
「一応聞くけど、拒否権は?」
「もちろんありません!」
ですよねー。聞く前から予想は着いていたよ。
「……分かったよ。どうぞ」
「はい! それでは、誘宵美九! 行っきまーす!」
俺が許可を出すと、美九がルパンダイブの如く飛び込んできた。
「ちょっ!?」
「グヘヘヘヘ、今夜は寝かしませんよー?」
「いや、寝かしてよ。明日早いんだから」
オヤジみたいになった美九を止めないと明日が大変だ。
「えぇー? つまらないですぅ。もっとイチャイチャしましょうよぉ。いつもみたいにぃ」
「……誰と誰がいつもイチャイチャしてるって?」
勝手なこと言うな! むしろ被害しか受けてないんだけど!
「そうだよ! それに明日はデートなんだからもう寝なきゃだよ!」
暴走しそうな美九をフェイトが止めに入った。
「そういうこと。分かった?」
「ぶぅ~、しょうがないですねぇ。今日のところは我慢してあげますぅ。で・も♪」
うわー、嫌な予感がするー。
「だーりんを抱き枕にしちゃいます!」
「ムグッ!?」
美九に抱き着かれて、俺の顔が美九の豊満な胸に埋めるような体勢になってしまった。
や、柔らかい……。
「ズ、ズルい! 私も空を抱き枕にする!」
美九が羨ましかったのか、フェイトも俺に抱き着いてきた。
「それではお休みなさ~い♪」
え、このままの体勢で寝るの!?
翌日。
……眠い。ヒジョーに眠い!
「おはよう、空、美九」
「おはようざいますぅ、だーりん、フェイトちゃん。今日も二人共可愛いです!」
「……うん、おはよう」
元気に挨拶してきた二人とは反対に、俺は眠さで元気が全く無かった。
「眠そうですけど、昨夜は眠れなかったんですかぁ?」
「……うん」
主にあなた達の所為だけどねッ! 抱き着かれて寝れるかってのッ!
「そ、そんなに私とので、デートが楽しみだったの?」
「……え? ああ、うん、そうだよ……」
ここでフェイトを落ち込ませるわけにもいかないので、働かない頭で何とか答えた。
「……それじゃ、俺は朝ご飯の準備してくるから、二人は皆を起こしてきて」
『はーい』
二人は返事をして、部屋を出て行った。
「……さてと、眠いけど頑張りますか」
顔を洗って、キッチンで朝ご飯を作り始めた。
いつも通り皆で朝ご飯を食べて、出かける準備をした。
「今日もあの部屋から見といてあげるわ。今回はそんなにサポートもいらないと思うわ。
でも、もし何かあったらすぐに連絡しなさい」
「……うん、ありがと。…………眠い。……行ってきます」
玄関で見送ってくれた皆に挨拶をして、俺とフェイトとアルフとリニスの四人で家を出た。
ちなみに、フェイトの服装は黒のシャツに白いスカートに黒いニーハイで、髪型はいつもと同じ黒いリボンで結ったツインテールだった。
電車にしばらく乗り、遊園地がある場所に着いた。
「ここが……遊園地」
「そうだよ。想像してたのよりも大きかった?」
「ああ! これはすごいね!」
「……人がいっぱいいますね」
遊園地を初めて見た三人は、遊園地の大きさや人の多さに圧倒されていた。
「そういうもんさ。ほら、いつまでもボケっとしてないで中に入るよ」
俺が促すと三人は頷いて付いて来た。
「それで? フェイトは乗りたいものはあるの?」
「えっとね、最初はあれに乗りたい!」
そう言って、フェイトが指で示したのは―――――
『ワー!!』『キャー!!』
高速で動く乗り物に乗っている人の叫び声が聞こえる。
「いきなりジェットコースター、か。分かった。行こう」
フェイトの提案に従い、最初はジェットコースターに乗ることにした。
これで、少しは目が覚めるかな?
