ケンカの後は仲直りです!
Side空
俺が入学してから一週間ほど過ぎた頃、お昼休みの時間に屋上で俺、ヴァーリ、明日奈、あかり、なのは、なのはの友達の天河さんの六人で食べている。
天河さんはなのはが誘ってから一緒に食べるようになった。
天河さんはまだ友達とは言い難いというか、嫌われている節があるんだよね……。俺、嫌われるようなことしたかな?
ふと、視線を天河さんに向けてみれば「何よ?」みたいなイラついた感じで睨み返された。
むぅ……どうしたものか……。会話も全然したことないし。
どうやったら彼女と仲良くなれるのか少しばかり悩んでいたら、明日奈が俺のお弁当を見ていた。
「どうかした、明日奈?」
「空君のお弁当っていつも綺麗で美味しそうだなって」
「そう? まあでも、ありがと。これでも手抜きなんだけどね」
昨日の残り物の詰め合わせだからね。
「この前のケーキみたいに空君が作ってるの!?」
なのはだけでなく答えた俺と天河さん以外の三人も驚いていた。
天河さんは全くの興味無しですか……。
少しでも興味を持ってくれればそれをきっかけに話せると思ったんだけだけど。
「そうだよ」
「ケーキだけじゃなくて弁当も出来るのか……すごいな」
「お姉ちゃん達が全くってほどでもないけどそんなに出来るわけじゃなくてね」
折紙か琴里が精霊達の中では一番できるのかな? あとは……プレシアさんとリニスぐらいかな? あれ? 七罪も料理人に変身すれば出来るんじゃ……?
「大変そうだね。あんなに家族が多いのに」
「それを言ったらあかりとはやてもじゃないの?」
俺達はあかりとはやての両親が事故で亡くなったことを聞いている。
子供がたった二人でなんて俺よりも大変なはずなのに……。
「まあね……でも、二人でこれからも頑張るし、もしもの時は皆を頼るから」
「うん、いつでもいいよ。出来ることは少ないけどね。あ、いっそのこと俺ん家に来る?」
「ありがたいけど、それは最終手段かな」
「空の家はそんなに大きいのか?」
俺の発言に疑問に思ったヴァーリが口に出した。
「まあ普通の家よりはね」
「空君、あれは普通の家よりもかなり大きいからね」
この中で唯一俺の家に来たことのあるなのはに半眼で突っ込まれた。
普通の家には地下室とかプールとかないもんな。
「そうだ今度家で遊ぼっか!」
そこで丁度お弁当を食べ終えた俺は先に教室に戻ろうとしたが、問題が起こった。
「ちょっとそれ貸しなさいよ!」
「は、離して! 痛い!」
金髪の女の子が紫髪の女の子からカチューシャを奪おうとしていたのが目に入ったのだ。
「あそこにいるのって同じクラスのアリサ・バニングスと月村すずかだよね?」
バニングスさんも月村さんも誰かと親しそうに話している姿は見たことがなかった。俺自身、先生からの伝言を伝えるとかくらいでしか話したことがない。
「うん、そうだよって! 呑気なこと言ってる場合じゃないよ! 止めに行かないと!」
「でもさ、あれ」
俺が指で示した方向にはなのはが二人に歩み寄り、
――――パシンッ!
バニングスさんをビンタした。
うわー、痛そー。
「痛いじゃない! 何すんのよ!」
「痛い? でも大事なものを盗られちゃった人の心は、もっともっと痛いんだよ?」
そっから今度はなのはとバニングスさんのケンカが始まった。
なんだか今のなのはの台詞、名言みたいだね!
「余計に酷くなってない!?」
「止めるつもりだったんだろうけど、悪化したな」
「だから止めようよ!?」
えー、俺にはあの中に入る度胸は無いよー。ほら、女の喧嘩は男よりもヤバいってよく言うし。え? 言わない?
心の中で嫌がっていたら、王城君が颯爽と現れてなのは達に向かって行った。
「やめろ、俺の嫁達よ。ケンカなんてつまらないことはするな」
そう言って王城君が仲裁に入った。
「おい、王城! なのは達に何してる! 離れろ!」
だが、正田君が王城君に掴みかかり今度は男子のケンカが始まった。それを見ていた俺達は呆れた。
「……正田君はバカなのかな?」
「あれを見て、何をどうやったら止めようとした王城が悪者になるんだ?」
「王城君の言い方もどうかと思うけどね……。(うわー、二人共絶対に転生者じゃん!
「二人がどうかしたの、あかりちゃん?」
「ううん、何でもない! それより早く止めようよ! あれ? 愛衣ちゃんは!?」
「男子がケンカし始めてから帰ったよ」
「え、そうなの? ……じゃなくて! あなたは早く止めてきなさいッ!」
イッテーーーーッ!? 女の子とは思えない蹴りだよ!?
