新たなる
Side空
ジュエルシード事件が解決してから三日ほど過ぎた頃、いつものメンバーと屋上でお弁当を食べていた。
「で、どうなったのよ、ジュエルシードは」
アリサが事件のことを聞いてきた。
「それは無事に終わったの。けど……」
「けど、何?」
なのはの言う通り事件は無事解決したのだが、その後にちょっとした問題が起こった。
それは最後に見せた俺の力に関してのことだった。
クロノに問い詰められて一応それとなく適当に誤魔化しておいた。
それだけなら大した問題ではなかったのだが、
俺としては前にプレシアさんに実験体として扱われる可能性があると言われたことがあったので、それを危惧して断った。
だが、クロノは食い下がらずに俺を勧誘してきた。
あまりにしつこいので、俺はきつめの言葉を言った。
『俺はクロノやリンディさんだったら信用も信頼もしてる。でも、管理局のことは信用も信頼も全くできるほど知ってるわけじゃないんだ。だったら知ればいいじゃんか、って思うだろうけど、俺はやりたいことがたくさんあるんだ。それにね―――――
――――こんな力、周りの人が見たら“化け物”って言うに決まってんじゃん』
クロノは「そんなことは無い!」って言ってくれた。でも実際、九喇嘛やドライグ達は宿っていた人達にはそういうことがあったと言っていた。
なのは達は優しいから俺のことを何も言わずに受け入れてくれたけど、他の人もそうだとは言い切れないと言ったら、クロノは黙り込んでしまった。
それから俺は「ごめん」とだけ言ってからその場を去った。
ちなみに、正田はミッドチルダの病院に連れていかれ、入院。眼の負担が相当なものらしい。
アースラが地球から離れた後もユーノはフェレット姿で地球に残って、なのはに魔法を教えている。
なのは達は今後、嘱託魔導師になって、将来的には管理局で働くつもりらしい。
「……色々あったってことさ」
「……そう……まあ良いわ。あ、それよりも聞いて欲しいことがあるんだったわ!」
アリサは何となく察してくれたのか特に深く聞こうとせず、話題を変えてきた。
「何かあったの?」
「最近、不思議な力が出るようになったのよ」
不思議な力?
アリサ以外誰もが首を傾げていた、と思ったらそうでもなかった。
「あ、私も同じだよ」
「実は私も……」
アリサと同じようなことが明日奈とすずかにもあったらしい。
三人も!?
「どんな力なの?」
「突然炎が出たわ」
アリサは炎。
「私は周りが凍りついたよ」
すずかは氷。
「私は剣が出たよ」
明日奈は剣。
炎に氷に剣? まさか……。
「ヴァーリ、もしかしてこれって……」
「恐らく、
やっぱりか……。
ヴァーリに小声で聞くと、俺と同じ考えだったらしい。
「それっていつから?」
「確か……三日前ぐらいね」
他二人もそうだったらしい。
ん? 三日前? それってジュエルシード事件が解決した日だね。
「そう言えばその日はすごく大きな揺れを感じたんだけど、お姉ちゃんに聞いたら、地震なんてなかったって言われたんだよね」
「あと、海の方の空が赤く見えた気がしたんだよね。それで気が付いたら剣が出てたの」
空が赤い? あれ? 心当たりがある気がするけどよく分からないな。
『お前が撃った、ロンギヌス・スマッシャーの影響で赤くなった空を小娘達はを見たんだろうな』
それって俺の所為じゃんか!
「ああ、えーっとですね、それはもしかしたら俺やヴァーリと似たような力だと思うよ」
とりあえず、アリサ達に説明をすることにした。
「それと、地震は魔力を感じられるようになったということだろうな」
「実は、この世界に住む生物は誰もが魔力を持っているんだ。でもね、魔力の量には個人差はあるし、生まれつき魔力を感じられる先天的な人もいれば、何かしらの影響を受けて感じられるようになる後天的な人がいるんだ。まあ、その力と同じように全然気付かないまま人生を終える人がほとんどだけどね」
フェイトやアリシアは元から、なのははレイジングハートを手にしたときだろう。
「要するに、なのはちゃん達みたいに魔法が使えるのかな?」
「しかも空君と似た力があるんだね」
「うん、そういうことになるかな。うーん、三人はその力どうする?」
「出来れば使えるようになりたいわ」
「なのはちゃん達の力になれるかもしれないし」
「前みたいに誘拐にあっても大丈夫になると思う」
三人共同じ意見か。
「分かった。じゃあ今日の放課後俺の家で使い方を教えるよ。ヴァーリはアザゼルさんを
連れてきてくれないかな?」
「そうだな。こういった類は得意分野だからな」
そして昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、教室に戻った。
放課後、龍神家のトレーニングルームにいつものメンバーに加え、プレシアさん、アルフ、リニス、はやてやアザゼルさんがいた。はやては以前にあかりが紹介したから皆は既知の仲だ。
「あかり、どうしてはやてが?」
「一人じゃ寂しいかなって思ったんだ」
「そっか。俺としては全然構わないんだけどね」
「ありがと」
「どういたしまして」
そんなやり取りをあかりとしてアザゼルさんに三人を調べてもらった。
「……なるほどな、これは興味深いな……」
「三人はどうでした?」
「ああ、こいつらはどうやらお前が言ってた通り神器持ちだな。しかも、俺が見たことない神器の可能性がある。益々興味が湧いたぜ!」
新種の神器……。原作に無いものなら俺には創れないな。
