ハイスクールD×D ~復活のG~   作:さすらいの旅人

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第三十六話

 翌日の放課後、俺とイッセーは朱乃に呼び出されて、朱乃の自宅を兼ねた神社の本殿内にいる。

 

 理由はある人物が俺たち兄弟に渡したい物があるそうだ。その人物とは――

 

「初めまして、兵藤隆誠くん。そして赤龍帝、兵藤一誠くん」

 

 背中に金色の十二枚の翼を持つ端整な顔立ちをした天使の長――ミカエルだった。

 

 久しぶりに見た天使(むすこ)の顔を見て、聖書の神(わたし)は思わず元気そうで何よりだと内心安堵した。けどまぁ、まさかこんな形でミカエルと会う事になるとは思わなかったよ。

 

 っと、いかんいかん。正体ばれないように初対面として接しないと。

 

「お初にお目にかかります、ミカエル様。兵藤隆誠です」

 

「は、初めまして、ミカエル様。お、俺は弟の兵藤一誠です」

 

 俺に倣うように緊張しながらも挨拶をするイッセー。思わず苦笑してしまう。

 

 そして俺たち兄弟の挨拶にミカエルは柔らかい笑みを浮かべている。

 

「早速ですがミカエル様、話は姫島から聞きました。何でも我々兄弟に渡したい物があると仰っていたようですが」

 

 緊張してるイッセーを余所に俺はすぐに本題に入る。いきなり聞き出そうとしてる俺に、仲介役となっている朱乃やイッセーが少し驚いたような顔をしていた。

 

「はい。実は、あなたがたにこれを授けようと思いましてね」

 

 だがミカエルは大して気にしてないのか、すぐに答えてくれた。

 

 

 パアァァァァッ!

 

 

 すると、俺たち兄弟とミカエルの間から突然眩い光が発した。光は徐々に弱まり、そして消えていく。けれど代わりに一本の剣が宙に浮いていた。

 

 ………これは聖剣だな。しかも赤龍帝(イッセー)にとって最悪な聖剣ときた。

 

「ほう。ゲオルギウスが所有してた龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)の聖剣『アスカロン』ですか」

 

「一目見ただけで分かりましたか。流石ですね」

 

「これでも聖剣については精通してましてね。それはそうと、何故その聖剣を我々に渡すんですか? 貴方ほどの方がこれを渡すと言う事は、もしや……」

 

 イッセーは話に付いていけないのか、何も言わずに黙って聞いている姿勢だった。普段から難しい話は殆ど俺が対応してるからな。

 

 俺がミカエルの行動に疑問を抱いてると、奴はすぐに首を横に振ろうとする。

 

「いいえ、これは決して私たち天使側からの勧誘ではありません。この聖剣は本来、悪魔サイドへのプレゼントだったのですが、魔王サーゼクス殿から『聖剣アスカロンは現在悪魔側に協力している兵藤兄弟に渡してほしい』との事です。無論、それは我々天使や堕天使側も承諾しています。こちらとしても、コカビエルを撃退してくれたあなたたちご兄弟には非常に感謝していますので。謂わばこれは、我々三大勢力からの御礼となります」

 

 ……成程。天使・堕天使・悪魔の三大勢力トップが了承した上での贈り物か。それだけコカビエルの件は大ごとだったと言う証拠なんだろうな。

 

 そう言えばサーゼクスが家へ泊まりに来た時、『隆誠くんたちには近々お礼をするつもりだ』って言ってたな。それがまさか、こういう事だったとは。

 

 しかしまぁ、贈り物とは言えミカエルは随分と思い切った事をしたもんだ。大事な聖剣を渡す事にあっさり了承するとは。

 

「良いんですか? そちらの大事な聖剣を貰っちゃっても」

 

「勿論です。悪魔側からは噂の聖魔剣を数本頂きましたので」

 

「そうですか……」

 

 どうやら天使側はちゃんと貰う物は貰っているようだ。確かに祐斗の聖魔剣はそこら辺の聖剣より価値がある。だから聖剣アスカロンを渡しても大丈夫だと踏んだんだろうな。

 

 ま、ミカエルがどう思ってるかは知らんが、こっちとしても聖剣を貰えるなら貰っておくとしよう。手札が多くなるなら心強い。

 

 そう思いながら俺が柄を握ると、聖剣特有の拒否反応が出なかった。

 

「へぇ。この聖剣は誰でも使えるように術式を施してるみたいですね」

 

「ええ。三大勢力によって特殊儀礼を施しているので、人間だけでなく、悪魔でも扱える筈です」

 

 三大勢力の手に掛かれば聖剣が誰でも使えるようになるとは。聖剣を使える為に必死で研究していたバルパーが聞いたら絶対慟哭してるだろう。尤も、アイツはエリーに殺されたが。

 

