戻った俺がやり直す   作:独辛

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はい、この間書いたやつは綺麗さっぱり忘れてください。アレは夏の暑さにやられてしまっただけなんです。

これが本当の第9話になります。

物語の始まりなんていつだって唐突なものである。

ではどうぞ


愛、反する

中学校とはそもそもどのような場所だろうか。

小学校を上がりそれなりに知識をつけ、社会というものをなんとなくだが理解し始める。その過程には社会へのアンチテーゼを唱えるいわゆる『厨二病』の発症もあるのは有名な話だろう。

それ以外にも『性』というものをはっきりと意識し始める時期でもある。男と女の違いなんてこの頃からようやく保健体育を通して習い始めるのだ、それは意識もするというものだろう。男はようやく女よりも背が高くなり始め、女は身体つきが変わってくる、それに伴って必然的に必要になるのが保体だ。が、これによって増えるのは何も知識だけではない。いわゆるリア充という奴もこの頃から急増し始める。『あの子可愛いな』から『やべ、興奮してきた』に変わる。そんな多感な時期が中学校生活である。いろいろな経験や失敗が一気に入ってくることによって心はいやでも成長を遂げるのだ。

男の子は男になろうと。女の子は女になろうと。学校という小さな社会での舞台を経験しながら自分を高めていく土台作りがこの中学校生活だと俺は考えている。

 

そんな中学校生活で大切になるのはやはりスタートダッシュである。

クラスのメンバー次第ではこの先の生活が真っ暗なんてことはよくある話。自己紹介でミスなんてしたらもうクラスの日陰者扱いをされる。

いわゆる中学最初の一大イベントが真っ先にやってくる。小学生とは違うのだ、なまじ半端な知識を身につけて言葉のレパートリーを増やしているクソガキ共は、覚えたてのワードで俺達に傷を作っていく。

やれ『ウザい』だの『キモい』だの言いたい放題言いやがる。なんでも略せばいいってもんじゃねーんだよ。

それにこの頃から多用かされるのが『死ね』である。本来なら使ってはいけない言葉、親からも『言っちゃいけません!!』とか教えられる言葉一位にランクインしている言葉だ。それを最近のガキは気にくわないことがあればすぐに使う。挙げ句の果てにはコミュニケーションにまで用いられる。そういったことがハードルの位置を徐々に下げていき今に至るのがわかっていない。

そんな暴言溢れる中でデビューに失敗でもしてみろ…あ、ヤバい腹痛い。

 

綾ちゃんや戒、新平とはそれぞれ別々のクラスになってしまい残されたのは俺1人。

新天地が楽しみなのは俺もわかるがやはり期待値が高いだけに不安も相乗して高くなる。

 

今日からお世話になる1-3のプレートを眺めながら決心して中へと入る。

以外にも中にはそれほど人は多くなく、なにより中は廊下と違い驚くほどに静かだ。

まぁ、みんな緊張してんのは当たり前か。

大抵初日はクラスが葬式になるのは恒例のことだと思う。時々ムードブレイカーがいて一気に和気藹々とした感じになるがあれは例外だ。あれができるのはイケメンじゃなくバカだけである。しかも空気を読めないんじゃない、読んでて敢えて壊すのだ。そういう奴は以外にもやるときはやる奴が多いからなかなか好感が持てる。

 

自己紹介のことを考えながらも席に着き荷物を下ろす。

当然のことながら席順はあかさたなで決まっており俺の番号は2。

よかったわ〜。1番とか最悪だからね。トップバッターとか何話せばいいかわからんしら。俺は何事にも例題がないと解けない男なんで。

徐々に席も埋まり始め時計の短い針が9を示すと同時にチャイムが鳴り響いた。

「よっしお前ら席につけー」

入ってきたのは金髪逆髪ちょい髭といった感じのぱっと見では教師に見えない男。

「今日からお前らの担任になる近藤 正義だ。よろしく頼むぞ」

腕を組みながら眼光鋭く俺たちを見るその風貌はヤクザにしか見えない。

「まぁ、初日で緊張するのもわかるが気楽にいこうや」

いえ、これ半分はあんたに怯えてるだけだから。

 

