宴会です!
Side空
「異変を解決した!?」
霊夢さんに異変解決を伝えたら胸倉を掴まれて問いただされた。
おおう……揺さぶられて吐きそう……。
「妖怪の大群倒して終わりだと思ってたけど黒幕いたのね……」
「ま、そういうこともあんじゃねぇの? 次の異変で頑張ろうぜ」
「そうそう異変なんか起こらないし、起こって欲しくもないわよ! 私は基本的に一日中ゴロゴロしていたいの!」
妖怪退治専門の巫女がニート発言これいかに?
「博麗の巫女が何言ってんだか……。そんなことすれば八雲紫に怒られるだけじゃすまないと思うぜ。それよりも異変解決したんだから宴会だぜ!」
『宴会?』
参加したことのあるフランや話だけ聞いたことはあるタマモは知ってるみたいだが、昨日来たばかりの俺や封印されていたジバニャン達は疑問にしながら繰り返す。
「そ! 霊夢が巫女になってからは異変解決時に宴会やってるんだ」
つまり異変解決のお祝いというわけか。
「私の許可なくアンタたちが勝手にやりだしてるだけでしょ! おかげで神社に妖怪はたくさん来るわ、参拝客はやって来る妖怪を恐れて来なくなるわでいい事なんて何もないじゃないの!」
「とか何とか言ってお酒や料理たらふく食ってるじゃんか」
「うっさい、料理やお酒に罪はないの! ……ったく、宴会やるなら勝手にすれば。ただし美味しい酒と料理用意しなさいよね!」
「へいへい、わかってるって。空はケガをしてるから永遠亭行って治してこいよな。他はアタシを手伝ってくれ。やることは呼びかけや買い出し、調理に席の用意。色々あるからな」
べつにこのままでも放置していればそのうち治るから行かなくてもいいけど、永遠亭というのが気になるから行ってみたいな。
「霊夢、連れてけよ? ここに来たばかりの空が分かるわけもないからな」
「わかってるわよ。ほら、すぐ行くわよ」
「はーい」
飛行する霊夢さんを追いかけるために翼を出す。が、上手く飛べず前のめりに倒れた。
身体が急に思い出したかのように疲労感を伝えてきた。
魔力は残り僅かで体力はとうに限界だった。空腹も重なって動けそうにない。
「まったく、しっかりしなさいよね」
俺が飛んでないことに気が付いた霊夢さんが一旦降りてから、俺を背中に担いで飛び上がった。
背の高い竹林のある方に行くと入り口辺りで降りた。
ここから先は徒歩で行くらしい。
筍いっぱいありそう。
霊夢さんにおんぶされたまま竹林を進んで行くとやがて日本屋敷が見つかった。
教科書や博物館で見たことある作りだ。
「お邪魔するわよ」
遠慮なんて言葉を知らないのか霊夢さんは他人の家にずかずかと足を踏み入れる。
俺のためにやってくれているわけだから言えないけど。
屋敷内から銀髪を三つ編みにした女性が現れた。
服装は赤と青のツートンカラーだ。ナースキャップもあるが俺のいる世界で良く知られている白ではなく青だ。
「どうしたの霊夢? お腹が空き過ぎて変なものでも食べたのかしら?」
今の発言で霊夢さんの生活事情をなんとなく察した。だから魔理沙が宴会でたらふく食うと言っていたわけだ。
あとで美味しい物作ってあげよう。
「そんなこと流石にしないわよ! 今日来たのはこの子のため。ケガしてるから治してあげて」
「……大分酷い状態ね。居間に寝かせておいて。私は薬取って来るから」
中に通され布団の上に寝かされる。
「私は宴会の準備するから先に帰るわね。帰りは永遠亭の人と一緒に来なさい」
「ありがと、霊夢さん」
「どういたしまして。またあとでね」
霊夢さんが部屋を出るのと同じタイミングで銀髪の女性が薬をもって入って来た。
簡単に自己紹介を済ませてから永琳さんに苦い薬を飲まされ、すぐに眠りについた。
日が落ち始めた頃に目が覚めた。
「おお! 完全に治ってる!」
その場でピョンピョン跳ねてみたり、魔力を放出させても支障はなかった。痛みは少しもない。
永琳さんに治ったと報告すべきだろう。
「師匠が言っていたよりも大分早い回復ですね」
部屋を出ようとしたら兎が現れた。いや、正確には兎耳の生えた薄紫色の髪の少女なんだけれど。服装がどこかの学校にありそうな制服だ。
傍から見るとコスプレに見えなくもない。
「私は鈴仙・優曇華院・イナバ。八意永琳の弟子です。その様子を見る限りでは、もう動けるようなので博麗神社に行きましょうか」
「はーい」
永琳さん、鈴仙さん。他には輝夜さんと因幡てゐという永遠亭に住む人達と神社に戻った。
「酒だ酒だーッ! もっと持ってこーいッ!」
