「全く。道理で祐斗が聖剣に対する憎悪が強い訳だ」
「にしても驚いたぜ。木場があの胸糞悪い計画の被害者だったなんてな……」
イッセーの言葉に俺は頷く。
「ああ、俺も予想だにしなかったよ。まさかアイツがあの計画の生き残りだったなんてな」
あのあと、リアスに一通りの質問を終えた俺はイッセーとアーシアと一緒に家に戻った。
今は俺の部屋にイッセーとアーシアが入ってきて、改めて祐斗の事で話している。
因みにリアスは朱乃と一緒に急遽入った依頼の為、今は契約者の下に行っているので此処にはいない。
「あの、リューセーさん。聖剣計画って一体どういうものなんですか? 教会にいた私は全く知らないんですが」
イッセーと一緒にベッドの上に座ってるアーシアが、椅子に腰掛けてる俺に尋ねてくる。
「早い話、キリスト教内で聖剣エクスカリバーが扱える者を育てる計画だ。因みにコレは数年前までやってた」
「……初めて知りました」
アーシアが知らないのは無理もない。何しろアレは教会の中でもトップシークレットにも入る計画だからな。
「教会出身のアーシアは当然知ってると思うけど、聖剣は対悪魔にとって最大の武器だ。リアスたち悪魔が聖剣に触れてしまえば
「はい、私もそう教えられました」
教会ならではの常識とも言える聖剣について、アーシアはコクンと頷く。元聖女であるアーシアが知らない訳がない。
「聖剣には様々な出自はあるが、その中で世界的に有名なのはエクスカリバーだ。だが聖剣は誰でも扱える物じゃなく、使い手を選ぶって言うかなりじゃじゃ馬な欠点がある」
「じゃじゃ馬、ですか……」
「おいおい兄貴、アーシアになんつー例えの仕方してんだよ」
「おっと、すまんすまん。でもまぁ、その例えは強ち間違っちゃいないんだ。もしその聖剣が自分に相応しい使い手じゃないと分かれば、例え相手が信仰が厚い教会の信徒であっても手に持った瞬間、火傷以上の怪我をさせるほど明確な拒否反応を示すんだ」
「教会の信徒でも、ですか?」
「ああ。それだけ聖剣は人を選ぶって事だよ」
尤も
「だからその聖剣――特にエクスカリバーを適応させる為の育成をしようと教会は極秘に計画した。さっきも言ったように、祐斗はその一人だ」
「では、木場さんはその育成によって聖剣を扱う事が出来るんですか?」
「いや、俺が調べた情報では聖剣の適応者は一人もいなかったらしい。祐斗も含めてな。そして誰も適応者がいなかった事に教会関係者は最悪な事を仕出かした」
「最悪なこと、ですか?」
鸚鵡返しをしてくるアーシアに俺は頷く。
本当ならあんまり教えたくはない。けれどアーシアはもう教会側の人間じゃないので、俺は敢えて教える事にする。アーシアにはこの先、教会の闇を知っておかないといけないからな。
「ああ。聖剣に適応出来なかったと知った教会関係者は、祐斗を含めた被験者達を勝手に『不良品』と決め付けて処分したそうだ」
「……しょ、処分って」
「………ちっ。何回聞いても嫌な言葉だ」
予想通りの反応と言うべきか、アーシアは意味が分かったようにショックを受けたような顔をする。処分なんて言葉は、内容も容易に想像がつくからな。
イッセーもイッセーで処分と聞いた直後、不快に顔を顰めている。
「処分した理由はたった一つ。『聖剣に適応出来なかった』からだ。これを知った俺は思わず教会へ殴りこみに行こうかと思ったくらいだよ」
「……そ、そんな。主に仕える者がそのような事をして良い筈がありません」
アーシアはショックを受けて目元を潤ませている。
自分の信じていた教会が裏切り行為をしてる事に、そりゃ泣きたくもなるだろう。
「無論、教会にはアーシアみたく善良な信徒もいるさ。だが中にはあくどい事をしてる信徒だっている。全ては神の為にやってる事だと、自分達の悪行を正当化する為にな」
俺は過去に夏休み等の長期休暇でイッセーを連れて海外で修行の旅をしてた際、
最初はマジで頭にきて、悪行をやってる信徒共のアジトをイッセーと一緒に壊滅させた後、二度と悪さが出来ないほど徹底的に叩きのめしたよ。因みに参加したイッセーも俺と同じ気持ちだったそうだ。
「教会の連中は悪魔を邪悪な存在だと言うが、俺から言わせれば、あくどい事をしてる人間の方が一番邪悪だと思うよ」
嘗ての
尤も、それは
「まぁそれはそれとしてだ。聖剣計画の被験者達は全員殺されたんだと思っていたが、まさか祐斗が生き残って悪魔に転生したとリアスから聞いた時は驚いたよ」
今思えば祐斗が執拗に俺に剣の手合わせをして欲しいって頼んだり、矢鱈と魔剣に拘っていたのは、全て聖剣に復讐する為だったんだろうな。
だが俺としては素晴らしい剣の才能を持ってる祐斗が、もう聖剣には拘らないで前向きに生きて欲しいと思う。恐らくリアスもそう思って祐斗を悪魔に転生させたんだろうし。