その後、講堂に移動しての入学式を終え教室に帰ってくる。入学式の日特有の注意事項の説明や教科書配布などもつつがなく終了しいよいよ本命へと移った。

「さて、お待ちかねのアピールタイムだ。端から順番にやってけ」

そう言って指されたのは俺の前の席。つまり出席番号1番である。

「は、はい」

可哀想に始めの奴は大抵みんなの礎だ。先生にチラチラ助けを求めながらやっと自己紹介を終えたとしても内容なんてまるでみんな覚えてなくて、必要なのは覚えてるのは話す手順のみ。オマケにみんな要領よくやるものだから自分だけ無駄に多く時間取ったと思われて…。

だが、同情はするが変わってはやらない。だって俺、自己中だもの。自分が1番だもの。

「え、えと僕が」

なかなか進まないのに業を煮やしたのか先生が助け舟を出す。

「なんでもいいぞー。好きな食べ物とか女のタイプとか拘りのフェチズムとか」

それ自己紹介でする内容じゃないじゃん。

「え、えとじゃあ。好きな食べ物は『マカロニサラダ』です」

ーーです

 

ーーサラダです

 

ーーマカロニサラダです

 

「おい、ちょっとお前表出ろや」

反逆者を連れて外へ行こうとする。

「おい、待て待て。どうしたお前何しに行くつもりだよ」

先生が慌てて止めてくるが今の俺にはきかない。

「先生ちょっとそこどいてください。マカロニサラダを倒せません」

「俺はお前が何を言ってるのかわからないんだが」

「白いアイツが、奴が、来るんだ」

思い出しただけでも気持ち悪い。トラウマの元を消したってそのトラウマが消えるわけじゃない。

「なんだお前。中学生にもなって好き嫌い1つでそんなムキになるなんてまだまだ子供だな」

「俺、好き嫌いもはっきり言えない意志の弱い男にはなりたくないんで。座右の銘は『マカロニには死を』『サラダには救済を』なんで」

そう、サラダ単体には罪はない。全てはマカロニ奴のせいだ。

 

そんなこんなで自己紹介は進む。

 

「〜だ」

あ、やべえ全然話聞いてなかった。今のやつ誰だ。

「おい、誰か玉縄に質問あるやついるか?」

へー。玉縄っていうのか。直訳するとBall Rope。玉縄よりこっちの方断然覚えやすくね。もう明日からロープ君で良くね。

それにしてもアイツなんであんな手をプラプラさせてんの? 手話大好きなの? ハンドサインとかやっちゃうの?

「おし、次で最後だな。」

クラスの目が一斉に最後の人に向く。トリというものは初めと同じでなかなかやりにくいものがある。

そんな考え事をしている中でも自己紹介ははじまる。

「はい。四葉 詩音と申します。皆さん宜しくお願いしますね」

 

ーー 雪ノ下雪乃が氷でできた美しい氷華なのだとしたら。

 

ーーきっとこの人は空に咲く幻想的な花火だ。

 

そう思えるほどに可憐であった。

 

「特に好き嫌いはありませんけれど、強いて言うならば紅茶には詳しいですね。あ! 最近はチョコレートにも凝ってるんです。今度持ってきますね」

1つ1つの仕草が彼女という素材を光らせている。きかずともわかるようなお嬢様然とした雰囲気。されどそれは高圧的なものではなく包み込むように柔らかい。

1度見たら雪ノ下同様、2度と忘れることはない容姿だ。

 

そう、1度見たら2度と忘れない容姿なのである。言いたいことは理解できたと思うが彼女はイレギュラーである。ついでにロープ君も。まだ自己紹介の段階ではあるがその存在感は他者を圧倒するのではなく、引き込むことによりその領域を広げている。キャラの濃さは相当なものであり、これから過ごす上で未来を容易に変えてしまう影響力を持っているのは明らかだ。そしてロープ君。彼もなかなかのテクニシャンな動きで俺達を翻弄してくれた。彼がいることによってどんな未来に変わるのかわからないが行動には気を配っておいて損はないだろう。

 

俺には俺の生き方がある。やり直したい過去があるのだ。それが他人にとって些細なことだとしても、俺は俺自身で精算をつけたい。

中学にだってそのうちの何個かはあるのだ。邪魔されるのは御免だ。例えそれが本人の望む望まないにしろイレギュラーというものは何故か俺の周りに集まる。警戒するのは当然と言えるだろう。

 

放課後、今日は午前で終わりということでまだまだ時間的余裕はある。新平達を誘って遊びに行こうかと考えていると後ろから声がかかる。

 

「あの。ちょっといいでしょうか」

振り向いた先にはくだんの少女。四葉詩音。

「何か用事?」

少々そっけない返事となったが許してくれ。これが俺の限界だ。

「ええ、ここではあまり言いたくありませんので中庭にでもいきませんか?」

入学初日にもかかわらず見取り図も見ないで校舎の中を進む。靴を履き替え中庭に出たところで彼女が口を開いた。

「貴方のことは実は知っておりますの」

…は?

