「兄貴、子守って結構大変なんだな。神さまやってた時もこんな感じだったのか?」
「そうだなぁ。あの時は初めてやる子守に四苦八苦してたよ」
俺たち兄弟はミニリアスとミニアーシアを子守していると、二人が『お外に行きたい!』とせがまれて現在外出中だ。
俺がミニアーシア、イッセーがミニリアスの手を繋ぎながら歩いている。小さい子供と逸れないように手を繋ぐのは当然の事だ。
今回の外出の目的は近所のコンビニ。アイスでも買って与えれば満足するような気がするとイッセーがいったので、俺は反対する事無く了承した。
「しかしまぁ、高貴でお姉さまな部長も小さくなると、普通の幼女そのものだな。兄貴もそう思わねぇか?」
「確かに。だが俺はお淑やかなアーシアも小さいと甘えん坊で少々わがままなのはちょっと驚いたよ。ま、可愛いからOKだけど」
「あ、やっぱり?」
思った事を口にするイッセーと俺。だってしょうがないだろ。この小さい二人は凄く可愛いんだからさ。
特にミニアーシアなんて、弱々しい握力でも絶対に離さないように俺の手をギュッと握りながら、時々不安そうに上目遣いで見てくる。この子は絶対に守るぞって保護欲が更に沸き立つんだ。
因みにこの光景を俺は密かにカメラで撮っている。こんな可愛いアーシアを撮らない訳にはいかないからな。ついでにサーゼクス用としてミニリアスも撮っているが。
「あっ! イッセーとリューセー先輩だ!」
すると、背後から聞き覚えのある声が聞こえた。振り返ると、そこにはイッセーの悪友二人、松田と元浜の姿がいる。
あの二人を見るのはちょっと久しぶりだな。ミルたんとローズさんについて文句を言われた時以来だ。イッセーは同じクラスメイトだからいつも会ってるが。
「二人して何をしている――って、子供!?」
「おいおい、その幼女はなんだ!?」
二人はリアスとアーシアを見て驚いていた。まあ、それは当然だろうな。
「ま、まさか、イッセーとリューセー先輩の子供か!?」
「髪の色からして、イッセーがリアス先輩で、リューセー先輩はアーシアちゃんとの……!?」
何かおかしな推測をしだしてきたな。俺とイッセーの子供かよ。
「俺が子持ちなわけねぇだろ!」
「失礼な奴等だな。せめて俺の妹って言ってくれよ」
「いやいや兄貴! いくらなんでもそれは無理があるから!」
松田と元浜に突っ込みを入れるイッセーだったが、俺にも突っ込みを入れられた。お前はどっちの味方なんだ?
取り敢えずは適当に誤魔化すも、アイツ等は聞く耳持たずに邪推を続ける。
「見た目から三、四歳だ……。いまイッセーは十七で、リューセー先輩は十八だろ? ……リューセー先輩はともかく、イッセーは……ギ、ギリギリいけるのか?」
「マジかよ!? リューセー先輩は別として、イッセーの野郎は経験ないように見せかけておいて、陰で俺達を笑っていたというのか……?」
例えようのない険しい表情をしながら、イッセーを見つめる松田と元浜。
と言うか、どうして俺はスルーなんだ? イッセーはダメで、俺は問題ないのか?
「ちょ、ちょっと待てお前ら! 何の計算をしている!? 何を想像している!? ってか何で兄貴はOKなんだよ!?」
「緊急招集だ! 俺だ! 『ケースD』発生! 『ケースD』だよ!」
イッセーの突っ込みを無視する松田はケータイ電話を取り出してどこかに連絡している。どこに連絡してるんだ? あと『ケースD』ってなんだ?
カシャッ!
