戻った俺がやり直す   作:独辛

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疲れる生き方はしたくないなぁ〜と考えている天チクです。


ではどうぞ。


いい子いい子

 

 

校舎の見取り図が完璧に頭に入っている俺は迷わず進む。目指すは1-4。俺が所属しているクラスだ。

学校が始まって一週間が既に経っている。

クラス内で友達グループを作り始めた奴らもいれば既に周りから遠巻きに見られてる奴もいる。やはりこの頃からだんだんとカースト制度というものが出始める。『俺はそんなの気にしねぇ、だって学校生活楽しめねぇじゃん!』とかいう主人公気質の奴がいたなら意識も変わるのかもしれないが大抵の奴はそうじゃない。自分の立ち位置がよくわからないながらに上へ上へといこうとする。その結果として残るのが友達グループとかいうやつの正体だ。

まぁ、だからって否定するつもりはない。その中で芽生えた友情だってあるだろうしそこから本当の友達とかいうやつにもなれるかもしれない。だが全部が全部そうではないのだ。

 

俺の場合は綾ちゃん繋がりで女の子とばかり仲良くなってしまった。そのせいか男の子との会話が減ってきている気がする。まだ男女の意識が芽生えるのは早い気がするのだが…きっと綾ちゃんスマイルによって少し早めの思春期が来てしまったのだろう。

クラスに着いて席に座る。すると先に来ていた綾ちゃんが挨拶をしてくれた。

「あ!おはようしゅすい君!」

「うん、おはよー」

ここ毎日のように挨拶していたせいか既にこのやりとりが定番化している。

今日は月曜日…別名白いご飯の日である。月から金にかけて給食が出るのが普通であるが月曜日だけは家からご飯を持ってこなければならない。これを忘れるとお腹にたまるものが少ない為に午後の授業は悲惨な目にあうのだ。

その白いご飯の日も今日が初であるため、おそらく忘れてくる人が何人か出てくるだろう。大体の人たちはランドセルから布袋を取りだし机の横にかけている。おそらくそれが白いご飯だ。逆にそうしていない奴らは忘れてしまった奴らで内心ビクビクしているだろう。…わかるぞ、お前たちの気持ちが俺も昔はビクビクしてたからな。

 

元気よく扉が開かれる。

「おっはよー!!!」

奴が来た。

さっそく席に座りランドセルから教科書、筆箱、連絡帳を、箸箱……終了。布袋なし。

本人はいつもと変わらず能天気に『俺のこのシャツすげーだろう!ぶらんどものなんだぜー!』とかほざいてやがる。

結局慧は忘れ物に気がつかずに昼まで過ごしていた。

給食。当番の人たちが鍋やら食器やらを運んでくる。この白衣もよく週明けに忘れてくる奴がいる。そうなれば大抵もう一周続けて同じ班の奴らが当番になるので、めちゃくちゃ責められるのだ。集団の力って怖い。

「あ!あ! わすれてた!」

バカめ!!今になって気づいてももう遅いわ!!

頭のいいやつは大抵朝のHRが終わった瞬間に玄関前の公衆電話に移動。テレホンカードを挿入して親へと連絡。白いご飯を持ってきてくれと頼み込み事無きを得るのが定番だ。

だが直前ではそうもいかない。こうなると残された道は2つ。先生に忘れた事がバレないようにビクビクしながら食べる、プラスαで空腹。2つめは恥を忍んでみんなに分けてもらう方法だ。

だがこの2つめ。クラスの人気者ならいいがそうでなければ自分からなんてとてもできる事じゃない。プライドが高ければ高いほどに自分からは言い出せないだろう。怒られるのが恥ずかしいという感情が先に出てきてしまうからだ。

だがそうして尻込みしてるともっとも嫌なパターンがきてしまう。

先生が手伝ってあげようパターン。

先生はその子を助けようとみんなに分けてあげるように促す。だがこれが断頭台への第一歩。みんなは仕方なしにしぶしぶと分ける。そう、しぶしぶと。

男子はまだいい。文句を言いながらもくれる奴が大半だから。だが女子は言葉ではなく表情で話すのだ。「え? こいつにあげるとかマジいやなんだけど。うぇ、箸で触っちゃった。今日もうこのご飯食べらんない」

こうやって顔で語るのだ。恐ろしいったらありゃしない。これを受けた奴はだいたい次の日学校を休む事になる。そしてそこから始まる学校行きたくない病。何気ない一言や表情が他人を傷つけるいい例だ。

 

席についていただきますの挨拶をする。その際座ってる俺たちとは違い、先生は立ってみんなを見回している。

ああ、慧ドンマイ。これがある日は逃げらんないぜ。

稀にだがチェックしない日がある。これに当たれば恥をかかなくて済むが今日は初日。やはりチェックはあるようだ。

「あら? 工藤君と立石君白いご飯忘れちゃったの?」

みつかった。

そんな表情を浮かべる2人。

先生は今日は初日だから仕方がない。次からは気をつけるようにと注意したのち俺たちに声をかける。

食器の1つを器にしてご飯を各々よそうがやはりどこかみんな嫌々やっている。でもこんな時大抵"いい子ちゃん"ってのがいるもんだ。

「ぼくきょうは、あんまりお腹減ってないからたくさんとってもだいじょうぶだよ!」

「葉山君はいい子ね〜。えらいえらい。」

【葉山隼人】既に友達グループを形成しつつある、イケメン予備軍だ。そしてこの男、俺の記憶では前世にこのクラスにいなかった人物でもある。そういった経緯から前々から注目はしていたが、やはりここでも"いい子"を演じていた。

