上司が猫耳軍師な件について   作:はごろもんフース

16 / 16
二人は家族です。
あと次回から桂花との日常に戻ります。


二章:反董卓連合
九十九、董卓を疑う


「お帰り」

「ただいま」

 

 仕事も終わり、夕食を食べてから寝泊りしている宿舎の一室に戻る。

扉を開ければ千里がおり、そのまま抱きついてきた。

それを軽く抱き返せば、千里は頭をぐりぐりと此方にこすり付けて来る。

暫し、それを苦笑しつつ見守っていれば千里は満足気に離れた。

 

「何でここにいるの?」

「明日ここを出るから目一杯堪能しようと」

 

 人の寝床に座り、此方を見てくる千里に首を傾げ聞く。

聞けばそのような答えが帰って来て納得した。

どうやら自分の訴えを華琳様が聞いてくれたようだ。

 

「んっ……」

「お酒とかはいいのか?」

「今日はいいや」

 

 寝床に座り、その隣を軽く叩いて千里は誘う。

そんな千里に棚に置いてあるお酒を示すも首を横に振られた。

今日は飲む気分ではないようだ。

 

「今日は逆なのか」

「たまには甘えてもいいだろう?」

「別にいいけど」

 

 横に座れば、千里が勝手に太股に頭を置いてきた。

いつもと逆な対応に少し面を喰らうも納得し、頭を軽く撫でる。

千里の髪は、柔らかく触り心地が良い。

しっかりと手入れされている。

 

「それでどのぐらいの期間?」

「んーっ、曹操軍と合流するまで」

「……長くないか?」

「長いね……ここ二、三ヶ月の話じゃないと思う」

 

 千里が行なうであろう任務の期間を尋ね、少し後悔した。

運が悪ければ、半年以上の間、千里と会えなくなってしまう。

それは少々悲しいものがあった。

 

「それでもやらないといけない」

「そうだね……董卓がどのような人物か探らないと」

「頼む」

「任された」

 

 千里の任務は、情報収集。

この先に起こるであろう反董卓連合の為の情報だ。

ことの始まりは、張角に会い黄巾の乱の裏側を知ったことから始まる。

張角の性格も性別も違うのにも関わらず、黄巾の乱は起こった。

世界の修正と言えばいいのだろうか?

どれだけ、かけ離れていても史実の様な事が起きる時は起きるらしい。

今のところを見るに大きな出来事の時にそれが大きく働くのだろう。

 

「君の話だと董卓は暴虐の限りを尽くした極悪人。その為、連合が組まれただっけ?」

「あぁ……しかし、この時代の董卓がどのような人物か知らない。故に情報が欲しい」

 

 もしもだ。

この世界の董卓が史実と逆の様な性格であったならばだ。

その時はどのような形で反董卓連合が組まれるのだろうか?

董卓への恨み、渇望、嫉妬。

もしくは、董卓の部下の裏切りによる圧政。

何より、董卓の居るのは中央、魔窟だ。

彼女、彼に関係なく始まるかもしれない。

その時に、正しい行動が取れるように正しい情報が欲しかった。

 

「嫉妬で反董卓連合が開かれたら最悪だね」

「それが一番怖い。反逆を討つと言う名目で来たのに、董卓は善政をしていたとなれば……」

「名声も落ちるか」

「参加したら自分達が悪人でした! とか最悪だ」

 

 董卓が史実の様な人物であれば問題はないと其処まで考えて体を倒す。

倒して天井を見ていれば、千里はお腹の上に乗っかってきた。

今日はとことんくっ付いているつもりらしい。

 

「……それで他にして欲しい事はあるかい?」

「……んー」

 

 千里の言葉に考え込む。

他に何か……何か……。

 

「……呂布かな」

「見つかったら僕、殺されるんじゃないかな?」

 

 考えて思いついたことを口にする。

千里から渇いた笑いが漏れた。

流石の千里も呂布を相手にしたくないらしい。

 

「必要?」

 

 千里は人のお腹の上でごろごろと転がり近づくと、人の顔を上から覗き込み視線を合わせて告げた。

 

「欲しい……かな」

 

 目をじっと見つめ、その言葉に素直に答える。

この先の事を考えれば、彼女が欲しい。

天下無双の武力が、彼女の騎馬隊が……。

 

「彼女は裏切りの代名詞なんだよね?」

「裏切らない……彼女に会ってそう思った」

「……なるほど」

「故に反董卓連合が出来、董卓が崩壊したら……」

「引き込むと」

 