ミニリアスとミニアーシアをスラフォで写真を撮る元浜。おい、何撮ってんだよ。
「松田! 証拠は押さえた! いざ、『イッセー撲滅委員会』の会議場へ!」
「よっしゃ! イッセー! 会議が終わったら覚悟しろよ! 俺達は常にお前の不幸を願っているんだからな!」
早足にこの場を後にするイッセーの悪友二人。
「おい! 撲滅委員会とか不幸を願うとかなだってんだ! 待て! おまえら、親友を置いてどこに行く!」
『死ね!』
遠くから聞こえてきたのは無情な一声。
「全く、アイツ等ときたら」
「どうする兄貴!? このままだと俺、わけも分からないまま殺されるんだけど!?」
「お前がアイツ等程度に殺されるわけないだろ」
「社会的な意味でだよ! このままだと兄貴にも要らんとばっちりを受けるんだぞ!?」
「それは流石に面倒で嫌だな。ってことで、アイツ等には悪いが――」
俺が軽くパチンと指を鳴らすと――
『なぁぁぁぁぁぁっっっっ!? お、俺のスラフォがぁぁぁぁ~~~!!!』
『俺のケータイも壊れたぁぁぁ~~~~!!!』
遠くから絶望のような悲鳴が二つ聞こえた。
「兄貴、今のってもしかして……」
「アイツ等のスラフォとケータイは壊しておいた。同時にミニリアスとミニアーシアの証拠写真も消えたから、これであの二人が撲滅委員会とかに何を言っても戯言にしかならない。それに……」
「それに?」
「可愛いミニアーシアの写真を撮っていいのは俺だけだ」
「…………最後の台詞がなけりゃ頼もしい兄貴だと思ってたんだけどな」
☆
コンビニから帰ってきた俺たち兄弟はリビングにあるソファーに座っていた。
「つめたいね」
「おいちい」
ミニリアスとミニアーシアはアイスを美味しそうに食べていた。言うまでもないが、この二人の可愛いところもカメラに記録している。写真にするのが楽しみだ。
「ってか兄貴。いくら証拠写真を消せたつっても、どのみち俺がクラスで変な噂が立つ事になるんじゃねぇか?」
「ま、そこは俺が上手くフォローしておくよ」
今後の事を話していると、突如アザゼルが現れた。
「よう。解除方法が分かったぜ」
探検隊が着るような服装をしているアザゼル。西洋剣と鉄の盾をイッセーに渡している。
「魔の力を秘めた材料を集めるぞ。それらに術的な調合をする事で幼女化を解除する薬が出来上がる。二人とも、行くぞ!」
アザゼルは楽しげにあらぬ方向へ指をさす。
「へ? 行く? どこにですか?」
「その前に説明しろ。どう言う経緯でそうなったんだ?」
疑問の尽きないイッセーと説明を求める俺に、同じく帰ってきていた祐斗が説明をする。
簡単に言うと、イッセーの部屋にあった魔力の痕跡から術式が分かり、それを逆算して解除術式を解読中。それさえ分かれば時間の問題らしい。更にアザゼルからの補足で、解除薬も同時に作る為に材料集めをしようとなったみたいだ。
「成程。その材料集めの為にイッセーを連れていくって事か」
「そういうこった。ってな訳で
最後の台詞でアザゼルの狙いが読めた。恐らく材料集めと言う名目で、材料元となってる魔獣をイッセーに戦わせるつもりなんだろう。
どんな魔獣と戦わせるのかは知らないが、以前に諸国を旅してた時に色々な戦闘経験をさせたイッセーなら問題ない。
因みに今回の材料集めに朱乃もいくようだ。アザゼルに呼ばれて不機嫌そうに眉を吊り上げていたが、リアス達の為ならとイッセーの腕に絡んで行く事となった。イッセーはイッセーで朱乃の胸が肘に当たってる事で少しだらしない顔になってるが。
「先生、私は?」
いつの間にか戻ってきたゼノヴィアがギャスパーを引き摺りながら訊いてくる。随分とやられたようだな、ギャスパー。
「お前は引き続きギャスパーを鍛えてろ」
「何だったら聖剣デュランダルの波動を避ける練習をさせておけ」
アザゼルに続いて俺が言うと、ゼノヴィアは急に気合いが入った顔をする。
「了解しました! さあ行くぞ、ギャスパー! 次は主から……ではなく、隆誠先輩から命じられた練習をするぞ!」
「ヒィィィィィッ! 今度こそヴァンパイアハントされちゃうぅぅぅ! リューセー先輩、もう許してくださいぃぃぃっ!!」
顔面蒼白のギャスパーを引き摺りながら、ゼノヴィアはリビングを後にした。あとギャスパー、それが済んだらアーシアを泣かせた罪はチャラにしてやるから甘んじて受けるんだな。
「いっちぇー、どこにいくのー?」
「……おいてかないでぇ」
ミニリアスとミニアーシアがイッセーのズボンの裾を引っ張る。
「君達はお兄ちゃんと一緒にお留守番だよ」
「いやー。いっちぇーといっしょがいいー」
「……うぅ」
ミニアーシアはある程度俺に気を許した事もあってイッセーから離れるも、ミニリアスだけが離れなかった。大好きなイッセーと一緒にいたい気持ちは分かるが、同行させるのはちょっとなぁ。
