転生者達と戦います!
Side空
「待てやコラァッ!」
「やーなこった」
追いかけてくる男子高校生の方に振り返ってあっかんべーをした。
街を歩く人々俺達二人を何事かと不審がるが気にせず走る。
ちなみに周囲の地理を覚えながら走っていても彼との追いかけっこは余裕である。
挑発が効いたようで米神辺りに青筋を浮かべながら追いかけてくる。
「ただの人間が身体能力で俺に勝てるわけないよ」
「あぁッ!? どういう意味だ!?」
「そのままの意味だけど。ほら、スタンド使わないの? スタープラチナで時を止めればいいのに。それとも他にも能力あるのかな?」
ブレイブに見てもらったところ魔力量はどこにでもいる一般人と同じ―――言ってしまえば魔法を使うには不十分。俺の知らない魔力の消費量が少ない魔法を使う可能性もあるがその素振りはない。
身体能力は体力的に見て同世代の人と比べてある方だろう。息切れもしてないから相当かもしれない
「だったら見せてやるよッ! 『スタープラチナ・ザ・ワールド』ッ!」
背後から現れた紫の巨人―――スタープラチナが能力を発動する。
瞬間、周囲の時間が止まる。
それは俺も例外なく当てはまる。
まあ、
「へっ、あれだけ煽ってたくせに随分呆気ないもんだなぁ。やっぱその辺はおこちゃまってことか」
さっきまでの怒り顔が嘘のようにニヤニヤしながら俺に迫って来る。
その間俺は俺でゆっくり考えることが出来る。
スタープラチナが止めることが出来る時間は約5秒。正確に言うとスタープラチナのスピードが光の速さを超えることで時を止めているらしい。
分かったところで大して意味はないのだけど。
「さぁ~て、どう遊んでやろうか」
遂に俺の前に到着。スタープラチナの射程範囲に入ってしまった。
久々にアイツの出番だ。
「年上を怒らせるとな……泣く思いをすんのはガキなんだよ!」
彼が言い終えたのと同時にスタープラチナが拳を振るった。
だが―――届かない。
ガラスが割れる音と共に俺の背後から伸びた腕がスタープラチナの拳を掴んで止めたのだ。
「んなッ!?」
「―――『相手が勝ち誇ったとき、そいつはすでに敗北してる』。古事記にも書いてことだよ」
「書いてねぇよッ! ってか、お前もスタンド使いだってのか!?」
「そーゆーこと。わかったところでもう一度鬼ごっこ再開だね」
『鬼だな』《鬼ですね》
「それは追いかけてくる相手だから」
アバターの能力で一時的にスタンドを消し去り、本体の彼を掴んで投げ飛ばした。
すでに時は動き出し、周りの注目を集める。
さっきまで俺を追いかけていた男がいきなり吹き飛ぶものだから余計にだ。
そろそろ時間か。
朝に出会った中学生との約束がある。
それまでにはスタンド使いの高校生との鬼ごっこを終わりにしなければならない。
すぐに起き上がって追いかけてくる姿を見るからに、向こうの体力はまだまだありそうだ。その上、複数のスタンドを持っていると考えるなら巻くのは至難の業。
気絶させれば楽ではあるけれど面倒ごとは増やしたくない。
「これならどうだッ! 『ヘブンズ・ドアー』ッ!」
今度は白い帽子を被った少年のような外見のスタンドが飛び出てくる。
触れようとして手を伸ばすが武装色の覇気を纏った右手で返り討ちにした。
スタープラチナよりも射程範囲は広いが能力を使うには俺に触らないと意味がない。
「エメラルドスプラッシュ!」
ヘブンズ・ドアーを消し、別のスタンドを召喚。
まるで光ったメロンのような姿のスタンド―――ハイエロファントグリーンだ。
緑色の液体を固めて超高速で飛ばしてくる。技名通り宝石のエメラルドのような攻撃だ。
「ほいっとな」
その場で一時停止。見聞色の覇気を使って身体を逸らすことで、エメラルドスプラッシュが俺の横を通り過ぎていく。
外れた攻撃が地面やら建物の壁といった至る所に当たる。
幸いなことに人通りが少なくなっていたので人に被害は出ていない。彼もそれがわかって使ったのだろう。
スタンドの攻撃は普通の人には見えないわけだし、あまり騒ぎにはならなさそうだ。
「あれ? もうネタ切れ?」
攻撃がピタリと止んだことを不思議に思って振り返って尋ねた。
彼の顔は諦めた表情はしていないし、足を止めていない。
作戦でも考えてるのかな?
