上司が猫耳軍師な件について   作:はごろもんフース

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一刀! 一刀!
リア充滅びろ!



一刀は、降り立った

「なんでこんなものが……?」

 

 休息を取る為にとある街に滞在をしている。

その時に、見つけた物に目を奪われてしまった。

たまたま散歩に出ていると見慣れた物が置いてあったのだ。

 

「ペロペロキャンディー?」

 

 店主に声を掛けて許しを貰うと一つ手にとって眺める。

じっと見つめて首を傾げる。

少しばかり三国志を読んだ事があり、この時代の事を少しだけ知っている。

自分の知る限りでは砂糖は無かった筈だ。

まぁ……何と言うか、この時代は自分の知る三国志の時代とかけ離れているので知識が宛てにならないのだが。

 

「兄ちゃん、買うのかい? 買わないのかい?」

「……一つ買います」

「毎度!」

 

 検証を兼ねて一つ買うと舐めてみる。

 

「甘い、やっぱり砂糖が使われてる?」

 

 口の中に広がる甘さに眉を顰めた。

自分の記憶の中にある甘さと同じ物で更に首を傾げる羽目となった。

暫く、歩きながら舐め、誰かに聞いてみるかなと思い至る。

よく考えれば、自分を慕ってくれる桃香達だっておかしいのだ。

この時代……三国志の時代の劉備は男性であった筈なのに……。

 

「ごしゅじんさまー!」

「ははっ、こっちだよ」

 

 自分の事を呼んでいる声に手を振り上げて答える。

するとそれに気付いたのだろう。

一人の女性が嬉しそうに笑い此方を見つめた。

 

 その子は、桃色の長い髪を風に流し走る。

その際に一部の部分が大きく揺れ動き、ついつい目が奪われてしまった。

慌てて目を離し顔を見る、大きなパッチリとした目に整った鼻と口元。

相手を威嚇するような綺麗さではない、むしろ相手を癒す可愛さと言える少女だ。

彼女の名前は、『劉備玄徳』 真名は『桃香(とうか)』。

三国志に出てくる蜀を収める人で主人公として扱われる事が多い子だ。

自分こと北郷一刀がこの世界に迷い込んだ時に助けてくれた子で、何故か此処では女の子であった。

 

「もぅ、街に出るなら私も一緒に回りたかったのに」

「ごめん、ごめん」

 

 近くに寄ってきて、一人で街に出たことを咎められた。

咎めるといっても頬を可愛く膨らませての怒り方で微笑ましい。

 

「あっ、笑った!」

「ふふ……桃香の怒り方が可愛いからね」

「っ……!」

 

 笑った事で更に頬を膨らましてしまう。

そんな桃香に苦笑しつつ素直に思っていたことを言えば顔を真っ赤にさせ俯いてしまった。

自分で言ったのもなんだが、少し臭かっただろうか?

互いに顔を赤く染め、恥ずかしげに視線を逸らす。

 

「……君達は何をしてるんだい?」

 

 そんな事をしていれば声が掛かった。

その声は、少女とも少年とも取れる中間の声で透き通った声であった。

桃香の声が癒す声だとしたら、この声は安心できる声といえる。

但し、今現在の声は何処か呆れたような響きがあった。

 

「っ! げ、元直!?」

「やぁ……お邪魔だったかい?」

 

 何時の間にか傍に一人の人が立っていた。

その子は銀色に輝いた髪の毛をしており、その髪の毛をやや前下がりのショートヘアで纏めていた。

そのせいもあり美少年に見えるも髪の毛の一部を三つ編みにしており、辛うじて美少女と判断できる。

一言で言えば、喋り方を含め王子様と言う言葉がしっくりと合う子――軍師補佐をしてもらっている『徐庶元直』だった。

 

「二人の時間を邪魔して悪いね」

「そ、そんなんじゃ!」

「だ、だな!」

「そうかい?」

 