「リアスは連れてくから、アーシアは
「………分かった。だがもし掠り傷でもつけたら、即行でサーゼクスに報告するからな」
「……肝に銘じておこう」
サーゼクスがシスコンだと知ってるのか、アザゼルは少し冷や汗を流しながら頷いた。
アイツのシスコン振りは妹談議の時によく分かったから、もしミニリアスに傷を負わせる原因がアザゼルだと知った途端、怖い笑みを浮かべたまま容赦なく全力で『滅びの魔力』をぶっ放すだろう。これは確信持って言えるぞ。
☆
「Amazing grace how sweet the sound.That saved a――おや? 眠ってしまったか」
「すぅ……すぅ……」
ミニアーシアの遊び相手をしていた俺だったが、彼女はイッセーが未だに帰ってこない事で段々不安顔となっていた。更には泣きそうな感じだったので、俺はミニアーシアを落ち着かせようと子守唄をやる事にした。
教会出身のアーシアには聞きなれてる聖歌が良いだろうと思った俺は、
聖歌から賛美歌に切り替えて、賛美歌の代表の一つ――アメイジング・グレイスを歌っていると、ミニアーシアは聴いてる最中に眠ってしまった。泣くよりは断然良い。
俺は元の姿に戻らないまま、眠ってるミニアーシアの頭を優しく撫でた。
「う~ん……いっちぇーさぁん……」
「やれやれ。やっぱり
どんな夢を見ているのかは知らないが、随分と幸せそうな寝顔だ。
一先ずは部屋のベッドで寝かせようと思った俺は、起こさないようにそっとミニアーシアを抱かかえてリビングを出ようとする。
「隆誠先輩、ギャスパーの鍛錬は……って!」
「おっと」
戻ってきたゼノヴィアが神の姿となってる俺を見た途端に大声を出そうとしたので、即座に彼女の口を片手で塞ぐように覆う。
「この子がついさっき眠ったところだから、大きな声は出さないでくれ。いいな?」
「……………(コクコク!)」
小さく言う俺に無言で頷くゼノヴィア。彼女が静かになった事を確認した俺はすぐにアーシアの部屋へ移動する。
そっとベッドに寝かせ、ミニアーシアが起きた時に反応する術式を施した後、再びリビングへと戻る。
「悪かったな、ゼノヴィア。いきなり口を塞ぐ事をしてしまって」
「い、いえ、私こそ申し訳ありませんでした……」
俺を見た途端にゼノヴィアはかなり緊張した様子だった。何でそんなにガチガチになってるのかと疑問に思ったが、それはすぐに解消した。今の俺は神の姿になってるからだと。
すぐに人間の姿に戻すと、ある程度の緊張が解かれたように安堵の息を漏らすゼノヴィア。
因みにギャスパーはリビングの隅っこで倒れていた。完全なKO状態で。取り敢えずお疲れさん。
「そんなに
「そ、そのような事は……!」
「だったら、何故さり気なく
俺がある程度の距離まで近づいた途端、ゼノヴィアはすぐに一歩下がる。こうなってるのは俺の正体を知った以降からだ。
理由は分かってる。彼女は正体がバレる前まで、
俺は全然気にしていないと何度も言ってるんだが、ゼノヴィアはそれでも自分が許せないようだ。日々祈り続けていた
ゼノヴィアが極端な性格なのは知ってる。だが、いつまでもギクシャクしたままでは俺自身よくない。と言うより、さっさといつもの先輩後輩の関係に戻りたいのが本音だ。
だからその為には――
「ゼノヴィア、体力はまだ有り余ってるか?」
「は、はい。それが何か?」
「少し身体を動かしたいから、剣術の相手をしてくれ。祐斗には内緒で、な」
「っ! 分かりました!」
剣術の特訓で距離を縮める事にした。
自分で言い出したのもなんだが、物凄い食いつきだったな。まぁ、これで仲が良い先輩後輩の関係に一歩近づけるなら良しとしよう。
そして――
「も、もう一度……お願いします!」
「結構。だがそんな使い方じゃダメだ。もっとデュランダルに注ぐオーラを研ぎすませろ」
「はい!」
剣術の特訓ついでとして、デュランダルの指導も行った。俺の指導にゼノヴィアはめげる事無く素直に聞き入れている。
更に俺がゼノヴィアに修行相手をしてる最中――
「僕が解読中に抜け駆けしてリューセー先輩と修行するなんて、ねぇ?」
「それは誤解だぞ、木場。私は隆誠先輩から剣術の相手をして欲しいと誘われたんだ」
「……はぁっ。祐斗、解読が終わったなら相手をするよ」
どこからか嗅ぎ付けた祐斗にバレてしまった。
このまま祐斗を除け者にすれば拗ねるだろうと思った俺は、二人纏めて相手をしようと決めた。未だに寝ているミニアーシアが起きたら即行で中断するけど。
それはそうと、イッセーの奴は上手くやってるかな? アザゼルに振り回されてなければいいけど。
次回の更新で完結する予定です。