彼が諦めようと諦めなかろうとどちらでもいい。
約束の場所はもう目と鼻の先。中学生の姿も視界に入ってる。
「おーい、お姉さーん!」
俺の声に気が付いたお姉さんが小さく手を振って固まった。
多分般若の形相で後ろから追いかけてくる高校生にビックリしたのだろうけど、理由はそれだけではなさそうだ。
「翔さん!? 何をなさっているのですか!?」
「ちょうどいいところに! 小夜! そのガキ捕まえてくれ!」
「え? え?」
約束していた相手、小夜と呼ばれた少女が困惑する。昨日会った中学生も何事?という顔だ。
一人は名前を知ってるということは知り合いか。
彼女達が困惑している内に行動不能にしてしまおう。
「ブレイブ」
《はい》
指の先から魔力を細長い糸になるように放出。
電柱や建物に引っ掛けて俺と高校生の間に設置。
アメリカの蜘蛛男さんから思いついた技だ。
「うおぉ!? なんだこりゃ!?」
何も知らずに突っ込んできた高校生が罠に引っかかった。
絡まる魔力の糸が動きを封じていく。
魔力を感知できない人には見えないように仕組んだので見えなかったのだ。
戦っているならここで畳みかけるところだが彼とは遊んでいたわけだからその必要はない。
一応、魔力の糸はフェイトの斬撃でも切れないようにそれなりに丈夫にしてはあるが、スタープラチナのようなパワー系のスタンドを使えばすぐにでも千切れてしまうだろう。念のため足元にも仕掛けて転ばせようか。
高校生が間にお姉さんと昨日の電撃を使う人を連れて近くの公園に入った。
「お姉さん、お待たせー」
「えっと……あ、はい。ところで翔さんとはなにがあったのですか?」
「ちょっとした鬼ごっこ。俺の勝ちだね! ブイ!」
「そんなことはどうでもいいわよ。私を呼んだ理由は?」
そうだそうだ。それが本題だった。
「お姉さんのこと知りたかったんだ! あの電撃って何!? どうやって出してるの!? 他にも出来ることある!? どのくらい出し続けられるの!? 俺でも出来るようになるかな!? それから―――」
「ちょっ! ストップストップ! ちょっと待ちなさい! そんな一気に言われても答えられないわよ!」
「あ、ごめんなさい」
面白いものを見つけてしまったせいか質問攻めしてしまった。
「……落ち着いたみたいだから話すわ。けどその前に私の方からいくつか聞いてもいい?」
「うん!」
「そ。じゃあ聞くけど、学園都市にいて私のこと知らないの?」
「知らないよ。あ、でも当麻さんから少し聞いたかな」
「あ、アイツは私のことなんて言ってた!?」
目をこれでもかと見開き、俺に詰め寄って来る姿にちょっと引きながらも答える。
「お嬢様学校に通ってるのに全然お嬢様っぽくないし、よく怒ってるって」
「そ、そう……。やっぱり―――」
「でも、後輩思いで真っ直ぐで意外と女の子らしい可愛いところもあるって言ってた」
「!?」
落ち込んだかと思えば、一瞬にして彼女の顔が真っ赤になる。まるで瞬間湯沸かし器だ。
「ふ、ふーん、へぇー。ま、まあアイツが私のことをどう思おうと私には関係ないけど。うん、ちっとも嬉しくないけど。………………えへへ」
《ニヤついてて説得力皆無ですね》
「〈しー。黙っておくのがいいよ〉」
しばらくまともに話しが出来そうにないので小夜さんから彼女のことを聞いた。
名前は御坂美琴。
常盤台中学の二年生。
能力は
この学園都市では能力者の強さに順位があり、彼女は7人しかいない
つ・ま・り―――強い!