「大分混んでいますね……」
「出来たばかりの遊園地だからね。そりゃあいっぱい来るだろうさ」
俺達は長蛇の列に並んで、睡魔と戦いながら時間つぶしに話をして過ごしていた。
「長かった……。ようやく乗れるよ」
「そうだね」
「……早く乗りましょうか」
フェイトとアルフは待っていただけで疲れた様子だった。リニスも心なしか口数が減っていた。
誘導員の指示に従い進んでいくと、一番前の席にフェイトと二人で座れた。
ジェットコースターがスタートすると、ドンドン車体が上昇していった。
「もしかして、怖い?」
「う、うん……少し……」
「でも、そんなのはすぐにワクワクに変わるさ!」
「空……そう――――――ッ!?」
フェイトが何かを言いかけたところで、車体がガクッと落ちた。
すると、ものすごいスピードを出した車体によって、負荷が体に掛かった。
「ヤッホーイッ!」
「キャーッ!」
後ろの方からも、様々な叫び声が聞こえてきた。
『好きです!付き合ってください!』
『ごめんなさい!好きな人がいるので!』
『AIBOOOOOOOOOOO!』
『ハルトォォォオオオオオ!』
『カカロットォォォオオオオオ!』
『粉砕! 玉砕! 大喝采! フハハハハ!』
『俺は人間をやめるぞ! ジョジョーッ!』
『我が生涯に一片の悔い無し!』
…………カオス過ぎるでしょ。というか、フラれちゃうんだね……。可哀想に……。
そんなことを思いながら、曲がったり、一回転したりしてジェットコースターが終わった。
「楽しかったよ!」
「ああ! もう一度乗ってみたいよ!」
「わ、私は遠慮します……」
「リニス、大丈夫?」
ジェットコースターはリニスには合わなかったみたいだった。
俺はおかげで少しだけ目が冴えたけど。
「ええ、ご心配なく……。ただ、次はゆったりとしたものでお願いします……」
「アハハ……そうだね。えーっと、そうなると……あ! あれが良いんじゃない?」
周りを見て、リニスが望んでいるようなものが目に入った。
「あれは何ですか?」
「メリーゴーランドっていうんだよ。あれなら大丈夫だと思うな」
「そうですか。でしたらお願いします」
「フェイトとアルフもいいかい?」
「大丈夫だよ」
「あたしも構わないよ」
二人の了承も得たので、メリーゴーランドの方へと向かった。
「さて、どの馬に乗りますかね」
「あ、あのね、空。あの馬に二人で乗らない?」
「二人で? まあ、いいけど」
フェイトが二人で乗りたいと言ってきたので、大きめの馬に二人で座った。
「お嬢様、しっかりと掴まっていてください」
「お、お嬢様!?」
冗談で言ったことを真に受けて、顔を赤らめていた。
やっぱ、フェイトはからかうといい反応してくれるね。
メリーゴーランドが始めると、音楽が流れ出した。
あ、ヤバい……寝そうだわ……。
ゆったりとした音楽によって、再び睡魔がやって来た。
ウトウトし始めた俺はフェイトに後ろから抱き着く体勢になった。
「そ、空!?」
「ごめん……眠い……」
睡魔には勝てず、メリーゴーランドが終わるまでフェイトに抱き着いていた。
琴里からもインカム越しに声が聞こえたが、眠過ぎて何言ってるかさっぱりだった。
あとから聞いたけど、フェイトはその間ずっと顔が真っ赤だったらしい。
メリーゴーランドが終わってからも俺達は色んなアトラクションを楽しんだあと、少し遅めの昼食をとっていた。
「三人共どう? 楽しい?」
「うん!」
「連れてきてもらって良かったよ!」
「本当なら皆で行きたかったですがね……」
「それはまた今度にしよ? 今は俺達で思いっきし楽しもうよ!」
本音を言えば、俺も皆で来たかった。でも、今回はフェイトを楽しませるのが目的だから文句なんて言っていられない。というか、言えるはずがない。
「それもそうですね。そもそも今日はフェイトと空のデートなんですから」
「……あたしらがお邪魔な気もするけどね」
「そ、そんなことないよ!」
冗談めかしてアルフが言ってきたのを、フェイトが周囲が注目を集めるほどに大声で否定した。
「でも、空との折角のデートなんだろ?」
「それはそうだけど……」
「はいはい、そこまで。楽しい気分が台無しになっちゃうよ」
「そうですよ。さあ、このあとも回るんですから、少しでも体を休めておきましょう」
二人は大人しく返事をして、食べかけの昼食を再び食べ始めた。
昼食を食べて、次に乗るアトラクションへとは向かっていたのだが、トイレに行きたくなった。
「ちょっとトイレに行ってくるよ。すぐに戻ると思うから、先に行ってくれる?」
「うん、わかった。先に行って待ってる」
断りを入れて、トイレに入った。
「ふぅ~、スッキリした~。さてと、フェイト達に追い付かない……誰か泣いてる?」
どこからか泣きじゃくる声が聞こえてきた。
辺りを見回すと、人目につかないところにしゃがみ込んでいる銀色の長髪の女の子がいた。
あの子かな……?