手に持った焼き鳥をまとめて口に入れ、杯に入った酒を一気に飲み干しどんちゃん騒ぎする霊夢さん。
異変解決祝いの宴会が始まって十分かそこらでこれである。
魔理沙曰く、普段ならこんなにすぐには酔わないとのことだが、参加者のほとんどに今回の異変解決は博麗の巫女としての役目を果たしてないと言われまくった結果が自棄酒となった。
他にもお酒好きの妖怪達が霊夢さんと一緒になって騒いでる。
ちなみにお酒を飲んでいる霊夢さんや魔理沙はどう見ても未成年の人間なのだが、この幻想郷には法律はないので問題ないらしい。
「ほ~れ、空ぁ。私にお酒注ぎなさいな~」
アルコールが回って頬が朱に染まった霊夢さんが空の杯を俺に突き出す。
士郎さんやユーストマさんもお酒をよく飲んでいるがここまで酷い絡みはされたことはない。うちのなのはとはどうなんだー、とかシアは可愛いだろーみたいな感じだ。……変わんない気がする。
「はいはい。今すぐ注ぎますよ」
机に置いてある酒瓶を持ってお酒を注ぐ。
「うむ、苦しゅうない」
注がれた酒に満足すると俺の傍を離れていった。
「はぁ……酔っぱらいの相手は面倒―――」
「空、紫から聞いたよ。あんたが今回の異変解決の立役者なんでしょ?」
「ん?」
話しかけてきたのは薄い茶色のロングヘアーを一つに先っぽでまとめていて、頭の左右から捻じれた角が二本生やす、俺と同い年位の少女だ。
特徴的なのが紫の瓢箪と三角錐、玉、立方体の分銅を腰から鎖で吊り下げていた。あと常に酔っぱらってるくせに会話が滞りなくできる。
宴会直後に紫さんから紹介された伊吹萃香という鬼だ。紫さんの古い友人なんだと。
今回の異変では旧地獄にはいなかったためカイラとは会ってないので被害には遭って無いそうだ。
「別に俺一人ってわけじゃないよ。炎惺やフラン達がいなかったら今頃蛇の腹の中で消化されてるね。霊夢さんや魔理沙には露払いしてもらったし、……結局俺一人じゃ無理だった」
「誰かを動かすのも力の一つだよ。誇っていい」
そういうものかと心で呟く。
いつも誰かと一緒に戦っていた。
なのは達や十香達、ドライグ達がいたから戦えた。
萃香の言葉で今までの戦いを軽く振り返ると少しだけ嬉しく思えた。
「……ときに空、あんたは勝負事は好き?」
「ものによるかなー。いずれにしたって負けるのだけは嫌だけど」
「それは私も同じ。どう? 私と一勝負しない?」
「いいよ。内容は?」
「本気の喧嘩、と言いたいけど今日は宴会だからそれは無し。そうだねぇ……私に“参った”と言わせる、っていうのはどう?」
“参った”と言わせる。
絶対にただの子供鬼ではない萃香に実力行使は不可能。
そもそも本人から戦闘系は避けてお題を出してきたわけだし。
「オッケー」
時間制限はこの宴会が終わるまで。
萃香は俺の目の届くところに常にいる。
俺が話しかけたら萃香は無視をしない。
俺は他のヒトに助言してもらうのはあり。
宴会の妨げになる迷惑行為をしない限りはなにをしてもいい。
以上が二人で決めたこの勝負のルールとなった。
「じゃあ、勝負開始!」
萃香の合図で勝負が始まった。
「萃香、参ったって言って」
「……言えと言われて言うアホはいないよ」
そりゃそうだ。
「ただ勝負しても何の面白味もないから賭けもしよう」
「……度が過ぎたのは嫌だけど」
「そこまでしないよ。うーん、何がいいかなぁ……。よし、私が勝ったら私の夫になるってのは?」
「世間一般ではそれを度が過ぎてるって言うんだよ!」
「ここ幻想郷、常識通じない、オーケー?」
「片言の日本語話す外国人か!」
「私がルールだ!」
「萃香のことまだ全然知らないけど世界が荒れそうだね!」
なんとなく自由人っぽいなとは思っていたけどまさかここまでとは。
「どうしていきなり……」
「夫婦になるなんて強い奴と結ばれたいとかそんなもんじゃないの? 私は強い奴が好きだからね」
「萃香よりは弱いんじゃないかな?」
「確かに私の方が強いと思うよ。でもね、空はまだ成長段階。これから先きっと強くなるだろうね」
将来性を買ってくれるのは嬉しいのだが、内容が内容なだけにどうにも反応に困る。
萃香が「それに」と付け加えて続けた。
「家事も出来ると聞いたし、顔も私好みだ。うん、鬼の夫に相応しいよ。この勝負に勝てば結婚出来ない集まりから一抜け出来そう」
「結婚出来ない集まり? ここにいるヒト達のこと? まあ、確かに皆腕っぷしには自信ありそうだけど女性としては……」
ガンッ! バキッ! ドゴンッ!