何故か明日奈に思いっきり蹴られた俺がなのは達の方に向かった。
とりあえず、二人が喧嘩を始めてしまったため何もできずに泣きそうになっていた月村さんのところに行った。
「月村さん大丈夫?」
「た、龍神君? もしかして止めに来たの?」
「まあそんなところ」
女のケンカって男のよりも怖く見える……。
「で、でも、危ないよ!」
「大丈夫だよ。俺に任せて。……
俺は一回深呼吸してから歌った。
「~~~~~♪」
完全には美九の力は使えないけど、ケンカを止めるくらいは出来るはず。
「綺麗な声……」
そんな声が聞こえたが、気にせずに歌っていると二人の動きが止まった。
「歌? 誰が……?」
「この声……空君?」
「正解。ようやく止まったね」
「……何しに来たのよ?」
私怒ってますって声音で睨んできた。
「月村さんにパスで」
「え? え!? わ、私!?」
いきなりフられた月村さんは慌てた。
「だって俺は止めに来ただけだから、あとのことは三人でどうぞ」
「で、でも私は……」
チラチラとバニングスさんに視線を向けていた。
「何よ! 言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ!」
それが気に入らなかったのか月村さんに怒鳴り出した。
「そんな言い方はダメだよ!」
「あんたもさっきから邪魔しないで!」
バニングスさんが再びなのはに掴みかかったところで――――
「やめてッ!!」
月村さんが叫んだ。
『ッ!?』
普段クラスでもおとなしい性格の月村さんが大声出したから二人は動きを止めた。
そろそろ戻りたいんだけどこれ解決しないと明日奈にグチグチ言われそう……。
「はぁ……ねぇ、バニングスさん」
「何よ?」
「君は月村さんのカチューシャを奪おうとしてたけどどうして?」
「ちょっと見たかっただけよ。でもその子が貸してくれなかったから……」
「……そう。君には大切な物ってある?」
「あるけどそれが何だっていうのよ?」
「誰だって自分の大切な物は人に貸したくないってあると思うんだ。君だっていきなり貸せ! なんて言われて貸す?」
「そんなことするわけないじゃない!」
それはそうだ。俺だって嫌だし。
「でしょ? だから月村さんは君に貸さなかったんじゃない?」
「それは……」
「なら、言うべきことがあるんじゃない?」
「うッ…………月村さんご、ごめん、なさい」
気まずそうに月村さんの方を向いて謝った。
「うん、いいよ! もう気にしてないから!」
「それと……あんたもごめんなさい」
今度はなのはの方にも謝っていた。
「私もごめんなさいなの!」
なのはも自分が悪かったことはわかっていたので謝った。
「これで万事解決! じゃあ俺は戻―――」
「ちょっと待ちなさいよ!」
「グエッ!」
帰ろうとしたら、いきなりバニングスさんに制服の襟を掴まれて喉が詰まった。
「ゲホッ、ゲホッ……な、何、するの?」
「そ、その……あ、あんたも止めてくれて………………
最後の方が小さくてよく聞き取れなかった。
「え? 最後何て言った?」
「うるさいうるさいうるさい! 何でもないわよ!」
「えー、なら何で止めたの?」
「あんたが勝手に帰るからでしょ!」
「でも、解決したからいいでしょ?」
「ダメに決まってるでしょ!」
うわー何という理不尽な言葉でしょうか。
「わかったよ。で、何?」
「あ、あんたと、ととと、友達になってあげても、いいわよ?」
「遠慮しときます」
即答。だってこの性格はメンドイ。
「なッ!? 何でよ!?」
「俺よりもそこの二人と友達になったら?」
「二人ともなるわよ! でも一番はあんたがいいの!」
友達に順番いりますか?
「まあ、いいけどさ。バニングスさんって友達いないの?」
「いないわよ! 悪い!?」
きっとこの性格だからなんだろうな……。
「俺は龍神空だよ。空って呼んでね。君の名前は?」
「アリサ・バニングス。アリサでいいわ」
「よろしくアリサ」
「フンッ……まあよろしくしてあげるわ空」
そっぽを向いたアリサは少しだけ嬉しそうに笑っていた。
「ハイハイ。じゃあ次は二人だね」
「月村さん、高町さん、私と友達になってくれない?」
俺の時と態度が違くないか? べ、別にいいんだよ、全然拗ねてる訳じゃないし。
ただ、俺の時のあれは何だったのかなぁって思うぐらいだから。
ホントに気にしてないからね。ウソじゃないよ。
「もちろんOKなの! 私は高町なのは。なのはって呼んでね!」
「私もいいよ! 月村すずかです。すずかでいいからね、アリサちゃん、なのはちゃん。あと、空君も!」
俺はおまけですね? すずかさんや。
とまあ、何はともあれこうして新しい友達が出来たのだが、翌日。
「空、ご飯一緒に食べるわよ」
「私も一緒に良いかな、空君?」
アリサとすずかが一緒に昼飯を食べようと誘ってきた。
「それなら皆で食べようよ!」
「アハハ……一気に賑やかになったね」
「でも皆で一緒の方がご飯も美味しくなるよ。ね?愛衣ちゃん」
「……そうね」
「男女の比率が……」
「言わなくていいから」
その日から、アリサとすずかも毎日一緒に食べることになった。
ちなみにケンカをした男子―――王城君と正田君は先生に説教をされたとさ。
王城君可哀想に……。ただ止めようとしていただけなのに。