俺は心配になって声を掛けることにした。
「ねぇ、君、どうしたの?」
「はぐ、グスッ……れちゃった……お兄……グスッ……ちゃん達と……」
女の子がしゃがみ込んだまま教えてくれた。
家族とはぐれた。つまり、どうやらこの子は迷子らしい。
「そっか~、迷子か~。どうしたものか……」
この人混みの中で探すのは大変だな……。
「うぅッ……お兄ちゃん……」
「わああああ!? ちょ、ちょっと! 泣かないで! 君は一人じゃないからさ! それに俺も一緒に君の家族を探すよ! だから泣き止んで―――いや、泣き止んで下さい!」
女の子が余計に泣きそうになったので、慌ててあやした。
誰かが泣いてるのを見るのって苦手だなぁ……。
「……探してくれるの?」
女の子が顔を上げて尋ねてきた。そのおかげでようやく女の子の顔が見れた。
日本人離れした容姿に、宝石のルビーを思わせる紅い瞳が俺の眼に映った。
太陽の光によって輝く銀髪や雪のように白い肌も相まって、彼女を幻想的に思わせた。
つまり、俺が言いたいことは、 ―――――――――――――――メッチャ可愛いやないかー!!
この一言に限る。思わず関西弁になるほどに。
十香達やなのは達にも引けを取らない美貌だと思うな。将来モデルにでもなりそう。もしくはハリウッド女優かも。……今の内にサイン貰うか?
「か、可愛い!? 私が!?」
「あれ? 口に出してた?」
女の子が顔を赤くして驚いていた。白い肌だから余計に分かり易い。
「……う、うん、相当大きな声で」
マジか!? 自分でも気付かない内に叫んでた!?
「えっと……ごめん。……いきなり変なこと言って」
ウワー! 恥ずかしー! 知らない女の子にいきなり可愛いなんて叫んじゃったー!
「え? ううん! 大丈夫だよ! 私は気にしてないよ!」
今度は俺が恥ずかしさでしゃがみ込んだ。それを女の子が慰めてきた。
あれ? いつの間にか立場変わってない?
しばらく悶えて、ようやく立ち直った俺は本題に入った。
顔が熱いけど気にしない気にしない。
「……ゴホン。俺は龍神空。空って呼んでね。君は?」
「私はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。長いからイリヤでいいよ」
イリヤ、か。うん、憶えた!
「分かったよ、イリヤ。それで早速だけど、君の家族を探しに行くよ」
「うん。よろしくね、空君」
それから俺達はイリヤの家族を探すために歩き出した。
「あ、一応手繋いでおこうよ」
「ええぇッ!? 私達まだ会って間もないのに手を繋ぐなんて早すぎるよ!」
……? 手を繋ぐことに早いも遅いもあるの?
「でも、俺達までバラバラになったら面倒でしょ?」
「あ、そっか――――いやいや、でも!」
「はぁ……悪いけど勝手に手繋がせてもらうよ」
イリヤの独特の感性に疑問を抱きつつも、多少強引にイリヤの手を掴んだ。
! まだ目覚めてないけど魔力があるのか……それも結構な量。何かに巻き込まれなきゃいいけど……。
「あわわ!」
イリヤの手を握ると、イリヤは顔を真っ赤にしていたが気にせず進んだ。
女の子にこんなことホントは良くないんだろうけど、ことがことだから仕方がないよね?