是非ともお手合わせをお願いしたいところだけど、未だにニヤついていて戦えなさそうだ。
「小夜さんはどんな能力持ってるの?」
彼女も常盤台中学の生徒だ。
なんでも常盤台中学にはレベル3以上の能力者しか入学できないそうなのだ。
そこに彼女も通っているということは能力者であることは間違いない。
「知りたければ戦ってみますか?」
その微笑みには自信があった。
「うん。やろーやろー」
結界を張って周りへ被害を無くす。
御坂さんは結界の外に出したので気にせずに戦える。
一定の距離を互いに取って構える。
戦闘開始の合図は小夜さんが持つ金のコインですることになった。
『誰を使う?』
「(うーん、今のところはいいかな)」
さっきの高校生は転生者で本気で戦ったわけではなく、この世界の基準にはなり得ない。
様子見で素の状態で戦うことにした。
「では、行きます」
親指でコインを上に弾いた。
落ちてくるまでの数秒の間に鬼ごっこの時のようなお遊び気分ではなく、戦闘モードに切り替える。
そして、地面にコインが着いた。
「ハッ!」
先に仕掛けたのは小夜さん。
左手から蒼い電撃を発生させると身に着けていた金色の腕輪が変形し、鞭のようなしなりを見せて襲い掛かって来る。
俺は左に跳んで躱す。だが、金色の鞭が急に方向転換し、俺を追って来た。
いつもなら斬るか蹴り返すところなんだけど、さっきの蒼い電撃は御坂さんと同じ能力、なのかな? だとしたら触ったら鞭を伝って痺れそう。
呑気に考えていたら鞭が目前に迫っていた。
「ブレイブ」
《はい》
展開した防御魔法を踏み台にして躱した。距離が空いたところでブレイブを銃にして鞭を撃つ。
……硬い。
鞭に当たり、攻撃を逸らすことは出来たが魔力弾は弾かれた。
《マスター、あの物質は『金』です》
俺が言わずともいつの間にか解析をしていてくれたようでその結果を報告してくれた。
つまり小夜さんの能力は電撃ではなく、金属を操る能力。
恐らく金属全般ではなく、『金』限定だと思う。
そう思ったのは、金が金属の中ではそこまで硬くないから操るならもっと硬い金属を使う方がいいはずだからだ。
彼女が見た目に寄らず『金』が大好きー、とかなら話は別になってくるが。
能力が判明したところで反撃に出ますかね!
全身に魔力を巡らせて身体強化。更に足元に防御魔法を展開。踏み台代わりにして小夜さんへと突っ込む。
彼女が触った地面の一部と鞭の形の金がまた形を変えて迎え撃ってくる。
金が増えた……! 触れたものを金にする能力もあるわけか。
見聞色の覇気でどこから攻撃が来るのかを全て把握し、創り出した魔剣と聖剣を振るう。瞬間、周囲にあった金が音もなく消えた。
「金が……! 今何をしたのですか!?」
「喰った」
「く、喰ったって……食べたってことですか!?」
「うん」
今回俺が創った魔剣は金だけを喰らう能力がある。聖剣の方は金を消す能力を付与して創った。それらを振るえば小夜さんの操る金は俺には効かない。
名前は……聖剣が
「まだやります? 多分
「……舐めてくれますね」
彼女の答えは戦闘続行だった。
再び地面に触れると先程よりも大量の金が津波となって襲ってくる。
右腕を龍化させ、武装色の覇気で硬化させる。
「龍神の―――」
硬化で黒くなった腕に魔力を集め、巨大な爪のように纏わせて黄金の津波に向けて振り下ろした。
「―――覇爪」
俺に当たる直前で黄金は五つに割かれた。
やがて勢いをなくし、その場でオブジェクトのように固まった。
「ね?」
「……ッ! まだです!
