プロローグ
目が覚めると、俺は見渡す限り真っ白な空間にいた。
あれ、どうして俺はこんなところにいるんだ? さっきまで何してたんだっけ? うーん思い出せない。それに名前も…………誰かと何か大切な約束をしてたような……? あれ? 約束って何だっけ? まあ、思い出せないなら大したことじゃないのかもしれない。
「それは私が説明しましょう」
今まで何をしていたか思い出そうとしたら後ろから急に声をかけられた。
声のした方に振り向けば、銀髪金眼のスタイルの良い美人さんがいた。
「美人ですか……。まあ否定はしませんけど」
……否定しないんだ。確かにそうだけど。ん? 俺、今口に出てたか?
「いえ、私があなたの心を読み取っているからですよ」
「はぁ~~~最近の美人さんはそんなこともできるのか。スゲー」
「違います。それが出来るのは私が“神”だからです」
もしも本当に神だというのならそのくらい当然事なのだろう。
「へぇー神なんですかーすごいですねー」
しかし、いかにも嘘くさいので棒読みで返した。
「……信じてないんですね」
こめかみに血管がビキビキと音を立てて浮き上がっていたことから、神様はかなり怒っているようだった。
「そりゃあ、急に言われても痛い人にしか見えませんよ?」
「童貞で死んだくせに生意気ですね」
「ちょッ!? 何で知ってんの!? というか、俺死んだの!? サラッと大事なこと言わないでよ!?」
慌てて自分の体を見たら、手が透けていた。神様の言う通り、俺は死んでしまって今は幽霊みたいなものなのだろう。
「ああ、そう言えば言ってませんでしたね。……私のミスであなたは死んだのです」
伏し目がちに神様から伝えられたのは衝撃的事実だった。
「! ……ハハハ、そっか。あーあ、まだやりたいこといっぱいあったのになぁー」
「……責めないんですか? あなたを殺した張本人ですよ?」
「だって、あなたを責めたって生き返る訳でもないですし、死ぬのは生物として当たり前ですよ」
「ッ! ですが! 本当ならまだ生きられたんですよ!? 私はあなたの未来を奪ったんですよ!? そんな相手をあなたは許すんですか!? (どうしてあなたは……!)」
本来なら俺が怒るべきはずなのに怒らない、そんな俺の代わりに神様が声を荒げる。
「それでもです。俺はあなたを責めないですよ。ホントはスゲー泣きたいけど……」
それだけじゃない。辛くて、苦しくて、悲しい思いでいっぱいだ。でも、弱音を吐きたくない。理由は一切わからないが吐きたくないのだ。
「なぜですか?」
「あなたが美人さんだから」
「…………………は?」
あれ、固まった。そんなに変なこと言ったか? 理由がないから適当に言っただけなんだけど。
「そ、それだけですか?」
我に返った神様が確認するように聞いてきた。
「うーん、それだけじゃないけど八割はそうかも」
「……フフッ、あなたは面白い人ですね。神である私を口説くなんて。前代未聞ですよ。(やっぱり、この方は変わりませんね……)」
「え、今の口説いたことになるんですか? そんなつもりじゃなかったんですけど……」
「あなたがそう思ってなくても相手はそう感じてしまうんですよ? 気を付けないと大変なことになりますよ?」
「はーい。気をつけまーす。……ってそんなことより俺、これからどうすんの!?」
どうしてここにいるのか分かったけど、天国にでも行くならこんな場所に来させるはずないだろう。ましてや地獄というのも考えにくい。
「! そうでした! あなたには転生してもらいます!」
「ワンモアプリーズ」
思わず聞き返してしまった。
「あなたには転生してもらいます」
「……つまりもう一度人生を送れると?」
「そうなります。ただし、あなたがいた世界とは別の世界です」
「別世界……か。友達できるかな?」
ボッチは嫌だな……。
「心配するとこそこですかッ!? 普通はどんな世界だとか聞きません!?」
神様からすれば、俺の心配事が小さすぎたのかツッコまれてしまった。
「いやー、特には。行ってからのお楽しみってことでいいじゃないですか」
「……わかりました。あなたがそう言うのであれば特には言いません。では、あなたの特典を決めましょうか。(あなたはホントに変わってますね……)」
特典? プレゼントってことか?