リアスはそこら辺の悪魔と違って、眷族にする相手の事を考えて救おうとしているからな。リアスがそう言う悪魔だと知ってるからこそ、俺はイッセーやアーシアを眷族にする事を反対しない。
「で、兄貴はこの先どうするつもりなんだ? 木場の過去を知った以上、今度はマジで教会へ殴りこみにでも行く気か?」
「まさか。あの計画はもうとっくに無くなって、首謀者自体も既に教会から破門された。今更そんな事をしても何の意味もない」
やるとしても聖剣計画の首謀者――バルパー・ガリレイが、もし未だに計画を継続させていたら徹底的に叩きのめす。ついでに奴が聖剣計画で考案した理論も根こそぎぶち壊してな。
「ともかく、今俺たちが祐斗に出来る事は暫く見守るだけだ。アイツはこの前の写真を見てぶり返しただけに過ぎない。時間さえ経てば、また普段の祐斗に戻る筈だ」
「写真って確か、アルバムを見せた時だったよな? そういや、あの写真に写ってた聖剣ってエクスカリバーだったのか?」
「いや、アレはエクスカリバーほど強力なものじゃない。まぁそれでも悪魔にとって厄介な聖剣であることに変わりは……って、もう聖剣の話題はここまでだ。いつまでもこんな話ばっかしてたらキリがなくなる」
そう言って俺は聖剣の話をここいらで止める事にした。
「ほれ、もうこんな時間だ。今日は球技大会やって色々と疲れたから、さっさと寝るとしよう。あんまりアレコレ考えていても祐斗の機嫌が直るわけじゃない」
「そう言われても、俺まだ大して眠くは――」
「アーシア。リアスはまだ仕事から帰ってきてないから、この隙にイッセーと一緒に寝たらどうだ?」
「はうっ! い、イッセーさんと一緒にですか!?」
「………は?」
俺の提案にアーシアが顔を赤らめると、イッセーは素っ頓狂な反応をする。
「ちょ、ちょっと待て兄貴。いきなり何言って……」
「アーシアは多分知らないと思うけど、リアスは家に住むようになって以降、裸のままでイッセーと何度か寝ているぞ」
「おい~~~~!! アーシアになんつーこと言ってんだバカ兄貴!!」
戸惑うイッセーを余所に、俺がちょっとした情報を公開した途端に反応するアーシア。
「……な、何度も……? そ、そんな。イッセーさんと部長さんが何度も寝た……?」
さっきとは別の意味でショックを受けてるアーシアは、プルプルと震えながら涙目になっている。
「ち、違うんだアーシア! 俺が寝てる間に部長が忍び込んでベッドに潜り込んでるだけで……!」
「こらこらイッセー。そんな慌てて弁明するような言い方すると、浮気を必死に誤魔化そうとしてる彼氏のようだぞ?」
「喧しい!! そうさせてんのはバカ兄貴の所為だろうが!!」
「さぁどうする、アーシア? 早くしないとリアスが帰って来ちゃうぞ~?」
「人の話を聞けよ!」
俺がイッセーの叫びを無視しながらに問うと――
「うう~~……。部長さんばっかりずるいです! わ、私だってイッセーさんと一緒に寝たいです!」
「アーシア! そんなに俺と寝たかったの!?」
アーシアは爆発するように叫ぶと、イッセーが予想外の反応を示す。
「決まりだな。それじゃアーシア、イッセーを部屋に連れて行ってくれ」
「はい!」
「ちょ、待ってくれアーシア! お、俺はまだアーシアと寝るって言った憶えは……!」
見苦しい奴め。普段は美少女と一緒に寝たいと言ってたくせに、いざとなるとヘタレになるとは。
するとアーシアは――
「イッセーさん、私と一緒に寝るのは嫌ですか?」
「うっ!」
うるうると目を潤ませながら訴えた。しかも演技なしの本気だ。ってか、アーシアが計算高い演技をする訳が無い。
アーシアの訴えにイッセーは罪悪感を抱くように一瞬固まるも――
「じゃ、じゃあ……今日は一緒に寝ようか」
「はいっ!」
何かに負けたようにアーシアと一緒に寝る事となった。
返答を聞いたアーシアは満面の笑みで、すぐにイッセーと腕を組みながら部屋から出ようとする。
「それではリューセーさん。お休みなさい」
「ああ、お休み。それとイッセー、もしやる時はなるべく静かにしてくれよ。じゃないと俺が安眠出来ないから」
「何の心配してんだよ!? いい加減マジで怒るぞ! ってかそのニヤニヤ顔止めろ!」
イッセーが顔を赤らめながら俺に怒鳴ってくる。
ハハハ~。今の俺は弟に罵倒されても痛くも痒くもないな~。
そして二人が俺の部屋から出てドアを閉めたのを確認した後、俺はすぐに机の引き出しに仕舞ってる先日のアルバム写真を取り出す。ソレは祐斗が変貌する原因となった例の写真。
「………本当に何も起きなければ良いんだが」
真面目な顔となってる俺は写真を見ながらそう呟くと――
Piriririri! Piriririri!