 桃香と二人して慌てて否定をする。

本当は桃華ほど可愛い子であれば歓迎なのだが、気恥ずかしさが勝ってしまった。

故に首を傾げる元直に大きく頷いた。

それに対して、彼女は最初から分かっていたのだろう。

くすくすと口元に手を当て上品に笑った。

 

「なら良かった。二人共、関羽が君達を呼んでいる」

「愛紗が?」

 

 元直の声が急に素っ気無くなる。

そのことに気付いたのか、桃香と共に顔を見合わせ苦笑した。

彼女が言った関羽とは、三国志に出てくる関羽雲長(かんううんちょう)だ。

俺が言った愛紗(あいしゃ)と言うのは、この時代にある真名と言う風習だ。

 

 この“真名”は、本人が心を許した証として呼ぶことを許した名前であり、本人の許可無く“真名”で呼びかけることは、問答無用で斬られても文句は言えないほどの失礼に当たる。

信頼の証であり、この人になら裏切られても悔いはないというほどに大事な物だ。

それを皆に許されてるのは、少々荷が重い。

それでも頼られている、信頼してくれていると感じ、頑張ろうと思った。

 

 今現在で真名を許されてるのは、劉備の桃香、関羽の愛紗、張飛(ちょうひ)鈴々(りんりん)趙雲(ちょううん)(せい)諸葛亮(しょかつりょう)朱里(しゅり)、ホウ統の雛里(ひなり)

皆大事な仲間で桃香の夢を叶える為に力を貸してくれる子達だ。

そんな中……朱里と雛里に付いて来た元直だけは他の子と少し違う。

 

『あぁ……僕は、そのうち抜けるから。やらないといけないことがあるんだ』

 

 朱里と雛里に付いて来た彼女は開口一番にそう告げてきたのだ。

元々二人に着いてくるつもりはなかったらしい。

しかし、二人が旅立つ頃、黄巾党が活発になり二人の身が危ないという事で腕の立つ元直が護衛を勤めていたそうだ。

義勇軍に留まってるのも不慣れな二人をサポートする為だと言っていた。

 

 そんな彼女と義に厚く桃香と自分を心酔している愛紗では相性が悪かった。

愛紗曰く、何故桃香様の夢が分からないのかと言った所だろう。

 

 桃香の夢『皆が笑って暮らせる世の中』。

その夢に希望を持ち、そんな世の中を夢見て付いてきてくれる人達。

そんな中で彼女の夢を理解しない元直は愛紗にとって許せない存在なのだろう。

 

「ねぇ……元直ちゃん」

「ん? なんだい?」

 

 しっかりとした足取りで前を歩く元直に桃香が声を掛けた。

それに対して、彼女は此方を振り返る。

 

「やっぱり……私達に付いて来ない?」

「悪いね。 僕は君や朱里達ほど大きな器がないのさ」

「器……?」

 

 何度目かになる勧誘。

最初こそ悪い印象であった元直だが、暫し付き合えば悪い子でないと分かる。

むしろ面倒見がよく、付きやすい存在だった。

しかし、やはりと言うべきか桃香の言葉は軽く跳ね除けられた。

 

「僕は……君みたいに世の中の為! とか思ってないんだ」

「それじゃ……?」

「僕の心にあるのは――『家族の幸せ』、それだけさ」

 

 元直は寂しそうに笑いそう言った。

その言葉に桃香は困ったのか視線を彷徨わせる。

視線が此方と合うも、これ以上は突っ込まない方がいいと首を横に振る。

 

『元直ちゃんは母親を亡くしています』

 

 思い出すのは、朱里の言葉。

自分の記憶では徐庶元直は、母親思いな人物だ。

魏の曹操に目を付けられ母親を人質にされて泣く泣く魏に下っている。

そんな人物がこの時代では、既に母親を亡くしていた。

 

 朱里から聞くと元直が使うのは撃剣。

飛刀・投剣を基本とした、短剣を用いて戦う護身術の使い手だそうだ。

私塾にいる時は動作を確認するぐらいで済ませていたのに村が壊滅し戻ってくると、より一層撃剣の鍛練に励むようになったという。

毎日毎日、時間を作っては真剣な表情で訓練を繰り返す。

飄々としている彼女だが、心の中は荒れに荒れているだろう。

 