「え? 俺は知らないんだけど」

そもそも出会うきっかけすらない。

「ええ、それは仕方ありませんわ。此方から一方的に知っているだけですので」

微笑みながら言う彼女はやはり同年代には見えないほどに美しい。

「緊張なさることなんてありませんわ。ただ個人的に興味がらあっただけですので」

「はぁ」

生返事しか返せなくてすいません!

「話は変わりますが…私は生まれた頃から身体が丈夫とは言い難いほどでした」

1つ1つの言葉を丁寧に重ねていく。

「喘息を患っていまして、あまり激しい運動もできず。それに加えて私は旧家の娘。両親からも大切にされてきたと実感しておりますし、そのことには感謝の念しかございません」

なぜ、出会って間もない俺にこんな話を? そういった疑問が湧き上がる。

「小学校に入学しても毎日の登下校は車での送迎が当たり前。車の中では特にすることもありませんし、私はよく窓の外を見て時間を潰していました」

「流れる景色の中にはいつも同年代の子達がいました。お友達と話しながら、笑いながら話す人たちを見ていると、やっぱり辛くなるもので『もし身体が強ければ』なんて考えてしまうこともありました」

 

「旧家に生まれた私は一般家庭の生活基準を知らず、結果としてクラスには馴染めませんでした。たくさんのひとが話しかけてくれます。だけどいつもどこか一歩引いてるんです」

そんな中、ある少女に出会ったと彼女は言った。

「ここの周囲一帯を取り仕切る名家や旧家のパーティーで私はその子に会いました。誰も寄せ付けない、けれど心の中では誰かを求めている。 毛色は違うかもしれませんが求めている点では同じだった私はすぐに彼女の心に気づきました」

しかし、と彼女は続ける。

「仲良くなろうにも彼女は此方に興味も向けてくれません。『傷を舐め合うことに何の意味があるのかしら』って言われちゃったんです」

そこからいろんなアプローチをしても雪ノ下は靡かなかったという。

「同じ孤独を知っているもの同士、仲良くなれると思っていたんですけどね」

 

それは違うだろう。

 

当然のことながら四葉と雪ノ下が抱える孤独は種類が違う。雪ノ下は関わりの中で拒絶され続けてきたのだ。誰かと比べられる競争に勝ったとしても残るのは遺恨と怨恨。優秀な人ほど弾かれる。

彼女は常に集団のの中で1人きり。

 

対して四葉は関われない孤独があったのだろう。関わりたくても関われない。みんなが近くに来てくれる、でも誰も私を見てくれない。旧家というものはそれなりに力があるものだということは彼女の話から推察できる。地元でのその影響力は有名会社よりもはるかに上であろう。親が子に挨拶をさせる風習は未だにあるのかもしれない。そんな中親達は子供達に言い聞きかせるのだ、『粗相のないように』『怪我なんてさせるんじゃないよ』と。だから一歩踏み込めない。それ以上近づけない。家という名の防壁が彼らと彼女の間には立っている。その壁は子供が超えるにはあまりにも大きすぎる壁。

四葉詩音は常に集団の外で1人きり。

たしかに種類は違えど孤独は同じ。されどその性質は正反対。

場合によっては一般人が分かり合うよりも難しいだろう。なにせ始まりから違いすぎる。環境が違いすぎる。何よりも心の持ち方が違いすぎる。

雪ノ下雪乃は人と関わったことで『絶望』を見だした。

四葉詩音は人と関わることに『憧れ』を抱いた。

 

その思いが混じり合うことは正直言って限りなく低い。

 

「でもそんなある日。雪ノ下さんが笑ってるのを見たんです。下校中の車から確かに笑う雪ノ下さんを。そして…その隣にいたのが貴方です」

だから知りたいと彼女は求める。

「私は気になったのです、どうやって彼女の氷を溶かしたのか、どうやって……彼女を笑わせることができたのかを」

買い被りだ。そもそも俺は彼女の氷を溶かしてなどいない。せいぜい罅くらいが限界だ。まだ俺は俺が求める心からの笑みを見てなどいないのだから。

「それが俺をここに呼んだ理由かな」

初対面でいきなり呼ばれて過去話とかレベル高いと思いきや、俺を踏み台に雪ノ下と仲良くやるためか。

「はい」

ここで俺がしたことを話すことはできる。が、それを彼女が実行したところで意味はない。俺と雪ノ下が違うように四葉と雪ノ下も違う。

人生は数式ではない。

人間関係は人の数だけ答えがある。彼女は彼女だけが出来るアプローチをしなければならない。

おれの答えを知ってしまったらそのアイデンティティを壊しかねない。彼女が持つ孤独をもって雪ノ下の孤独と向き合わなければならない。

ならばまず彼女は知るべきだ。自分の孤独と彼女の孤独が相反するということに。

自らの過ちと勘違いを正すべきだ。

 