なんて、内心で言い訳をしつつ、イリヤの寂しさを紛らわすためにイリヤと家族や学校のことなどの他愛無い会話をしていた。ちなみに俺達は同い年というのが会話で分かった。あと、イリヤの友達は中々濃いキャラらしい。
「空君はどこに向かってるの?」
歩いている途中でイリヤが問いかけてきた。
「迷子センター。普通行くでしょ」
イリヤの家族も行っているはずだろうと考えた。
「地図見ないで道わかるの?」
「全部憶えてるから問題ないよ」
昨日パンフレット見て憶えた。
琴里曰く、エスコートするためにデートの場所くらい覚えて当然とのこと。
「全部!?」
「驚き過ぎだよ。別に大したことじゃないって」
「そんなことないよ! すごいよ! それに比べて私なんて……」
自分には何もないと言ってイリヤは落ち込んだ。
「え!? だ、大丈夫だって! イリヤにも何かすごいことあるって! それにほら、イリヤってすごく可愛いじゃん! それだけでも充分だと思うよ!」
「うぅ~~~~っ!」
え? 何で睨むんですか!? 可愛いのって褒め言葉だよね!? 俺間違ってないよね!? それから頬を膨らませてメッチャ睨んでるけど、逆に可愛いだけだから!
「あの……イリヤさん?」
「ふんッ!」
俺が話し掛けてもそっぽを向くだけだった。手を離さないだけマシだが。
どうしたもんか、と悩んでいたらインカムから琴里の声が聞こえた。
『空! 聞こえる!?』
「(どうしたの、琴里。何かあった?)」
『どうしたじゃないわよ! 今何してんの!? フェイト達はどうしたの!?』
フェイト達の名前で固まった。
ヤバい! 完全に忘れてたー!!
「(どどど、どうしよう!? 電話しておけばよかった!)」
『はぁ……幸い、フェイト達は動いてないわ。まだトイレが長引いてるって思ってるぐらいだから今から行けばフェイトの状態はそこまで悪くないでしょ』
「(でも、今は迷子の女の子が一緒だから先に迷子センターに連れてかないと!)」
『こんな時に迷子? ……しかも、よりによって女? ふざけているのかしら?』
「ヒィッ!?(ふ、ふざけてないよ!)」
威圧感の籠った琴里の声にかなりビビった。
「空君、どうかしたの? すごく汗かいてるけど……」
イリヤが心配そうに尋ねてきたが、大丈夫だと手を振ってごまかした。
『まあ、いいわ。それよりもフェイトに連絡でもしておきなさい』
「(分かった)……もしもし、フェイト?」
携帯を出して、フェイトに電話した。
『空? どうかしたの?』
「今さ、迷子の子と一緒だから、行くのに時間かかると思う。もし暇なら三人で色々と回ってていいよ」
『え、でも……』
「あー、その、ごめんね。デート中なのにこんなことしてて。今度埋め合わせするから許してくれないかな?」
『……分かった。どうせ空のことだから迷子の子が放っておけなかったんでしょ?』
呆れたようにフェイトが言ってきた。
「アハハ……まあ、そんなところ。じゃあ、切るね」
『うん。ちゃんと助けてあげてね』
そこでフェイトとの電話を切った。
「……今の電話の相手って彼女?」
彼女? あ、恋人ってことかな?