「あぁ、関羽との会話は任せるよ。どうも苦手だ」

「はははは……」

 

 そんな事を考えていれば、何時の間にか拠点に戻ってきていた。

元直は少しだけ眉を顰め、軽く手を振って離れていってしまった。

去っていく姿を見て思う。

家族を失っている彼女の言う、『家族の幸せ』とは一体何を示しているのだろうかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「敵軍! 向かってきます!」

「あわわ!」

「はわわ!」

「やれやれ」

 

 あれから、愛紗の元へ赴き話を聞くと街の近くに賊が居るという情報を掴んだとのことだった。

その話を聞いて、休息もそこそこに軍を動かし、討伐へと乗り出す。

今現在の義勇軍には足りない物が多い。

人もお金も名声も……人々を笑顔にする世の中にする為には何かもが不足していた。

 

 そのため、敵を選んで戦っていたのだが……今回ばかりは運が悪かった。

情報の通り賊が居たのだが、他の部隊と合流したのだろう。

話より大きくなっており、義勇軍だけでは押し切れないほどになっていた。

本来であれば、ここは引くべきだ。

 

「えっと! えっと!」

「落ち着いて……どうせ逃げるのも無理。見渡す限りの荒野……ぶつかるしかないさ」

 

 しかし、元直の言うとおり、それが出来ない。

ここから少し離れた所には、先ほど駐留していた街がある。

あの街に被害を出さないようにする為にもここで抑えるしかない。

 

「元直の言うとおりだ。このまま引けば街が危ない、行こう!」

「ご主人様……」

「ふっ、我が主はこういう時は肝が据わっておりますな。女性関係でもそうだと嬉しいのですが」

「星!」

 

 皆の話を聞き、決断する。

桃香は嬉しそうに頬を染め、星はニヤニヤと笑い此方をからかって来る。

それを愛紗が咎めるのが何時もの光景だ。

 

「な、なるべく援護しましゅ!」

「しましゅ!」

「あぁ……策があれば、すぐに言ってくれ」

 

 そんな光景に苦笑していれば、服を引っ張られる。

其方の方を向けば、軍師を勤めてくれている朱里と雛里が噛み噛みながら必死に訴えて来る。

それに対して二人の緊張を解す為に微笑み、頭を軽く撫でた。

 

「はわわ……」

「あわわ……」

「あーっ! 鈴々もー!」

「いや……敵が向かってきてるんだ。号令を頼む」

 

 そこに鈴々も加われば、空気が緩んだ。

そんな空気も元直が呆れた声で正し、終わるのも日常だ。

 

「それじゃ、お願いしましゅ!」

「任された」

「あわわ……」

 

 そう言うと号令を出し、皆が構える。

既に相手は此方に向かっており、走ってきていた。

 

「ゆ、弓兵構え!」

「構え!」

 

 そんな相手に対して、弓を構える。

相手がわざわざ近づいてきてくれてるのだ。

その時間を利用して矢を放つ。

 

「はなっ……い、痛い」

「放て!!」

 

 頃合を計り、朱里が指示を出す。

しかし、緊張のせいか朱里が舌を噛んでしまう。

その時にワンテンポほど遅れるも直ぐに元直が指示を飛ばしフォローを入れた。

 

「ご、ごめんなさい」

「いいよ。ゆっくりと成長していこう」

「は、はい!」

 

 元直が謝る朱里の頭を優しく撫で微笑む。

この三人は同じ私塾の先輩後輩の関係であり、よく噛み合っている。

史実でも元直が朱里を桃香に紹介すると言うエピソードもある為、仲は悪くないのだろう。

 

「抜刀!!」

 

 矢を受け、此方に走ってきていた賊の前線が崩れた。

勢いに乗っていた為、止まれず矢を受けた者が倒れこむ。

その倒れこんだ人に引っかかり、賊の殆どが足を止め折角の勢いを殺した。

 