黄金を自身の腕に纏わせ殴りかかって来た。
俺は迎え撃つように右手で押し返す。
撃ち負けたのは小夜さん。彼女は悔しそうに口をかみしめていた。
「はい、これで今度こそ終わり」
これ以上抵抗される前に駆け寄り、首元に魔剣を突き付けた。小夜さんは力なく項垂れて降参のポーズをとった。それを見て剣を消した。
ついでに結界も必要が無くなったのでブレイブに解除してもらった。
御坂さんはいなかった。呆けている間に俺達が帰ったと思ったのだろう。
「……あなたは転生者ですね?」
「うん。お姉さんもでしょ? その能力、どう考えてもこの世界には合ってないから」
鋼の錬金術師もビックリ仰天の黄金製造人間がこの学園都市で普通に誕生したとは到底考えにくい。
「そうです。先程の翔さんもですよ」
「流石にスタンドは見たらわかるよ。藍さんもここにいるみたいだしね。他には?」
「二人います」
片方が精霊の力を持ってるヒトか。もう一人はどんなだろう?
「今から呼べるかな?」
「構いませんが……戦うつもりですか?」
「うん」
「わかりました。ちょっと待ってください」
小夜さんがポケットからスマホを取り出して連絡し始めた。
すると何もない場所に扉が現れ、中から三人出てきた。
一人は藍さん。もう一人は同じ制服を着た青髪の少女。最後は今朝出会った英竜さんだ。
「おっ! 空君じゃん! 英霊達から聞いてたけど久しぶりだね!」
「どもども。お元気そうで何よりです」
俺と藍さんが再会を喜び合っていると英竜さんが小夜さんに尋ねた。
「それで? 小夜が私達を呼び出したのはこの子に会わせるため?」
「ええ。彼が転生者と戦いたいと。ちなみに私は負けてしまいました」
「空君は強いからねー。でも、空君。小夜は私達転生者四天王の中でも最弱。良い気になっていられるのも今だけだよ!」
今この場にいない翔さんを含めれば五人のはずなんだけど四天王のはどういうこと? それから小夜が最弱とか言われて米神辺りに血管浮かんでるから。
「英霊とはもう戦ったから、残りの二人は戦ってくれますか?」
「いいよ。全力で相手してあげる」
「私も」
二人の了承を得て、青髪の少女―――五河士織から戦うことになった。
周囲への被害を無くすために結界を再び展開して勝負に臨む。
「どうせなら精霊全員で掛かってきて欲しいなー」
「……いいよ。本気で相手するね」
彼女が指をパチンと弾くと彼女の周囲に高校生くらいの少女達が現れる。
誰もが絶世の美少女。尋ねなくとも名前はわかる。
非戦闘系の二亜や周囲への被害が大きい万由里は参加を遠慮した。
「それでは、試合開始!」
藍さんの合図で精霊達が動き出す。
「(皆、本気で行くよ!)」
『おう!』
俺もただ立っているだけではいられない。
瞬時に両手を合わせて九喇嘛モードとなり、精霊達の攻撃を回避していく。
十香の放つ斬撃を螺旋丸で打ち消す。
六喰の死角からの攻撃をブレイブに任せて完全に動きを把握。
時間を操り、分身体を繰り出す狂三には影分身で相手。
琴里の豪快な一撃にはまともに相手にせずに回避に専念。もちろん隙があれば攻撃を加えていく。
聴いたら終わりの美九には能力を発動させる前に爆音のような咆哮で音を相殺。
耶具矢と夕弦のコンビネーション攻撃には上手い事誘導して他の人達へ攻撃させた。
遠距離から氷撃を放ってくる四糸乃と能力をコピーした七罪には自立型の
十香に匹敵する能力を持つ折紙にはアルビオンの力で半減。
うん、俺の知ってる十香達じゃなくてもすることは同じだね。
彼女達の動きを見て確信した。
あの世界にやってきてから彼女達の攻撃手段は嫌というほど見てきたし、学んできた。だから次に彼女達がどう動くかなんてわかる。