「それで? どうやったら使えるようになるのよ? 早く教えなさい!」
「おう、悪い悪い。すぐに教えるぜ」
アリサの偉そうな態度にもアザゼルさんは気にせずに続けた。
それだけ新しい神器に興味があるんだろう。
「発動させるにはイメージするんだ」
「何をイメージすればいいんですか?」
「簡単に言えば、自分の中で一番強いと感じる何かを思い浮かべればいい」
『…………』
アザゼルさんの言う通りに三人は目を閉じ、頭の中にイメージを浮かべた。
しばらくすると彼女達の神器が発動した。
アリサは炎を纏った日本刀、すずかは手の甲に氷が付き、明日奈には細身の剣があった。
「こ、これが神器とかいうやつなの?」
「ああ、そうだ。それにしてもホントに新種のようだな」
「それでどうやって使うんですか?」
「すまないが、新種だと使い方がさっぱりだ。聖書の神なら何かわかるんじゃないのか?」
『私はこの世界の聖書の神ではないのでなんとも言えませんね……』
自分が創ってない神器にヤハウェもお手上げのようだ。
「アリサと明日奈は接近戦の武器だろうね。でも、すずかは……見た感じ遠距離なのかな?」
大雑把な予想でしかないが大体はそんな感じだと思う。
「とりあえず、戦ってみたらどうだ? それが一番手っ取り早いからな」
アザゼルさんの提案で模擬戦を行うことになった。
「お手柔らかにお願いね、空君」
「この刀で斬ってやるわ!」
「斬ったら危ないよ、アリサちゃん」
というわけで、俺が三人の相手をすることになった。
「力を引き出すのもいいが、手加減してやれよ?」
だったら俺じゃなくてもよかったんじゃ……? まあ、いいや。
「影分身の術!」
ボンッと軽快な音を立てて、三体の分身を作った。
「三人の力を引き出して欲しいんだ。頼んだよ、俺達」
『任せて!』
分身が返事をすると、一対一で戦ってもらうことにした。
さてと、俺はのんびりしますかね。
俺は皆のところに戻り、見学することにした。
「空君って忍者だったんか!?」
「え、違うけど」
どうやら、俺が分身したのを見てそう思ったらしい。
「やぁああああああああああッ!」
試合が始まり、早速アリサが刀で俺の分身に斬り掛かった。
分身は
すずかはどうかな?
すずかの方を見てみると、手に氷の弓が握られていた。
「……こんな感じかな……えい!」
矢が無い状態で弦を引くと、彼女の周りに数本の氷の矢が展開された。
そして手を放し、氷の矢が一気に襲い掛かった。
すごいな、もう力の使い方を覚えたのか……。
最後に明日奈の方を見ると、細身の剣で連続で攻撃していた。
「今! リニアー!」
明日奈の持つ剣が淡く光ると、分身に閃光の如き速さで突き刺した。
速い……。一瞬だけの動きなら、フェイトよりも速いかも。
明日奈の一撃で役目を終えた分身は消えて煙となって戦闘は終わった。
二人の方を見ると、丁度分身が消えているところだった。
「三人共お疲れさん。中々いいもんが見れたぜ」
「それで、私達の力はどうなんですか?」
「金髪の嬢ちゃんは炎を自在に出せる能力、逆に紫髪の嬢ちゃんは氷だな。で、最後にお前さんは剣速がとてつもなく速い。三人共極めればかなりのもんになるだろうぜ。
「でも、これってかなり体力を使うんですね……」
「それは慣れていくしかねえな。とりあえず今日はここまでだ。俺にはまだ仕事もあるしな。そんじゃあな」
アザゼルさんは別れを告げると、上の階に上がり帰った。
「と、まあ、大体の使い方は分かっただろうけど、次は魔法のことでも話す?」
「そうね。そうさせてもらうわ」
他の二人もアリサと同じ意見みたいだった。
「なあなあ、空君。私にも魔法って使えるん?」
「使えるよ。はやては魔法に興味あるの?」
「もちろんや!」
「なら、三人と一緒に学んでみるといいよ。ついでにあかりもどう?」
「おおきに!」
「そうさせてもらうよ。折角の機会だからね」
「俺もいいか? 異世界の魔法には興味があるからな。ぜひ、聞きたい」
「もちろん大歓迎だよ。リニス、教えるの頼んでいい?」
「はい、問題ないですよ」
リニスは二つ返事で快く受け入れて、休憩を挟んでから六人の生徒達に講義を始めた。
時々なのは達が実演して、アリサ達を驚かせていた。
「――――と言った感じです。今ので基礎は大体言ったつもりですが、何か分からないことはありますか?」
誰も挙手をしなかった。それだけリニスが分かりやすい説明をしたのだろう。
「無いみたいなので、講義はここまでとさせていただきますね」
「ありがと、リニス。まあ、これからも教えていくつもりだから魔法少女の先輩、なのはやフェイト、アリシア達に色々聞いてみなよ」
「アハハハハ! なのはが魔法少女って!」
「わ、笑っちゃダメだよ、アリサちゃん……フフッ」
「二人共、笑うなんてひどい!」
アリサとすずかに笑われて、なのはが怒っていた。
「なのはちゃん達が魔法少女だから空君は魔法少年だね」
「あんまり魔法少年として働いてないけどね」
《マスターはもっと、私を使うべきですよ! プンプン!》
プンプンって、キャラ壊れ過ぎでしょ……。
「なのは達との修行で使ってるでしょ?」
《この小説での出番をもっと増やせと言ってるんです!》
「それは俺に言われても困るんだけど……。まあ、それは置いといて、そろそろ皆は帰った方が良いんじゃない?」
ブレイブのメタ発言に困ったので適当に流して、皆に帰宅を促した。
「そうね、今日は泊まっていくわ」
「……は?」
アリサは何を言っているのかな? 俺は帰れって言ったんだよ? なのに何で電話してんの?