夫婦という単語から連想してつい思ったことを口走った瞬間、会場内の至る所から物が壊れる音がした。
ついでに殺意を込めた視線が俺を突き刺してくる。主に紫さんとか紫さんとか紫さんとか。
「紫様、いい加減身を固めるべきではありませんか?」
「わ、私は結婚出来ないんじゃないの! 私に釣り合うような良い男がいないからしないだけよ!」
「情けない言い訳しないでください」
「どっかの巫女と違って私は問題ないけどな。むしろモテ過ぎて困るくらいだし?」
「はあ!? 魔理沙のどこにモテる要素があんのよ! 盗人魔女よりも異変解決する健気な巫女の方がモテるに決まってんでしょうがッ!」
「一度健気という文字の意味を調べてきてはどうかしら?」
え、皆さん意外とそういうの気にしてる感じですか?
「地雷踏んだかな?」
「踏んだからこうなってるんだよ。私はそういうの気にしないけどね」
紫さんの友人だから見かけによらずそれなりにいい歳だとは思うんだけど。
「参ったなぁ……」
「空が参ったって言ってどうするの」
「そうだね。でも萃香、今“参った”って言ったよね」
「……あ」
「俺の勝ち。やったね」
「いや、今のは……ッ!」
「ダーメ。負けは負け。潔く認める!」
しばらくはぐぬぬと唸り続けていたが、やがて負けを認めて肩を落とす。
俺としても今のは予想外の結末だったけれど。
「ご飯が減ってきたから作ってくる」
『おいちょっと待て、そこのクソガキ』
女性陣一同が俺を逃がすまいと取り囲む。
全員素敵な笑顔だけど米神に青筋が浮かび、目は決して笑ってない。どう見ても激おこですねわかります。
「皆さん、諦めたらそこで試合……いいえ、婚期終りょ―――」
『喧しいッ!』
「―――――ッ!!」
女性陣の容赦ない弾幕や鉄拳制裁により、声にならない悲鳴を上げて気絶した。
「イテテテ……。酷い目に遭ったな」
意識を取り戻して周囲を見渡した。
宴会場にいたはずだが、俺はどこかの部屋で布団で寝かされていたようだ。
流石にこのまま放置も可哀そうだと思った……のだと思いたい。
俺がやられる瞬間を萃香が大爆笑しながら眺めていたいたのはちょっとムカついた。
「宴会はまだやってる……みたいだね」
部屋の外はまだ騒がしい。俺が気絶してそんなに経ってないみたいだ
「よお、空。目が覚めたか」
外に出ると炎惺が待ち構えていた。
「あ、炎惺! カイラたちは?」
「あそこにいるぜ」
彼が顎で示した方にカイラが会場の隅で座っていた。
その傍には白い蛇もだ。
二人共俺と目が合うと気まずそうに目を逸らした。
「楽しんでる?」
「お前には私が楽しそうに見えるか?」
「ううん。むしろ居心地悪そう」
「なら最初から聞くな……」
「社交辞令的な? まあ、いいや。何か食べた? まだなら取って来るけど」
「いらん」
「そっか。……ああ、そうだ。少し話ししようよ。カイラのこと聞きたかったんだ」
「俺も空に賛成だ。お前に何があったか聞かせてくれ」
炎惺も彼のことを知りたかったようで酒と少しのつまみを持って輪に加わった。
今の彼に暴れる気力はもうない。
俯きながらカイラはぽつぽつと語りだした。
「……私は半妖だ。もう半分は人間の血が混ざってる」
『知ってますけど』
炎惺は昔の知り合いみたいだし、俺も記憶を覗いて知った。
俺達の余計な茶々にほんのわずかにカイラが頬引き攣らせるが咳払いをして話を続ける。
「…………自分の生まれに不満を持ったことはなかった。両親は優しいヒトだったからな。だが、半妖であったが故に両親以外の周りには受け入れられなかったんだ。もちろん人間にもな」
妖怪からすれば半端者。人間からすれば恐怖の対象。
「どちらの陣営も私を受け入れてくれない。それがとても悔しくて、憎くて……だが、それでも私には叶えたい夢があった。さっき言った私の両親だ。仲の良い両親のように当たり前のように人間と妖怪が手を取れる日が出来るんじゃないかと私は考えていたんだ。……あの日までは」
「あの日?」
「私と炎惺が出会ってからの話しだ」
「カイラと俺は妖怪の学校の同級生なんだよ」
「それと同時に私の夢を馬鹿にしなかったたった一人の友人でもあった」
俺とヴァーリみたいな関係とはまた違った友情なのかな?