『
「(まあね)」
身体にダメージ入るの覚悟で禁手を駆使しながら、数分で精霊達を抑えた。
残るは一番厄介そうな士織さんなのだが、見たことのない霊装を彼女は纏っていた。
禁手を解除して、龍神化。
英竜さんとの戦いもあるから余分は残しておかないといけない。
「ハァッ!」
士織さんが右手に持った扇子を振るい、炎の龍を放つ。
『俺達相手に炎の龍とはな……』
「(そういうこと言わない。)いただきます」
口を限界まで大きく開けて、向かってくる炎の龍を吸い込む。
「うん、まあ中々の美味しさ」
お陰で少し力が回復した。
「龍神の咆哮!」
口から放たれた熱線が地面を焼き焦がしながら士織さんに直撃。
扇子で防がれたらしくダメージは霊装が焦げた程度だ。
俺の攻撃で使い物にならなくなった扇子を消し、十香の
俺相手にそれは悪手だと思うな。
剣先を完全に見切り、両手で白刃取り。
霊力で強化されている腕力は重いが耐えられないわけじゃない。
士織さんは鏖殺公から手を離して新たに武器を出す。六喰の
槍を扱うかのように連撃を放ってくる。
それを身体を捻って躱し、封解主を蹴り上げた。
「せいッ!」
ガラ空きになった士織さんのお腹に回し蹴りを打ち込んだ。
2、3m吹き飛び地面に仰向けに倒れた。
「そこまででいいかな。空君の勝ち」
藍さんが勝負の判定を下した。
なにも殺し合いというわけではないからここでやめたのは妥当なところだろう。
「大丈夫?」
「身体は大したことないけど、年下相手にやられたのは精神的に来るかな……」
見たところケガは本人が言った通りそこまで酷くはないようだ。精霊達も士織さんと同じような感じだ。
治療は英霊達に任せ、次の試合の準備に入る。
「じゃあ、最後に英竜さんと―――」
『見つけたっ!』
……もう来たか。
十香達が結界は内に侵入してきた。
これから戦うというときだというのにタイミングが悪すぎだ。
「さあ、帰るぞ!」
「お願い! 3分だけちょうだい!」
「本当に3分か? それが終わったらちゃんと帰って来るのか?」
「うん。あ、でも当麻さんには別れの挨拶させて。お世話になったからそれくらい良いでしょ?」
「……はぁ。わかった」
「ありがと」
これで英竜さんと心置きなく戦える。
「待たせてごめんなさい」
「大丈夫だよ。藍、合図を」
「オッケー。それじゃあ、始め!」
十香達に3分と言ったのには訳がある。
彼女達がこれ以上は待ってくれなさそうというのもあったが、これから使う力が
英竜さんが短いステッキみたいなものを掲げ変身するのに目もくれず、掌に展開した魔法陣から蒼いルービックキューブを出した。
「英竜さん、先に謝っておくね。
ルービックキューブから蒼い光が溢れ、戦っている俺と英竜さんだけでなく、その場にいた全員を包み込む。
やがて光が収まり、周囲の景色が徐々に視界に映りはじめる。
俺達がいる場所は公園ではなく、青空の広がるどこにでもあるような草原だ。
「空、何をしたの!?」
離れたところから琴里が聞いてきた。
そう言えばこの
「今は時間が惜しいからあとで教えるね」
銀色の姿に変身した英竜さんが目にも止まらぬ速さで攻撃してくる。
だが、俺に当たる寸前で不可視の壁に阻まれる。
「なにッ!?」
自分の能力に余程自信があったのか、攻撃が防がれたことが衝撃的だったようだ。
「その姿って……ワンパンマンだっけ?」
「ウルトラマン! ちなみに私の今の姿はウルトラマンレジェンド!」
うん、知らない。強いんだろうけど。
「これならどうだ!」
