紅魔館の再会です!
幻想郷のとある森の奥地。そこには筋肉隆々の赤い猫がいた。先程空が開けたガシャポンに封印されていた一体だ。
赤い猫は抱えていたガシャポンの筐体を置くと、箱から玉を取り出しては次々に開けていった。
その数、およそ二十。
封印を解かれた妖怪達は喜びの雄叫びを上げた。
「封印を解いてくれたことを感謝しよう、レッドJ」
雄叫びを上げる妖怪の中でただ一人、落ち着いた青年がいた。
それに対してレッドJと呼ばれた赤い猫は跪き頭を垂れていた。彼の言葉を待っているのだ。
「……いかがなさいますか、カイラ様」
「決まっている。この幻想郷の王になる。ただそれだけだ。……だが、いささか配下が少ないな。レッドJ、俺達のように封印されている妖怪を探し出せ。まずはそこからだ」
「はっ!」
レッドJは返事を返すと他の妖怪を連れて即座に行動に移ったのだった。
Side空
メイドさんを倒して館内を進む。だが、途中でその歩みは止まった。
「どうかしたニャン?」
「いや、この先をどう進んだらいいんだろー、って」
紅魔館の全体図を把握していないのでどこに何があるかさっぱりわからない。
「……そこを左に曲がってまっすぐ進むと大きな扉があります。そこで三人目の四天王が待ち構えています」
「やっぱ起きてんじゃん!」
助言してきたのはまさかのメイドさんだ。
即座に振り返ったが1mmも動いたようには見られず倒れたまま。
三文芝居をここまで続けられると逆に凄いとさえ思えてくる。
「まあまあ、情報は手に入りましたし、先へと進みましょう!」
ウィスパーに促され歩き出す。
言われた通りに左へ曲がり真っ直ぐに進んだ先には大きな扉があった。
扉を開けた先には本、本、本本本本本本本本本本―――。
見渡す限りに本が本棚に所せましと並べられていた。
下手をするとミッドチルダの無限書庫程の大きさがあるかもしれない。
「ふぅーん、へぇー、ほぉー……!」
左右の本棚をざっと見まわしながら奥へと進む。
小説、地図、歴史書、図鑑、語学等々、ありとあらゆるジャンルの本が揃っていた。
中には魔法に関する本や見たことも聞いたこともないような言語で書かれた本も存在した。
……もしかしたら……。
少しだけ淡い希望が湧いたが今はそれを優先するべきではない。
本を見るのをやめて、図書館の奥へさらに入り込む。
「あら、もうあの二人をもう倒してきたのね。今読んでいる本がもう少しで読み終わるから待っていてくれないかしら? あなたも連戦で疲れているでしょうから休んだら?」
椅子に座って本を読みふけっている、紫色の髪に寝巻きのようなゆったりとした服を着用している少女がいた。
「はーい」
気を抜いたら忘れていた睡魔が襲ってきて、それに抗うことなくしばらく眠ることにした。
「待たせてしまってごめんなさい。あまり運動するのは好きじゃないのだけれど、私とも勝負してもらいましょうか」
どれくらい眠っていたのかはわからないが、机に積んである本から考えて数時間と見ていいだろう。
となると待たせてしまったのはこちらになる。しかし、彼女はこれと言って気にしている様子は微塵も感じられない。余程本を読むことが好きなのだろう。
「まずは自己紹介ね。私はパチュリー・ノーレッジ。あなたのことはあの子から聞いているから名乗らなくて結構よ」
紅さんの言っていたあの子と同一人物で俺がこれから会いに行く人物で間違いないだろう。
彼女が一体何を話したのかとても気になる。
「ちなみにあなたがさっき倒したメイドの名前は十六夜咲夜よ。時を止められるのが咲夜以外にもいたのね」
まるで俺が戦っていたのを見ていたような話し方だ。
「まるで自分が戦っていたのを見ていたとでも思ったでしょ?」
「!」
考えていることを言い当てられてしまった。
「使い魔を通して見ていたの。もちろん美鈴との戦いも見させてもらったわ」
彼女に二人に使った手は通用しないと考えてよさそうだ。
それに膨大な魔力を見て、魔法や魔術を使った戦いか嵌め手を用いる戦法を取るかもしれない。
ジバニャン達を安全そうな場所に置いてからいつも使っている魔剣と聖剣を創って構えた。
「行くわよ」
彼女の背後に大量の魔法陣が展開されるのが戦闘開始の合図だった。
火球、水弾、風圧、雷撃、岩石。あらゆる属性の魔法をこちらに向けて撃ってくる。
見聞色の覇気を使って魔法と魔法の合間を縫って躱していく。さらには武装色の覇気で時折魔法を斬り裂く。
休憩したおかげで覇気に使う集中力は十分だ。
「躱すのはともかく魔法を斬るとか聞いてないわよ……!」
パチュリーさんは今ここにいない誰かに対して怨嗟の声を上げた。
動揺してくれるのは俺からすれば好都合だ。
……もっと硬く、もっと切れ味を!
