久多良木夫妻の帝国漫遊記   作:椿リンカ

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『世界とは鏡のようなもの。 それを変えるにはあなたを変えるしかない。』
アレイスター・クロウリー



久多良木大地は対話する

 

久多良木大地という人間は、基本的には善人である。もちろん、多少の絡め手を駆使しているものの、本人は警察組織に属しているだけあって善人気質だ。

彼も今回の異世界転移に関しては色々と思うところはあるが、別に【どうせは死ぬ相手だから】と完全に見捨てたいわけでもない。

 

あくまでも彼は目的を見失いたくはない。

 

当初もオネスト大臣が行っている不正も汚職行為に対して怒っていたし、今だって許せないことに変わりはない。

ランを筆頭に、死ぬ運命が待っている人間たちに対しても何も思わないわけではない。

 

「・・・(露子や朝人と会える方法が生き残ることしかないのなら、仕方ない)」

 

・・・ただ、優先順位をつけているだけだ。

 

全てを救えるとは思っていない、あくまで彼はただの人間である。

いくら知識があっても、それだけだ。驕ることなく、彼は自分ができることの線引きをしている。

 

現在、彼はシュラが眠っているであろう部屋の隣の部屋にいた。

妻である陽子は、クロメやウェイブたちと出かけているため、彼がここに残っているのだ。

 

「(それにしてもラン君が生き残ったままだが、今後は確か主人公が来るはずだったな。数か月ぐらいは滞在することになるだろう)」

 

そんなことを大地が考えている間に扉が開かれた。

 

シュラが起きてきたようだ。もっとも、彼は一度、大地たちの会話を盗み聞きしていたのだが・・・

 

「!・・・起きたのか」

「・・・・・・あぁ」

 

「・・・目が覚めたならさっさと自室なり親のところなり、戻ってしまえ。ここで戦うつもりかもしれないが、イェーガーズ本部で問題を起こせばエスデス将軍もそれなりに動くぞ」

 

大地はシュラの動きを警戒しながらそれだけ呟いた。

 

だがシュラは動かない。大地のほうを見つめたままだ。

 

「・・・何だ。何か言いたいことでもあるのか」

「・・・お前らよぉ、どこから来たんだ」

 

「・・・・・・帝国の外からだ。それがどうした」

「・・・」

 

シュラの質問に大地は真実を混ぜた嘘で答えるが、シュラはまだ納得した顔をしていない。

 

「まだ何か聞きたいことでもあるのか」

「お前ら、自分の子供を探してるの本当なのかよ」

 

「・・・あぁ。それは本当だ。だがお前には関係ないだろう。人質にでもするつもりなら諦めろ、お前では見つけられない」

 

大地はため息を吐きながらシュラに言い切った。

しかしシュラはまだ部屋に居続ける。

 

「・・・・・・お前ら、未来予知の帝具か何かでも持ってるのか?それとも頭がイカれてやがんのか?」

 

シュラの言葉に大地は疑問符を浮かべた。

いきなり何を言われたのか、そもそもシュラが何故そんな質問をしたのか理解していないらしい。

 

「なんのことだ」

「・・・昨日話してただろ、帝国が滅びるとかなんとかな」

 

シュラの言葉に大地は沈黙した。まさか聞かれているとは思っていなかったのだ、仕方ないだろう。

ここで嘘だと誤魔化してもいいが、嘘なら何故そういった会話をしていたのかを指摘されるのは目に見えている。

 

ただ、本当に帝国が滅びるのだと訴えかける演技は彼にはできそうになかった。

 

・・・本当にこの国は滅びるのだから、嘘ではないからだ。

 

「・・・・・・なんで黙るんだよ、なんか言えばいいだろ」

「・・・ただの会話だ、気にするな。それとも不敬罪か何かで捕まえるつもりか?残念だが、それだけで捕まえられるほどではないはずだ。」

 

それだけを大地は言って、シュラとの会話を断とうとする。

 

「・・・・・・もう一度聞くけどよ、お前らはどっから来たんだよ」

「・・・帝国の外だと言っただろう」

 

「・・・俺も世界中回ったんだよ、東の果て以外はな。でも、てめぇらみたいに質の良い服を着てる国は無かった。あんな体術もな」

「・・・」

 

シュラはもう一度、大地へと尋ねる。

 

「お前ら、どこから来やがった」

 

 

 

 

 

_______一方、帝都宮殿内にて

 

 

皇帝はいつも通り、オネスト大臣との朝食を食べていた。いつもならオネストに話しかけて会話が弾むのだが、今日は暗い顔をして食べる速度も遅い。

自分に話しかけずに静かに少しずつ食べる皇帝の様子を見かねて、オネストは自ら話しかけた。

 

「陛下、今日はどうなされましたか?具合でも悪いので?」

「っ、い、いや・・・その・・・別になんでもない」

 

「いつもは私と楽しく会話してますし、美味しそうに食事をなさるでしょう?もしかして料理に問題でも・・・」

「違うぞ、料理はいつも通り美味しいのだが・・・」

 

皇帝は言葉を濁して目を逸らした。

まるでオネストを怖がっているように・・・

 

「・・・陛下、誰かに何かを言われましたか?」

「・・・い、言われたわけではない。なんでもないんだ」

 

「陛下、何かあったなら私にご相談してください」

 

オネストの言葉に、皇帝は少しだけ言い淀みながら彼へと言った。

 

 

 

「・・・余の両親を殺したのは、お前か?」

 

 

その言葉に、オネストは数秒間沈黙した。しかしすぐに涙を流しながら「陛下・・・!」と皇帝への元にやってきた。

 

「私がそのようなことをすると思っているのですか・・・!?私は陛下のご両親にもお仕えした身です、そのようなことは決して・・・!」

「・・・そ、そうだな。オネスト、お前がそんなことをするはずが無いよな?」

 

「ですから陛下」

 

涙を流していたことも無かったかのように、オネストは皇帝へともっと近づく。

 

 

 

「誰が、そのようなことを言ったのですか?」

 

 

 

 


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