亡き王女と青髪の吸血鬼   作:根本

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最凶 vs さいきょー

夕闇の川辺を歩く小さな影は一つだけ。

フード付きの赤いコートを頭からすっぽりと被り、今にもずり落ちそうな大きめのサングラス。

背格好からして10歳くらいの子供だろうか。

そういえば……。

どこかの噂で聞いたことがある。

殺戮と破壊の限りを尽くす、紅いドレス姿の金髪の吸血鬼、紅い悪魔フランドール・スカーレット。

迫ってくる小さい赤いコート姿を見ながら、青髪の氷精チルノはそんなことを思い出していた。

 

(まさかあいつが? な訳ないかー。しかし全身赤色でだっせーな)

 

青のワンピースに青い6枚の羽根の氷精も似たようなものだが本人は気にしたことは無い。

 

通りすがりざまに赤いコート野郎の目をみる。

黒いサングラスで目は見えないが、顔をこちらに向けていた。

一瞥するチルノに対して、赤いコート野郎はこちらをガン見している。

 

(アタイにガンとばしてくるとは気に入れねーな)

 

チルノは口から氷をペッと床に吐き出す。

今は夕刻。

昼と夜の間でうなじがチリチリして余計にイライラする。

 

どちらかでもなくお互いに歩みを止める。

 

「おいチビ! 何見てんだよ! やっちまうぞ?」

 

チルノがドスを効かせて威圧する。

吐く息は相当白い。

 

「……探しているの」

 

小さい赤いコートは囁くような声でつぶやく。

 

「なんだよ? 聞こえねーよ。デカイ声でしゃべれよ。やっちまぞ?」

 

「この辺に……冷気を操る妖精が……いると聞いて探しているの……。あなた……知らない?」

 

「そんな奴知らねーな。さっさと消えろ。アタイにぶっとばされないうちにな!」

 

チルノはプイと顔を背けて立ち去ろうとした。

 

「そいつはね!」

 

突然小さい赤いコート野郎が耳を突き刺す金切り声で叫びだす。

さすがのチルノもびくっとして動きを止める。

思わず野郎の顔を見た。

 

「そいつはね、青髪で青いワンピース姿だそうだけど、あなたは本当に何も知らないの?」

 

赤いコート野郎はチルノの顔を覗き込んでニタリと笑う。

尖った牙が糸を引く。フードの奥の金髪が揺れる。

 

「知らねーって言ってるだろーがよ!」

 

チルノはそう叫びながら、懐の銃を抜き、紅い悪魔に向けてぶっ放した。

 

(こいつはマジモンのイカレた悪魔だ。2、3発食らわしてずらかるぜ)

 

「死ねよ! ばーか!」

 

引き金をガチャガチャとひく。

銃弾が赤いドレスを貫いた、はずだった。

金髪の悪魔は銃弾一つ一つをスイスイ避けてチルノに近づく。

その勢いのままでその小さな小さな右手でチルノの頭をガッチリ掴んで、地面に叩きつける。

チルノだった「もの」は一瞬で粉々にぶっ壊された。

 

 

そんな様子を木の陰から隠れて伺うチルノ。

 

(あぶねー。とんでもねー野郎だ。あんなのとまともにやれるかよ。悪魔すぎるだろー)

 

青髪の氷精チルノは体を木に預け、ふへーと白い息を吐いた。

吐息はダイヤモンドダストとなってキラキラ輝く。

チルノは咄嗟の判断で氷像の分身に入れ替わっていたのだった。

 

(このまま隠れてやりすごしてさよならバイバイだな。ざまーみろ)

 

チルノは木の陰から再び様子を伺う。

 

(あれ? あいつどこにいきやがった……?)

 

赤い悪魔は忽然と姿を消していた。

突如チルノのうなじに冷たいモノが押し付けられた。

 

「フリーズ」

 

チルノにとっては言いなれたフレーズだったが、言われたのは初めてだなー、とチルノはやけに冷静に考えていた。

声の主は先程の金髪の紅い悪魔。

七色の翼を広げ、55口径の馬鹿でかい銃をチルノの首に突き付けていた。

戦車ですら破壊するシロモノで、軽く5トンはあるだろう。

紅い悪魔はそんな獲物を片手で軽々と構えていたのだった。

チルノはゆっくりと両手を挙げる。

 

「やっとみつけたわ、氷の妖精さん」

 

フランドール・スカーレットはニタリと笑った。


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