ドンドン放たれる魔法に耐えきれなくなった剣は何度も壊れるが、その度に創り直す。
斬って斬って斬りまくりながら彼女との距離を縮めてゆく。
背後からも魔法を放ってくるが、それらは黒刃の狗神に任せて、魔法陣ごと斬って発動を防ぐ。
「賢者の石!」
石?
彼女が五色の魔法陣を展開すると五つの色の異なる石が現れた。
石を出したことに何の意味があるのか疑問に思っていたら、その疑問はすぐに解消した。
属性魔法を放つたびに五つの石のどれかが反応して追加攻撃をしてきたのだ。
いきなり攻撃の数が増えたことによって縮めていた距離は中々縮まらず、それどころか逆に離され始めた。
俺が今使える力で切り抜けるには……。
マルチタスクを使い、戦いながら戦略を組み立てていく。
集中力と思考を別のことに割くため覇気が弱まるが少しの辛抱だ。
その分、武装色の覇気よりも見聞色の覇気を優先にして回避に専念。
あの石から壊さないと!
追加攻撃が実に厄介だ。彼女に近づくにはそれからだろう。
「
禁手の
「ッ!」
禁手を使った瞬間に体中に激痛が走る。
……やっぱり相性が悪くなってるな。
「ソラの姿が金色にニャッタ!?」
「金色になるなんてもんげーズラ!」
「空君は一体何者なんですかねぇ……?」
驚くジバニャン達にちょっと苦笑いしつつも、攻撃を放つ。
炎が、水が、風が、雷が、大地が意思を持ったかのように集まり、ドラゴンになる。
「さあ、あの石を喰らえ」
力を行使する毎に全身が痛むのを堪えて、ドラゴンに石を壊すことを命じる。
パチュリーさんが魔法で応戦してくるが生半可な攻撃では通じない。逆に同じ属性の魔法を喰らって力が増しているくらいだ。
だが、そこは彼女も気づいたようで相性の悪い属性をぶつけて完全に相殺した。結果としてドラゴン達は石を砕くことが出来なかった。
「今だ!
「!?」
本棚の上から現れた黒刃の狗神が一瞬の間に五つの石を斬り裂いた。
「やってくれたわね……」
ド派手なドラゴンの方に意識が集中していたせいで小さな黒刃の狗神にまで目がいかなかったのだ。
「はあああッ!」
禁手を解いてから魔剣と聖剣を創り直し、覇気と魔力を全開に使って突貫。
先程と同じく魔法を放ってくるが追加攻撃が無いのであれば問題なく躱せるし、斬ることが出来る。
「石が無ければ勝てると思ってるのでしょうけど……舐めすぎよ!」
これまでの倍以上の魔法陣が展開され放たれる。
覇気だけで回避は無理だと判断し、剣を消す。
「(諦めるような子じゃないってあの子は言ってた。何をするつもりなの?)」
「―――魔剣創造+聖剣創造、
二つの神器を合わせた禁手―――
右手に黄金の剣。左手に漆黒の剣。
その剣はブリテンの騎士王が使っていたとされる聖剣とその反転した姿の聖剣―――
ただ、約束された勝利の剣は神造兵器と呼ばれる伝説の武器であるため、たとえ禁手を使って創ったとしても本家には遠く及ばない劣化版でしかない。
「また姿が変わったニャ!?」
ついでに服装はとある人物を真似て黒い帽子に青いマフラー、青いジャージ、黒い短パンになってる。
変身が終わると同時に放たれる魔法に再び突っ込んでいく。
「危ないズラ!」
コマさんの心配する声が聞こえてくるが一向に足を止めない。
それどころか魔力を流し込むことで聖剣から溢れるエネルギーをジェットエンジン代わりにして加速。
「星光の剣よ……魔法全てを消し去るべし! ミンナニハナイショダヨ?」
さらに魔力を放出して加速し、魔法を滅多斬り。
あの人の動きはもっと速かった……。
一度聖剣を振るうごとに腕に痛みが走る。
神造兵器に少しでも近づけようとしてるのだから当然の代償だ。
あの人の踏み込みはもっと力強かった……!
歯を食いしばって痛みに耐える。
あの人の剣はもっと綺麗だった!
