夏休み。いつもだったらイッセーを連れて旅をしているが、オカ研に入部してる他に
……まぁソレはどうでも良いとしてだ。現在、兵藤家でちょっとした緊急事態が発生してる。それは――
「ぅぅ……」
「いっちぇーのお膝ー」
何故か幼女化しているアーシアとリアスがいるからだ。今はオカ研全員がリビングに集まって、面妖な様子で幼女二人を見つめている。
因みにアーシアはイッセーの後ろに隠れ、リアスはイッセーの膝の上に乗っている。見るだけで二人はイッセーだけにしか気を許してないようにしか見えないほど懐いている。
「しかし、部長とアーシアに似ているな」
ゼノヴィアが首を捻りながら二人を見てそう言う。
「兄貴、この二人のオーラってどう考えても部長とアーシアにしか思えないんだけど」
「考えるも何も、間違いなく幼児化したリアスとアーシアだ」
「あ、やっぱり」
訊くまでもないだろうと答える俺に苦笑するイッセー。どうやら俺に質問する前から分かってはいたようだ。
「確か悪魔って、ある程度歳を重ねると自分の好きな見た目に変えられる術があるって聞いたけど……部長はともかく、何で人間のアーシアまで変わってるんだ? 悪魔が使う術は人間にも有効なのか?」
「俺は悪魔が使う術に関して専門外だから何とも言えないな」
いくら
「悪魔関連について朱乃はどう思う? 例えば自分の容姿を変えたいって願う人間とかいたか?」
「いると思います。ですが部長や眷族である私たちには対応出来ませんので、そういう願いがありましたら専門の悪魔に頼んでいます」
お茶を淹れながら答える朱乃の返答を聞いた俺は成程と頷く。つまり、リアスは容姿を変化させる術は未だ使う事が出来ないって事か。そうなれば大体の予想が付いてきた。
「ですが、容姿を変える術を使っても記憶は失わないのですが……」
朱乃はリアスとアーシアがどうして記憶が失っているのかは流石に分からないようだ。
「おいアザゼル、まさかこれって……」
「ああ。
「……やっぱりそうか」
確認を込めて問うと、お茶を啜っているアザゼルがそうだと頷いた事に俺は嘆息した。
「どう言う事だ兄貴? 術のリバウンドって?」
「早い話、使った術がそのまま自分に返ってくるって言うミスの事だ。前に旅した際に見た事あるだろ? 強力な術を使おうと失敗して自滅した魔女とか」
「………ああ、いたいた」
旅をしていた頃に遭遇した魔女の事を思い出したイッセーは理解した。術のリバウンドがどうなったのかを。
因みに、その魔女は下級悪魔と契約した事で少し強力な魔術が使えるようになり、見知らぬ一般人を苦しめていた外道だった。言うまでもなく俺とイッセーで成敗したが。
だが俺とイッセーに倒される寸前、追い詰められた魔女は最後の切り札として強力な炎の術を使おうとするも、術式の展開中に俺達を殺そうと強くイメージしすぎた為に失敗した。その結果、術の反動で自ら火達磨となって辛うじて生きていたが、魔力や記憶も完全に失ってしまう結果となった。更にソイツは魔力を失った事によって一般人同然となった為、現在刑務所で服役中で終身刑となっているので一生出てこられない。
「そう言えば、イッセーくんはリューセー先輩と修行の旅をしていたんだったね」
「ああ。兄貴との二人旅は必ずといっていいほどにスリルがあるから、時々参っちまうよ」
「だとしても、主と旅をするなんて教会にいた私からすれば羨まし過ぎるよ」
祐斗とイッセーの会話にゼノヴィアが心底羨ましそうに言う。
確かに考えてみれば、元とは言え
「まぁそれはいいとしてだ。術の反動で、二人が幼児化した際に記憶も一時的に封じられたと見ていいだろう。人間である筈のアーシアは恐らくリアスが使った術に関わったか、もしくは巻き込まれたんだと思う。だがリアスほどの悪魔が失敗するなんて、らしくないと言うか……」
「何か他の事を考えて失敗しちまったんじゃないか? まぁ何はともあれ、元に戻すには一定の時間が経つのを待つか、アンチスペルの能力者でもいないと無理だな」
俺の台詞にアザゼルが続けるように言う。確かに今のリアス達を元に戻すのにはアザゼルが言った二つの方法しかない。
一通り聞いたイッセーがミニリアスへ視線を送ってると、怪訝そうに首を傾げるだけだった。
「いっちぇー、変な顔ー」
サーゼクスから聞いたり写真を見せてもらったが、実物を見ると可愛いねぇ。サーゼクスが溺愛したくなる気持ちが分かるよ。
「うぅ、あーしあもお座りしたい……」
だが俺としてはミニアーシアの方が可愛い! いじらしいというか、保護欲が凄まじいほどに沸き立ってくるよ!
「良かったら俺の膝の上に座るかい、アーシア?」
「……うぅ」
イッセーの隣にいる俺が怖がらせないように優しく声をかけるも、アーシアはイッセーの背中から離れようとしなかった。
……………………乗ってくれないか。どうやらミニアーシアは思っていた以上に人見知りが激しいようだ。………………べ、別にショックなんて受けてないからな。…………ず、ずっと背中に引っ付いてるイッセーに嫉妬なんてしてないからな。
「アーシア、この人は俺のお兄ちゃんだよ。全然怖くないからさ」
「……あぅ」
俺の心情を察したかのようにイッセーが言うと、ミニアーシアはトテトテとゆったりした歩行をして――
ポスッ
「……おにーちゃ?」
ゴフッ! こ、これは……何て素晴らしい響きだ!!!! 今なら妹を溺愛していたサーゼクスの気持ちが痛いほど分かる!!!
