女魔術師共に囚われてたギャスパーと小猫ちゃんを救出した後、サーゼクス様達がいる新校舎へ向かってる途中、俺達は信じられないものを見て立ち止まっていた。
「リューセーが……嘘、でしょ?」
「そんな、リューセー先輩が!」
「……リューセー先輩……!」
部長やギャスパーに小猫ちゃんが呆気にとられて二の句が継げない状態だ。
「………………」
部長達と違って俺は完全に言葉が出なかった。
相手が見知らぬイケメン悪魔とは言え、兄貴があそこまでボコボコにされた挙句、何の抵抗もなく地面に激突させられるなんて俺にはとても信じられなかった。
いつもどんな強敵も余裕で勝ってた兄貴がだ。マジで信じられねぇ。
激突した地面は巨大なクレーターとなって、その中心にはうつ伏せで倒れてる兄貴がいた。制服の上半分はボロボロだが、オーラが全く減ってないから死んではいない。
「う、うう……ててて……あ~~、今のは凄く効いたぁ~……。ったく、大事な制服がボロボロじゃないか」
『ええっ! 嘘っ!?』
すると、身体をピクリと動かした後、兄貴はすぐに起き上がった。立って早々に埃塗れとなってるボロボロの制服を手で払ってる。
地面に激突しといてもピンピンしてるとは流石だな。部長達がまた別の意味で信じられないように驚いてる。
……まぁ、弟の俺は大体想像はしてた。あの兄貴があの程度の攻撃で死ぬ訳が無いのは分かってたし。
「おやおや、まだ生きていましたか。意外と頑丈なんですね、貴方は」
いつの間にか地面に着地したイケメン悪魔が呆れた感じで兄貴に向かって言ってた。
「ふんっ。この程度で死ぬほど俺の身体は柔じゃないんでな」
心外と言わんばかりに言い返す兄貴。
………だよなぁ~。大岩を簡単に砕く俺の全力攻撃を受けても平然としてる兄貴が、アレ位で死にはしない。
「しかしラディガン、アンタ凄いな。たった一回の変身で、魔王クラスに匹敵する実力を持つとは恐れ入ったよ」
変身!? あの悪魔野郎、変身してあの姿なのか!?
そう言われりゃ、確かにあの悪魔野郎の姿は俺が想像してる理想的な悪魔の姿になってるな。悪魔である部長は俺や兄貴と全く変わりない人間の姿をしてるから、それが当たり前だと思ってた。
「ラディガンって……っ! まさかラディガン・アルスランドなの!?」
「え? 部長、アルスランドって確かエリーの……」
「ええ。イッセーの言うとおり、彼はエリガン・アルスランドの実の兄よ」
「………マジっすか?」
嘘ぉぉおおおおお~~~~!!! あのイケメン悪魔がエリーの兄だとぉぉぉ~~~~!!!!????
俺が内心メチャクチャ驚いてると、兄貴とイケメン悪魔――ラディガンが気付いたようにコッチを見てくる。
「誰かと思えば、赤龍帝にリアス・グレモリーと眷族たちですか。しかも……捕らえたはずの吸血鬼を取り戻しましたか」
「ひっ!」
ラディガンが事情を察したかのように見てると、目が合ったギャスパーは小さい悲鳴をあげながら俺の後ろに隠れようとする。
ってかギャスパー、いくら怖いからって俺の背中に隠れんな。男ならもっとシャキっとしろよ。……まぁ、あんなバカでかい魔力を持った悪魔と目が合ったら怖がるのは無理もねぇけど。
「ま、私にはどうでもいいことです」
そう言ってラディガンはすぐに視線を兄貴へと移す。俺たちがギャスパーを取り戻した事を本当にどうでもいい感じで言ってた。普通なら顔を顰めるはずなんだが。
「イッセー達がギャスパーを助けたと言うのに随分と冷静だな」
「私は憎い貴方を殺す為に来ただけにすぎません。魔術師共がどうなろうが、私の知った事ではありません」
おいおい、アイツは兄貴を殺す為に来たのかよ。それと憎いってどう言う事だ? 兄貴はアイツに何か恨まれるような事でもしたのか?