 そんな様子を見て、すかさず愛紗が指示を繰り出す。

それに従い、他の兵士も武器を取り出し戦が始まった。

 

「一番乗りは私が……」

「こらっ! 乱すな星!」

「にゃー! 鈴々もー!」

「っ~~!! 鈴々!」

 

 最初に駆け出したのは星だ。

それに続き負けじと鈴々が突っ込み、その二人の暴走を抑えるように愛紗が駆ける。

恐れを知らず、圧倒的な武力を振り回し、三人が賊を蹴散らし始めた。

それに少し遅れて兵士の皆も続き、それを見守る。

 

「……」

「辛いね、ご主人様」

「そうだな」

 

 目の前で繰り広げられる光景を見て桃香の言葉に頷く。

誰もが笑顔で手を取り合って生きる世界。

目の前の光景はそんな夢から凄く遠い物であった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まずいね」

「ぎゃっ!」

 

 近くに居た元直が、腰に付けていた剣を飛ばし向かってきた賊を貫く。

一人貫くと剣に付けていた紐を器用に操り、横の二人の体に鞭のように打ちつけ倒す。

そのことを元直は確認すると、思いっきり剣を引っ張り賊の体から引き抜いた。

 

「段々押されてる」

「ひぅ」

「数が多いか」

 

 戻って来た剣の柄頭を蹴り、更に近寄ってきていた賊へと剣を当てる。

そんな曲芸じみた戦い方で俺達を守ってくれている元直の言葉に焦りが募る。

最初こそ押していた戦線だが、次第に数に押され此方に流れてきていた。

 

「ジリ貧だね。体力の限界もある……逃げる算段もしといてくれ」

「そんな!」

 

 元直の言葉に桃香が悲痛そうな声をあげる。

ここで自分達が逃げたら、街はどうなるのかと思っているのだろう。

 

「……逃げるとして、どうしたらいい?」

「ご主人様……」

「……殿を務める部隊を作ります」

 

 それでも決断しなくてはいけない。

このまま行けば、皆殺されて、街も襲われてと最悪な結果で終わってしまう。

それだけは避けなければいけない。

何より、相手もだいぶ数を減らしている。

街も襲うにも時間が掛かるだろう。

なるべくそう思うようにして、朱里に意見を求めた。

 

「ここは一度引いて他の軍に助けを求めよう」

「御意」

「なら……」

 

 決断し次の指示を出そうとした時だ。

 

『突っ込めーーー!!!!』

「!?」

 

 大きな声が戦場へと響き渡った。

その声に驚きながらも見れば、一人の長い黒髪の女性が馬に乗り賊へと突っ込んでいくのが見えた。

その女性が賊へと突っ込めば、少し遅れて騎馬隊が相手へとぶつかる。

 

「な、なにが?」

「援軍だと思う。この辺で一番可能性が高いのは最近州牧に就任した曹操……曹孟徳殿かな」

「……曹操」

 

 その名前を知っている。

三国志に置いて劉備が居ないと始まらないと言うならば、彼が居ないと終わらなかっただろう。

この国は結果的に三つの国に別れる。

一つは劉備……桃香が治める(しょく)

二つ目は孫権が治める()

最後が……曹操が治める()だ。

 

 ある意味で彼もまた三国志における主人公なのだ。

その人物が今ここに現れた。

 

「って! 行っちゃうのかよ!」

「いいえ、あれで問題ないです。あのまま場に留まられると場が混乱します。何より騎馬隊ですから、そのまま突き抜けて相手を分断、混乱させた後に後ろから攻め立てる。堅実な戦術です」

「そ、そうなのか」

「はい」

 

 援軍に来た一団は、綺麗に相手を二つに分けるとそのまま通り過ぎる。

その事を声に出すと雛里が細かく相手の考えている事を教えてくれた。

小さいなりで何時もは緊張している雛里だが、やはり名を残す名軍師なのだと再認識させられる。

 