 まぁそんな事より、元から聖剣を扱う事が出来る俺はともかく、今後悪魔になる予定のイッセーには丁度良いな。万が一の事を考えて、ヴァーリと戦う時の手札にもなるし。

 

「よしイッセー。この聖剣はお前にやる」

 

「え? 俺に? こう言うのは普通、兄貴が持ってた方が良いんじゃないのか?」

 

 どうやらイッセーは聖剣アスカロンを俺が使うものだと思っていたようだ。

 

「俺はいい。武器は他にも持ってるし」

 

 自分で作った『暗黒剣(ダークネス・ブレード)』や『閃光剣(シャイニング・ブレード)』、あと『聖槍(ホーリーランス)』や他の武器も持ってる。だから俺がこれ以上持っても宝の持ち腐れだ。尤も、大抵は自身の能力や格闘戦でやってるから、武器を使う事は殆どないが。

 

「ってか俺の武器は拳メインだぞ? そんなのあったって――」

 

「『白い龍(バニシング・ドラゴン)』対策の補助武器として持っておけ。どうやっても奴に勝てないと思った時に使えばいい」

 

「………まぁ、兄貴がそういうなら」

 

 自分ではまだヴァーリに勝てない事を理解してるイッセーは、渋々と言った感じで受け取ろうとする。多分コイツの事だから、アスカロン無しで勝ちたいと思ってるんだろう。けれどそれはもっと強くなってからの話だ。

 

 今後の事を考えて、イッセーには剣術も学ばせた方がいいだろうな。もし祐斗が知ったら面倒な事になると思うが、それは後で考えるとしよう。

 

「けど俺が使うにしても、どう所持しとけば良いんだ? 俺は兄貴みたく、異空間に保管する能力はねぇぞ?」

 

「『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』に同化させれば、常に出し入れ出来る筈だ。ドライグ、それは可能だろ?」

 

『ああ。相棒がそれを望めば出来るだろう。神器(セイクリッド・ギア)は宿主の想いに応えるからな』

 

 俺の問いにドライグはすぐに返答する。あとはイッセー次第ってとこか。

 

 念の為、ミカエルにも確認しておくとしよう。

 

「と言うわけでミカエル様。アスカロンはウチの弟が使いますが、良いですよね?」

 

「勿論です。寧ろ、その剣は赤龍帝が持っておいたほうが良いでしょう。あなたのいうように、『白い龍(バニシング・ドラゴン)』に狙われるかもしれませんし」

 

 ミカエルも賛成のようだ。と言うか、この剣はイッセーにやるつもりだったんだろうな。それなら話が早くて助かる。

 

「本当でしたら、あなたにも他の聖剣を授けようと思っていたのですが……」

 

「気にしないで下さい。さっきイッセーにも言いましたが、俺は他の武器を持ってますから。例えばコレとか」

 

 そう言いながら俺は以前作った『聖槍(ホーリーランス)』を出現させる。

 

 本当ならコレをミカエルに見せる気は無かった。下手したら俺の正体がバレてしまう可能性がある。

 

 何をやってるんだと思われるだろうが、息子(ミカエル)が父である聖書の神(わたし)に気付くかどうか少し試してみたかった。それが大変に危険な行動だと分かっていながらも。

 

「っ……!」

 

 ミカエルが『聖槍(ホーリーランス)』を目にした途端、戸惑いも含まれた驚きの表情をする。

 

 この槍が神々しい光を出してる所為か、ずっと見守っていた朱乃も驚いていた。悪魔にとっては当然の反応だろう。

 

「あれ? その槍って確か――」

 

 イッセーが何か言おうとしてたが、俺は即座に見て目で訴える。『余計な事は喋るな』、と。

 

「……………」

 

 俺の訴えを理解したのか、イッセーはすぐに押し黙った。流石は俺の弟、理解が早くて助かる。

 

「……兵藤隆誠くん、その槍は一体……?」

 

 すると、驚いていたミカエルは気になるのか『聖槍(ホーリーランス)』を見ながら俺に訊く。

 

 熾天使(セラフ)となったミカエルでも、この槍に魅入られるか。力の大半が制限されてるとは言え、人間として転生した聖書の神(わたし)もまだまだ捨てたものではないようだ。

 

 さて、これ以上見せると本当に不味い事になるから、そろそろ仕舞うとしよう。

 

「今はこの槍の事なんてどうでもいいでしょう。イッセー、アスカロンを『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』に同化させるぞ」

 

「お、おう。分かった」

 

「あっ……」

 

 俺が『聖槍(ホーリーランス)』をしまうと、ミカエルが今度は残念そうな顔となった。

 

 

 

 

 

 

「成程。だから朱乃は天使ミカエルと此処でアスカロンの仕様変更術式をやってたのか」

 

「はい、リューセーくんの仰るとおりですわ」

 

