妖怪のせいです!
Side空
カイラと炎惺、白蛇と俺で話し合っていたところに緑色の髪の少女が割って入って来た。
少女がお兄様と呼んだのはカイラか炎惺のどちらかみたいだが、頬を引きつらせる炎惺の反応を見て察した。
「お兄様? 炎惺の知り合い?」
「ま、まあそんなところだ」
三百年振りに再会するのだからもう少し嬉しそうな顔をしてもいいと思うのだが、炎惺は気まずそうだ。
その反応が余計に少女の癇に障ったようで、炎惺を睨みつけながらこちらにやってくる。
「よ、よお、映姫。どうしたんだ?」
「どうしたはこちらのセリフです!」
炎惺に映姫と呼ばれた少女の形相が怖いものになっていく。
「三百年ですよ三百年! お兄様がいなくなって私がどれだけ苦労したと思っているんですか!」
「お、おお。悪かった。でも―――」
「でももすともありません! 前々からチャランポランなところが心配でしたがまさか三百年も職務を放棄するなんてどこで何をしていたんですか!? 理由次第ではただではおきませんから覚悟してください! 大体ですね―――」
そこから映姫さんのありがたーい説教が始まり、炎惺はいつの間にか正座をしながら説教を受けていた。
「彼女は四季映姫。炎惺の妹だ」
炎惺の苗字は四季か。
「全然似てないね」
「血が繋がっているわけじゃないからな。それでもあの二人は本当の兄妹のような関係だった」
炎惺と付き合いの長いカイラが彼女を知っていて当然か。
「炎惺がエンマ大王となり、私があいつの補佐をしていたのはさっき知っただろう? 映姫も俺達を陰ながら支えてくれたんだ。だが、やはりというかなんというか。俺達が消えてしまったせいで大分負担を掛けてしまったようだな」
「カイラも一緒に怒られるべきだね」
「フッ、その前に逃げるに決まっている」
「決め顔でそのセリフはダサすぎだよ」
どうやら彼も映姫さんに説教された経験があるようだ。
俺も炎惺が説教されているのを見て、アレをされたいとは思わない。
「よ、ようやく終わった……」
説教されること十五分程。解放された炎惺の顔は疲れ切って足はフラフラで覚束ない。
逆に映姫さんの方は三百年の間溜め続けていた不満やらなんやらを伝えきって満足そうだ。
「あなたが龍神空さんですね。此度の異変解決に加え、馬鹿な兄とカイラさんを助けて下さりありがとうございました」
「たまたま巻き込まれた結果がこれですけどね」
「おや? 私の見立てでは自分から厄介ごとに突っ込んでいくタイプかと思ったのですが、違うようですね」
あー、それはあながち間違いじゃないかも……。
適当に誤魔化して話題を変えた。
「ご紹介が遅れました。四季映姫・ヤマザナドゥと申します」
「ヤマザナドゥ?」
「役職名です。以前はエンマ、もしくはエンマ大王となっていましたが、どこかの愚兄と補佐の方がいなくなったせいで私がなし崩し的にならざるを得なかったのです」
睨まれた二人がそろって視線を逸らす。
封印されていたとは言え、申し訳なさはあるようだ。
「エンマじゃないのはどうして?」
「私はあくまで代理です。先代が死んだわけでも隠居したわけでもないのにエンマ大王を名乗るなんてできません。ですが代理と言えど肩書は必要となり、閻魔の意味を持つヤマザナドゥを名乗ることにしたのです。……と言ってもその肩書は今日までですがね」
本来のエンマ大王である炎惺が戻って来たのだから、彼女が代理である必要はなくなった。
「仕事の引継ぎでまだまだ忙しいでしょうけど、それが終われば自分の時間がたくさん持てそうですね」
「……もう少しやってくれてもいいのによ」
「お兄様、今何か仰いまして?」
「仕事押し付けてごめんな! 明日からエンマ大王として頑張るから!」
「私の説教が伝わったようで何よりです。では、私はこれで」
綺麗な一礼をして去って行った。
「はぁ……あいつの説教は生きた心地がしねえ」
「まったくだ」
「また明日から頼むぜ」
「任せておけ」
二人は互いの拳を軽く合わせた。
「そんじゃ、飲み直しといこうぜ!」
炎惺の一言で俺達は騒ぐ輪の中に加わった。
賑やかな宴会は日付が変わるまで続いたのだった。
「―――で、良い感じに終わってるけど、あなたの隣にいる女が誰かしら?」
はい、龍神空君は只今龍神家の住人やなのは達の前で正座しております。皆に睨みつけられて防御力下がりまくりである。
場所は幻想郷ではなく、自分の家でだ。
宴会後の話しを簡潔に話すと、翌日には炎惺が何を思ったのか知らないが“幻想郷一弾幕会”を開催した。
帰りたかったが幻想郷の強者と戦えると考えたら出場していた。
仕方なかったんやー! だって霊夢さんや萃香と本気で戦えるんだもの!