「まあ大体そんな感じです。……あなたは神様転生とか二次創作とか知らないのですか?(記憶がそこまで消えてますか)」
再び心を読まれてしまった。プライバシーの侵害だ。神様に法律は適用されないだろうけど。
神様転生? 二次創作? なんだそれ? と首を傾げてたら何かため息つかれた。
「い、今時珍しいですね。そういったことを知らない人は」
「えっ、もしかして俺時代遅れ!? マジか! これってもしかして常識?」
「い、いえ、そこまでではないです。ただ大抵ここに来る人は皆知ってますよ」
「へぇー他にも転生してる人いるんだ。じゃあ、俺がこれから行く世界にも転生した人がいるんですか?」
「はい。その人達も私のミスで死んでしまって転生させたんです」
俺みたいな人が他のもいたのか。仲良くなれるかな? というかミス多くね?
「さぁ、どうでしょうかね? 出来るんじゃないですか? ってそんなことはいいです!
早く特典を決めて下さい! あまりここには長くいられないんですから!」
「おっと~今更ながらの新真実が発覚した~!」
ここにずっといると転生できなくなったりして。
「ふざけないでください!」
「はーい。ところで特典は何個もらえますか?」
「ホントは三個までですが、あなたのことが気に入ったので特別に五個にしてあげます。さあ、何でも言っちゃって下さい」
「なら、一つ目デート・ア・ライブの精霊の力全部」
確か、そんなラノベがあった気がする。何故だか、思い出そうとする度に記憶が曖昧になりかけてる。
「いきなりチートですね。(それの記憶は残ってるんですね……)」
「もしかしてダメでした?」
「だ、大丈夫です…………………多分」
その反応で不安になるんだけど……。
「二つ目はハイスクールD×Dの
三つ目はワンピースの覇気三色。
四つ目は成長限界無し。
五つ目は家事スキルEX。以上です」
家事ができたかどうか思い出せないから入れてみた。多分必要。きっと必要。将来的に必要。あっても損はないはずだ。
「かなりチート能力にしましたね。まあいいでしょう。それではあなたを転生させます。準備はいいですか?」
「あ、ちょっと待って下さい。最後に聞きたいんですけど……」
「? 何ですか?」
「神様の名前教えてくれませんか?」
転生させてくれる恩人の名前を知らないはダメだと思い、尋ねてみた。
「(私のことは憶えてませんか……)いいですよ。私は―――」
神様は誰もが見惚れるような笑顔で教えてくれた。
「――――――
そこで俺の意識は途絶えた。
Sideout
Side天照
「彼はもう行ったのか?」
「ええ、行きました。それで、何か用ですか? ――――ゼウスさん」
私に話しかけてきたのはギリシャ神話の主神―――ゼウス。
ここは神が神話に関係なく他の神と会える場所の為、ゼウスさんがいてもおかしいことはない。
「彼に一言言いたかったのだが間に合わなかったみたいだな」
「言いたいことは何となく想像が付きますがね」
「ああ、なんせ彼は
そう、彼は私達神を、世界を救った。
自分の命と引き換えに。それに記憶や力も失ってしまった。
「その所為で彼の人生を台無しにしてしまいましたがね……」
私はどこか自嘲気味に言った。
理由は何であれ、私達が彼を殺したようなものだ。
特典を五個にしたのも口説かれたからではなく、彼に次の世界で長生きしてほしかったから。
まあ、美人って言われてちょっと嬉しかったですけど……。
記憶は失ってても相変わらずの性格でしたね。
「彼の新たなる人生が幸せになることを、私が世界中の神々を代表して言わせてもらうとしよう。――――――我らが英雄に幸あらんことを」
言い終えたゼウスさんは私の傍からいなくなった。
「さてと、あとはあなた達です。……彼のことを頼みます」
私が創り出した少女達に彼のことを託して送り出す。
頑張って下さい、――――――――様。
そして、いつかまた会えることを私達は願っております。