「ううん、違うよ。なんでそんなこと聞くの?」
「だ、だって、デートって言ってたから……。私の所為で空君達に迷惑かけてるんでしょ?」
イリヤが申し訳なさそうにしていた。確かにイリヤといることで、フェイトとのデートの時間は少なくなる。
「あー、まあ、確かに少しはそうかもね」
「……ごめんなさい。私が迷子になんなきゃよかったのに……」
罪悪感からイリヤが再び泣きそうになってしまった。
「ちょ、泣かないで! ごめん! 今のは俺の言葉が足りなかった!」
「でも……」
「いいの! これは俺がしたいことだから! それに、泣いてる女の子がいるのにほっとくことなんて出来ないよ!」
「空君……」
「さあ、行くよ。イリヤの家族だって待ってるだろうし」
「うん!」
「あ、君の家族の携帯の番号って分かる?」
「分からない。……ごめんなさい」
「謝んなくていいの! 一応聞いただけだからさ」
また落ち込みだしたイリヤを宥めて、迷子センターへと向かった。
迷子センターに着くと、イリヤがスタッフに家族の名前や特徴を伝えて放送を入れてもらった。後は待つだけだ。
「ふぅ……これでしばらくすればイリヤの家族も来るでしょ」
「うん、そうだね。空君、ここまで連れてきてくれてありがと」
「どういたしまして。それじゃ、俺は―――――いや、もう少しだけいるよ」
「……え?」
どうして残る必要があるの?という顔をしてこちらを見てきた。
本当ならデートの最中なのにイリヤにかまけてる場合じゃないのは自分でもわかってる。
「なんとなーく、だよ。さっき泣いてた女の子が一人でいたら、また泣くんじゃないかなーって思ってたりなんてしてないから」
「それって私の事だよね!?」
「さあ、どうだろうね?」
「バカにしてー! 一人でも私は平気だもん! 空君はもう行っていいよ!」
俺にからかわれて、イリヤは無駄に強がった。
「うん、分かった。俺は行くよ。じゃあね、イリヤ」
「あ……ま、待って!」
俺が立ち去ろうとすると、イリヤが弱々しく腕を掴んできた。
会って間もないけどなんとなくイリヤという少女のことが分かった気がする。
「あれれ~? 一人でも平気じゃなかったの~?」
ニヤニヤしてイリヤに問いかけた。
「そ、空君がどうしてもって言うならここにいさせてあげる!」
ここは俺が折れた方が良いよね?
「あーどうしてもここにいたいなー心優しいイリヤならここにいさせてくれないかなー」
「し、仕方がないから特別に空君をここにいさせてあげる! 感謝してよね!」
全部棒読みで言ったのに、イリヤは嬉しそうに笑っていた。
「うわーありがとーすごく嬉しいなー」
それからしばらくイリヤと会話をしていると、橙色に近い茶髪の高校生ぐらいの男の子が汗を大量に搔きながら、迷子センターに入って来た。
イリヤがいないことに気が付いて相当走り回ったようだ。
「あ! お兄ちゃん!」
どうやら、あの人がイリヤとの会話で出てきたお兄ちゃん―――衛宮士郎らしい。何でも義理の兄妹だとかなんとか。
「ハァ……ハァ……! イ、イリヤ! ……見つかってよかった……」
士郎さんはイリヤの姿を見て安心したように息を吐いた。
「迎えも来たことだし、俺は今度こそ行くよ」
「空君! 私を助けてくれてホントにありがとね!」
「うん、やっぱり女の子は笑ってた方が良いよ。泣いてる時のイリヤよりもずっと可愛い」
「もうっ! からかわないでよ!」
顔を赤くしたイリヤがからかわれたのかと思って怒ってきた。でもさっきまでのように頬を膨らませるのではなく、少し呆れ混じりに笑っていた。
けど褒めてるのに怒られるってやっぱりおかしくない?
「あ、待ってくれ! 君がイリヤをここまで連れてきてくれたのか?」
「一応はそうですよ」
「そうか。俺からもお礼を言わせてくれ。本当にありがとう」
「そんな大したことじゃないですよ」
年上の人に頭を下げられるってむず痒いなぁ。
「もし良かったらお礼をさせてくれないか?」
この人は随分律儀な人だな。でもこういう人って大概――――
「そんなのいらないですよ。ただ泣いてる子がほっとけなかっただけですから」
「だけど大切な家族を救ってもらったんだ、何かしないと俺の気が済まない」
頑固なんだよなぁ……。まるでなのはみたい。
「私もお礼がしたい!」
お前もか!