純真無垢な瞳で首を傾げながら言ってくるミニアーシアに、俺は思わず吐血しそうだった。今なら死んでも後悔が無いほどに。
「……イッセー先輩、リューセー先輩が固まってるように見えるんですが」
「多分だけど、ミニアーシアに『お兄ちゃん』って呼ばれて感動してんじゃねぇのか?」
イッセーの予想は大当たりだ! 今の
「ぶ、部長とアーシア先輩……とても可愛らしいです……」
さっきまで隅っこにいたギャスパーが恐る恐ると近寄りながら言ってきた。
「おう、ギャスパー。二人を笑わしてみなさい」
「泣かせたら承知しないからな」
先輩風を吹かして言うイッセーに警告する俺。ギャスパーは驚きながらも渋々と頷く。
持っているバッグをゴソゴソと探って取り出したのは……紙袋だった。
(おい兄貴、何か嫌な予感しないか?)
(奇遇だな。俺もそう思っていたところだ)
イッセーと俺が目で会話してると、ギャスパーはズンッと人差し指と中指で紙袋に穴を空けた直後――
ズボッ!
勢いよくソレを頭にズッポリと被ったよ!
「ほーら、部長、アーシア先輩。紙袋ですよー。これを被れば勇気百倍です」
紙袋の穴の空いた部分から赤くギラギラした眼光が二人の幼女に向けられる。
「……ふぇ」
「……ぃや」
ミニリアスはイッセー、ミニアーシアは俺にしがみ付いてブルブルと震えていた!
その瞬間――
「おおおおーい! コラ! ギャスパァァァァァァァッ!」
「何やってんだお前はぁぁぁぁぁぁぁっ!」
俺たち兄弟は紙袋の変質者を(加減した)気合砲でふっ飛ばした。
「な、ななな、何をするんですか……!?」
遺憾そうに意義を唱えるギャスパーだが、そんなのは俺達の知った事じゃない。
「何をするんですか、じゃねぇだろう!」
「何が勇気百倍だ!? 紙袋を被ってリアスとアーシアに近寄るな! 完全に変質者だろうが!」
「そ、そんな……。ただ僕は紙袋を被る事で勇気が溢れて――」
「溢れるわけねぇよ! 兄貴の言うとおり、傍から見たら幼女に詰め寄る変質者じゃねぇか! ちくしょう! お前に頼んだ俺達がバカだったよ!」
「全くだ!」
「……うぅ、怖かったよぉ」
「怖くないもの! りあすは泣かないもの!」
ブルブルと震えているミニアーシアはギュッと俺にしがみ付き、強がりを口にしながらもイッセーにしっかり掴まっているミニリアス。可愛いね可愛いね!
「おー、よしよし。大丈夫」
「お兄ちゃんとイッセーがギャスパーを退治したからねー」
イッセーはよしよしと頭を撫で、俺は優しく抱きしめる。
「うぅ、イッセー先輩だけじゃなくリューセー先輩も酷い。引き篭もってやるぅぅ!」
どこから取り出したのかは知らないが、ギャスパーは大き目の段ボール箱に入って引き篭もってしまった。
引き篭もるのはダメなんだが、今回は幼女二人を泣かせたからスルーさせてもらう。特に妹分のアーシアを泣かせた罪は重い!
「しかし、部長とアーシアちゃん可愛いですわね。このまま私とイッセーくんで二人を育てるのも――」
「リアスは構わんがアーシアは俺が育てるぞ、朱乃」
「おい
俺の発言にアザゼルがドン引きするように頬を引き攣らせていた。
「一応お訊きしますが、お父さんとしてですか?」
「父親はもう経験したから、どうせなら兄として育ててみたい」
息子と娘はいても、妹を育てた事はないからな。弟はイッセーでもう経験済みだし。
「……リューセー先輩、以前からアーシア先輩を大切にしてるのは知ってましたが、小さくなった事で完全なシスコンになってしまったようですね」
「ハハハハ、リューセー先輩の意外な一面を見た気がするよ」
「今更だが、部室で初めて会った頃の私がもしアーシアを断罪してたら、主に殺されていたかもしれないな」
「確かに兄貴ならやりかねないな。現にアーシアに対して不快な言動をしたフリードを何の躊躇もなく殺そうとしてたし」
と、小猫と祐斗とゼノヴィアとイッセーが話している。
すると、さっきまで座っていたアザゼルが立ち上がって言う。
「ま、解除する方法を調べておいてやるよ。
アザゼルの一声に俺を除く部員全員が合意した。俺も一応合意するが……どうせならこのままアーシアを育てたいと言う邪な欲求が出てるんだよなぁ。
そんな中、朱乃はリアスの魔力の痕跡を調べようと、術が発動したイッセーの部屋へ行く。祐斗と小猫は別方面から調べようとリビングを出る。続いて魔力について専門外のゼノヴィアは、ギャスパーを鍛える為に段ボールを担いでリビングを出ていく。最後にアザゼルは俺達にミニリアスとミニアーシアを任せると言い、転移で姿を消した。
そしてリビングには幼女二人と共に残されている俺とイッセー。
「……………兄貴、俺達は子守りか?」
「……………ま、修行だと思ってやってみろ。こう言うのは人生の修行とも言えるからな」
「いっちぇー、遊んで」
「おにーちゃ、だっこぉ」
戸惑うイッセーに、俺はアーシアを抱っこして相手する事にした。
そうだ。この機会に二人の姿を写真に収めておくとしよう。サーゼクスやセラフォルーには今後やる予定の妹談議にも使えると思うし。
ミニアーシアの可愛さに完全シスコン化したリューセーでした!
リューセーに対するイメージが変わってしまったと思う読者の方々、誠にもうしわけありませんでした!