英竜さんが何かが入ったカプセルを出すと大量のモンスターが出てくる。モンスターというよりもどちらかというとコスプレした少女達の姿と言った方がしっくりくるか。
「おお、これなら知ってる。ゴジラだ!」
「違う! ウルトラ怪獣! ゴジラがこんなにいてたまるか!」
あら? また違った。まあ今のは適当だったんだけど。
「行けっ、怪獣たち! 一斉に攻撃!」
怪獣たちに指示を出し、自分も混ざって攻撃してくる。
「そういうの……無駄なんだけどな」
先程と同じように全ての攻撃が不可視の壁に阻まれて俺には何一つ届かない。灼熱の火球も雷撃も拳も蹴りも光線も。
英竜さんも怪獣たちも困惑する。
「無駄無駄。
「……どういう意味だい?」
「どうもこうもそのままの意味。時間がないから答える暇なんてないけどね」
指をパチンと弾けば、怪獣たちが消え去った。
一歩踏み出せば英竜さんの真正面にいた。
軽くデコピンすればどこまでも遠くに吹き飛ばされ、変身が解けた。
再び指を弾いて鳴らせば、吹き飛んだはずの英竜さんが俺の足元に倒れ込む。
「ここは固有結界か何かなのか……?」
確かにそんなところか。時間制限と俺の身体に負担があるくらいで、俺の思うがままに何でもできてしまう超有利な世界だけどね。
やろうと思えば、ここにさっきの怪獣たちを出すこともできるし、ウルトラマンに変身することだって出来てしまう。
「だったら壊せば―――ッ!? 動かない……!」
拳を地面に叩きつけてこの世界を壊そうとした英竜さんの動きが止まる。
「着眼点はいいけどさせないよ」
「何もできない……!」
「うん。俺が何もさせないようにしてるから」
そう言って、俺は英竜さんの頭を小突いた。彼女が意識を失ったことで試合が終わった。
「当麻さん、短い間でしたけどお世話になりました」
場所は変わって当麻さんの部屋で別れを告げていた。そのついでにお礼代わりに夕飯を作った。
転生者達とはあの場で解散し、十香達には一足先に帰ってもらっている。
「本当に短いよな。なんか出会って1日しか経ってないのに寂しいもんだ」
「だねー。空はとうまみたい不幸だ不幸だなんて言う男になっちゃダメだからね?」
「ちょっとインデックスさん? 上条さんだってね、本当はそんなこと言いたくないんですよ。でもね! 世間はまるで俺が幸せになるのを拒むかのように陥れていくんだからしょうがないでしょうが! ……たまにラッキースケベなるものもありますけど、結局酷い目に遭ってプラマイゼロなんですよ!」
「うんうんそうだねー。そんなことよりもいただきまーす!」
「そんなこと!? 今上条さんの不幸をそんなことで片付けた!?」
「もー、五月蝿いなー。私は静かに食事がしたいんだよ。それともなにかな? とうまはガブっとされたいのかな?」
箸を動かすのを止めて歯をガチガチと鳴らすインデックスさん。
「スイマセン。大人しく食べます」
当麻さんが大人しく食事を始めた。
賢明な判断だと思う。
三人と一匹で静かにほどほどに会話をする夕飯を過ごしたのだった。
後日。
『ア~ザ~ゼ~ル~!』
般若の形相でアザゼルに詰め寄る精霊達が堕天使領にやってきた。
歴戦堕天使達もあまりの怒気に竦んで動けないでいた。
「うおっ!? な、なんだお前ら!?」
「よくも空を異世界に飛ばしてくれたな!」
「……記憶にねぇなぁ」
「二亜の天使に掛かれば一発だぞ。素直に吐いておいたほう良いと思うがな」
「俺がやりました! まじでごめんなさい!」
『くたばれ!』
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」
精霊達の全力攻撃を受け、アザゼルはしばらくは動けなかったそうな。
これでコラボは終了です。