「よし!朝のミーティングを始めます。集まってください」
朝9時半の霞ヶ関の経済産業省総合庁舎別館にその声は響く。その声と共に小さなミーティングルームに何人かのスーツ姿の男女が入り座る。
「おはようございます。最初はいつも通り昨日の報告から始めます」
挨拶もそこそこに、呼びかけた男がホワイトボードの前に立ち、ミーティングを始める。
「まず、運輸部」
すぐにスーツ姿の男が立ち上がりタブレットを操作しながら説明を始める。
「運輸部部長平山から説明いたします。昨日の第8次ASEAN・東アジア国際連合輸送船団の内、日本向けの輸送船が3隻被害を受け、予定の45%を喪失。資源供給に滞りが出ます」
ASEAN・東アジア国際連合輸送船団とは国連主体の護送船団である。
「国内ですが紀勢本線にの不通が長引きトラック輸送が続いています。これにより和歌山、三重の目標値を大幅に超えるものとなります。報告は以上です」
彼は頷き、質問する。
「西アジア・東アジア国際連合輸送船団とその他独自船団は問題ありませんか?」
「第6次西東アジア国連船団は昨日、日本分は被害を受けませんでしたが、被害艦が出たようで一度救出活動を行った関係で少々遅くなります、他は交戦があったりもしましたが問題ありませんでした」
西アジア・東アジア国際連合輸送船団は先程の船団の西アジア版と考えてもらえば良い。そして独自船団と言うのは非国連主体の護送船団の事である。
「では、今日の主な方針を」
「はい、海上保安庁と海上自衛隊、外務省に掛け合いASEAN東アジア船団の護衛を増やします。国土交通省とJR東海に不通区間の早急な復旧を要請。また新たなる省エネルギー運輸案の検討をします」
「室長、よろしいでしょうか」
ホワイトボードに立っていた彼は横にどっかりと座っているスーツの男へ向く。
「あぁ、それで行ってくれ」
頷きながら男は言う。
「では、次運用部から……」
その後も同じようなやり取りをし、調査部、研究部最後に総合政策部が報告と方針の確認を終えてミーティングは解散となった。
「では、朝のミーティングを終わります。お疲れ様でした」
直ぐに各部長は次々と立ち上がり退出する。既に時刻は10時前であった。
ホワイトボードの前に立ち司会をしていた男も直ぐに荷物を纏めて駆け足で退出する。
彼が駆けて行った先は総合政策部。その中へ入り『総合政策部調整課長・山崎 貴志』と書かれた席の足元から黒革のバックを取り出し机の上に載せるとまた歩き出し総合政策部長の元へ行く。そこで総合政策部の各課長と少しの間ミーティングをし、また机に戻って来る。鞄の中を少し整理した後、1人の男に顔を向け呼ぶ。
「高松!」
「はい!」
「官房に行くぞ!」
「えーまたですか?」
「つべこべ言わずに来い!それが調整課の運命だと思え!」
彼……山崎はスーツを一度羽織り直してから鞄を掴む。高松と呼ばれた男は嫌そうな顔をしつつもちゃんと準備はしていた様で直ぐに立ち上がる。
2人は部長席横のボートに立ち、それぞれ自分の名前の横に『外出中・官房』と書く。
「外回りに行きます!」
2人はそう言って駆け出していく。大きく開け放たれた扉横の木造りの看板には『経済産業省・資源運用特別調整室』の文字が踊っていた。