「こっちはどうすればいい?」

「多分、すぐにでも伝令が来ます。それに合わせて動けばよろしいかと」

「そうか、ありがとう。雛里」

「あわわ……光栄でしゅ」

「むむむ、雛里ちゃんばっかり」

 

 頭を撫で、説明してくれた事と助言に感謝する。

その際に朱里が頬を膨らませてしまったので苦笑した。

後でフォローをしないとなと思う。

 

「此方が義勇軍の本隊でよろしいでしょうかっ!」

「は、はい」

 

 そうこうしていれば、雛里の言うとおりに伝令が走ってきた。

相手の伝令の問いに桃香が緊張気味に答える。

口を出そうと思ったが、これも経験かと思い口を閉ざし静かに見守った。

 

「代表者は……」

「わ、私です」

「そうですか、曹孟徳様の軍師であらせられる荀文若様より言伝を預かっております」

「荀……?」

「『こちらは、このまま敵を分断し大きく回り後ろから攻撃を仕掛けます。その後、曹孟徳様が横から迫撃を仕掛けるのでこのまま前線を維持して欲しい』のことです」

「えっと……そうすると一方が開いちゃうような?」

「『わざと開けて、相手を追い込まない様に』とも承っています」

「そ、そうですか」

 

 伝令の言葉にガチガチになりながらも桃香が答えうけた。

そして、どうすればいいのかと朱里達を見つめる。

それに対して朱里達も頷き返す。

 

「わ、分かりました。そのとおりに動きます」

「はっ!」

 

 そう言って、伝令が礼をし去っていく。

その背中を見ながら桃香はため息を付いた。

 

「お疲れ、桃香」

「うぅ……緊張した」

 

 緊張のせいで胸を押さえ深呼吸をしている桃香の肩を抱き落ち着かせる。

そうしていれば、桃香の震えも止まり緊張も解けたのか、へにゃりと笑った。

もう大丈夫そうだと思い手を離せば、何やら視線を感じる。

 

「……じー」

「……じー」

「あのね……乳くり合うなら、後でしてくれ」

「ご、ごほん」

 

 朱里と雛里に恨めしそうな視線を送られ、元直には呆れられた。

それを誤魔化すように咳をすると互いに顔を赤くして離れる。

 

「そ、そういえば……何で一部開けとくんだ?」

「誤魔化した」

「誤魔化しました」

「……はぁ、簡単に言うと追い詰め過ぎると敵が最後の抵抗を試みるからだ」

「窮鼠猫を噛む?」

 

 思いついた言葉を言ってみると頷いて肯定された。

色んなことを考えて本当に行動してるんだなと思う。

 

『全軍!! 突撃っ!!』

『オォォォォォォォォォォォォォ!!!!!』

 

「っ!」

「ひぃっ!?」

「なるほどね」

「あわわ」

「はわわ」

 

 そうしてると戦場に声が響いた。

その声は、体全体がビリビリとし身を震わせるほどの迫力があった。

りんっとした鈴のような声でありながら、覇気が篭っている。

その声の効果は凄く、戦場に居た全ての人が一瞬動きを止めて彼女を見た。

そして、次に来るのは彼女の軍勢。

迫り来る軍勢に相手は粟立ち、先ほどの威勢が嘘のように武器を捨てて逃げていく。

 

「あれが……?」

「たぶんそうだね……あれが曹孟徳殿だ」

 

 桃香の問いに元直が静かに頷く。

桃香の視線にあわせれば、其処には馬に乗っている一人の女子が居た。

青い服装と鎧に身を包み、大きな鎌を黄巾党へと向けている。

遠めであまり見えないが、威風堂々な姿に感嘆しか出てこない。

 

「……あれが曹操」

「いやはや……凄いね」

「あの人、味方なんだよね?」

「は、はい」

「そうかー……凄い頼りになるね」

「……」

 

 頼りになる援軍に湧き上がる桃香達であったが、自分は違う。

未来を知っているから、この先を知っているからこそ。

あの曹操を見て不安が募る。

この先、桃香は幾度なくあの英傑と戦わなければいけないのだ。

 