「なんやて!? なら私も泊まってええか!?」
「空君、私からもお願いしてもいいかな? 久々に空君の家に来て、はやてが喜んでるし」
二人も!?
「えーっと……」
「ダメ、なんか……?」
「グハッ!」
はやての涙目攻撃+上目遣い攻撃のコンボ! 会心の一撃! 空の精神に9999999のダメージ! 空は倒れた!
「……わ、分かった……泊まっていっていいよ……」
「ホンマに!? ありがとうな! あ、夕飯作るの手伝うで!」
結局、なし崩し的に他の皆も泊まることになった。
気が付けばヴァーリはいつの間にか帰っていた。
あいつ、俺を見捨てやがったな!?
皆で夕飯を食べて風呂に入った後部屋に戻ったのだが、この前のように皆も同じ部屋で寝る気満々らしい。
今回も何故か互いに火花を散らしながら、ジャンケンで隣に寝る人を決めたいた。
勝者はアリサとはやてだった。
「そう言えば、もうじきはやてとあかりとヴァーリの誕生日だね」
今日の日付を思い出し、ふとそんなことを思い出した。
「空も誕生日でしょ?」
「え、ああ、そっか。俺もだったね」
前世の記憶が無いから、俺がこの世界に転生した日、6月8日を誕生日にした。
4年目にして未だに忘れそうになる。
「今年もここでパーティーやるの?」
「一応そのつもりだよ。皆が他がいいとかの要望が無ければだけど。あ、はやてとあかりは誕生日プレゼントに欲しいものとかある?」
はやてとあかりは6月4日、ヴァーリは6月6日と2日ごとに誕生日があるので、毎年四人まとめて6月4日に祝っている。
「せ、せやな……ほんなら空君のき『それはダメ!』……チッ……」
はやてが何かを言っている途中であかり以外からダメと言われた。
「あかりは?」
「私は「ヴァーリ君とのデート」がいいな……って、今の誰が言ったの!?」
誰かに口を挟まれてあかりは声を荒げた。
「私よ。でも、あながち間違いでもないでしょ?」
犯人の愛衣は悪びれた様子もなく平然と正体をバラした。
「そ、それは…………ってそうじゃないよ! 何で知ってるの!?」
「確信したのは最近だけど、今までのあなたを見ていれば一目瞭然よ。他の人と話しているときよりもヴァーリ君とのときの方が嬉しそうな顔をしてるもの」
うん、二人は仲が良いからね、あかりが嬉しいのも分かるよ。
俺も皆と話せるのは嬉しいからね。
「ええッ!? ウソ!? 私、そんな感じだった!?」
「正直に言えば分かりやすいな~って思ってた……」
『うんうん』
他の皆も二人の仲がいいと思ってたらしい。
「も、もしかして空君も?」
あかりが気まずそうに聞いてきた。
「え、ヴァーリとあかりが仲良しってことでしょ? そんなの知ってるよ」
『…………はぁ』
俺以外の全員が一斉に溜息を吐いた。
「何で溜息吐くのさ!?」
「空君ってつくづく残念なほどに鈍感だよね」
「まあ、今に始まったことじゃないんやけど」
「それにしたって今のは少し考えればわかることじゃない!」
「空君は女の子のこと勉強した方が良いよ?」
皆から色々言われた。
むぅ……何が間違っていたんだ? さっぱりわからん。
俺が一人で唸っている間に、皆はあかりに質問攻めをしていた。
逆にあかりも皆に好きな人のことを聞いていたらしいのだが、その時も考えていたので、
全員が躊躇いなく『空(君)』と答えていたことに気付かなかった。
そして最後まで答えが分からず、そのまま布団を被って眠りについたのだった。