「それはそうと、貴方は自分の身を心配したらどうですか? もう少ししたら死ぬのですから」
「……………」
ラディガンは話題を変えると兄貴に向かって嘲笑を浮かべる。
確かにさっきまでの戦いを見て、兄貴はラディガンにかなり押されてた。兄貴のオーラとラディガンの魔力を比べても、圧倒的にラディガンが上だ。
状況から考えて、ここは俺も加勢した方が――
「イッセー、手を出そうとするな。コイツは俺がやる」
――と思いきや、兄貴がそう言ってきた。
「おや? 赤龍帝と一緒に私と戦わないのですか?」
「アンタ相手に二人掛りでやる気はない。と言うか、こんな無様な姿を
「下らない。そんな詰まらない意地の為に――」
「じゃあアンタが俺の立場だったら妹のエリーに助けを乞うか? ま、アイツは強い男が好きで今も俺にゾッコンだから、そんな気なんか無いだろうけど」
「っ……! どうやら相当死にたいようですね」
ゴウッ!
げっ! 兄貴の台詞がトリガーになったのか、ラディガンの全身から濃密な殺気と凄まじい魔力が溢れ出してる!
ラディガンが殺気と魔力を解放した所為で、対象が自分でないにも拘らず部長達は気を呑まれていた。
エリーの兄だけあって、とんでもない野郎だ。俺も一瞬呑まれかけたのに、アレを真正面から受けてる兄貴は涼しい顔をしてるし。
「私の前で悍ましい事を口にしたその罪、万死に値する! 今すぐに私の全力を持って殺してやる!」
「例え話をしただけで、そこまで怒るのかよ……」
呆れたように言う兄貴は、制服の上着を脱いですぐに片手で放り投げた。
その上着はそのまま地面に向かって落ちて――
ドスンッ!!
『……………………』
凄まじい激突音を発生させた事で周りがシーンとなった。
………あれ? 何かどこまで見た事があるやり取りのような気がするな。
「?」
言葉を失う部長たちの他に、ラディガンはすぐに兄貴の上着を見ようとする。
上着を放り投げた当の本人である兄貴は気にしてないのか、Yシャツの袖部分を捲って両手首に巻いてるバンドを外す。更に今度はズボンの裾を捲って、両足首にも巻いてるバンドも外した。
それ等を全て外した兄貴はまた放り投げると――
ズンッ!
またもや凄く重い音がした。
「じゃあ俺も本気でやるとしよう」
「な……」
軽い準備運動をしながら言う兄貴にラディガンは信じられないような顔をする。
「今まで本気ではなかったと? 呆れましたね。ホラを吹くのも大概にしたらどうですか?」
「すぐに分かるさ」
呆れるように言い放つラディガンに兄貴はすぐに言い返す。
「ったく。兄貴の野郎、こんなヤベェ時にカッコつけやがって」
「ま、まさかリューセーはラディガン相手に……!」
「……あんな重い上着とバンドのままで戦っていたんですか……」
「え? え? 何の話ですか?」
部長と小猫ちゃんは気付いてすぐに驚きと同時に呆れ、ギャスパーは話が見えないのか戸惑っていた。
にしても兄貴がバンドを外したのは初めて見たな。この前の戦いの時にもバンドは外してなかったと言うのに。
あ、そう言えば前に――
『このバンドは修行用じゃなくて、自分の力を抑える為に付けてるだけだ。こうでもしないと力の調節が難しくなるからな』
って言ってたな。
つまりアレを外すって事は、力の調節なんか気にしてられないほどヤバい相手って事になるのか。だとしたら、これは不味い事になるぞ。
「部長、俺たち今すぐ下がった方がいいかもしれません」
「え? それってまさか……」
部長が言ってる途中――
「はぁぁぁああああ~~~~~~!!!!」
兄貴が両手を力強く握り締めながら叫ぶと、全身から凄まじいオーラが溢れんばかりに放出していく。
おいおい、バンドを外しただけであそこまでオーラが上がんのか!? 一体兄貴はどんだけ力を抑えていたんだよ!?