「……はぁ、助かった」

「そうだね! これで街の人も夜眠れるね」

「あぁ……そうだな」

 

 次々に相手は敗走し脱兎の如く逃げていく。

その様子を見て喜ぶ桃香に頷き、皆が助かったことに一息ついた。

 

 

 

 

 

 

「へえ……あなたが天の御遣い?」

「……そうだ」

 

 戦も終わり、曹操と顔を合わせる。

曹操は、意外にも小さかった。

確か史実でも身長が低かったので合ってると言えば合っている。

……性別は逆であったが。

 

「っ! 貴様、失礼ではないか!」

「……」

「愛紗……落ち着いて」

 

 先ほどから曹操がこっちをじろじろと遠慮なく見てくる。

それに対して愛紗が怒るもそれを苦笑し抑えた。

此方は義勇軍、あちらはこの辺りを治める州牧だ。

身分が違う、ここで不敬と言われないようにと他の人にも目を配らせた。

 

「……九十九?」

「へ?」

「……んー、雰囲気が似てるわね」

 

 じっと待っていれば、曹操は誰かの名前を言ってから視線を後ろへと飛ばす。

先ほどの言葉が気になり、同じように視線を向ければ一人の男性が居た。

その男性は自分と同じ黒髪でなんとなく浮いた雰囲気を感じる。

一言で言えば、染まってない。合ってないと思った。

 

「……」

「九十九!」

 

 その九十九と呼ばれている男性が、近くに居た猫耳フードを被った女性に服を引っ張られる。

先ほどから曹操の視線を受けているに、その男性は一点を見つめて銅像のように動かない。

それを不思議に思い、九十九と呼ばれている男性の視線に合わせて見ていけば――

 

「元直?」

「……」

 

 彼は元直を見つめていた。

そして元直もまた、目を細めじっと見つめている。

 

「そこに居たんだね。九十九」

「……久しぶり、千里」

 

 暫く見つめあっていたが、元直が一息ついて名前を呼んだ。

それに対して男性は、暫しの間目を瞑り考え込むも元直の真名と思わしき名前で呼ぶ。

この時点で二人が知り合いだという事が分かった。

 

「――」

「……」

 

 二人が特に会話もしないので、知り合いなのかと聞こうとした時だ。

元直が動いた。

その動きは自然な動きであり、散歩にでも出るように見えた。

しかし、それは剣の柄頭に手を置いてなければの話だ。

元直は、一歩一歩近づき手が届く距離になると剣を抜いた。

 

 




~なぜなに三国志! トキドキ間違いもあるよ!~
《そろばん》
九十九が作ったそろばんについて話します。
実は、この時ですがそろばんに変わる物がありました。
それは算籌(さんちゅう)と呼ばれる道具です。
長さ三センチ~十五センチの棒を使います。
その棒を使い、一から九までの数字を表現していました。
赤と黒で分け、赤はプラス。黒はマイナスと使い分けていたそうです。

中国にそろばんが伝わったのは十三世紀とも関羽が作ったとも言われています。
関羽が作った物と考えると少しフライングしてるだけな上、棒を珠に変えただけだったり。
故に使いやすくなったな、ぐらいな感想であります。
ちなみに、そろばんを作ったという逸話と義に厚いということから関羽は『商売の神様』として祭られています。

《北郷一刀》
主人公。種馬と呼ばれるお人。
フランチェスカ高校二年の高校生。
人柄よし、性格良し、優しい、たまに鋭い策を編み出す。
と言った凄い人。流石主人公……。
戦闘面では、超人的な武将に及ばずながら春蘭に殴られても直ぐに立ち上がり、痛がる様子すらないという頑丈さを持つ。

精神面では、異世界に飛ばされても直ぐに受け入れ順応し、九十九同様桂花の罵倒も耐えるほど。
……この世界の日本人はドMなのだろうか?
ちなみに出番はここだけ、ほぼないと思われる。
性格などは原作基準で特にゲスいとかクズいとかはない。

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