官僚達の艦隊これくしょん   作:高山 蓮

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お気に入り入れてくださった『しろっこ』様、『HIRANOKORO』様『艦息提督』様そして非公開お気に入りを入れてくださった方。ありがとうございます。


1話・下

 山崎と高松は内閣官房までの道を歩いていく。

 

「課長、幾ら何でも人手不足と言えそろそろ朝のミーティングの司会までやるのやめませんか?」

 

 高松は先行して歩く背中に言葉を投げる。

 

「ダイレクトに情報が集まるのはあそこが一番いいからなぁ。俺としてはまだあそこに居座るつもりだ」

「過労で打っ倒れたら元も子もないですよ?」

「分かってるさ」

 

 山崎はそう軽く言ってそのまま進む。東京の官庁街が何処か閑散としており資源不足と自粛要請により都心でも車の行き交いは以前に比べて減っていた……と言っても地方から見れば十分な交通量であるが。その代わり徒歩の人が増えた気もするのも事実。

 自粛要請に関しては自分達の仕事だったなと山崎は思いつつ目の前で歩行者信号が棒立ちの赤い人になった為山崎も立ち止まる。

 

「あっ、陸自」

 

 そう言って高松は指をさす。その先には迷彩柄の車が丁度交差点を右折していた。

 

「軽装甲機動車ですね」

「あぁ、LAVだな」

 

 すぐに陸自の兵器……いや装備の名前が出てて来る辺り、平和じゃないなと山崎は思う。今やどんな人に聞いても大体の自衛隊の装備品がわかる様なこのご時世だ。これも奴ら……深海棲艦の登場による変質の一つであった。

 

 信号のおじさんが歩き出したの皮切りに周りのスーツの者たちも歩き出す。

 

 

————————————————

 予定通りに内閣官房がある通称本府ビルに着き、2人は応接室へと通された。取り敢えず出されたお茶を頂きつつ会話を始める。

 

「課長、なんで僕ら雑用の調整課なんかがこの仕事に?」

「自分から雑用言うな。ま、大体は面倒くさいが大方の理由だろうがな。とりあえず目の前の仕事のことだけを考えろ」

「わっかりましたー」

 

 そんな軽口を叩きながら待っていると、足音が近づいて来る。すぐ様山崎は気付き立ち上がる。高松も慌ててそれに倣う。

 

「佐江国家安全保障局次長」

 

 やはり公職なだけあって彼は仕立ての良いスーツを着ていた。佐江は人の良さそうな笑みを浮かべながら応接室へと入る。

 

「お初目にかかります。経済産業省資源運用特別調整室、総合政策部調整課から来ました課長の山崎 貴志(やまさき たかし)と申します」

 

 一礼し名刺を両手で差し出す。佐江はそれを受け取る。

 

「同じく調整課の高松 史哉(たかまつ ふみや)です」

 

 高松も同じ様に名刺を差し出す。佐江はそれも同じ様に受け取り、口を開く。

 

「国家安全保障局次長の佐江 心(さえ しん)です」

 

 そう言って山崎と高松に手渡す。

 

「さて、どうぞお座りください」

「失礼します」

「失礼します」

 

お互いが名刺入れの上に名刺を置いてから、先に佐江が切り出す。

 

「今日はどう言ったご用件でしょうか?」

「はい。単刀直入に言わせて頂きますと一つ目。PKFでの輸送船団の護衛の強化をして頂きたいこと。二つ目は安保局名義で幾らか用途不明の資源等が流れています。この二点について今日は伺いに来ました」

 

 山崎は臆することなく堂々と言う。すると佐江の目が細くなり、口を開く。

 

「まず、一つ目についてですがそれは海上保安庁や防衛省に行っていただきたいのですが」

「えぇ、他の者が各方面へと当たっています。ですので国家安全保障局さんの方からも要請して頂けると助かります」

 

 山崎は言い終わらない内に返答する。

 

「成る程、わかりました。対処させて頂きます。二つ目の用途不明の資源と言いましたね?一体なんのことでしょうか?」

「……やはり貴方の立場ではそう言うしかないでしょう。勝手ながらうちの調査部に依頼しまして幾ら情報を掴ませて頂いております」

 

 そう言って薄い紙束を机の上に置く。佐江はそれを見て顔を少し顰める。

 

「建材……消費電力量増加など。これらから鑑みられるのは新組織の設立と言ったところでしょうか?」

「どうやって調べたか是非お聞かせ願いたいところですね」

「まぁ、私が調べた訳ではないので私はお答えすることができないですね。一応言っときますがこれはリーガルな方法かつ、我々にはリーガルにこの権利を行使出来ますので」

 

 山崎はいつの間にか貼り付けていた笑みを消しずっと真顔をで一切表情を変えずに佐江に切り込んでいく。

 

「はい。私もそれは存じております。我々、国家安全保障局としての答えは機密とさせて頂きます」

 

 佐江はずっと目を細めたまま答え、室内の空気がドンドンと陰湿かつ下がっていくのを横に座っている高松は胃がキリキリなるを耐えていた。

 

「政府には?」

「ノーコメント。これ以上の調査はお引き取り願いたいです」

「……私達は継続してモニタリングは行わせて貰います。これ以上の積極的な監査、質疑は行いませんが私達の資源運用計画に悪影響を及ぼすようならば……」

「……ここが妥協点ということでしょうか?」

「流石元外交官佐江さんです。察しの良さに感謝いたします」

「いいでしょう、そちらの案を飲みます」

 

 すると、山崎はさっきまでの無表情は嘘だったかのように微笑みを浮かべる。

 

「ありがとうございます。防衛省と海上保安庁の件についてもよろしくお願いします」

「はい。では、今後ともよろしくお願いします」

「えぇ、こちらこそよろしくお願いします」

 

 佐江は右手を差し出し、山崎はそれに応じて握手する。勿論上辺だけの握手だった事は言うまでもない。

 

「では、私共はこれにて失礼します。今日は貴重なお時間を割いていただきありがとうございました」

 

 そう山崎は言ってゆうゆうと2人は応接室から出て行き、1人残された佐江は置いていった資料を見てから呟く。

 

「あれがジョーカーですか……一杯やられしたね」

 

————————————————

「ヒヤヒヤしましたよ、課長」

「あれ位強く出ないとここは勤まらないぞ、新人」

 

 そう言ってケラケラと軽く笑う。高松はふと思い出した様に口を開く。

 

「確か、佐江さんて艦娘条約の外交使節団だったらしいんですよね?」

「あぁ、そうだ。その功績が認められてあのポストにいるらしいな」

「何故、あそこで課長の要求をそのまま?」

「それは外交官の勘て奴だろう?本能的にわかるんだよ」

「そんな、物ですかね……?」

「種明かしをするならばブラフと言ったところだな」

「ブラフ……?」

 

 そんな事を話している内に経済産業省の別館へと帰って来る。

 

「んじゃ、高松。調査部への報告と指示はお前に任せるわ」

「分かりました」

 

 直ぐに高松はボードに向かい外回りを消して机に向かい合う。それを見届けた山崎も同じように済ませる。

 山崎は午後にも企業との打ち合わせがある為さっさと事務作業を終わらせていく。まるでさっきまでのやり取りを感じさせない様な切り替えである。

 

『経済産業省資源運用特別調整室総合政策部調整課』 通称資源運用特別調整室雑務課の1日は多忙を極める。

 




官僚ものは私の弱い頭ではなかなか難しいと2度書き直して思った作者の提海です。
ちょっとイマイチだったかもしれません……
あ、続きます

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