『いい子』 別段これに悪い印象は受けない。だがよく考えてくれ、いい子なんて印象いったいこの短期間でどうやって身につけたのか。簡単なことさ。ようは困ってるやつを助ければいい。『人が見ている前で』という前提がつくがね。おそらく彼は頭のいい少年なのだろう。普通の小学生1年生ができることじゃない。そして頭がいいからこそ計算高い。結果として導かれるのが『自分が生きやすい環境をつくること』だったのだろう。まだ、ここまでの具体性があるとは思えないがおそらく、近い何かがあるに違いない。

 

クラスの人気者。こういったやつが動くと周りも動く。それは幼くても同様なようでいままで嫌々だった人たちがこぞって分けるようになっていた。

こうすると立場が危うくなるのは分けていない人たちだ。

『俺たち分けたんだからお前も分けろよ。』そういった感情が目に映っているのだ。目は口ほどに物を言うとはよく言ったものである。いま、まさしくその状態だ。

分けていな人たちは数人のみ。勿論俺にも視線が集まってくるが俺は堂々としていた。

「しゅすい君はわけてあげないの?」

彼女は優しいのだろう。困っていたら打算抜きで助けることができる人格者かもしれない。

少し悲しそうな顔でみてくる綾ちゃんに罪悪感を感じながらも言葉を紡ぐ。

「先生、2人ともそんなに食べれないと思いますよ? みてください容器から溢れ出しそうじゃないですか」

そう言ってこの場でもっとも立場のある先生に意見を言う事によって俺から先生へと視線が変わる。ここで納得すれば俺への非難はなくなり、逆にそうでなければ俺に一気に集中する。

「確かにもう良さそうね。2人ともよかったわね。みんなに感謝よ」

どうやら大丈夫みたいだった。別にご飯くらいならわけてもいいのだがいかんせん食べきれないのに分けてやるほどお人好しでもなければわざわざ自分の分を減らしてまで人にあげようと思わなかったのだ。特にこいつには。

 

葉山に結果として救われた隣にすわる慧をみながら、命拾いしたな! …と思う俺はやはり性格が悪いのだろうか?

 

ご飯を食べた後は昼休みが待っている。大抵の小学生はこの昼休みと体育の授業、または図工の授業の為に学校へ来ていると言ってもいいだろう。

今日は葉山の提案でクラスみんなで鬼ごっこしようという事になった。ことわる理由も特になかったのでおれも参加している。インターブロックと名付けられた駐車場前の広場で皆が自由に走り回っていた。現在鬼は工藤慧。なぜかクラウチングスタートの構えから走り出す。

だが遅い!ふはははは!体の作りからして違うのだよ君とは!! 迫ってくる工藤の目の前にわざと立ちフェイントをして惑わせる。走り回って疲れていたのか足下がおぼついてない。左かな? 左じゃないよ、左だよ。

結局おれに翻弄される形となり無理について行こうとした結果、足がもつれて転ぶことになった。

ザマァないねファーーー!!!おれのテンションが内心跳ね上がる。器量が狭いと思うか? その通りです!!!!

否定なんてしない、俺はいまこの瞬間を最高に楽しんでいるのだからッ!!

泣き始める工藤慧。見下ろす俺。はたから見れば完全に俺が悪役だろうが生憎と周りの奴らはいまのを見ていたため誰も俺を責めないし、普段から高圧的な慧をわざわざ助けようなんて奴もいない。結局さっきの白いご飯同盟、立石君が付き添いで保健室に連れていった。

あいつがいなくなっても鬼ごっこは終わらない。鬼、誰やる? といった時に葉山がすかさず最後に鬼の近くにいた人と言ったので俺が鬼役となった。

葉山ァ、テメェ実はお前の提案でご飯わけなかった俺を目の敵にしてんじゃねぇだろうなぁ。

やってやんよ…。狙いを定めるため辺りを見回す。こういう時にもやはり男子はどこかカッコつけたいためか、わざわざ自分が不利になるのに無理に余裕を見せようと座ったり寝転んだりする。

バカめッ! 俺の餌食にしてやろう!…と言いたいところだがやめておいた。俺はいま狙いたいやつがいる。このゲームが始まってからまだ一度も鬼になっていない男。葉山隼人、そして俺を鬼役にした男である。

狙いを定めて足に力を入れる。駆け出した俺は一直線に葉山の元へ。予想以上の速さに驚いたのか慌てて葉山が逃げるがもう遅い、フェイントをかけてくるが俺には何の意味も成さない。圧倒的速さの前には小細工など無意味!!!

必死に逃げる葉山、足には相当の自信があったのかいつもの優しげな笑みはなく鬼気迫る形相で逃げている。

だが現実は厳しいもの。俺の手が葉山の背中にあたり決着がついた。

葉山の顔を見るとまさか自分が…みたいな顔をしていた。

おいおい小1の分際でどんだけ自信家だったんだよ。

「おい!お前が鬼だぞ。はやく捕まえたらどうだ?」

「え? う、うんそうだね。そうするよ」

じっとこっちを見つめてくる葉山。それはまるで今やっと俺という存在を認識したかのようで不気味だった。

 

昼休み終了の鐘がなる。なんだかどっと疲れた休み時間だった。

 

 






いかがだったでしょうか。

葉山君がいるのだったらあの人だっているだろう。
まさしくその通り。

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