「まあ、こいつがその夢を語ってくれるまで大分時間かかったけどな」
「当たり前だ。そう簡単に信じられるわけがない」
「でも信じたんでしょ?」
「……ああ。こいつは私を認めてくれた。だから話した」
「最初は拍子抜けしたもんだぜ。なんせ、俺と同じこと考える奴がいたからな」
「なら二人は似た者同士ってことだね」
「そういうこった。二人で学校で競い合いながら、妖怪と人間が仲良くするにはどうするかよく話し合った。……懐かしいな」
それを聞いていたカイラも満更でもなさそうだ。
戦闘中にカイラが言っていた邪魔だのなんだのはライバルだったから……?
「で、あの日っていうのは?」
「俺が博麗の巫女に封印されちまった時だ」
「ああ、そう言えば俺と出会った時にはガシャポンに封印されてたもんね」
「学校を卒業して俺はエンマ大王に、カイラは俺の補佐としてやっていこうって時だ。博麗の巫女は急に現れて妖怪を片っ端から封印してたみたいでな、俺はそれを止めようとしたら見事に返り討ちにあって封印されたわけだ。そこからは何も知らねえ」
その後はカイラだけが知っているわけだ。
「炎惺が封印されたと聞いて復讐をしてやろうと考えた。それと同時に私を認めない者が反乱を起こしたのだ。私がどれだけ結果を残そうと半妖は半妖。炎惺という強者がいたから誰も私に何も言わなかっただけで不満はあったのだ」
「じゃあ、炎惺がいなくなって」
「ああ。私は昔の私に戻ったさ。あの忌々しい日々に。やり返そうにも多勢に無勢、敵が多すぎた。すぐに居場所を無くしたさ」
レッドJのように慕ってくれるものもいたそうだがそれも極僅か。多すぎる敵の前には歯が立たなかった。
それからカイラは色んな場所を転々と移動しながら過ごし、やがて白蛇の彼女と出会った。
その時にはすでにカイラの心は闇が溢れ出していた。
似たような境遇にあった二人はすぐに打ち解け、カイラは白蛇の能力を受け入れた。
だだ、誤算として白蛇の能力で強くなり過ぎた闇はカイラ本人にもどうにもならず、白蛇にも制御が出来なくなっていたようだ。
能力の解除を試みる―――その前に博麗の巫女と遭遇して封印された。
「無理矢理ってわけじゃなかったんだね」
「当たり前だ! カイラ様は私を思って自分の心に住まわせてくださったのだ! それを貴様は……!」
「そうしなきゃこっちが死ぬところだったから文句言われる筋合いはないね」
白蛇の言い分としては三百年も封印されはしたが、意識はあったから博麗の巫女や弱い者いじめしてきた妖怪達に対する復讐心だけが日に日に増していき、心が完全に闇に覆われてしまったと。
だけど、復讐よりも先に炎惺と同じく博麗の巫女に封印されたわけだ。
「えーっと、つまり、互いを支え合おうとしたけど君等の復讐心が捻じれ捻じれて捻じれまくって、幻想郷の支配になったわけ?」
「現実的に考えて支配した方が夢を叶える近道と考えたこともあったからな」
考えとしては確かに支配する方が無難なんだろう。カイラは実力もあるから不可能でもなさそうだし。
「博麗の巫女への復讐は?」
「フン、死んだ者にどう復讐するというのだ」
それもそっか。
博麗の巫女は人間。三百年封印されてる間に亡くなっていて当然だ。霊夢さんも博麗の巫女だけれど関係ない。
そのことを知ったカイラの博麗の巫女に対する復讐心はすぐに消えたのだ。
「ま、なんにせよ。お前らを止めることが出来て―――」
「お兄様! ようやく見つけましたよ!」
炎惺がまとめて終わり―――かと思いきや、緑色の髪の少女がそれを遮った。