だから俺は言う。遠慮なくハッキリと思ったことをストレートにぶつける。

 

「あんた勘違いしてるぞ。あんたのそれは唯の自己愛の押し付けだ。雪ノ下のためだなんて言い訳するなよ」

 

そう彼女は雪ノ下の為だなんて思っちゃいない。雪ノ下の孤独がわかる? だから心の中で求めてるのが分かった? 馬鹿言っちゃいけねぇ。

そもそも雪ノ下雪乃は求めない。あいつは求めるなんて感情を『まだ知らない』 いつだって求められてきた立場だったんだ。家からの期待と重圧に、学校での優等生。周りから求められる要望に彼女は答えてきたのだ。そんな彼女だからこそ他人を求めることを知らないしその感情を理解できない。

だからこそ彼女は他人との距離感がわからず戸惑うのだ。 共有者という曖昧な関係でしか線引きをすることができなかった。

3年関わり続けた俺が彼女の心をわからないのに、たかだか年に何度かあるパーティーで会うだけでわかるわけねぇだろ。

 

「自分と同じだから分かり合えるっていう願望を雪ノ下に押し付けた。レッテルを貼って自分と同列に数えようとした。『貴女は私と同じだからこの苦しみがわかるでしょう』『私も同じだから貴女の辛さがわかるの』 そうやってあんたは分かったふりをしていたにすぎないんだよ」

 

誰しもが群れたがるのは安心したいから。仲間を見つけることによって1人ではないという心理的余裕が欲しいからにすぎない。

「雪ノ下雪乃は今も孤独と戦っている。他人を引き合いに楽な方へと逃げようとしたあんたに雪ノ下を理解できるかよ」

 

ヤベェ、別に俺も雪ノ下のこと理解してるわけじゃないのにこんな大口叩いちゃったよ。どうしよ、後で四葉家総出で殴り込みとかこないよね。お嬢様になんて口をぉお! とかないよね。

 

俺の心境なんて露知らずに四葉は口を開いた。

 

「世の中に生きる誰しもが…貴方のように真っ直ぐに意志を伝えれるわけではありません。

回り道をして、遠回りをして、それでようやく前に立っても話せない人だっているんです。伝えれない人だっているんです。例えそれが押し付けであったとしても、嘘の共通点であったとしても、それは私にとってはかけがえのないキッカケだったんです。

貴方の言葉、私にはいい薬になりました。もう一度しっかり考えてみます」

けれど、と彼女は続ける。

 

 

「貴方のその意志の強さ……私は嫌いです」

 

 

最後に、呼び出してこんな話をしてしまってごめんなさいと謝って彼女は帰っていった。

 

「……」

最後の言葉が木霊する。

 

人との関わり方を知らないのは四葉も同じであった。そもそも自ら関わることを知らない四葉が不器用になるのも当然と言えた。関わり方を知らない人間が上手く関われという方が無理なことだったのになぜそこに気づかない。

 

雪ノ下と四葉を同列に考えていたのは俺の方だ。人との関わりに憧れていたからこそ臆病になると、尻込みしてしまうと何故思わなかった。

 

分かっていないのは俺じゃないか。

 

なぜ俺は、そこまで考えれなかった。

俺の方こそ相手のことを考えずに話していただけじゃないのか? そもそも俺は四葉のことを何1つ知らない!

心を知った気になるな? それは俺の方だ!

 

「あー……」

 

知ったフリなんてまさに俺がそうじゃないか…。

 

偉そうに喋って何様だよ。本当、やり直してきて大人ぶったところで失敗したら意味ねぇのに。

 

そういえば今日、まだ入学初日じゃん。

 

 

ふと見上げる空。

 

 

俺の心を映し出すかのように空には曇天が広がっていた。

 





さて、いかがでしょうか。

世の中理屈だけでない。ということを書きたかったんです。

では感想、評価お願いします。

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