突然机の上に置いてる携帯が鳴り響いた。
「おいおい誰だよ、こんな時間に……え? ローズさん?」
真夜中に電話だなんて非常識だと思いながら二つ折りの携帯を持ってディスプレイを見た途端、意外な人物からの電話に俺は少し驚いた。
発信者がローズさんだと分かった俺は、不思議そうに思いながらも電話に出る。
「もしもし?」
『こんばんわ、リューセーちゃん。ゴメンなさい、こんな時間に電話しちゃって。もしかして寝てたかしらぁ?』
久しぶりに聞いたローズさんからの声に、相変わらず声優の老本さんそっくりの声だなぁと思ったのは内緒だ。
「いえいえ、今はまだ起きてますよ。ところでどうしました? ローズさんがこんな時間に電話するなんて珍しいじゃないですか。いつもでしたらメールで知らせているのに」
『そうねぇ。でも今回ばかりは……至急リューセーちゃんの耳に入れておかければいけない、重要なお知らせがあって電話したのよ』
「っ!」
いつものオネェ言葉でありながらもローズさんが凄く真面目な声を出してる事に、俺はただ事じゃないと認識する。この人が真面目になるって事は相当な事だ。
「そのお知らせとは?」
『今、この駒王町に複数の教会関係者が潜り込んでいるわ。しかも聖剣使いが』
「なっ!?」
今一番当たって欲しくない予感が当たってしまった事に、俺は思わず驚きの声を出してしまう。
祐斗が聖剣に対する恨みをぶり返してる時に、何でこんな状況で聖剣使いが来るんだよ! ちったぁ空気読めよ! ……って、向こうに取っては知った事じゃないか。
「………あの~、その聖剣使いが持ってるのって、まさかエクスカリバーだったりします?」
『あら、よく分かったわね』
聖剣は聖剣でもエクスカリバーかよ……マジで最悪だ。
まぁエクスカリバーとは言っても、今のアレは本来の聖剣エクスカリバーじゃない。
あの聖剣は大昔の戦争で四散し、その折れた刃の破片を教会側が拾い集めて、錬金術を用いて新たに七本作ったレプリカに等しい物だ。とは言え、悪魔からしたら充分脅威な聖剣に変わりないが。
だが所詮それ等はオリジナルのエクスカリバーに劣るから、今の俺や赤龍帝のイッセーでも充分に対処出来る。
『もしかしてエクスカリバーについて調べてる最中だった?』
「まぁ、当たらずとも遠からずってとこです。とにかく聖剣使いが来たことは分かりました。明日以降に俺とイッセーの方で対処しますよ」
祐斗に知られる前に対処しておかないと、アイツの事だから絶対に聖剣を破壊しようと躍起になる筈だ。それだけは何としても阻止しないとな。
俺がそう決意してる最中、ローズさんから予想外の返答が帰ってくる。
『いいえ、正直言ってその子達の事なんかどうでもいいわ。それにワタシが
「? どう言う事です? ってか、その聖剣使いたちはどんな理由で
確かに言われてみればそうだ。祐斗の事を除けば、聖剣使いが来たところで、慌てずに対処すればいい。加えてローズさんが駒王町に来る聖剣使い達を未熟だと言ってるんだし。
となれば今回ローズさんが電話してきたのは、それ以上に面倒かつ厄介なものだと認識すべきだな。
そう思いながら尋ねると――
『聖剣使いたちがこの町に来たのは、堕天使に奪われた3本のエクスカリバーを取り戻す為よ。しかもその堕天使は「
「っ! こ、コカビエルが!?」
これまた予想だにしないローズさんの返答に再び俺は驚愕する。
バカ娘の
~リューセーがローズと電話中の時~
「ちょっとアーシア。私がいない間にイッセーと寝るなんて卑怯よ。今夜は私に譲りなさい」
「い、嫌です。今夜は私がイッセーさんと一緒に寝るんです!」
「ちょ、ふ、二人とも、落ち着いて!」
「イッセー、私と一緒の方が良いわよね?」
「イッセーさん、私と寝てくれますよね?」
「え? あ、そ、その…………(ああ~~~~!! 俺は一体どっちを選択すれば良いんだ~~~~!!??)」
私を選べと瞳で強く訴えてくるリアス、うるうると目を潤ませながら訴えるアーシア。
二人の訴えにイッセーはどっちを選択すべきかと頭の中で必死に悩んでいたのであった。