久多良木夫妻の帝国漫遊記   作:椿リンカ

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「お前が死んでも何も変わらない。 だが、お前が生きて、変わるものもある。」

出典は忘れたのですが、世の中わりとそういうもんだったりする


久多良木夫妻の知らぬところで物事は進む

 

特殊警察イェーガーズ所属、ランは元教師という異例の職歴がある。

彼のように民間の職業に就いていた人間が軍属に転職するのも珍しく、帝具所有者になったこともそれを助長させた。

結果的にはイェーガーズを編成するさいに、オネスト大臣が目を付けて更に昇進したわけだが。

 

「・・・・・・」

 

ラン自身、教養もあり軍事や政治的な知識も高い。

この腐った帝国を内部から変えるために努力しているつもりだ。

 

・・・それ以上に、自分の生徒たちを殺した殺人鬼を殺したいと思っていた。

 

それは今も変わらない

 

だからこそナイトレイドのせいにして闇討ちしようと思っていたのだ。

だが、陽子が何かに勘付いていることに気が付いた彼はその日に行動を起こすことをやめたのだ。

 

 

 

ランは陽子に引き止められた翌日、エスデスの執務室へと足を運んだ。

 

「エスデス将軍、少しよろしいでしょうか」

「かまわん。入れ」

 

エスデス将軍に声をかけ、ランは部屋へと入ってくる。

 

「実は話があります。お時間はありますか?」

「・・・大臣のところへ行くまで時間があるからな。かまわん、話せ」

 

ランはエスデスの許しを得て、自らが帝具を持つに至った理由や復讐する相手がいることを彼女へと語った。

それと同時に、彼は陽子に引き止められたこともエスデスへと語る。

 

「久多良木夫妻はスパイには見えませんし、そう思わせる行動を見かけてはいません。ですが・・・」

「・・・帝国のことや、我々のことを察している部分があると?」

 

「はい。陽子さんのを偶然だと思っていても、大地さんがワイルドハントに臆さない態度や、イェーガーズを頼りにしようと思っていたのも・・・何か引っかかるんです」

「・・・」

 

ランの言葉にエスデスも頷き、二人で”久多良木夫妻は何者なのか”を話し始める。

 

 

イェーガーズは確かに帝都民からの支持は得ていたし、ワイルドハントは帝都を荒らすような真似をしていた。

久多良木夫妻は外の国からやってきていることも考慮するにしても・・・普通の旅人にしては、何か違和感がある。

 

ともあれ、二人から殺気を感じることも無ければ、そこまでの強者には見えない。

何かを探る様子も無いのだが、それにしてはこちらの事情を何かしら知りすぎている気はする。

 

 

「・・・違和感は感じるが、スパイや暗殺者として紛れ込んだにして考えるのも早計だ。」

「はい」

 

「・・・それと、ワイルドハントのことだが・・・」

「・・・」

 

「お前が用意した”証拠”を大臣に提示しよう。殺人鬼のチャンプとやらの処遇も考えさせる」

「ありがとうございます」

 

ランが用意した証拠

 

これは秘密警察ワイルドハントのリーダー、シュラがDr.スタイリッシュの作り出した新種の危険種を放逐したことである。

 

「しかしよく報告出来たな」

「・・・陽子さんに引き止められましたからね」

 

ランの言葉にエスデスは数瞬、返事を遅らせる。

 

「・・・・・・クロメから聞いたが、どうやら子供の一人を亡くしているそうだぞ?」

「!」

 

「詳しい話は知らん。他人の感傷なぞ知らぬが、もしかしたらお前ぐらいの年齢の子だったのかもしれないな」

「・・・」

 

 

 

 

一方その頃、ドロテアの研究棟______________

 

 

「それで2回も一般人に負けたんですか?」

「・・・」

 

ワイルドハントのメンバーが少し離れた場所で遅めの朝食を食べている中、シュラは実の父親であるオネストに叱られていた。

 

それもそうだろう、1回だけならまだしも、2回も謎の一般人に負けたのだ。

 

秘密警察のリーダーとしても、この帝国の大臣の息子としても・・・オネストとしては呆れるという選択肢しか無かった。

 

「どこの田舎者か知りませんが、少し遊びすぎてなまっているようですね」

「親父!待ってくれよ、実力なら俺のほうが・・・」

 

「言い訳は見苦しいですよ」

「っぐ・・・」

 

オネストはそう言いながらも、ちらり、とワイルドハントのメンバーを一瞥しつつシュラへと尋ねた。

 

 

「ところで、その一般人が連れていた女性は美人らしいですね」

 

 

「親父、やめとけ」

 

 

先ほどのことも忘れたかのようにシュラは真顔でオネストへ返答した。

 

「その気になれば適当な罪で捕まえたらいいんですよ。なぜそんな・・・」

 

「おっさんのほうじゃねぇ、女のほうはやめてくれ親父!」

 

疑問符を浮かべるオネストに対してシュラは掴みかかる勢いでオネストに詰め寄って制止した。

 

 

 

「摩り下ろされたくねぇだろ!!!」

 

 

 

「何をですか!!?」

 

 

 

シュラの必死な制止に対して、さすがのオネストもツッコミせざるえなかった。

 

なお、このやりとりを見ていたエンシンも思い出して顔を青くしていた。

 

「エンシン殿、本当に何があった」

 

「あのババア、あの時まじでおろし金持ってたんだよ、ただの脅しじゃねぇ次に倒れたらおろし金で摩られる」

 

「イゾウ、エンシンはどうやら精神的に参っているようじゃな」

 

イゾウに声を掛けるドロテアであったが、正直その「謎の一般人の妻であり、おろし金を持っている美人」に興味を持つのであった・・・

 

 


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