憧れた背中はまだまだ遠い。それでも、いや、だからこそ目標にして追いかける。
「
魔法の包囲網を斬って抜けた先にパチュリーさんがいた。
新たな魔法を発動させようとしてるがそう簡単にやらせるものか。
足元に防御魔法陣を展開して踏み込む。
俺の勢いが増したことで魔法の当たるタイミングがズレた。
パチュリーさんに二本の聖剣を突き付け、勝敗は決した。
「……私の負けよ。かなり本気出したんだけど、あなた強いのね」
「俺なんてまだまだですよ。俺の知り合いにもっと強いヒトいますから」
魔王とか神王とか真龍とか龍神とか。
「そう。まあ、そんなことに興味はないのだけれど。それよりも先に行かなくていいの? 待ってるわよ、フラン」
「言われなくても会いに行きますって」
「それがいいわ。……あいつ、多分いるわね。魔理沙! 彼をフランの下に連れてって!」
「うげッ、バレてんのか……」
突然声を張り上げて誰かの名前を呼んだかと思えば、上から箒に乗った少女が現れた。
見た目は琴里と同じ中学生くらい。金色の長髪の片方をおさげにしていて、黒いとんがり帽子に白いエプロンの付いた黒い服を着ているいかにも魔女っ娘だ。
きっと魔女の宅急便に憧れたんだな。
「やっぱりいたのね。大方私が戦ってる間に本を盗もうとしたんでしょ」
「別のこんだけの本があるんだからいいじゃんかよ。けちけちし過ぎだぜ、パチュリー」
「人の物を盗むのは犯罪。……まあ、今回はフランのところへ連れて行ったら大目に見てあげる」
今回ってことはもしかして常習犯?
「マジか!? おっし! お前、えーっと……」
聞きたいのは俺の名前か。
彼女もフランから聞いてると思っていたのだが、この家とは関係ないのかな?
「空。龍神空です」
「オッケー。空だな。私は霧雨魔理沙だ。よろしくな!」
容姿は完全に美少女と言って差し支えないのだが、口調が男っぽいのでなんとなく親しみやすそうだと感じた。
「魔理沙、あとのことは頼んだわ。私は本を読むから。……あ、そう言えば……ガクッ」
思い出したかのようにパチュリーさんが前の二人と同じようにわざとらしく倒れた。
「遅いし、ワザと過ぎる!」
俺のツッコミが図書館内に空しく響くだけだった。
「空、フランの奴とどんな関係なんだ?」
「友達だよ」
魔理沙の箒は一人乗りなので、俺はジバニャン達と
そんな最中、魔理沙からフランのことを聞かれた。
ちなみに敬語じゃなくなってるのは魔理沙が敬語を使われるのがむず痒いらしい。
それから魔理沙も紅魔館四天王(に勝手にされた)らしいのだが、面倒くさいからサボったのだそうだ。
俺としても無駄に戦う必要がなくなるのでありがたい。
「友達かぁ……。あいつも成長したもんだぜ」
しみじみと一人呟く魔理沙の姿は妹分の成長を喜ぶ姉御といった様子だ。
「これからも仲良くしてやってくれよ?」
「そりゃ、もちろん」
異世界の住人だから中々会いに行くことは出来ないが、行ける時には行くつもりだ。
「ここだぜ」
魔理沙が扉の前に止まった。
獅子王の戦斧から降りて、扉を開けると地下へと進む階段が現れた。
スマホのライトを点けてゆっくり降りていくと扉がまたあった。
「ここに空君の友達がいるんですか?」
「そうらしいよ」
この先にフランがいると思うと柄にもなく少しだけ緊張した。
一度深呼吸をしてから扉を開けた。
「会いたかったわ、空ー!」
突然誰かに抱き着かれたかと思えば、見覚えのあるナイトキャップに、枝に七色の宝石の付いた変わった翼、濃い黄色の髪をサイドテールにした俺と背丈の変わらない少女。
そして俺が会いに来た少女―――フランドール・スカーレットだった。
「あー、うん、俺も会いたかった……けど、…………」
基本的に仲良くなったヒトとは最低でも一週間に一回くらいの頻度で会ってる。
なのはやヴァーリと言ったいつもの顔ぶれは最早毎日。
長期的な別れの期間があったのはフランが初めてなのだ。
だから話したいことはたくさんあるが、最初に何を言ったらいいのか言葉に迷ってしまう。
「普通に“久しぶり”でいいと思うニャン」
「そっか。久しぶり、フラン。俺も会いたかった。待たせてごめん」
「ホント待ったわ! 三か月よ、三か月!」
おっと急に怒り出したぞ。いや、三か月も待たせたんだから当然と言えば当然か。
「そう言われてもなー、幻想郷への行き方が無かったんだから仕方ないと思うんだけど」
「でも、現にここに来てるってことはわかったんでしょ?」
「ううん、違うよ」
当然、二亜に調べてもらったが行く方法がわからなかった。理由も今のところ不明。それでも紫さんは俺をここに連れてこれたということは、彼女のことを知れば何かわかるかもしれない。
「それじゃあどうやって来たの?」
「フランが紫さんに頼んだんじゃないの?」
「私、そんなこと頼んでないわ。そもそもほとんど外に出る気のない私が呼べると思うの?」
「それもそっか」
だとしたら一体誰が紫さんに頼んだんだ? 初対面の紫さんなわけないだろうし……。
ちょっとした謎が出来たが、正直どうでもいい。今はフランとの再会を喜ぶことにしたのだった。
カイラとレッドJは原作では関係ないキャラですけど、大目に見てください。