「えっと、気持ちは大変嬉しいんですけど、俺にも一緒に来てる人がいるんでそろそろ行かないと怒られちゃいますから。それじゃ、失礼します。イリヤ、もう迷子にはなんないでね」
「あ、おい!」
「……もしどうしてもお礼がしたいというなら、海鳴市の翠屋に来て下さい」
それだけ言い残してフェイト達の下へと急いで向かった。
フェイト達と合流すると、迷子の問題は解決したことを伝えた。
「三人共ホントにごめん!」
「いいよ。空がそういう性格だって知ってるから」
「逆に見捨ててたなら一発殴ってるところだったけどね」
アルフらしいや。イリヤを助けて正解だったね。
「残り時間もあまりありませんからあと一つが良いところですね。何にしますか?」
「それだったら、やっぱりあれでしょ!」
「わー! 高い!」
「景色もいいね」
俺とフェイトが乗っているのは観覧車だ。
皆で乗ろうとしたら、何故かアルフとリニスは別のゴンドラに乗ってしまった。
「ねえ、空。私ね、言いたいことがあるんだ」
俺と向き合う形で、フェイトが真面目な顔をしていた。
「言いたいこと?」
ハッ、やっぱりさっきのこと怒ってる!?
「昔にさ、空が「俺と出会えて良かった?」って聞いたことあったでしょ?」
あれ? 怒るんじゃないの? というか昔話? そう言えば、俺も色々言ったなぁ……。
あの時は俺も若かった。今も若いけど。
「そうだね。それがどうかしたの?」
「今ならはっきり言えるよ。十香達やなのは達に会えて、―――――空に会えて、私は良かった。すごく幸せに感じてるよ」
「ッ! ……そっか……幸せか……。うん、それが聞けて良かった」
あの時の言葉はちゃんとフェイトに届いてた。
「今度は私が空に聞くよ。空は私と出会えて良かった?」
「そんなの出会えて良かったに決まってるよ」
俺にとっては考えるまでもない質問だ。
「なにせファーストキスの相手だもんね?」
意地悪そうな顔をしてフェイトが恥ずかしいことを俺に思い出させた。いつもからかわれる側のフェイトにからかわれるのはなんか癪だけど、そんな表情が出来る様になったことを素直に喜びたい。……話の内容がアレだからやっぱり喜べない。
「それは言わないで! 今でも恥ずかしいんだから!」
ウワー! 今のであの時のシーンが思い浮かぶんだけど!
「アハハ、空って意外と初心だよね」
「フェイトだって同じようなもんだろ!?」
「私にとってはいい思い出だから、恥ずかしくなんてないよ」
なんだよそれ!? 普通恥ずかしいでしょ!?
「そんなわけで空、これからもそばにいてね」
「え? ああ、うん。そばにいるよ。そしてフェイトを、皆を護るよ」
ここでどんなわけでなのかはツッコんではいけない。
「……やっぱり空は空だね」
どういう意味なんだ?
俺がわからないという表情をしていたので、フェイトがクスクス笑ってやっぱり何でもないと言ってその話は終わった。それと同時に観覧車も下に戻った。
Sideout
Sideフェイト
今日は空とデートをした。
……まあ、アルフとリニスもいたからデートとは言い難いんだけど。もう少し大きくなったら、今度は二人で来たいな。
今日のデートではたくさん笑った。そう考えるとと、自分は変わったなと思う。
私は空と出会ってから表情が豊かになった。家族の温もりを知った。
龍神家や学校での毎日が騒がしくて、楽しくて、それが当たり前のようになっていた。
自分がクローンであることを忘れるくらいに。
これが幸せなんだろうな……。
あの時、空が私に教えてくれたこと。それは今でも一語一句違わずに憶えてる。だから、いつか私と同じ境遇の人がいたらこの言葉を伝えてあげたい。幸せになってもらいたい。
その時には、空にこの想いを伝えてみるのもいいかもしれない。
――――――――空、私を幸せにしてくれたあなたのことが大好きです。