A.まだです
「どうしてそんな無茶をしたんですか!」
イェーガーズ本部にて、ウェイブとクロメ、そして大地が正座をしてランのお叱りを受けていた。
ボルスの妻子が少しうろたえてはいるものの、陽子が「気にしなくていいのよ」と優しく言葉をかける。
「だ、だってあれは・・・その・・・だってあいつら、やりすぎだったし」
「そうだよ、不法な取り調べはいけないもん」
「・・・穏便に話ができる相手ではないだろう」
なんとか言い訳をするものの、ランは納得していないようだ。
「ウェイブさん、相手は大臣派・・・しかも大臣のご子息です。いくらイェーガーズとはいえ、大臣に歯向かったとされればエスデス隊長にも影響があります」
「お、おう・・・」
「クロメさん、ウェイブさんのやったことは正しいかもしれませんが、貴方は引き止めないといけないでしょう」
「ご、ごめん・・・」
「・・・大地さん、貴方はそもそも一般人です。そんな危ないことはしてはいけません。ただでさえ目をつけられているのに、あまり敵対するとこちらも庇うことができません」
「・・・すまなかった」
一通り りつけたランは一呼吸おいた。そして、ボルスの妻子へとにこやかに「大丈夫でしたか?」と声を掛けた。
「え、えぇ、なんとか・・・」
「・・・うん」
「それは良かった。ただ、エスデス隊長が戻られるまではイェーガーズ本部にいてください。隊長が戻り次第、こちらでも護衛などの対処ができますから」
ランの言葉に、二人はどうやら安心したのか、少しだけ笑みを見せた。陽子もその様子を見て胸をなでおろした。
・・・どうやら、この母と子は守られることになったらしい。
まだ油断はできないけれども・・・
「さて、それじゃあご飯でも作りましょうか。みんなおなかが減ったでしょう?」
イェーガーズ本部の厨房にて________
陽子が鼻歌混じりに野菜を切っていく。どうやらウェイブも彼女を手伝っているようで、汁物の具合を見ているようだ。
「そういや大地さん、あの大臣の息子を気絶させてましたけど・・・あの人も何かやってるんですか?」
「そうよー。空手とか柔道とか・・・格闘技はそれなりに、ね」
「強かったですよ、大地さん」
「あら、嬉しいわね。でも、あくまで護身術程度なのよ?あなたたちみたいに戦えるようなものではないもの」
陽子の言葉にウェイブは少し言い淀んだ。
「・・・あら、どうしたの?」
「・・・・・・その、俺もあの時戦ったんですけど・・・もし、またあいつらが大地さんとか陽子さんに何かしてきたらすみません。大地さんを戦わせてしまって」
「気にしなくていいのよ。主人が選んだことですもの・・・きっと貴方が止めても、主人は立ち向かったわ」
「でもっ!」
それでも・・・そう、それでも、だ。
いくら戦えたとしても、ウェイブは軍属で、大地は一般人なのだ。
民間人を避難させるのが、軍属としてとるべき行動であったはずである。もちろん、状況にもよるところはあっただろう。
仕方がないといえば、それで済むかもしれない。しかしウェイブは良くも悪くも真面目であった。
「貴方が悔やむことはないのよ。主人は警察官だから、貴方みたいに正義感は強いの。もちろん、引き際だってわかっているでしょうけどね」
「・・・そう、ですか」
「でも、あのシュラって子にちょっと何か思うところがあるから張り合っちゃうのかもしれないわね」
「思うところ?あいつに?」
ウェイブは大臣の息子であるシュラを浮かべながら、陽子に尋ねた。
「探している息子のほうに、ちょっと似てるのよ」
「・・・えっ」
「息子に似てるところがあるからだと、私は思うの」
「・・・似てる・・・」
”アレ”に似てる息子ってどうなんだ。
そう思ったがウェイブはそのツッコミをさすがに飲み込んだ。
「外見が似てるってわけじゃないけど、中身というか・・・負けず嫌いなところというのかしら?全部ではないけど、ところどころ似てるなぁって」
「似てるんですか・・・」
一体どんな息子なのだろうか・・・
さすがにウェイブはそこまで聞けなかった。そりゃそうだ、シュラによく似た人物なんてこれ以上いたら困る。
「あぁでも、あの子は正義感は強かったわ。だからきっとあの子だったらきっと主人と同じことしてるわね」
「・・・親子で似てるんですね」
「そうねぇ、似てるかもしれないわね。息子のほうはあの人よりも手が早いけど」
「・・・」
嬉しそうに子供のことを話す陽子を見て、ウェイブは故郷の母親を思い出した。
手紙で連絡をしているとはいえ、やはり一度ぐらいは故郷に帰って顔を見せるほうがいいだろう。そう彼は思ったのだ。
「どうしたの?」
「あ、いや・・・俺の母親のこと思い出して。やっぱ、家族っていいですよね」
「ふふっ、そうね」
「・・・その、息子さんも娘さんも早く見つかるといいですね」
「ありがとう。・・・はやく、見つかってほしいわ」
見つかる前に、まずは生き残らねばならないけれども。
陽子は今後起こるであろう最終決戦のことを思い出しながら、そう呟いた。
次回,ランさんは死亡フラグを折ることができるのか?