賞品が願いを一つ叶えてくれるというものだった。主催者である炎惺が出来る範囲だけれど。
大会の優勝者は霊夢さん。食事のために本気の本気になった博麗の巫女は強かったとだけ言っておこう。
俺は人には言えないようなあの手この手で何とか対戦相手達を倒して準優勝したものの、全力を出し切ってぶっ倒れた。
ま、おかげで強くなれたから結果オーライかな。
大会が終わって二日後の今日、ようやく紫さんに頼んで元居た世界に帰してもらうよう頼んだのだ。
で、快く承諾してくれた紫さんが俺を送ろうとした瞬間、予想外の事態が起きた。
元々連れて行くことになっていたジバニャン、コマさん、ウィスパーはいいとして、タマモとフランが付いてきたのだ。
しかもスキマから出て戻って来た場所はバニングス家の廊下ではなく龍神家のリビング。
龍神家の住人どころかいつものメンバーのほとんどがそこにいた。
そして、俺が無事とわかるよりも鉄拳が飛んできてからの事情聴取。順序がおかしいけどこうして今にいたるわけだ。
「……幻想郷っていう世界で知り合った子達。ジバニャン、コマさん、ウィスパー、フラン、タマモです」
『ふーん……』
ヤバい。具体的に何がヤバいのかわからないけどものすごくヤバい程皆さん怒ってらっしゃる。
「……ゆ、許してニャン♪」
手を丸めて甘えるような声でジバニャンの真似をしてみた。
皆が俯いて肩を震わせていた。
失敗した。余計に怒らせてしまったようだ。
“お姉ちゃん好き”作戦はなのは達同世代にも見たことのある十香達にも通用しない。
いっその事開き直ってしまおう……!
「皆、よく聞いて」
『……?』
「これはね―――妖怪のせいなんだ!」
『…………』
あんなバカァ?とでも言いたげな視線になったが構わず続ける。
「俺が幻想郷に行ったのは妖怪せいだし、異変を起こしたのも妖怪が原因。俺がすぐに帰れなかったのも(色々と学んだり、遊んだり、修行してたけど)妖怪の仕業。……そう! 全ては妖怪のせいなんだ! つまり俺は悪くない!」
やったか……?
「言いたいことはそれだけ?」
あ、あれー? 余計に怒ってらっしゃる?
「じゃあ、一人一回ずつ思いっきりやっていいから♪」
「へ?」
思いっきりって何? さっき殴ったのじゃ足りないってことですか?
嫌な予感がして逃げ出そうとしたが時すでに遅し。
あっという間にバインドでガチガチに拘束され、地下のトレーニングルームに連れていかれた。
一人ひとりに全力全開ならぬ全力全壊と言える攻撃を喰らって気絶した。
「……ここは……ああ、自分の部屋か」
数日離れていただけなのに、何故か懐かしく思えてしまう。
ったく、皆して本気でくるなんて酷いっての。
お帰りの言葉の代わりに全力攻撃されたことを思い出して、心の中で悪態を吐いた。
口にしなかったのはフェイトがすぐ傍にいたためだ。
「空、大丈夫?」
「言っておくけど、私は謝らないからね?」
考えていることを見透かされた物言いに頬が引き攣る。
「空は唐変木で朴念仁で鈍感だからわからないだろうけどね」
「そこまで言わなくても―――スイマセン。ボクガワルイデス」
「……まあいいや。今更だもんね。―――これで許してあげる」
普段の俺なら避けられるはずなのに、目が覚めたばかりで油断していたところを不意打ちでフェイトの唇が俺の唇に押し付けられた。
「…………え?」
「
頬を朱に染めたフェイトが今まで見たことない大人びた笑顔を見せたのだった。
Sideout
四季映姫と妖怪ウォッチのエンマを兄妹にしました。