「……成程。どうやらホラではないようですね。重い装備を外して身軽になったと言う事は、スピードが更に磨きが掛かるんですか?」
凄まじいオーラを放出してる兄貴に対して、ラディガンは慌てた様子は無くて笑みを浮かべながら問う。
「それはどうかな?」
兄貴はそのまま宙に浮き、ラディガンと同じ位置で止まる。
構える兄貴にラディガンはジッと見るも、一切油断はしてない様子だ。
そして――
「だぁっ!」
バキッ!
「ごっ!」
兄貴が一瞬でラディガンに接近して顔面にパンチを当てた。
………嘘だろ? 速過ぎて全然見えなかったぞ。
「ちぃっ!」
攻撃を当てられたラディガンは一旦距離を取ろうとしたのか、すぐに上空へと飛んでいく。
兄貴もすぐに追いかけるよう飛んでいくと、凄いスピードであっと言う間にラディガンに追いついて回り込んだ。
「てぇい!」
「くっ! …………? 奴はどこへ……?」
急降下の蹴りにラディガンは躱して下を見るも、兄貴の姿がなくて周囲を見回していた。
俺達も後を追うように飛んで周囲を見回すが、何処にいるのかが全然分からない。
「ここだ!」
「なっ!?」
すると、ラディガンの背後から突然兄貴が現れた。ラディガンは振り向くも――
ドゥンッ!
「うがあっ!!」
兄貴が繰り出した衝撃波をモロに喰らって落下していく。
「くっ! お、おのれ!」
ラディガンは体勢を立て直そうとするも、追撃する兄貴はそれを許さなかった。追いついてすぐに真正面から両腕を使って抱きしめるように拘束する。
「き、貴様何の真似だ!? 放せ! 私にそんな趣味はないぞ!」
「俺だってねぇよ! さっきのお返しをするだけだ!」
ラディガンを拘束する兄貴はそのまま地上に向かって急降下していく。
地上まであと十メートル近くで兄貴が急上昇すると、拘束されてたラディガンはそのまま地面に激突する。
ドズンッ!!!!!
激突音がして、アイツの周囲から土煙が舞ってるために姿が見えなかった。
けれど兄貴はいるのが分かってるのか、宙に浮いたまま視線を外していない。
「これで止めだ」
兄貴の台詞と共に、背後から夥しい光の剣と光の槍が現れた。それの所為か、この場にいる全員が一斉に兄貴を注視してる。
おいおい、あんなに出すって事はまさか……。
「………イッセー、念の為に訊くのだけれど、アレを出したリューセーはどうするつもりなのかしら?」
「……凄く嫌な予感がします」
「ぼ、僕、リューセー先輩が凄く怖く見えますぅ……」
部長だけでなく、小猫ちゃんとギャスパーも顔を青褪めながら兄貴を見ている。
そんなの訊かなくたって分かるでしょう、部長。アレは兄貴が本気を出した時の……対悪魔用の最大攻撃ですよ!
「くたばれラディガン!」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!!!!!!!!!!
兄貴が両腕を振るうと、待機していた全ての光の剣と光の槍が地面目掛けて突撃していく。
さっきまで舞っていた土煙が更に舞い上がると、巨大な光の爆発が起きただけじゃなく、その周囲から凄まじい爆風も学園全体を襲った。
☆
「……まさかこれほどとは」
少し離れた場所から隆誠とラディガンの戦闘を白龍皇――ヴァーリは興味深そうに見ていた。
「オーフィスから聞いた時は何の冗談かと思ったが……行ってみるか」
『ヴァーリ、何を考えている?』
「そんなの訊くまでもないだろう、アルビオン。確かめにいくのさ。彼は俺が倒したかった存在――聖書の神であるかを!」
もう我慢が出来ないと言わんばかりに、ヴァーリは隆誠がいる方へと飛んで行こうとする。
そろそろ神バレの展開にしないと……。