 千里の言葉に黙って頷く。

彼女を引き込むとしたら、そこしかないだろう。

倒して捕まえるのは無理、説得も董卓が居る間は不可能だと思う。

ならば……董卓軍の崩壊後に切っ掛けを作り引き込むしかない。

 

「頑張ってみるよ」

「お願い……ただ千里の命優先でな」

「流石に会えなくなるのは嫌だからね」

 

 ここで家族を失えば、多分自分を保てなくなる。

今でも精神の限界ぎりぎりなのだ、これ以上は崩壊してしまう。

 

「お姉ちゃんに任せておきなさい」

「……いや、妹じゃ」

「いやいや、精神的にも僕が上さ」

「……普通、年齢で決まるものじゃない?」

「……」

「……」

 

 無言で取っ組み合う。

寝台をごろごろと互いに上に下になり、転がり続けた。

結果?

勿論負けました。

 

「なんで男の俺より……力が強いのさ」

「ふふっ……力でなくて技術だよ」

 

 馬乗りにされ、見下ろされると悔しい気持ちが沸きあがる。

人の腹の上に座り込み、勝ち誇った千里を見て余計にだ。

そんなことを思い、軽く唸って入れば千里は体を倒し人の上に寝転んだ。

 

「千里?」

「今日はこのまま寝る」

「寝るって……」

「寝る」

 

 流石に家族でもと思うも断固として退かないようにする千里。

そんな彼女に少しばかり言いよどむも……諦めた。

これから半年以上は会えないかも知れないのだ。

このぐらいの触れ合いはあってもいいだろう。

そう思い、近くの掛け布団を取り上から掛けるとその日はそのまま就寝した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 ある程度月が落ちた頃、ゆっくりと瞼を開け目を覚ます。

目を覚ませば、規則正しく動く鼓動と振動で体が揺れた。

暫し、その鼓動を聞くように胸に耳を押し付け聞いていく。

ドクン、ドクンと生命の息吹が聞こえ安心した。

 

 彼は生きている。

そのことが僕をほっとさせた。

 

「……」

 

 名残惜しいがそろそろ時間だ。

朝日が登る、発つ準備をしなくてはいけない。

体を起し、彼の体温から離れると少しばかりの寂しさと冷たさが身を包む。

もう少しいいだろうか……いや、駄目か。

 

 窓から朝日を浴びため息を付いて離れる。

離れると、準備していた服に着替え、度の入ってない眼鏡を着用した。

そして何時もは片方だけ編んでる髪を後ろで小さく結ぶ。

後は、小さな剣を腰に差して準備完了だ。

 

「……行ってきます」

「……」

 

 最後に振り返り、言葉を告げる。

勿論起きている筈も無く無言だ。

それでも良かった。

 

 日々逞しく、脆く成長していく重成。

そんな彼の役にようやく立てる時が来た。

欲を言えば、華琳様の部下でなく重成の部下として働きたかったがしょうがない。

この先の重成の昇進に期待しよう。

昇進すれば、僕が彼の下に就く事もあるかも知れない。

 

「ふふっ」

 

 そんな考えをすると自然と笑いが漏れた。

 

「楽しそうね」

「華琳様……早いね」

「少し眠れなくて……」

 

 歩き歩き、門をから出ようとすると声を掛けられた。

その声に振り向けば、少し顔を顰めている主君が立っていた。

彼女の口と態度から推測するに頭痛であまり寝れなかったのだろう。

 

「あまり無理しないように」

「華佗に期待かしら」

 

 まったく休む気がない彼女に苦笑する。

なんと言うか、本当に自分に厳しい人だ。

 

「情報は定期的に」

「御意」

「危なくなったら逃げなさい」

「はい。それじゃ行って来ます」

「えぇ、行ってらっしゃい」

 

 主君である彼女ともう少し会話を楽しみたかったが、時間も時間だ。

一緒に行く商人と合流しないと行けないのでそこそこで別れる。

別れて門を潜れば、朝日が体を照らす。

その眩い光に目を細め、一息ついた。

ここから一歩進めば、僕は一時的だが、徐庶でなくなる。

そのことを何度も復唱して心に刻み込むと最後の確認として呟く。

 

これから先――私は『単福』だ。

 

 重成のように笑みを貼り付け、そう口にして歩き出した。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。