 聖剣アスカロンを『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』に同化させ、それを確認したミカエルは帰った。俺とイッセーは朱乃が生活してる境内にお邪魔し、和室で茶道のもてなしを受けている。

 

 イッセーは茶を飲むのに四苦八苦しており、それを見た朱乃がクスクスと小さく笑っている。

 

 すると、何かを決心したような顔をしたイッセーが朱乃に尋ねようとする。

 

「あの、朱乃さん。ひとつ、訊いてもいいですか?」

 

「ええ、もちろんですわ」

 

 イッセーからの質問に朱乃は笑みを浮かべていたが――

 

「コカビエルとの戦いのとき、アイツが言ってましたよね? 朱乃さんは堕天使の幹部の……」

 

 ――すぐに曇ってしまった。

 

 おいおい、ここで朱乃にそれを訊くのかよ。まぁ、俺も少しばかり朱乃の事は気になってた。

 

 何故堕天使バラキエルの娘である朱乃が、リアス・グレモリーの眷族になっているのか。そして何で堕天使の力を一切使おうとしないのかを。

 

「……そうよ。私は堕天使バラキエルと人間との間に生まれた者です」

 

 表情を曇らせている朱乃は、間がありながらもイッセーの問いに答える。

 

 そこから先は自分の両親について話した後、自身に宿しているそれぞれの翼――悪魔の翼と堕天使の黒い翼を見せた。

 

 話を聞いた俺は、朱乃が堕天使を相当憎んでいるのだと分かった。自分の黒い翼を憎々しげに見れば一目瞭然だ。

 

 恐らく父親である堕天使バラキエルと何か遭ったんだろう。親子の絆に亀裂が入った決定的な理由が。

 

 そんな中、朱乃は自虐するように自分を最低な女だと罵っていたが――

 

「そんなの関係ないっスよ。朱乃さんは堕天使とか関係なく優しい先輩です。俺は人間ですけど、朱乃さんのことを嫌いだと思ったことはありません。いまでも変わらず好きです。俺にとって、朱乃さんも部長やアーシアたちと同じく大切な女性(ひと)ですし」

 

「っ!」

 

 ストレートな告白紛いの発言を聞いて急に泣いてしまった。それを見たイッセーが急に慌てふためく。

 

 こらこらイッセー、リアスやアーシアがいるのに他の女を口説くなよ。コイツ自身はそれに全く気付いていないだろうが。

 

「……リアスやアーシアちゃんがいるのに、そんな殺し文句を言われたら……本気になっちゃうじゃない…………」

 

 あ、朱乃がイッセーの殺し文句で落ちた。今までlikeだったが、今度はloveになったぞ。

 

 全くこの愚弟ときたら。普段から女にモテない事ばっかしてるのに、どうしてこう言う展開では女を惚れさせる台詞が言えるんだよ。

 

 朱乃はこれまでレーティングゲームやコカビエル戦で少し揺らいでいたが、さっきの告白でもう完全にイッセーに惚れてしまったみたいだ。

 

 これがもし学園の全校生徒が知ったら大騒ぎになること間違いないな。特に男子共が嫉妬に狂って悪鬼羅刹となり、何が何でもイッセーを殺しにいくと思う。

 

 まぁそれはそうと、将来の義妹候補がもう一人増えたと思っていいだろう。これは大変な事になりそうだ。

 

「リューセーくん、ちょっといいですか?」

 

「何だ?」

 

 後々の展開を考えてると、朱乃は何かを決心したかのように俺に話しかけようとする。イッセーには聞こえないよう顔を近づけて。

 

「すみませんが、少しの間だけイッセーくんと二人っきりにさせてもらえませんか?」

 

「………どうぞお好きに。ってか俺はもう帰るから、後はリアスにバレないよう好きなだけイチャついてくれ」

 

「うふふ、ありがとうございます。お義兄(にい)様」

 

 おい、もう俺を義兄扱いかよ。アーシアはともかくとして、何か朱乃に呼ばれるのはちょっとなぁ。

 

 少しばかり複雑な気持ちになりながらも、俺は朱乃の要望通りに適当な理由を言って一人で帰る事にした。

 

 そして俺が帰った後、遅れて来たリアスが二人っきりとなってたイッセーと朱乃を見て、今日はずっと不機嫌だった。

 

 更には――

 

「ねぇリューセー、イッセーは私を『部長』としか思ってないのかしら? 朱乃は副部長なのに『朱乃』と呼んでいるし……」

 

「………そう言うのは一人で悩まないほうがいい。相談なら俺の部屋でいくらでも聞いてやるよ」

 

 いつもの優雅なリアスでなく、どこにでもいる女の子となってるリアスの恋愛相談を受ける事となった。

 

 しかし、まさか(わたし)悪魔(リアス)の相談に乗るとは。ミカエルたち天使が聞いたら卒倒するかもな。ま、恋愛に関しては種族なんか関係無いけど。


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